2010/07/18(日) - 21:05
逃げのスペシャリスト3人が組んでもゴールスプリントを狙うチームの組織的な動きには歯が立たなかった。しかしそれを上回るパワーを見せたヴィノクロフ。2年前の勝利を否定され、昨ステージではチームメイトのコンタドールにチャンスを潰された失望を勝利で返した。
アルプスを終え、最後の決戦の場ピレネー突入を控えた平坦基調のステージ。アンディとコンタドールふたりの総合優勝争い、そして総合上位争いがほぼ形になりつつある今、逃げを得意とする選手やスプリンターにとっての残された数少ないチャンスのあるステージだ。
ポイントとなるのはゴール前7.5kmにあるカテゴリー3級のサン・フェレオル峠。ここでアタックがかかることは必至だ。
ユキヤのラストチャンス?
ボルドーとシャンゼリゼにゴールする第19&21ステージは真平らなコースなので、アップダウンを含む逃げに向いたコースといえば、もうこのステージしかない。つまりは新城幸也(Bboxブイグテレコム)にとって最後にして最大のチャンスともいえるステージだ。
この日の朝、第2チームカーのルーフキャリアにはユキヤのスペアバイク、愛称「必勝号」のコルナゴC59が助手席側にセットされた。素早い交換を可能にするポジションで、チームもユキヤがこの日のアタック候補であると認識していることが分かる。
しかし昨年のステージ優勝者ピエリック・フェドリゴとフランスチャンピオンジャージに身を包むトマ・ヴォクレール(ともにフランス)にとってもチャンスのあるコースプロフィール。逃げを得意とするこの2人のブイグのエースも、まだ勝利を掴んでいないのだ。
そして、山岳賞トップに居るアントニー・シャルトー(フランス)には、ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)がマイヨアポアを奪い返すための闘いを仕掛けてくることは必至。当然ユキヤにはその3人をアシストする役割もある。
そしてゴールスプリントになればセバスチャン・テュルゴー(フランス)とともに狙うことになる。ゴール前の上りで人数が絞られることが予想される今日のスプリントは、ユキヤにとってもチャンスが大きい。
つまりチームに期待される役割は多く、決してフリーな立場ではない。
―「逃げの許可は出ているの?」 集中しているユキヤに聞いてみる。
「逃げはいつでも許可されてはいるんです。今日も同じことです。誰かが逃げに乗ります」
言葉少なに返すが、今日は赤白の日本チャンピオンカラーのオージーケーカブト特製のサングラスをかけ、特別な日を狙っていることが伺える。
エキップ・アサダ時代に今ステージにほど近いトゥールーズにチーム本拠地があったため、この地方のコースなら知っている道も多いと思いきや、山を挟んだ反対側に当たるため、知らない地域なのだとか。
オージーケーカブトといえばこの朝、シャルトーが被るための水玉&ブイグ柄特別ペイントのレジモスヘルメットが日本から到着し、本人に手渡しされた。シャルトーは頭のサイズが大きくてL以上とのことだが、ペイントは市販品以上の仕上がりで、遠い日本のメーカーの素早い対応に感心。もちろん最後までこれを被ることを期待してのグッジョブだ。
スペシャリスト中のスペシャリスト3人の逃げ
ユキヤがいつ逃げても撮影できるように、今日は集団の前をキープして進むことにする。しかしアタックは今日もスタート直後に決まってしまった。
4.5km地点でメイン集団から飛び出したシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)とピエリック・フェドリゴ(フランス、Bboxブイグテレコム)、ピエリック・フェドリゴ(フランス、Bboxブイグテレコム)の3名が飛び出し、差を広げたという情報に、集団を待つことにする。
しかし連日と様子が異なるのは、スタートすぐに上り坂が続いたこと。山岳カテゴリーがつかない丘程度の上りではあるが、アタックを掛けるには騙しがきかない。ここで抜け出せたのは本物のスペシャリストだということ。
3人ともがツールでのステージ経験者という、数は少ないが質の高い3人。それに合流しようとパヴェル・ブラット(ロシア、カチューシャ)がブリッヂをかけて行く。
喘ぎ声をあげながら、激しく息を切らせながら追走するブラットのその様子、息遣いを間近で感じると、序盤のアタック合戦を制するのは決して簡単なことではないことが分かる。
