2023/04/28(金) - 13:11
日本代表チームにウェアを供給し続けるパールイズミが徹底的な研究を重ね、最先端の技術を採用し実現したエアスピードシリーズをインプレッション。オーダーウェアとしてホビーライダーも注文することができる渾身のウェアの着用感をお届けしよう。
日本のサイクルレースの歴史とともに歩むパールイズミ
1964年のメキシコオリンピックより約60年、日本ナショナルチームにサイクルウェアを供給してきたパールイズミ。長らく代表チームやプロチームへのサポートを通じ、時代ごとの最先端技術の研究開発を進めてきた日本が誇るウェアブランドであり、高い技術力を持って実現したハイエンドウェアはカスタムオーダーシステムを通じてホビーサイクリストにも届けられてきた。
現在のフラッグシップモデル「エアスピード」シリーズもパールイズミの研究開発の結晶であり、日本代表や国内の強豪チームであるマトリックス・パワータグの活躍を支え、2023年からは新たにスパークルおおいたのウェアをサポートする。東京五輪の際に日本の選手が着用していたこのシリーズはもちろんオリジナルデザインで製作可能であり、誰もがその性能を享受することが可能だ。今回はエアスピードシリーズをピックアップして紹介しよう。
パールイズミのオーダーウェアラインアップと、エアスピードの立ち位置
先述より紹介しているようにエアスピードは、最先端の技術をふんだんに盛り込んだハイエンドモデルだ。そしてイグナイト、オーパスと続き、目的や予算によって3種類から選び分けられるように製品が展開されている。入門用としてぴったりのファーストスタンダードでラインアップを支えている。
イグナイトとエアスピードの大きな差異は、スピードセンサーIIという生地を使用しているかどうか。エアスピードはその生地を用いてエアロダイナミクスと着用感の両立が求められる現代のロードレース用ウェアとして開発が進められており、アンダー2万円という価格に対して絶大なパフォーマンスを発揮するモデルだ。
よりエアロ、より快適、より扱いやすい生地として開発されたスピードセンサーII
エアスピードシリーズを紹介する上でキーとなる生地"スピードセンサーII"の説明は外せない。もともとトラック競技向けに開発された生地のスピードセンサーの第1世代は時速70kmのような高速域に合わせた物であり、2017年ごろからロードレースの速度域に合わせて開発された第2世代の生地だ。レーサーだけではなくホビーサイクリストにも焦点をあてており、何度も洗えるような耐久性の向上も特徴の一つだ。
パールイズミの研究開発は徹底しており、生地の選定段階から風洞実験を行うほど。ストライプの溝をつけたエアロ生地が多く存在する中でパールイズミが導き出したのは菱形状に溝が入る生地であり、菱形の大きさまで検証を重ねた。結果として時速40kmから空気抵抗が大きく低減し始め、時速50kmほどで低減のピークを迎えるというロードレースに最適な答えを見つけ出した。
生地表面の溝だけで空気抵抗が変化するのであれば、縫い目の段差でも当然影響を与える。縫い目やパターンなどでエアロを追求しつつも、生地をウェアとして仕立て上げる行程でパールイズミは着心地の良さにこだわった。空力性能が良いだけではロードレースのような長時間の着用には堪えられず、レース終盤に集中力を切らしてしまう可能性もあるため、快適性はウェアには欠かせない性能の一つだ。
人間の動き、素材とパターンの組み合わせを考慮した手縫いのサンプルを製作し、風洞実験を実施。今回の風洞実験ではJAXAの低速風洞室に、脚を動かせるマネキンを持ち込みテストを行うことで、実際の使用状況に近づけたという。サンプル製作とテストを幾度となく繰り返し、エアスピードシリーズが登場した。
パールイズミが誇るハイエンドウェア「エアスピード」シリーズ
エアスピードシリーズのラインアップは、半袖ジャージ、ビブパンツ、半袖ロードスーツ、シューズカバー、ソックスという5種類だ。
エアスピード ジャージ
