雨で滑る急坂コッペンベルグをシクロクロス&ロード世界王者のマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)が激走。44.8kmの独走を決め、大会最多タイ記録となる3度目のロンド・ファン・フラーンデレン制覇を成し遂げた。



アルカンシエルを着てロンド3度目の優勝を目指すマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

2024年のロンドはアントワープがスタート地点となった photo:CorVos
昨年引退し、スタート前に表彰されたベルギー出身のナータン・ファンホーイドンク photo:CorVos


ベルギー北部のフランドル地方を舞台とし、「クラシックの王様」と称されるロンド・ファン・フラーンデレンが3月31日(日)に開催された。第108回大会はアントワープを出発する270.8kmで争われ、フィニッシュ地点のあるオーデナールデ周辺に設定された17の急坂と7箇所の石畳区間を駆け巡る。

合計3度通過するオウデ・クワレモントやパテルベルグ、最大勾配20.8%の激坂コッペンベルグが見所となるレースは、昨年の優勝者タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ)とワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク)が不出場。しかし前哨戦を制したマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク)やマッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)などモニュメントに相応しい豪華メンバーが顔を揃えた。

ロンド・ファン・フラーンデレン2024 コースプロフィール image:Ronde van Vlaanderen

ジェイコ・アルウラーが2名を送った逃げ集団は8名 photo:CorVos

当日の夜明けまで降った大雨は止み、濡れた路面に陽射しが差す現地時間午前10時20分にレースはスタート。直後から逃げを目指すアタックが繰り広げられ、ジェイコ・アルウラーが2名(ルーク・ダーブリッジとエルマール・ラインダルス)を入れた8名による逃げ集団が形成される。一方のメイン集団はシルヴァン・ディリエ(スイス、アルペシン・ドゥクーニンク)が、5つ星の優勝候補であるファンデルプールのために先頭でペースを作った。

プロトンの牽引にはイネオス・グレナディアーズや、創設2年目ながらワールドチームの風格漂うQ36.5プロサイクリングが時折加勢する。しかしディリエがペースメイクの中心であることには変わらぬまま最初2つの石畳区間を通過。そして逃げの8名は4分11秒差でこの日最初の急坂、オウデ・クワレモント(距離2.2km/平均4%)に突入した。

一度目のオウデ・クワレモントからペースが上がっていく photo:CorVos

道幅が狭く、テクニカルなコースで激しい位置取りが行われるプロトンでは落車が頻発。そのため人数は徐々に減るなか、ヨナス・アブラハムセン(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ)が残り114km地点からアタック。それを22歳のU23世界王者であるアクセル・ローランス(フランス、アルペシン・ドゥクーニンク)が潰し、一気に緊張感の高まるメイン集団からウォルベンベルグの登りでマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク)が加速した。

前哨戦であるドワーズ・ドール・フラーンデレンを制したヨルゲンソンに続き、今度はピーダスンが飛び出す。優勝候補たちによるペースアップにプロトンは縦長となり、逃げとの差は1分40秒まで一気に縮小。そして平均勾配7%、最大14.2%のモーレンベルグに入るとピーダスンが2度目のアタックを見せ、そこにヨルゲンソンとファンデルプール、シュテファン・キュング(スイス、グルパマFDJ)らが追従した。

その結果30名程度に絞られたプロトンと逃げとの差が1分を切り、そしてペースが少し落ち着いたタイミングでジュリアン・アラフィリップ(フランス、スーダル・クイックステップ)が速度を上げる。この動きは決め手に欠けたものの、これをきっかけに形成された第1集団にヴィスマはティシュ・ベノート(ベルギー)とディラン・ファンバーレ(オランダ)を入れ、ピーダスンも食らいつく。

マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック)が飛び出し、それをジャンニ・フェルミールス(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)がマークする photo:CorVos

ベノート・グループは逃げ集団に合流し、そこに入ることのできなかったファンデルプールはチームメイトのペースメイクから単独でブリッジを掛ける。その結果先頭集団はファンデルプールを含めた13名となり、直後にドワーズ・ドールでの落車によって膝を痛め、本調子ではないと語るピーダスンがこの日3度目のアタック。それにジャンニ・フェルミールス(ベルギー、アルペシン・ドゥクーニンク)が唯一反応する一方、後方のプロトンでは観客と接触してキュングやアレッサンドロ・コーヴィ(イタリア、UAEチームエミレーツ)が落車した。

ピーダスンは先頭交代を拒否するフェルミールスを携えながらも構わず踏み続け、プロトンではここもアルペシンが先頭に人数を固めて追いかける。そしてピーダスンとフェルミールスは雨で路面が濡れた2度目のオウデ・クワレモントに突入。ここでファンデルプールが自ら脚を使ってピーダスンを捉え、このレース初めて先頭に立った。