そして逃げが決まってからは差を図りながら集団が追うというお決まりのパターン。タイラー・ファラー(アメリカ)が昨日リタイアしたことで、ガーミン・トランジションズはお役目御免。チームHTC・コロンビアとリクイガスが追走の主な仕事を果たした。
結果的には逃げは成功しなかったが、逃げ続けた3人の強さ。そしてすでに2ステージで逃げ切り勝利を挙げているシャヴァネルの、まだ行ける強さは驚異的だ。まさに「今が選手生活最高の好調のピークにある」という言葉は本物だ。
南にくれど逆に気温が下がり、久々の20℃度台という涼しい気候が続いたこの日。選手たちの負担はいつもより少なく抑えられただろう。
不屈の闘志で真の勝利を手にしたヴィノ
3人の逃げは最終山岳ポイントまでに予定通り引き戻され、勝負は振り出しに。
サン・フェレオル峠でみせたアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)の強烈なアタック。しかしそれに続いたアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)はまさに破壊的なパワーをみせた。
絶好調の状態にあるというヴォクレールの追走も許さず、ゴールまで逃げ続けたのは、かつてのヴィノの走りそのものだった。
そして見せたのは、両手を突き出し、口をくわっと開けて闘志を剥き出しにする迫力のウィニングポーズ。かつて見たポーズと同じものだ。
たった24時間前、ヴィノは苦汁を味わった。昨のステージで逃げを試み、最後の2級山岳クロワ・ヌーヴで独走に持ち込みながらも、後方から追い上げたチームメイトのアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)に追い抜かれ、ステージ3位に終わった。マイヨジョーヌを争うもうひとつの闘いをするチームメイトのコンタドールが優勝のチャンスを潰す結果となり、後味の悪さを残した。
また、ヴィノが2007年ツールで挙げた山岳ステージでの逃げきり勝利と個人タイムトライアルでの2つの勝利は、ドーピングによって記録が抹消されている。公式記録としては、2005年のシャンゼリゼでの勝利以来、5年ぶりのツールでのステージ優勝だ。
その2つの意味で「リベンジ」の勝利と人は呼ぶ。
「ここで勝ったのは、夢が叶ったようなもの。今までの勝利の中でも最高ランクに位置する勝利だ。昨日は勝とうとしたけど、多分ステージが1km長すぎたんだ。
今日、脚の調子が良かったからもう一度トライすることを決めた。最後、脚は疲れていたけど、頭は疲れていなかった。スプリンターたちが後ろから迫ってきていたのは知っていた。だから僕はすべてを出し切った。満足している」。
昨日のステージでコンタドールとの間に確執はないのか? ヴィノは言う「それは彼に聞いてくれ。でも、彼がどれだけ喜んでいるかは見ただろう?」
スプリンターチームの勝利に向けて集団がコントロールされる中、動きがあることは分かっていながらもヴィノのアタックは成功した。
そのアタックが強烈だった様子を、スプリントを制して2位になったカヴェンディッシュがこう話す。
「チームは一日中働き続け、そして最後の丘に僕を完璧に運んでくれた。僕は死にそうなぐらい苦しんでいたが、そこからアタックしたヴィノは本当に本当に速かった。信じられないぐらいに。彼は集団を突き放して勝利をモノにした。本当に印象的な走りだった」。
―「今日がステージ優勝の最後のチャンスだと思っていたか?」との質問に、ヴィノは答える。
「いいや、まだシャンゼリゼもある」。
ヴィノは2005年ツールで、コンコルド広場に入る直前にアタックを決め、シャンゼリゼで独走優勝を挙げているのだ。
ピレネーに入ると別のレースが始まる。コンタドールをアシストするのが当初からの約束だ。もう自分の勝利のためだけのアタックはできない。ヴィノは言う。
「これからはアルベルトとアスタナの勝利のために100パーセントで働く。我々はこれからマイヨジョーヌに集中する。アルベルトは自信たっぷりで、チームはそのゴールに向けてモチベーションたっぷりだ」。
腕にアルカンシェルをつけるバッランのアタックを凌いだことで、世界選手権ロードに興味があるかどうかの質問が飛んだ。アタックがものをいう最高のワンデイ・クラシックである世界選手権ロードは、真にヴィノ向きだ。しかしまだその話は早過ぎるようだ。
「今はアスタナのジャージを着てツール・ド・フランスを走っている。そのこと以外は今考えていない」。
