2022/12/31(土) - 20:22
ハイパフォーマンスなカーボンパーツを手掛けるエンヴィから、今年総刷新されたハイエンドホイール"SES 6.7"をインプレッション。最先端の空力デザインと、フックレス仕様による軽量性を兼ね備えたエアロホイールの魅力を解き明かす。
アメリカ・ユタ州に拠点を置くエンヴィ。最先端のカーボン技術に精通し、高い精度と圧倒的な軽さ、レーサーを満足させる剛性と強度を高い次元で兼ね備えたプロダクトを次々に送り出し、世界中のサイクリストから注目を浴びるブランドだ。
ハンドルやステム、シートポストといったコックピット系パーツや、フロントフォークなども手掛けるエンヴィだが、そのブランドのポジションを決定づけたのはプロダクトと言えば、軽量で高剛性なカーボンリム、そしてそれを使用したホイールだろう。
そんなエンヴィのホイールラインアップにおいて、ハイエンドなレーシングラインとして用意されるのが、スマート・エンヴィ・システム、通称"SES"と名付けられたロードホイールシリーズだ。
長年にわたりF1の空力エンジニアリングを手掛けてきたサイモン・スマート氏によって、徹底的な空力デザインを施されてきたSESシリーズ。2011年に登場して以来、アップデートを続け、2023年モデルとしてついに4世代目がデビューした。
SESシリーズが目指すのは「現実世界で最速」であること。風洞実験での結果だけでなく、実走行時に最大のパフォーマンスを発揮するホイールとして、細部までこだわった開発が行われている。
最大の特徴は前後それぞれで最適化されたリムプロファイルを採用していることで、前輪は安定性とハンドリング性能を最適化し、後輪は空気抵抗削減を第一としたデザインを採用している。例え空力的に優れたデザインであったとしても、安定感が低いホイールはロスを容易に生んでしまう。実際の走行シーンにおいて、真に速いホイールとは何かを突き詰めた結果が、SESシリーズの前後異ハイトデザインだ。
第4世代となり、SESシリーズはラインアップを大幅に統合。6モデルが用意された前世代に対し、今作ではSES 2.3、SES 3.4、SES 4.5、SES 6.7という全4モデルに。4種類のリムハイトの組み合わせと、用途に応じたリム幅が与えられ、ヒルクライムからタイムトライアルといった使用シーン、ターマック/グラベルといった路面状況を網羅するラインアップが揃えられた。選択肢が絞り込まれることで、ターゲットとするシーンのオーバーラップが少なくなり、より選びやすいラインアップへと整理されている。
今回インプレッションするのは、4モデルのなかでも最も高いリムハイトを持つSES 6.7。フロント60mm、リア67mmというリムプロファイルにより、シリーズ最高のエアロパフォーマンスを発揮する一本で、TTやトライアスロンといった平坦なコースで最も輝くホイールだ。
その一方で、前後セットで1,497gという重量を実現。60mmを越えるリムハイトとは思えない軽量なホイールセットとなっている。この重量に大きく貢献するのが、エンヴィのカーボンテクノロジーとビードフックを廃したフックレスデザインだ。
内幅23mm、外幅30/29mm(フロント/リア)という設計のワイドなリムは、あらゆる方向の風に対して優れた空力性能を発揮。横風にも強く、安定感のあるホイールとなっているという。25C~32Cのタイヤに適合し、同社のSES27タイヤと組み合わせることで、最大のエアロダイナミクスを発揮するデザインだ。
ハブはエンヴィのオリジナルモデルを採用。面ラチェットシステムのインスタントドライブ360を搭載し、高い駆動効率を実現した。スポークはサピムのCX-RAYで、フロント、リア共に24本。それでは、インプレッションに移ろう。
―インプレッション
「エンヴィ、かくあるべし」 磯部聡(シクロワイアード編集部)
所有欲を150%満たしてくれるホイール。この言葉に尽きると思います。
エアロと軽さを誇るエンヴィの、それもエアロの最上級グレードたるSES、そしてこれだけのリムハイト。このルックスは何がどうあっても正義です。グレードの高さ、乗った時の軽さはもちろん、ディープリム特有の反響音がもう完璧ですよね。スピードが乗った時、路面が荒れたところを走る時、ダンシングでリムが捩れる時の音、ディープリムってこうだよね、こうあってほしいよね、というのを完全に体現しています。
実際に手に取ると分かるのですが、SES6.7のリムは、ビードとベッド、ニップル周りはしっかりしている一方、ウォールは指で押すとへこむくらい薄いんです。それがスポークのしなりと相まって、パワーを一瞬溜めてから、一気に解放して推進力に繋がる。「Jベンドのスポークだし、加速はダルいのかな?」と思っていたのですが、エンヴィ特有のリムの軽さゆえそんなこともありません。見た目以上に汎用性が高いホイールだなと思わされました。