半袖ジャージのスピードセンサーII生地は袖に用いられている。特殊なパターンでぴたりとフィットするような袖がエアロ生地とされ、かつ縫い目は腕を前に突き出した時に空気が当たらない部分に配置される。セットインスリーブとラグランスリーブどちらも選ぶことが可能で、ラグランの場合は肩部分までスピードセンサーIIとなる。また前傾姿勢時に首を動かしやすくするローハイトの襟も、風でばたつきにくくエアロダイナミクス向上に貢献している。
エアロ生地は袖のみというシンプルな作りで、前身頃は細かいメッシュホールを施し通気性高め、伸縮性も備えるピンメッシュ素材が採用された。背中部分の生地はベースレイヤーのような目の大きなメッシュとされているため、高温多湿な日本の夏でも快適に過ごせる通気性を実現している。ポケット部分はピンメッシュが採用されており、収納物をしっかりとホールドしてくれる仕様だ。
レースウェアのためタイトなフィット感だが、乗車姿勢を忠実に再現した"超立体設計"によって仕立てられているため、伸縮性など生地の性能が発揮されやすく快適に着用できるウェアを実現している。袖口は程よい滑り止め感のあるカットオフ生地に切り替えられており、裾周りはゴムとグリッパーによるオーソドックスな設計が採用された。
エアスピードジャージの大きな魅力は徹底的に開発がおこなわれながらも、1着あたり16,280円(税込)という価格に設定されている点。新規の最小注文枚数は3着からとされているため、イベントが通常通り行われている今、ウェアを新調しても良さそうだ。
エアスピード ビブパンツ
ビブパンツのスピードセンサーIIは前面ではなく、サイド部分から後方にかけて使われていることが特徴だ。特に太ももの裾近くや腰回りはエアスピードIIが後ろにまわり込んでおり、ペダリングで常に動き続ける脚での空気抵抗削減を徹底的に行なっていることを感じさせる。太もも全面や腰回りには2ウェイストレッチ素材を採用しており、裾部分にはジャージの袖口と同様のラッセルテープが用いられた。
このビブパンツは極薄な軽量メッシュ素材を肩紐に採用していることも特徴。体にフィットしても生地の存在を感じさせないような薄さと、メッシュの汗がたまらない通気性で快適性を向上させている。もちろんゴムパーツによってホールド力も確保されている。レディースモデルはバストの圧迫感に配慮した特別仕様が採用されており、同様に高い通気性を実現している。
メンズモデルに標準装備されるパッドは2021年に開発された3D-Xだ。これは3D-NEO PLUSの後継モデルにあたり、パッド厚をユーザーのリクエストに応え、薄手ながらもコシのある作りに進化している。作りとしては前方が非常に薄く、後方に向かうにつれて自然に厚みが増していき、坐骨が乗る部分は中厚手に設定されている。パールイズミが想定する距離は30km〜150km程度。
表地は抗菌防臭加工が施されたストレッチ素材で、その裏側にパンチ加工が施されたウレタン層が貼り付けられている。また表面は可能な限り凹凸を少なくしたフラットな作りとされているため、肌面のスレが少なく快適に着用することが可能だ。
そして段階的に厚みが変化するウレタンの衝撃吸収層は、シェービングテクノロジーと呼ばれる技術によってカット加工されており、モールディング段階で熱が加わることによるウレタンのクッション性低減を排除し、その性能を100%引き出すことに成功しているという。
底面にはアンチボトムエラストマーというパーツが加えられた。ゲル状のパーツを坐骨部分に配置し、サポートする役割を与えることで、サドルから坐骨に伝わる不快感を軽減した。素材はいずれも通気性の高い物が採用されており、パッドに熱がこもりにくくなっている。レディースモデルは3D NEO PLUS for Ladiesだ。価格は16,280円(税込)。
エアスピード ロードスーツ
上述した2つのウェアを融合させたモデルがロードスーツだ。上下に用いられるテクノロジーはそのままに一体とすることで、さらにフィット感を高め、ウェアの段差による空気抵抗を低減させたレーシングウェアだ。
計5種類の異なるストレッチ素材が効果的に配置されており、タイトフィットながら体の動きを阻害しない柔軟性と通気性を実現。前身頃のみ腹部パーツと分離しているため、着脱時に生地を無理に引っ張らなくても良い仕様となっている。価格は29,700円(税込)。