発射台レンショー無しでもカヴの勢い衰えず
マーク・レンショーの失格によりチーム列車の重要な一台を欠く事になったカヴェンディッシュだが、2位争いのスプリントをトップで制した。
カヴは言う。「チームは素晴らしい選手揃いだが、マーク(レンショー)無しでは本当に本当に難しい。マークがいれば僕の(スプリントを始める)ポジションはほとんど保証されたようなもの。彼がいないのは寂しい。ルームメイトとしても」。
ポイント総合では3位に。そしてアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ)がトル・フールホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)を逆転し、マイヨヴェールに。
マイヨヴェール争いはパリまでもつれる
カヴェンディッシュとペタッキがポイントを稼ぐ一方、フースホフトのスプリントは今日も不発。5月の鎖骨骨折のおかげで以前のようなゴールスプリント力はないままだ。フースホフトは先日逃げて稼いだポイントをみすみす失うことになった。マイヨ争いはシャンゼリゼまで続きそうだ。
ペタッキは言う「今日はチームが逃げを捕まえ、最後の上りまで僕をいい位置まで運んでくれた。ヴィノは強すぎたけど僕はポイントを稼いでジャージを取り返すことができた。昨日のように中間スプリントを失わないようにすることが僕に撮っては重要だ。ピレネーはハードだけど、パリまでこのジャージを守りぬく闘いをする自信が僕にはある」。
現在ペタッキは187ポイント、フースホフトは185ポイント、カヴェンディッシュが163ポイントだ。残りステージでゴールスプリントが予想されるのはボルドーとシャンゼリゼゴールの2回。
ピレネー山岳ステージ連戦では、序盤や山岳ポイントの狭間にあるスプリントポイントを稼ぐことも必要になる。昨年のようにフースホフトが山岳で逃げて大量得点を狙うなどということも考えられる。
カヴは言う「中間スプリトはたった6・4・2点にすぎない。そのためにチーム力全部を使うワケにはいかない。僕はトルと同じタイプのライダーじゃないから、山のステージで逃げてポイントを稼ぐなんて無理だ。最後のゴールスプリントに掛けるよ。
遅れたアームストロングは力をセーブしている?
ニュートラルゾーンで落車し、さらに最後の上りで遅れてしまったアームストロング。落車も脱落もかつての王者にとってはイメージダウンだが、もしこれが普通の選手の戦い方と同じなら、力を抜くことで体力を温存し、同時にタイムをさらに失うことで、続くステージで逃げを容認してもらう作戦ともとれる。ステージ一勝をものにしたいアームストロングのしたたかな、しかし王者らしくない戦法?
その意図は明日15ステージで明らかになるだろう。
ユキヤのコルナゴ、スキャン検査を受ける
フェドリゴが逃げたことで自分が逃げるチャンスはなくなり、終盤はヴォクレールのアシストのために上りで力を発揮したユキヤ。しかしヴォクレールは追いつけず、集団スプリントに。いい働きをしての19位のフィニッシュだが、チームが結果が残せなかったことは不満げだ。
ピレネー山岳の続くこれからの4日間はひたすらセーブに徹し、第19ステージのボルドーゴールに望みを託する。
ゴール後、初めてUCIの車両検査の番が回ってきた。例のカンチェラーラの「モーター内蔵メカニックドーピング疑惑」によって始まった自転車のスキャン検査だ。原則ランダム指名ということだが、その日の上位や目立った活躍をした選手が指定されるようだ。
ゴールして間もないユキヤのコルナゴに、UCIの検査官がバイクに目印のリボンを付けていった。それをメカニシャンが速やかに検査に持っていくのだ。
ゴール後に話し込んでいたら、スクープを追って慌てて走るTVカメラマンがコードをユキヤのバイクに引っ掛けて転びそうに。危うく「カメラ付きバイク」で陽性になるところでした。
text&photo:Makoto Ayano
アルプスを終え、最後の決戦の場ピレネー突入を控えた平坦基調のステージ。アンディとコンタドールふたりの総合優勝争い、そして総合上位争いがほぼ形になりつつある今、逃げを得意とする選手やスプリンターにとっての残された数少ないチャンスのあるステージだ。
ポイントとなるのはゴール前7.5kmにあるカテゴリー3級のサン・フェレオル峠。ここでアタックがかかることは必至だ。
ユキヤのラストチャンス?
