スタイリッシュでファッショナブルなサイクルライフを提案するTOKYO WHEELS。セレクトショップの運営にとどまらず、イザドアやアルバオプティクスの代理店業、そしてオリジナルアパレルの開発まで手掛けている背景には「大人の自転車乗りに刺さる、良い製品を届けたい」という強いメッセージが宿っていた。



TOKYOlife代表の森稔氏。IT業界での経験と、アパレルへの深い造詣で業界に新風を吹き込んできた人物だ photo:So Isobe

馬喰町駅、あるいは浅草橋駅からほど近い、神田川のほとりに居を構えるサイクリングアパレルショップが「TOKYO WHEELS」だ。他のショップでは見かけることの無いようなトレンドの先端を行くブランドを多く取り揃え、実際に手に取ることが出来る存在として、ファッションに敏感なサイクリストたちが集うセレクトショップとして人気を博している。

自転車本体を販売せず、サイクルアパレルを専門に取り扱う珍しい業態のショップだが、既に15年以上もの時を重ねてきた。その歴史が、サイクリスト達からの支持が厚いことを証明しているといっても良いだろう。

このTOKYO WHEELSを運営するのがTOKYOlifeだ。サイクルアパレルだけでなく、一般的なアパレルにも精通し、ジャンルごとに3つのチャネルを有している。その最大の特徴がWebマガジン+コマースという形態。単なるセレクトショップではなく、ブログやSNSを駆使し、最新の情報やコーディネート、そしてライフスタイルを提案することで、唯一無二のショッピング体験を提供するのが強みだ。

東京、日本橋に店舗を構えるTOKYO WHEELS photo:So Isobe
イザドアやアソスなど、TOKYO WHEELSが取り扱う製品が揃う photo:Michinari TAKAGI


左手奥側がTOKYO WHEELSのオリジナル製品。森代表自らがこだわって仕上げた自信作ばかりが並ぶ photo:So Isobe

その仕組みの仕掛け人がTOKYOlife代表の森稔氏だ。IT業界での長い経験と、アパレルへの深い造詣を有する森代表ならではのスタイルと言えよう。そして、そのカバー範囲は単なる小売の範疇に留まらず、より広大な領域へと手を伸ばしている。

その一つが、シクロワイアードでもおなじみのイザドアやアルバオプティクスといった、海外ブランドの日本総代理店。そしてもう一つが、独自の切り口でサイクリングの世界に新たなファッションを提案するオリジナルアパレルの開発だ。

特にTOKYOlifeのオリジナル製品は、「ファッショナブルで、それでいてキチンと乗れる」をモットーにした、森代表を含め自転車を愛するスタッフ陣自慢のコレクション。一見すると大人に似合う普通のオシャレ着(≠レーサージャージ)、でもよく見れば各所にストレスなくシティライドを楽しむための工夫が凝らされている。

シャツやパンツといった基本アイテムから、アウター、ミッドレイヤーなど、オンオフ問わず気軽に、サッと袖を通せる豊富なラインナップと、トータルで決まるコーディネイト提案が大きな魅力。そして今夏には、ついにオリジナルのジャージもスタートするなど、着実にその勢いを増し、認知を広めている。

今回は、TOKYO WHEELSオリジナル製品、そしてブランドの立ち上げやコンセプト、思いについて森代表に聞いたインタビューをお届けしたい。



ーそもそも、TOKYOlifeが自転車向けアパレルを専門にするきっかけはなんだったのでしょう?

もともと、Webマガジンからそのまま買い物が出来るというのがTOKYOlifeの特徴だったんです、昔はもっと前面にマガジンがどーん!と出ていたんですが(笑)、ファッションアディクトの為のマニアックな記事を展開するつもりは無くて。むしろ、ライフスタイルに寄り添った提案をする中で、ちょっとこれは面白いじゃん、と思ってもらえるような体験を重要視していたんです。

ピストカルチャーから自転車にのめり込んだという森代表。「自転車に乗れるスーツを作る」という雑誌企画がTOKYO WHEELSの発端になったという photo:So Isobe

そんな中で、今は休刊中のバイシクルナビという雑誌で、自転車に乗れるスーツを作ろう!という企画があったんですよね。その販売にあたって、TOKYOlifeがピッタリなんじゃないの、という話を頂いたのが自転車アパレルの世界への第一歩でした。

そして、僕も含めて自転車が好きなスタッフも結構多くて、「これ面白いね」ということになって。自分たちが好きな「自転車」というライフスタイルを提案して、そこにしっくりくるものを販売していこう、というのがTOKYO WHEELSが生まれた経緯ですね。

僕たちのコンセプトは、あくまでライフスタイルの提案と、それを実現するために必要なモノを届けること。オリジナルアパレルの開発も、僕たちが理想とするサイクルライフを提案する中でぴったりフィットするものが少なかったから。そこを追求したことの自然な結果として、今の形になっています。

ー森さんがおっしゃる「TOKYOlifeが理想とするサイクルライフ」とは?