ですから、もちろん長い登りに向くホイールではありませんが、ライド中に現れる登りでガッカリすることもない。50万円に近い超高価格に見合った走りを体感することができます。
先述したように、もはやディープリムホイールとしての所有欲を150%満たす走りが自慢ですが、強いてデメリットを挙げるとすれば、リムハイトがこれだけ高いためホイールが起き上がろうとする力が強く、コーナリングでの細かく切り返した際、横剛性に特化したホイールと比べると、ほんの少し外に膨れる傾向にある。これはリムとスポークのしなりが影響する部分もあるのかもしれません。
ただもちろん、このホイールを所有して走らせる喜びは、そんなデメリットを帳消しにして、もはや宇宙の彼方にサヨナラできてしまうほどです。
市場でエンヴィが最も輝き、もてはやされていた時代は数年前にピークを迎えた感がありますが、今回改めて、その実力はトップクラスであることを思い知らされました。カッチリとした走行フィールを武器にするロヴァールやシマノの新型12速ホイールとは異なるベクトルで、燦然と光り輝くプレミアムホイールです。
「見た目通りの部分、見た目を裏切る部分。どの速度域でも活躍するレーシングホイール」高木三千成
見た目通り、平坦を高速巡航するのが気持ちいいホイール……なのかと思いきや、どの速度域でも助けになるオールラウンドなホイールです。正直、走り出した瞬間驚きました。軽くない?って(笑)
こういうリムハイトの高めのホイールだと、やはりどうしても外周が重いですから、ゼロからの加速はもたつきがちです。そういう先入観があったこともありますが、実際に走ってみると、最初の一踏みからスッと加速する。イメージで言うと35mmハイトレベルの加速感で、ちょっと混乱するくらい。
登りでもその印象はあまり変わらなくて。斜度がきつい激坂だと、流石に少し重さを感じる瞬間もありましたが、ペースで踏んでいけるような登りであればほとんど気にならなかったですね。
驚いたのはコーナーもです。ハイトの高いホイールは慣性が強く働くせいで、倒しこみづらかったり、外に持っていかれたりすることが多いですが、このホイールはそんな感覚はほぼ無いですね。タイトなS字を攻めてみても、もうパンパン切り返せます。
ある意味、ここまで話しているとハイトが低めで出来のいいカーボンホイールのインプレッションのようですが(笑)、このホイールは60mmハイトのディープリムで、そのスペックにふさわしいエアロ性能、なんならそのカテゴリーの中でもトップクラスのそれを有しています。
明らかに高速域で楽ですし、40km/hくらいから更に掛けていったときのスピードの乗りも良い。いつもなら壁を感じるような速度域をスッと乗り越えて、その先に行けるような印象で、エアロ性能の良さを体感できるホイールです。
エアロという意味では、横風の影響も少ないですね。堤防の上を走るような区間で、横風が吹いてきてもハンドルを取られてふらつくようなことも無く、ディープリムが初めてという人でも違和感なく使えそうです。
とにかく全方位に隙の無いホイールですね。走りの軽さや扱いやすさという面では、見た目とのギャップがありながら、巡航性能では見た目どおり、という魔法のような一本です。この加速感と高速性能であれば、クリテリウムなどでも強い武器になるでしょう。
見た目を裏切るオールラウンドモデルと言いましたが、峠をメインに走る人が1本だけホイールを買うとしたときにこのSES6.7を勧めるか、と問われれば、やはりもう少し実重量が軽いモデルのほうが良いと思います。60mmハイトの6.7でこの走りの軽さでしたので、同じSESシリーズの40mmハイトモデルであるSES3.4や、セット重量1,197gのSES2.3は、より軽快さが際立つのではないでしょうか。今回は6.7のみのテストでしたが、ぜひ機会があれば他のモデルも試してみたいですね。
エンヴィ SES6.7
エンヴィ SES 6.7
リムハイト:フロント60mm、リア67mm
リム内幅:23mm
リム外幅:フロント30mm、リア29mm
重量:1,497g
価格:499,950円(税込)
インプレッションライダーのプロフィール
磯部聡(シクロワイアード編集部)
CWスタッフ歴12年、参加した海外ブランド発表会は20回超を数えるテック担当。ロードの、あるいはグラベルのダウンヒルを如何に速く、そしてスマートにこなすかを探求してやまない。
高木三千成(シクロワイアード編集部)
学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。