ボルドーとシャンゼリゼにゴールする第19&21ステージは真平らなコースなので、アップダウンを含む逃げに向いたコースといえば、もうこのステージしかない。つまりは新城幸也(Bboxブイグテレコム)にとって最後にして最大のチャンスともいえるステージだ。
この日の朝、第2チームカーのルーフキャリアにはユキヤのスペアバイク、愛称「必勝号」のコルナゴC59が助手席側にセットされた。素早い交換を可能にするポジションで、チームもユキヤがこの日のアタック候補であると認識していることが分かる。
しかし昨年のステージ優勝者ピエリック・フェドリゴとフランスチャンピオンジャージに身を包むトマ・ヴォクレール(ともにフランス)にとってもチャンスのあるコースプロフィール。逃げを得意とするこの2人のブイグのエースも、まだ勝利を掴んでいないのだ。
そして、山岳賞トップに居るアントニー・シャルトー(フランス)には、ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)がマイヨアポアを奪い返すための闘いを仕掛けてくることは必至。当然ユキヤにはその3人をアシストする役割もある。
そしてゴールスプリントになればセバスチャン・テュルゴー(フランス)とともに狙うことになる。ゴール前の上りで人数が絞られることが予想される今日のスプリントは、ユキヤにとってもチャンスが大きい。
つまりチームに期待される役割は多く、決してフリーな立場ではない。
―「逃げの許可は出ているの?」 集中しているユキヤに聞いてみる。
「逃げはいつでも許可されてはいるんです。今日も同じことです。誰かが逃げに乗ります」
言葉少なに返すが、今日は赤白の日本チャンピオンカラーのオージーケーカブト特製のサングラスをかけ、特別な日を狙っていることが伺える。
エキップ・アサダ時代に今ステージにほど近いトゥールーズにチーム本拠地があったため、この地方のコースなら知っている道も多いと思いきや、山を挟んだ反対側に当たるため、知らない地域なのだとか。
オージーケーカブトといえばこの朝、シャルトーが被るための水玉&ブイグ柄特別ペイントのレジモスヘルメットが日本から到着し、本人に手渡しされた。シャルトーは頭のサイズが大きくてL以上とのことだが、ペイントは市販品以上の仕上がりで、遠い日本のメーカーの素早い対応に感心。もちろん最後までこれを被ることを期待してのグッジョブだ。
スペシャリスト中のスペシャリスト3人の逃げ
ユキヤがいつ逃げても撮影できるように、今日は集団の前をキープして進むことにする。しかしアタックは今日もスタート直後に決まってしまった。
4.5km地点でメイン集団から飛び出したシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)とピエリック・フェドリゴ(フランス、Bboxブイグテレコム)、ピエリック・フェドリゴ(フランス、Bboxブイグテレコム)の3名が飛び出し、差を広げたという情報に、集団を待つことにする。
しかし連日と様子が異なるのは、スタートすぐに上り坂が続いたこと。山岳カテゴリーがつかない丘程度の上りではあるが、アタックを掛けるには騙しがきかない。ここで抜け出せたのは本物のスペシャリストだということ。
3人ともがツールでのステージ経験者という、数は少ないが質の高い3人。それに合流しようとパヴェル・ブラット(ロシア、カチューシャ)がブリッヂをかけて行く。
喘ぎ声をあげながら、激しく息を切らせながら追走するブラットのその様子、息遣いを間近で感じると、序盤のアタック合戦を制するのは決して簡単なことではないことが分かる。
そして逃げが決まってからは差を図りながら集団が追うというお決まりのパターン。タイラー・ファラー(アメリカ)が昨日リタイアしたことで、ガーミン・トランジションズはお役目御免。チームHTC・コロンビアとリクイガスが追走の主な仕事を果たした。