エアスピード ソックス、シューズカバー
パールイズミは足元のエアロダイナミクスにも妥協はない。ソックスはハイレングスのカフ部分をスピードセンサーIIとすることで、少しでもエアロダイナミクスを稼ぎたいアスリートにぴったりな一足に仕上げた。レース中にソックスがずれ落ちないように開口部にはゴムとシリコンバンドの両構えでホールド力を与えている。
また足部分は一般的な素材を使用した編み構造で、つま先と踵部分を強化することでシューズ内でのスレに強い耐久性を確保した。足の甲部分は蒸れを防ぐメッシュ生地のため、夏場でも使いやすいはずだ。デザインはカフ部分に施される。価格は3,960円(税込)。
シューズ部分まで妥協なく空気抵抗削減を目指す方にはシューズカバーがおすすめだ。スピードセンサーIIはソックス同様にカフ部分のみで、シューズ部分はジャージに使われるような通気性と伸縮性に優れる生地を採用している。クロージャーなどの段差にまで気を遣いたい時にこのエアスピードのシューズカバーは活躍してくれる。リフレクター付きファスナーが備えられているため、着脱が容易な点も魅力なプロダクトに仕上がる。価格は7,150円(税込)。
そんなパールイズミ渾身のレースウェアシリーズをテスト。それぞれの着用感をお届けしよう。
エアスピードインプレッション byシクロワイアード編集部
今回パールイズミのウェアを試したのは、日頃からレース系ウェアを着用しているシクロワイアード編集部の高木だ。今回の試着に際してサイズチャートでサイズを確認したところ、身長で参照するとL、チェストで参照するとM、ウエストではSサイズと見事に揃わなかったため、SサイズとMサイズを着用し比べてみた。結果から言うとSサイズがベストフィットだったため、エアスピードシリーズを検討している方はサンプルで試してみてもらいたい。
Sサイズでも着用できたのはパールイズミ特有の柔らかなフィット感のおかげ。レース向けのタイトフィットウェアではコンプレッションが効き肌にビタリと張り付くものも存在するが、エアスピードは小さめのサイズにも関わらずフワリと体を包み込むような着用感だ。前者の場合は繊維の弾力性が高く、非常に伸びやかな一方で縮む方向にタイトさを感じさせるのだが、エアスピードは縮む方向の弾力性が穏やかな感触を受ける。もちろん肌にぴたりとフィットしているため、窮屈さを感じにくいという印象だ。
また、近年は極薄の生地を使うブランドが登場している中で、エアスピードはスタンダードな厚みの生地を使っているため、耐久性への期待は高め。洗濯を繰り返していくうちに裾や袖口が丸まってしまう心配も少なく、せっかくのオーダーウェアを長く着れるのは嬉しいポイントだ。
研究の粋を結集したスピードセンサーII
エアスピードシリーズの魅力であるスピードセンサーII生地は、他のエアロ生地と比較すると厚め。一方で伸縮性は優れているため、耐久性が高いと言う点においてアドバンテージはありそうだ。エアロについては肌感覚となってしまうが、肩周りに当たる風によって体が押される感覚がノーマルなジャージよりは小さく感じる。ビブショーツもエアロ生地の配置によって効果を生み出していることを期待できる。
また、エアロ生地単体とウェア全体のタイトなフィット感による生地のバタつきがない点でのエアロも含め、トータルでレーススペックの性能を実現していることがエアスピードシリーズの美点だ。そして、エアロながら心地よいフィット感とすることで、長時間のレースでも快適に過ごせるウェアを実現しているはずだ。
半袖ジャージの袖口とビブショーツの裾には幅広のグリッパーバンドが備えられている。この部分のグリップ力は面積の広さと生地の伸縮性によるものと、粘着性を感じる素材どちらもが貢献しているような印象だ。これによってライド中にズレ上がったり、めくれてしまうこともない安定感をもたらしている。
程よいフィット感の半袖ジャージ
半袖ジャージに関してはペダリング時に腹圧をかけてお腹周りを膨らませてもストレスなく生地が追従してくれることが魅力。背中部分の大胆なメッシュ生地は言うまでもなく通気性に優れており、汗が止まらない快適性を実現している印象だ。また、メッシュ生地の場合は伸びはいいものの縮む方向の力が弱いと言うこともあるが、エアスピードに関しては全体のクオリティが高く、フィット感のまとまりが良い。