一言でいうと「大人の自転車乗り」ですね。誰かと勝敗を競ったり、一秒を縮めるために過酷なトレーニングをするような、アスリート的なスタイルは、それはそれで楽しいとは思うのですが、我々としてはもう少し余白が欲しい。

TOKYO WHEELSのSNSアカウントも森代表が運用。まだ世に出ていない試作品も少なからず映り込んでいるのだそう photo:So Isobe

ポタリングやカフェライドを楽しみつつ、仲間と遠乗りにも行くような、ゆったりとしたサイクルライフが僕たちの理想です。もちろん、レースやトレーニングを否定するわけではないんです。自分も遠出した時にキツくて辛いのは嫌だからそれなりには練習しますし、みんなとペースを合わせるにはそこそこ脚力無いと厳しいですしね。ただ、速くなること自体が目的ではないんです。

これまでの自転車界だと、速い人がエライ、みたいな風潮はやっぱりありますよね。でも、僕たちが提案するライフスタイルは一線を画していこうと思ってやっています。

ー業界全体がそのヒエラルキーを内面化しているところは否定できませんね

そう、なので出てくる製品も自然とそういったものになりますよね。自転車本体にしても、レースバイクとして先鋭化してどんどん高額になっていますし、メディアもどんどん減っていますよね。

それはアパレルについても同じことで、レースのための高機能なウェアはどんどん進化して、いろんなブランドが色んなモノを出しています。でも、普段の生活に密着するような自転車の使い方、楽しみ方において、しっくりくる服、お洒落でカフェに着ていきたい服がありますかというと、ほぼ無い。

ーなるほど。そこで、オリジナルをやっていこうと。

そうなんです。結局、自転車の楽しさって何なのかというところで。僕は10km走るだけでも十分に楽しいのが自転車だと思っています。そして、10kmだったら必ずしもジャージもレーパンも必要じゃなくて、普通の服でも機能的に問題が起きることもほぼない。

パッと見はおシャレな普段用アパレル。でもその全てに、自転車乗りに嬉しい工夫が凝らされている photo:So Isobe

ここ数年でサイクルウェアもデザインが良くなってきているとは思いますが、結局「自転車で走るための服」なんですよね。TOKYO WHEELSが作りたいのは、「自転車にも乗れる服」なんです。自転車に乗っていなくてもお洒落にコーディネートできて、なおかつ実は自転車に乗る時にも使いやすい。

ー確かに一見普通のカッコイイ服に見えます。どういった部分が自転車仕様なのでしょう

TOKYO WHEELSのHPで紹介されているコーディネイト例。モデルには森さん自身も登場する

自転車向けのカジュアルウェアというと、リフレクターを付けてみたり、バックポケットを付けてみたり、というイメージがあると思うんです。分かりやすいギミック的なものですね。むしろギミック的な要素は、取り入れれば取り入れるほど従来のサイクルウェアに寄っていってしまうので、あえて入れないことも多いです。

僕たちが拘っているのは、そうった表層の部分では無く、もっと細かな部分なんです。例えば、股上の寸法が深いと、サドルに引っ掛かって乗り降りしづらいとか、サドルと擦れる部分が毛羽立ちづらいとか。実際に自転車に乗っていて感じる細かな不便さ、不快さを解消できるのが僕らのウェアの特徴ですね。

ーそういったアイディアは実際に乗っているからこその視点ですよね

ライドテストというのは、絶対に実施しています。その上で、開発時間もかなりかけています。パターンサンプルも何回も上げて、都度検証して、とやっていると時間も費用もかなり掛かりますが、そこは妥協したくないんです。

今は展示会もやっていないので、そこまでに間に合わせないといけない!という期限も無い。進捗がはかばかしくなければ、次のシーズンに回そうという感じで予算に追われず好き勝手に開発しているのは、なかなか他のブランドとは違う点かもしれません。自分が社長というのは大きいと思いますが(笑)

とにかく自信をもって薦められる製品にしたい。そこは自分がTOKYO WHEELSのYoutubeチャンネルで話すことも大きくて。納得出来てないものについて話すのって、すごくツラいんですよね。

ーこれからの時期に、オススメのアイテムはありますか?