結果的には逃げは成功しなかったが、逃げ続けた3人の強さ。そしてすでに2ステージで逃げ切り勝利を挙げているシャヴァネルの、まだ行ける強さは驚異的だ。まさに「今が選手生活最高の好調のピークにある」という言葉は本物だ。
南にくれど逆に気温が下がり、久々の20℃度台という涼しい気候が続いたこの日。選手たちの負担はいつもより少なく抑えられただろう。
不屈の闘志で真の勝利を手にしたヴィノ
3人の逃げは最終山岳ポイントまでに予定通り引き戻され、勝負は振り出しに。
サン・フェレオル峠でみせたアレッサンドロ・バッラン(イタリア、BMCレーシングチーム)の強烈なアタック。しかしそれに続いたアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)はまさに破壊的なパワーをみせた。
絶好調の状態にあるというヴォクレールの追走も許さず、ゴールまで逃げ続けたのは、かつてのヴィノの走りそのものだった。
そして見せたのは、両手を突き出し、口をくわっと開けて闘志を剥き出しにする迫力のウィニングポーズ。かつて見たポーズと同じものだ。
たった24時間前、ヴィノは苦汁を味わった。昨のステージで逃げを試み、最後の2級山岳クロワ・ヌーヴで独走に持ち込みながらも、後方から追い上げたチームメイトのアルベルト・コンタドール(スペイン、アスタナ)とホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)に追い抜かれ、ステージ3位に終わった。マイヨジョーヌを争うもうひとつの闘いをするチームメイトのコンタドールが優勝のチャンスを潰す結果となり、後味の悪さを残した。
また、ヴィノが2007年ツールで挙げた山岳ステージでの逃げきり勝利と個人タイムトライアルでの2つの勝利は、ドーピングによって記録が抹消されている。公式記録としては、2005年のシャンゼリゼでの勝利以来、5年ぶりのツールでのステージ優勝だ。
その2つの意味で「リベンジ」の勝利と人は呼ぶ。
「ここで勝ったのは、夢が叶ったようなもの。今までの勝利の中でも最高ランクに位置する勝利だ。昨日は勝とうとしたけど、多分ステージが1km長すぎたんだ。
今日、脚の調子が良かったからもう一度トライすることを決めた。最後、脚は疲れていたけど、頭は疲れていなかった。スプリンターたちが後ろから迫ってきていたのは知っていた。だから僕はすべてを出し切った。満足している」。
昨日のステージでコンタドールとの間に確執はないのか? ヴィノは言う「それは彼に聞いてくれ。でも、彼がどれだけ喜んでいるかは見ただろう?」
スプリンターチームの勝利に向けて集団がコントロールされる中、動きがあることは分かっていながらもヴィノのアタックは成功した。
そのアタックが強烈だった様子を、スプリントを制して2位になったカヴェンディッシュがこう話す。
「チームは一日中働き続け、そして最後の丘に僕を完璧に運んでくれた。僕は死にそうなぐらい苦しんでいたが、そこからアタックしたヴィノは本当に本当に速かった。信じられないぐらいに。彼は集団を突き放して勝利をモノにした。本当に印象的な走りだった」。
―「今日がステージ優勝の最後のチャンスだと思っていたか?」との質問に、ヴィノは答える。
「いいや、まだシャンゼリゼもある」。
ヴィノは2005年ツールで、コンコルド広場に入る直前にアタックを決め、シャンゼリゼで独走優勝を挙げているのだ。
ピレネーに入ると別のレースが始まる。コンタドールをアシストするのが当初からの約束だ。もう自分の勝利のためだけのアタックはできない。ヴィノは言う。
「これからはアルベルトとアスタナの勝利のために100パーセントで働く。我々はこれからマイヨジョーヌに集中する。アルベルトは自信たっぷりで、チームはそのゴールに向けてモチベーションたっぷりだ」。
腕にアルカンシェルをつけるバッランのアタックを凌いだことで、世界選手権ロードに興味があるかどうかの質問が飛んだ。アタックがものをいう最高のワンデイ・クラシックである世界選手権ロードは、真にヴィノ向きだ。しかしまだその話は早過ぎるようだ。