メッシュがメインの背面だが、バックポケットのみは前身頃と同じ生地が用いられている。開口部もゴムが縮まった状態で縫製されているため、ポケット部の生地と相まって収納物が飛び出しにくくなっているのは嬉しい。
他にはない肩紐が快適性を高めているビブショーツ
ビブショーツの大きな美点は他のブランドにはないようなメッシュ生地の肩紐だ。非常に薄く、サラサラとした感触の生地はアンダーウェアを着用しない方でも汗が溜まりにくく、乾きも早く汗冷えしなさそうな作りとなっている。この部分にこだわって素材を選定しているパールイズミの開発力には信頼が持てそうだ。
メッシュ部分は非常に柔らかな風合いだが、左右に縫い合わせられたゴムによって肩紐のホールド力を実現している。肩紐の感触としては少しだけ引っ張られる感が強めであり、パッドがライド中にズレる心配は一切なし。今回はSサイズを着用したと言うこともあり、肩紐部分がサイズアウトしていることも考えられるため、太もも周りのフィット感を重視するか、肩紐のフィットを重視するかは試着してみて考えて欲しい。
体の動かしやすさはピカイチの半袖ロードスーツ
この半袖ジャージとビブショーツが融合しているのがワンピースだ。上下が一体になることのメリットは、前傾姿勢時に腰回りの生地が一切ダブつかないことと、ダンシングをはじめ体の動きを阻害するものがないこと。これによって非常に高い快適性を実現しており、レースであるならばワンピースを選びたいところ。
また、上下が完全に一体とならずセパレート式とされているため、腹圧をかけた時に生地がスムーズに追従してくれるのも美点。このようなワンピースにおける一般的なメリットとパールイズミならではの包み込むようなフィット感が相乗効果を生み出し、さらに優れた着心地を実現していることがエアスピードのいいところ。
スピードセンサーIIを使用したアクセサリーも魅力
ソックスはエアロ生地部分が程よく足をコンプレッションしてくれるため、超タイトなレースソックスより快適に過ごせることが魅力。エアロ生地が比較的厚みがあることによって、薄手でハリのあるエアロ生地よりも、フィット感は長期間に渡って維持してくれそうなこともユーザーとしては嬉しいポイント。
一方、シューズで隠れてしまう足部分は基本的には薄手の作りで通気性が確保された。つま先部分と踵部分の補強のほか、土踏まず部分がコンプレッション仕様とされているため、ライダーのパフォーマンスをサポートすることに加えて、足とソックスが滑ってしまうこともない。
シューズカバーの脛部分はソックスと同じ作りで、足部分はジャージと同じ素材が用いられた。この生地が非常に伸びやかで、シューズに装着しない状態では本当に着用できるのかと思ってしまうほど小さく作られているが、実際はスムーズにシューズを覆うことが可能。また、タイトすぎないためシューズが締め付けられている感覚もなく、非常に快適なカバーに仕上げられていると感じた。
インプレッション:高木三千成
パールイズミ エアスピード ジャージ
メンズ・サイズ:XS、S、M、L、XL、3L
レディース・サイズ:XS、S、M、L、XL
最小注文枚数:新規3着〜、リピート1着〜
納期:60日
価格:16,280円(税込)
パールイズミ エアスピード ビブパンツ
メンズ・サイズ:XS、S、M、L、XL、3L
レディース・サイズ:XS、S、M、L、XL
最小注文枚数:新規3着〜、リピート1着〜
納期:60日
価格:16,280円(税込)、肩紐なし15,180円(税込)
パールイズミ エアスピード 半袖ロードスーツ
メンズ・サイズ:XS、S、M、L、XL、3L
レディース・サイズ:XS、S、M、L、XL
最小注文枚数:新規3着〜、リピート1着〜
納期:60日
価格:33,880円(税込)
パールイズミ エアスピード ソックス
サイズ:S、M、L
最小注文枚数:新規3着〜、リピート1着〜
納期:60日
価格:3,960円(税込)
パールイズミ エアスピード シューズカバー
サイズ:S-M、L-XL
最小注文枚数:新規3着〜、リピート1着〜