text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto AYANO
アメリカ・ユタ州に拠点を置くエンヴィ。最先端のカーボン技術に精通し、高い精度と圧倒的な軽さ、レーサーを満足させる剛性と強度を高い次元で兼ね備えたプロダクトを次々に送り出し、世界中のサイクリストから注目を浴びるブランドだ。
ハンドルやステム、シートポストといったコックピット系パーツや、フロントフォークなども手掛けるエンヴィだが、そのブランドのポジションを決定づけたのはプロダクトと言えば、軽量で高剛性なカーボンリム、そしてそれを使用したホイールだろう。
そんなエンヴィのホイールラインアップにおいて、ハイエンドなレーシングラインとして用意されるのが、スマート・エンヴィ・システム、通称"SES"と名付けられたロードホイールシリーズだ。
長年にわたりF1の空力エンジニアリングを手掛けてきたサイモン・スマート氏によって、徹底的な空力デザインを施されてきたSESシリーズ。2011年に登場して以来、アップデートを続け、2023年モデルとしてついに4世代目がデビューした。
SESシリーズが目指すのは「現実世界で最速」であること。風洞実験での結果だけでなく、実走行時に最大のパフォーマンスを発揮するホイールとして、細部までこだわった開発が行われている。
最大の特徴は前後それぞれで最適化されたリムプロファイルを採用していることで、前輪は安定性とハンドリング性能を最適化し、後輪は空気抵抗削減を第一としたデザインを採用している。例え空力的に優れたデザインであったとしても、安定感が低いホイールはロスを容易に生んでしまう。実際の走行シーンにおいて、真に速いホイールとは何かを突き詰めた結果が、SESシリーズの前後異ハイトデザインだ。
第4世代となり、SESシリーズはラインアップを大幅に統合。6モデルが用意された前世代に対し、今作ではSES 2.3、SES 3.4、SES 4.5、SES 6.7という全4モデルに。4種類のリムハイトの組み合わせと、用途に応じたリム幅が与えられ、ヒルクライムからタイムトライアルといった使用シーン、ターマック/グラベルといった路面状況を網羅するラインアップが揃えられた。選択肢が絞り込まれることで、ターゲットとするシーンのオーバーラップが少なくなり、より選びやすいラインアップへと整理されている。
今回インプレッションするのは、4モデルのなかでも最も高いリムハイトを持つSES 6.7。フロント60mm、リア67mmというリムプロファイルにより、シリーズ最高のエアロパフォーマンスを発揮する一本で、TTやトライアスロンといった平坦なコースで最も輝くホイールだ。
その一方で、前後セットで1,497gという重量を実現。60mmを越えるリムハイトとは思えない軽量なホイールセットとなっている。この重量に大きく貢献するのが、エンヴィのカーボンテクノロジーとビードフックを廃したフックレスデザインだ。
内幅23mm、外幅30/29mm(フロント/リア)という設計のワイドなリムは、あらゆる方向の風に対して優れた空力性能を発揮。横風にも強く、安定感のあるホイールとなっているという。25C~32Cのタイヤに適合し、同社のSES27タイヤと組み合わせることで、最大のエアロダイナミクスを発揮するデザインだ。
ハブはエンヴィのオリジナルモデルを採用。面ラチェットシステムのインスタントドライブ360を搭載し、高い駆動効率を実現した。スポークはサピムのCX-RAYで、フロント、リア共に24本。それでは、インプレッションに移ろう。
―インプレッション
「エンヴィ、かくあるべし」 磯部聡(シクロワイアード編集部)
所有欲を150%満たしてくれるホイール。この言葉に尽きると思います。
エアロと軽さを誇るエンヴィの、それもエアロの最上級グレードたるSES、そしてこれだけのリムハイト。このルックスは何がどうあっても正義です。グレードの高さ、乗った時の軽さはもちろん、ディープリム特有の反響音がもう完璧ですよね。スピードが乗った時、路面が荒れたところを走る時、ダンシングでリムが捩れる時の音、ディープリムってこうだよね、こうあってほしいよね、というのを完全に体現しています。
実際に手に取ると分かるのですが、SES6.7のリムは、ビードとベッド、ニップル周りはしっかりしている一方、ウォールは指で押すとへこむくらい薄いんです。それがスポークのしなりと相まって、パワーを一瞬溜めてから、一気に解放して推進力に繋がる。「Jベンドのスポークだし、加速はダルいのかな?」と思っていたのですが、エンヴィ特有のリムの軽さゆえそんなこともありません。見た目以上に汎用性が高いホイールだなと思わされました。