このフーディーは森代表こだわりの作品。形にこだわり、何度も試作を繰り返したという photo:So Isobe

おすすめの「アーバンライドストレッチスウェット」。生地に見える柄は、実はプリント。オシャレ感と機能性を両立している photo:So Isobe
サーマル素材を採用したクルーネックロングスリーブTシャツ。これ一枚でも映えるし、寒い日のミドルレイヤーとしてもおすすめ photo:So Isobe



レイヤリングを基本にしているのは普通のサイクルウェアと同じです。これからの時期であればミッドレイヤーにフーディーのパーカーか、アーバンライドストレッチスウェットはオススメですね。このフードの設計はかなりこだわっていて、サンプルだけで50万円分くらい費やしてます。回収出来る気がしません(笑)

でも、フードがカッコ悪かったら着たくないじゃないですか。だから納得できるまでやりました。一つ気をつけているのは、単体ではなくてトータルコーディネートで組めるか否かという部分です。他のアイテムとの相性、バランスの良さといった部分は常に見ていますね。

ー確かに。SNSやYoutube、ブログでも全てコーディネートで積極的に発信されていますよね

自転車に乗る人も、そうでない人も、ファッションが好きな人だってコーディネイトに頭を悩ます時間が短い方がいいですよね。つまり同じブランドで組んで、カッコイイというのは楽じゃないですか。特に気にせずにそれぞれを選んでも、気持ちよく決まるようにデザインしています。

実は最近、元ペダレッドの鈴木さんがチームに入って頂けまして。その力もあって、製品リリースの精度とか、回転スピードが格段に上がったんです。そのおかげもあって、オリジナルアイテムだけでコーディネート全体を組めるようになってきたことも大きいです。

ー今年からはジャージもラインアップされていますが、どういったアイテムなのでしょうか

先ほどの話と矛盾するように感じるかもしれないですが、やはり東京発信のサイクルウェアブランドとして、今後世界に向けても展開していきたい部分があって、こういったアイテムも手掛けていこうと。


今夏にリリースしたジャージは非常に好評で、冬モノもやろうとしていたのですがちょっと満足いくものが出来なくて、また来年のチャレンジとなります。ただ、かなりいいモノは既に上がってきています。

プロダクトの立ち位置としては、プレミアムでハイパフォーマンスというわけではないんです。海外製のウェアはサイジングの問題もありますし、なにより為替の影響も大きいですよね。そこを日本ブランドとしてやることで、リーズナブルかつファッショナブルなアイテムを作れれば、というのが狙いですね。

実は一度、高機能路線も目指していたことがあったんですが、やればやるほど徹底して作り込んでいるアソスには敵わないなと。そこでコンセプトを転換して、機能はそこそこでもカッコイイジャージを手の届きやすい価格で届けようと思ったんです。

ー最後に、森代表にとって、アパレルとはなんでしょう

僕にとっては「人からよく見られるためのツール」ですね。ファッション業界の方って、基本的には「マニア」なんですよね。僕はファッション業界以前はIT業界にいて、今も自分はそっち側の人間だと思っていて。あくまで、ファッションを使ってどういった効果が得られるのか、自分をどうプレゼンできるのかという効果が重要ですね。

「わかりやすく、おしゃれで、カッコいい。そんなアパレルを作っていきたいと思います」 photo:So Isobe

ファッションのマニアになってしまうと、分かりやすいかっこよさからは遠ざかってしまう部分もあるじゃないですか。モード系のファッションって、お洒落なんだろうな、とは思うけれどかっこいいと感じるかと言われると難しい。それはもうマニアックな差別化の世界で、僕にとってファッションはそのためのモノじゃないんです。

例えばイタリアに行くと、もう皆さんかっこいい。誰が見ても、老若男女問わずかっこいいと思えるスタイルが、やっぱりお洒落って言われているんですよね。そういった部分は自分の中で大切にしています。

なので、TOKYO WHEELSはサイクリストとしての自分をプレゼンできるようなアパレルをセレクトしていきます。自転車って個性が出るものですから、合わせる服もカッコよく決めれると最高ですよね。

interview:So Isobe
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