納期:60日
価格:7,150円(税込)
text:Gakuto Fujiwara
日本のサイクルレースの歴史とともに歩むパールイズミ
1964年のメキシコオリンピックより約60年、日本ナショナルチームにサイクルウェアを供給してきたパールイズミ。長らく代表チームやプロチームへのサポートを通じ、時代ごとの最先端技術の研究開発を進めてきた日本が誇るウェアブランドであり、高い技術力を持って実現したハイエンドウェアはカスタムオーダーシステムを通じてホビーサイクリストにも届けられてきた。
現在のフラッグシップモデル「エアスピード」シリーズもパールイズミの研究開発の結晶であり、日本代表や国内の強豪チームであるマトリックス・パワータグの活躍を支え、2023年からは新たにスパークルおおいたのウェアをサポートする。東京五輪の際に日本の選手が着用していたこのシリーズはもちろんオリジナルデザインで製作可能であり、誰もがその性能を享受することが可能だ。今回はエアスピードシリーズをピックアップして紹介しよう。
パールイズミのオーダーウェアラインアップと、エアスピードの立ち位置
先述より紹介しているようにエアスピードは、最先端の技術をふんだんに盛り込んだハイエンドモデルだ。そしてイグナイト、オーパスと続き、目的や予算によって3種類から選び分けられるように製品が展開されている。入門用としてぴったりのファーストスタンダードでラインアップを支えている。
イグナイトとエアスピードの大きな差異は、スピードセンサーIIという生地を使用しているかどうか。エアスピードはその生地を用いてエアロダイナミクスと着用感の両立が求められる現代のロードレース用ウェアとして開発が進められており、アンダー2万円という価格に対して絶大なパフォーマンスを発揮するモデルだ。
よりエアロ、より快適、より扱いやすい生地として開発されたスピードセンサーII
エアスピードシリーズを紹介する上でキーとなる生地"スピードセンサーII"の説明は外せない。もともとトラック競技向けに開発された生地のスピードセンサーの第1世代は時速70kmのような高速域に合わせた物であり、2017年ごろからロードレースの速度域に合わせて開発された第2世代の生地だ。レーサーだけではなくホビーサイクリストにも焦点をあてており、何度も洗えるような耐久性の向上も特徴の一つだ。
パールイズミの研究開発は徹底しており、生地の選定段階から風洞実験を行うほど。ストライプの溝をつけたエアロ生地が多く存在する中でパールイズミが導き出したのは菱形状に溝が入る生地であり、菱形の大きさまで検証を重ねた。結果として時速40kmから空気抵抗が大きく低減し始め、時速50kmほどで低減のピークを迎えるというロードレースに最適な答えを見つけ出した。
生地表面の溝だけで空気抵抗が変化するのであれば、縫い目の段差でも当然影響を与える。縫い目やパターンなどでエアロを追求しつつも、生地をウェアとして仕立て上げる行程でパールイズミは着心地の良さにこだわった。空力性能が良いだけではロードレースのような長時間の着用には堪えられず、レース終盤に集中力を切らしてしまう可能性もあるため、快適性はウェアには欠かせない性能の一つだ。
人間の動き、素材とパターンの組み合わせを考慮した手縫いのサンプルを製作し、風洞実験を実施。今回の風洞実験ではJAXAの低速風洞室に、脚を動かせるマネキンを持ち込みテストを行うことで、実際の使用状況に近づけたという。サンプル製作とテストを幾度となく繰り返し、エアスピードシリーズが登場した。
パールイズミが誇るハイエンドウェア「エアスピード」シリーズ
エアスピードシリーズのラインアップは、半袖ジャージ、ビブパンツ、半袖ロードスーツ、シューズカバー、ソックスという5種類だ。
エアスピード ジャージ
半袖ジャージのスピードセンサーII生地は袖に用いられている。特殊なパターンでぴたりとフィットするような袖がエアロ生地とされ、かつ縫い目は腕を前に突き出した時に空気が当たらない部分に配置される。セットインスリーブとラグランスリーブどちらも選ぶことが可能で、ラグランの場合は肩部分までスピードセンサーIIとなる。また前傾姿勢時に首を動かしやすくするローハイトの襟も、風でばたつきにくくエアロダイナミクス向上に貢献している。