「今はアスタナのジャージを着てツール・ド・フランスを走っている。そのこと以外は今考えていない」。
発射台レンショー無しでもカヴの勢い衰えず
マーク・レンショーの失格によりチーム列車の重要な一台を欠く事になったカヴェンディッシュだが、2位争いのスプリントをトップで制した。
カヴは言う。「チームは素晴らしい選手揃いだが、マーク(レンショー)無しでは本当に本当に難しい。マークがいれば僕の(スプリントを始める)ポジションはほとんど保証されたようなもの。彼がいないのは寂しい。ルームメイトとしても」。
ポイント総合では3位に。そしてアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィニ)がトル・フールホフト(ノルウェー、サーヴェロ・テストチーム)を逆転し、マイヨヴェールに。
マイヨヴェール争いはパリまでもつれる
カヴェンディッシュとペタッキがポイントを稼ぐ一方、フースホフトのスプリントは今日も不発。5月の鎖骨骨折のおかげで以前のようなゴールスプリント力はないままだ。フースホフトは先日逃げて稼いだポイントをみすみす失うことになった。マイヨ争いはシャンゼリゼまで続きそうだ。
ペタッキは言う「今日はチームが逃げを捕まえ、最後の上りまで僕をいい位置まで運んでくれた。ヴィノは強すぎたけど僕はポイントを稼いでジャージを取り返すことができた。昨日のように中間スプリントを失わないようにすることが僕に撮っては重要だ。ピレネーはハードだけど、パリまでこのジャージを守りぬく闘いをする自信が僕にはある」。
現在ペタッキは187ポイント、フースホフトは185ポイント、カヴェンディッシュが163ポイントだ。残りステージでゴールスプリントが予想されるのはボルドーとシャンゼリゼゴールの2回。
ピレネー山岳ステージ連戦では、序盤や山岳ポイントの狭間にあるスプリントポイントを稼ぐことも必要になる。昨年のようにフースホフトが山岳で逃げて大量得点を狙うなどということも考えられる。
カヴは言う「中間スプリトはたった6・4・2点にすぎない。そのためにチーム力全部を使うワケにはいかない。僕はトルと同じタイプのライダーじゃないから、山のステージで逃げてポイントを稼ぐなんて無理だ。最後のゴールスプリントに掛けるよ。
遅れたアームストロングは力をセーブしている?
ニュートラルゾーンで落車し、さらに最後の上りで遅れてしまったアームストロング。落車も脱落もかつての王者にとってはイメージダウンだが、もしこれが普通の選手の戦い方と同じなら、力を抜くことで体力を温存し、同時にタイムをさらに失うことで、続くステージで逃げを容認してもらう作戦ともとれる。ステージ一勝をものにしたいアームストロングのしたたかな、しかし王者らしくない戦法?
その意図は明日15ステージで明らかになるだろう。
ユキヤのコルナゴ、スキャン検査を受ける
フェドリゴが逃げたことで自分が逃げるチャンスはなくなり、終盤はヴォクレールのアシストのために上りで力を発揮したユキヤ。しかしヴォクレールは追いつけず、集団スプリントに。いい働きをしての19位のフィニッシュだが、チームが結果が残せなかったことは不満げだ。
ピレネー山岳の続くこれからの4日間はひたすらセーブに徹し、第19ステージのボルドーゴールに望みを託する。
ゴール後、初めてUCIの車両検査の番が回ってきた。例のカンチェラーラの「モーター内蔵メカニックドーピング疑惑」によって始まった自転車のスキャン検査だ。原則ランダム指名ということだが、その日の上位や目立った活躍をした選手が指定されるようだ。
ゴールして間もないユキヤのコルナゴに、UCIの検査官がバイクに目印のリボンを付けていった。それをメカニシャンが速やかに検査に持っていくのだ。
ゴール後に話し込んでいたら、スクープを追って慌てて走るTVカメラマンがコードをユキヤのバイクに引っ掛けて転びそうに。危うく「カメラ付きバイク」で陽性になるところでした。
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