ですから、もちろん長い登りに向くホイールではありませんが、ライド中に現れる登りでガッカリすることもない。50万円に近い超高価格に見合った走りを体感することができます。
先述したように、もはやディープリムホイールとしての所有欲を150%満たす走りが自慢ですが、強いてデメリットを挙げるとすれば、リムハイトがこれだけ高いためホイールが起き上がろうとする力が強く、コーナリングでの細かく切り返した際、横剛性に特化したホイールと比べると、ほんの少し外に膨れる傾向にある。これはリムとスポークのしなりが影響する部分もあるのかもしれません。
ただもちろん、このホイールを所有して走らせる喜びは、そんなデメリットを帳消しにして、もはや宇宙の彼方にサヨナラできてしまうほどです。
市場でエンヴィが最も輝き、もてはやされていた時代は数年前にピークを迎えた感がありますが、今回改めて、その実力はトップクラスであることを思い知らされました。カッチリとした走行フィールを武器にするロヴァールやシマノの新型12速ホイールとは異なるベクトルで、燦然と光り輝くプレミアムホイールです。
「見た目通りの部分、見た目を裏切る部分。どの速度域でも活躍するレーシングホイール」高木三千成
見た目通り、平坦を高速巡航するのが気持ちいいホイール……なのかと思いきや、どの速度域でも助けになるオールラウンドなホイールです。正直、走り出した瞬間驚きました。軽くない?って(笑)
こういうリムハイトの高めのホイールだと、やはりどうしても外周が重いですから、ゼロからの加速はもたつきがちです。そういう先入観があったこともありますが、実際に走ってみると、最初の一踏みからスッと加速する。イメージで言うと35mmハイトレベルの加速感で、ちょっと混乱するくらい。
登りでもその印象はあまり変わらなくて。斜度がきつい激坂だと、流石に少し重さを感じる瞬間もありましたが、ペースで踏んでいけるような登りであればほとんど気にならなかったですね。
驚いたのはコーナーもです。ハイトの高いホイールは慣性が強く働くせいで、倒しこみづらかったり、外に持っていかれたりすることが多いですが、このホイールはそんな感覚はほぼ無いですね。タイトなS字を攻めてみても、もうパンパン切り返せます。
ある意味、ここまで話しているとハイトが低めで出来のいいカーボンホイールのインプレッションのようですが(笑)、このホイールは60mmハイトのディープリムで、そのスペックにふさわしいエアロ性能、なんならそのカテゴリーの中でもトップクラスのそれを有しています。
明らかに高速域で楽ですし、40km/hくらいから更に掛けていったときのスピードの乗りも良い。いつもなら壁を感じるような速度域をスッと乗り越えて、その先に行けるような印象で、エアロ性能の良さを体感できるホイールです。
エアロという意味では、横風の影響も少ないですね。堤防の上を走るような区間で、横風が吹いてきてもハンドルを取られてふらつくようなことも無く、ディープリムが初めてという人でも違和感なく使えそうです。
とにかく全方位に隙の無いホイールですね。走りの軽さや扱いやすさという面では、見た目とのギャップがありながら、巡航性能では見た目どおり、という魔法のような一本です。この加速感と高速性能であれば、クリテリウムなどでも強い武器になるでしょう。
見た目を裏切るオールラウンドモデルと言いましたが、峠をメインに走る人が1本だけホイールを買うとしたときにこのSES6.7を勧めるか、と問われれば、やはりもう少し実重量が軽いモデルのほうが良いと思います。60mmハイトの6.7でこの走りの軽さでしたので、同じSESシリーズの40mmハイトモデルであるSES3.4や、セット重量1,197gのSES2.3は、より軽快さが際立つのではないでしょうか。今回は6.7のみのテストでしたが、ぜひ機会があれば他のモデルも試してみたいですね。
エンヴィ SES6.7
エンヴィ SES 6.7
リムハイト:フロント60mm、リア67mm
リム内幅:23mm
リム外幅:フロント30mm、リア29mm
重量:1,497g
価格:499,950円(税込)
インプレッションライダーのプロフィール
磯部聡(シクロワイアード編集部)
CWスタッフ歴12年、参加した海外ブランド発表会は20回超を数えるテック担当。ロードの、あるいはグラベルのダウンヒルを如何に速く、そしてスマートにこなすかを探求してやまない。
高木三千成(シクロワイアード編集部)
学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。
text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto AYANO
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