エアロ生地は袖のみというシンプルな作りで、前身頃は細かいメッシュホールを施し通気性高め、伸縮性も備えるピンメッシュ素材が採用された。背中部分の生地はベースレイヤーのような目の大きなメッシュとされているため、高温多湿な日本の夏でも快適に過ごせる通気性を実現している。ポケット部分はピンメッシュが採用されており、収納物をしっかりとホールドしてくれる仕様だ。
レースウェアのためタイトなフィット感だが、乗車姿勢を忠実に再現した"超立体設計"によって仕立てられているため、伸縮性など生地の性能が発揮されやすく快適に着用できるウェアを実現している。袖口は程よい滑り止め感のあるカットオフ生地に切り替えられており、裾周りはゴムとグリッパーによるオーソドックスな設計が採用された。
エアスピードジャージの大きな魅力は徹底的に開発がおこなわれながらも、1着あたり16,280円(税込)という価格に設定されている点。新規の最小注文枚数は3着からとされているため、イベントが通常通り行われている今、ウェアを新調しても良さそうだ。
エアスピード ビブパンツ
ビブパンツのスピードセンサーIIは前面ではなく、サイド部分から後方にかけて使われていることが特徴だ。特に太ももの裾近くや腰回りはエアスピードIIが後ろにまわり込んでおり、ペダリングで常に動き続ける脚での空気抵抗削減を徹底的に行なっていることを感じさせる。太もも全面や腰回りには2ウェイストレッチ素材を採用しており、裾部分にはジャージの袖口と同様のラッセルテープが用いられた。
このビブパンツは極薄な軽量メッシュ素材を肩紐に採用していることも特徴。体にフィットしても生地の存在を感じさせないような薄さと、メッシュの汗がたまらない通気性で快適性を向上させている。もちろんゴムパーツによってホールド力も確保されている。レディースモデルはバストの圧迫感に配慮した特別仕様が採用されており、同様に高い通気性を実現している。
メンズモデルに標準装備されるパッドは2021年に開発された3D-Xだ。これは3D-NEO PLUSの後継モデルにあたり、パッド厚をユーザーのリクエストに応え、薄手ながらもコシのある作りに進化している。作りとしては前方が非常に薄く、後方に向かうにつれて自然に厚みが増していき、坐骨が乗る部分は中厚手に設定されている。パールイズミが想定する距離は30km〜150km程度。
表地は抗菌防臭加工が施されたストレッチ素材で、その裏側にパンチ加工が施されたウレタン層が貼り付けられている。また表面は可能な限り凹凸を少なくしたフラットな作りとされているため、肌面のスレが少なく快適に着用することが可能だ。
そして段階的に厚みが変化するウレタンの衝撃吸収層は、シェービングテクノロジーと呼ばれる技術によってカット加工されており、モールディング段階で熱が加わることによるウレタンのクッション性低減を排除し、その性能を100%引き出すことに成功しているという。
底面にはアンチボトムエラストマーというパーツが加えられた。ゲル状のパーツを坐骨部分に配置し、サポートする役割を与えることで、サドルから坐骨に伝わる不快感を軽減した。素材はいずれも通気性の高い物が採用されており、パッドに熱がこもりにくくなっている。レディースモデルは3D NEO PLUS for Ladiesだ。価格は16,280円(税込)。
エアスピード ロードスーツ
上述した2つのウェアを融合させたモデルがロードスーツだ。上下に用いられるテクノロジーはそのままに一体とすることで、さらにフィット感を高め、ウェアの段差による空気抵抗を低減させたレーシングウェアだ。
計5種類の異なるストレッチ素材が効果的に配置されており、タイトフィットながら体の動きを阻害しない柔軟性と通気性を実現。前身頃のみ腹部パーツと分離しているため、着脱時に生地を無理に引っ張らなくても良い仕様となっている。価格は29,700円(税込)。
エアスピード ソックス、シューズカバー
パールイズミは足元のエアロダイナミクスにも妥協はない。ソックスはハイレングスのカフ部分をスピードセンサーIIとすることで、少しでもエアロダイナミクスを稼ぎたいアスリートにぴったりな一足に仕上げた。レース中にソックスがずれ落ちないように開口部にはゴムとシリコンバンドの両構えでホールド力を与えている。