昨年ポガチャルが仕掛け、独走勝利を飾ったオウデ・クワレモントでファンデルプールは一度踏みを緩め、スペイン王者のオイエル・ラスカノ(モビスター)やローレンス・ピシー(ニュージーランド、グルパマFDJ)、ティム・ウェレンス(ベルギー、UAEチームエミレーツ)ら5名の合流を許す。そして続くパテルベルグまでに後続集団が追いつき、平坦路でイバン・ガルシア(スペイン、モビスター)が単独アタックを見せた。

コッペンベルグでレースの先頭に立ったマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

乗車のままコッペンベルグをクリアするヨルゲンソンとピーダスン photo:CorVos
雨で路面の濡れるコッペンベルグでバイクを降り、頂上を目指す選手たち photo:CorVos


最大勾配20.8%の激坂コッペンベルグに22秒のアドバンテージで入ったガルシア。しかし濡れた石畳にグリップが効かずバイクを降り、タイヤの空気圧を下げるガルシアを尻目に、シクロクロスで培ったテクニックを駆使したファンデルプールが高速で駆け上がる。その背後でヨルゲンソンもなんとかバイクを前に進める一方で、後続の選手たちはトラクションが掛からないためバイクを降り、自らの脚で頂上を目指した。

単独先頭に立ち、順調に急坂を越えていくマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

ファンデルプールは一気にリードを拡げ、乗車のままコッペンベルグをクリアしたヨルゲンソンも引き離す。そして残る2つの石畳と最後のオウデ・クワレモントとパテルベルグをクリアしたファンデルプールは、後続との差を2分弱まで拡大。そしてヨルゲンソンを捉えた追走集団では優勝経験のあるアルベルト・ベッティオル(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト)とディラン・トゥーンス(ベルギー、イスラエル・プレミアテック)が飛び出し、先頭を追いかける。

しかしアルカンシエルとの差をゼロにすることはできず、強さを増した雨のなかファンデルプールが単独でフィニッシュラインに到着。シクロクロス世界選手権で優勝した時と同じく、自らのバイクを高々と持ち上げ雄叫びを上げた。

フィニッシュラインに到達し、バイクを掲げるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) photo:CorVos

「アルカンシエルを着てロンドを勝つなんて夢のようだ。これが現実だと実感するにはしばらくかかるだろう。今日はサバイバルな展開となり、いままでのレースで最も辛かった。コッペンベルグの登りは厳しく、頂上までずっと滑り続けた。だがそこで後続との差が生まれ、風も強く独走するには厳しい条件だった。最後は身体の中が空っぽになったよ」。

大会史上最多タイとなる3度目の優勝を飾ったファンデルプールは、そう6時間の激闘を振り返った。

2位を争ったトゥーンスとベッティオルは最終ストレートで後続集団の合流を許し、自ら先頭で追走したマイケル・マシューズ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)が先着。しかしニルス・ポリッツ(ドイツ、UAEチームエミレーツ)をコース右側に追いやったことで進路妨害(斜行)の反則を取られ、集団の最後尾への降格処分が下された。

その結果ルーカ・モッツァート(イタリア、アルケアB&Bホテルズ)が2位、ポリッツが3位で表彰台へ。また5位に入った20歳のアントニオ・モルガド(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)は、ここ78年で最年少となるトップ5入りを果たしている。

ロンド・ファン・フラーンデレン2024表彰台:2位モッツァート、1位ファンデルプール、3位ポリッツ photo:CorVos


選手のコメントは別記事にてお伝えいたします。
ロンド・ファン・フラーンデレン2024結果
1位 マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・ドゥクーニンク) 6:05:17
2位 ルーカ・モッツァート(イタリア、アルケアB&Bホテルズ) +1:02
3位 ニルス・ポリッツ(ドイツ、UAEチームエミレーツ)
4位 ミッケル・ビョーグ(デンマーク、UAEチームエミレーツ)
5位 アントニオ・モルガド(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)
6位 マグナス・シェフィールド(アメリカ、イネオス・グレナディアーズ)
7位 オリヴェル・ナーセン(ベルギー、デカトロンAG2Rラモンディアル)
8位 ディラン・トゥーンス(ベルギー、イスラエル・プレミアテック)
9位 アルベルト・ベッティオル(イタリア、EFエデュケーション・イージーポスト)
10位 トムス・スクインシュ(ラトビア、リドル・トレック)
11位 マイケル・マシューズ(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos

最新ニュース(全ジャンル)