また足部分は一般的な素材を使用した編み構造で、つま先と踵部分を強化することでシューズ内でのスレに強い耐久性を確保した。足の甲部分は蒸れを防ぐメッシュ生地のため、夏場でも使いやすいはずだ。デザインはカフ部分に施される。価格は3,960円(税込)。
シューズ部分まで妥協なく空気抵抗削減を目指す方にはシューズカバーがおすすめだ。スピードセンサーIIはソックス同様にカフ部分のみで、シューズ部分はジャージに使われるような通気性と伸縮性に優れる生地を採用している。クロージャーなどの段差にまで気を遣いたい時にこのエアスピードのシューズカバーは活躍してくれる。リフレクター付きファスナーが備えられているため、着脱が容易な点も魅力なプロダクトに仕上がる。価格は7,150円(税込)。
そんなパールイズミ渾身のレースウェアシリーズをテスト。それぞれの着用感をお届けしよう。
エアスピードインプレッション byシクロワイアード編集部
今回パールイズミのウェアを試したのは、日頃からレース系ウェアを着用しているシクロワイアード編集部の高木だ。今回の試着に際してサイズチャートでサイズを確認したところ、身長で参照するとL、チェストで参照するとM、ウエストではSサイズと見事に揃わなかったため、SサイズとMサイズを着用し比べてみた。結果から言うとSサイズがベストフィットだったため、エアスピードシリーズを検討している方はサンプルで試してみてもらいたい。
Sサイズでも着用できたのはパールイズミ特有の柔らかなフィット感のおかげ。レース向けのタイトフィットウェアではコンプレッションが効き肌にビタリと張り付くものも存在するが、エアスピードは小さめのサイズにも関わらずフワリと体を包み込むような着用感だ。前者の場合は繊維の弾力性が高く、非常に伸びやかな一方で縮む方向にタイトさを感じさせるのだが、エアスピードは縮む方向の弾力性が穏やかな感触を受ける。もちろん肌にぴたりとフィットしているため、窮屈さを感じにくいという印象だ。
また、近年は極薄の生地を使うブランドが登場している中で、エアスピードはスタンダードな厚みの生地を使っているため、耐久性への期待は高め。洗濯を繰り返していくうちに裾や袖口が丸まってしまう心配も少なく、せっかくのオーダーウェアを長く着れるのは嬉しいポイントだ。
研究の粋を結集したスピードセンサーII
エアスピードシリーズの魅力であるスピードセンサーII生地は、他のエアロ生地と比較すると厚め。一方で伸縮性は優れているため、耐久性が高いと言う点においてアドバンテージはありそうだ。エアロについては肌感覚となってしまうが、肩周りに当たる風によって体が押される感覚がノーマルなジャージよりは小さく感じる。ビブショーツもエアロ生地の配置によって効果を生み出していることを期待できる。
また、エアロ生地単体とウェア全体のタイトなフィット感による生地のバタつきがない点でのエアロも含め、トータルでレーススペックの性能を実現していることがエアスピードシリーズの美点だ。そして、エアロながら心地よいフィット感とすることで、長時間のレースでも快適に過ごせるウェアを実現しているはずだ。
半袖ジャージの袖口とビブショーツの裾には幅広のグリッパーバンドが備えられている。この部分のグリップ力は面積の広さと生地の伸縮性によるものと、粘着性を感じる素材どちらもが貢献しているような印象だ。これによってライド中にズレ上がったり、めくれてしまうこともない安定感をもたらしている。
程よいフィット感の半袖ジャージ
半袖ジャージに関してはペダリング時に腹圧をかけてお腹周りを膨らませてもストレスなく生地が追従してくれることが魅力。背中部分の大胆なメッシュ生地は言うまでもなく通気性に優れており、汗が止まらない快適性を実現している印象だ。また、メッシュ生地の場合は伸びはいいものの縮む方向の力が弱いと言うこともあるが、エアスピードに関しては全体のクオリティが高く、フィット感のまとまりが良い。
メッシュがメインの背面だが、バックポケットのみは前身頃と同じ生地が用いられている。開口部もゴムが縮まった状態で縫製されているため、ポケット部の生地と相まって収納物が飛び出しにくくなっているのは嬉しい。
他にはない肩紐が快適性を高めているビブショーツ
ビブショーツの大きな美点は他のブランドにはないようなメッシュ生地の肩紐だ。非常に薄く、サラサラとした感触の生地はアンダーウェアを着用しない方でも汗が溜まりにくく、乾きも早く汗冷えしなさそうな作りとなっている。この部分にこだわって素材を選定しているパールイズミの開発力には信頼が持てそうだ。
メッシュ部分は非常に柔らかな風合いだが、左右に縫い合わせられたゴムによって肩紐のホールド力を実現している。肩紐の感触としては少しだけ引っ張られる感が強めであり、パッドがライド中にズレる心配は一切なし。今回はSサイズを着用したと言うこともあり、肩紐部分がサイズアウトしていることも考えられるため、太もも周りのフィット感を重視するか、肩紐のフィットを重視するかは試着してみて考えて欲しい。
体の動かしやすさはピカイチの半袖ロードスーツ
この半袖ジャージとビブショーツが融合しているのがワンピースだ。上下が一体になることのメリットは、前傾姿勢時に腰回りの生地が一切ダブつかないことと、ダンシングをはじめ体の動きを阻害するものがないこと。これによって非常に高い快適性を実現しており、レースであるならばワンピースを選びたいところ。
また、上下が完全に一体とならずセパレート式とされているため、腹圧をかけた時に生地がスムーズに追従してくれるのも美点。このようなワンピースにおける一般的なメリットとパールイズミならではの包み込むようなフィット感が相乗効果を生み出し、さらに優れた着心地を実現していることがエアスピードのいいところ。
スピードセンサーIIを使用したアクセサリーも魅力
ソックスはエアロ生地部分が程よく足をコンプレッションしてくれるため、超タイトなレースソックスより快適に過ごせることが魅力。エアロ生地が比較的厚みがあることによって、薄手でハリのあるエアロ生地よりも、フィット感は長期間に渡って維持してくれそうなこともユーザーとしては嬉しいポイント。
一方、シューズで隠れてしまう足部分は基本的には薄手の作りで通気性が確保された。つま先部分と踵部分の補強のほか、土踏まず部分がコンプレッション仕様とされているため、ライダーのパフォーマンスをサポートすることに加えて、足とソックスが滑ってしまうこともない。
シューズカバーの脛部分はソックスと同じ作りで、足部分はジャージと同じ素材が用いられた。この生地が非常に伸びやかで、シューズに装着しない状態では本当に着用できるのかと思ってしまうほど小さく作られているが、実際はスムーズにシューズを覆うことが可能。また、タイトすぎないためシューズが締め付けられている感覚もなく、非常に快適なカバーに仕上げられていると感じた。
インプレッション:高木三千成
パールイズミ エアスピード ジャージ
メンズ・サイズ:XS、S、M、L、XL、3L
レディース・サイズ:XS、S、M、L、XL
最小注文枚数:新規3着〜、リピート1着〜
納期:60日
価格:16,280円(税込)
パールイズミ エアスピード ビブパンツ
メンズ・サイズ:XS、S、M、L、XL、3L
レディース・サイズ:XS、S、M、L、XL
最小注文枚数:新規3着〜、リピート1着〜
納期:60日
価格:16,280円(税込)、肩紐なし15,180円(税込)
パールイズミ エアスピード 半袖ロードスーツ
メンズ・サイズ:XS、S、M、L、XL、3L
レディース・サイズ:XS、S、M、L、XL
最小注文枚数:新規3着〜、リピート1着〜
納期:60日
価格:33,880円(税込)
パールイズミ エアスピード ソックス
サイズ:S、M、L
最小注文枚数:新規3着〜、リピート1着〜
納期:60日
価格:3,960円(税込)
パールイズミ エアスピード シューズカバー
サイズ:S-M、L-XL
最小注文枚数:新規3着〜、リピート1着〜
納期:60日
価格:7,150円(税込)
text:Gakuto Fujiwara
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