2022/10/18(火) - 18:11
山梨県北西部に広がる八ヶ岳山麓を巡るロングライドイベント「グランフォンドピナレロ八ヶ岳 with GRAVEL Supported by Palatinose」。本場イタリアのグランフォンドを彷彿とさせるダイナミックなコースと景観が魅力のイベントが3年ぶりに開催された。新設されたグラベルフォンドに参加したレポートをお届けしよう。
イタリア語で「長大な旅」を意味するグランフォンド。現地ではロングライドとほぼ同じ意味合いで使われる言葉のようだが、日本においては少し違ったイメージを持つサイクリストも多いのではないだろうか。ロングライド~~と名付けられた大会よりも、グランフォンドと冠された大会の方が山岳メインで、ちょっと難易度が高そうだけど、その分見れる景色と得られる達成感はひとしお。私個人としては、そんな非常にふんわりとしたイメージを持っている。
なぜ、そんなイメージがあるのか。きっとその源流の一つとなるのが、グランフォンドピナレロ八ヶ岳。2008年初開催以来、日本のロングライドシーンを牽引する大会の一つとして、中でも起伏に富んだ日本ならではの地形を生かした山岳ライドのメルクマークとして、多くのサイクリストが参加してきた。シクロワイアードでも、過去に何度か取材を行い、そのダイナミックな地形を生かしたコース設定、日本屈指の避暑地ならではの走りやすさ、そして地域の魅力を活かしたグルメの数々をお伝えしてきた。
そんなグランフォンドピナレロ八ヶ岳は、その名が示す通りイタリアの名門ブランド「ピナレロ」が全面協賛して開催される。イタリアでピナレロが主催する「グランフォンドピナレロ」、その日本版がこのグランフォンドピナレロ八ヶ岳となる。
実際、ピナレロを率いるファウスト・ピナレロをはじめ、セールスマネージャーなど、ピナレロの重鎮がこのイベントには必ず顔を出している。グランフォンドピナレロを名乗るにふさわしいコースであることを実際に自身の脚で確認し、正式にイタリアの本大会と姉妹大会として認定されているのだ。いうなれば、日本に居ながらにして、イタリアのグランフォンドの雰囲気を感じられるのがこのグランフォンドピナレロ八ヶ岳、ということだ。
そんなグランフォンドピナレロ八ヶ岳が、コロナ禍における2年の休止期間を挟み3年ぶりに開催。一足早く秋めく八ヶ岳山麓、清里の森に大会復活を待ち望んでいたサイクリストたちが集まった。
大きくピナレロのブースが展開されたメイン会場には、早朝から多くのサイクリストが行き交う。ピナレロブースでは、オーナー向けに専用ラウンジも用意され、あったかいコーヒーを飲みつつゆったりと準備を行うことも出来たようだ。
3年というブランクを感じさせない大会だが、一方で大きな変更点も用意されている。それが今年初開催となった「グラベルフォンド」の存在だ。グランフォンドのコースをベースとしつつ、八ヶ岳エリアの3つのグラベル区間を追加し、近年盛り上がるグラベルライドを身近に楽しんでもらおうという試みである。
レギュレーションとしては、32mm幅以上のタイヤを履いたバイクであればOKというもので、グラベルバイクでなければNGという縛りも無い。グランフォンドピナレロ八ヶ岳に何度も参加してきたサイクリストであれば、新たに加わったスパイスとしても非常に心惹かれる提案だろう。
ということで、過去に何度か取材を重ねてきたCW編集部もグラベルフォンドへと参加することになったのは自然な成り行き。ただ、このイベントのアップダウンの厳しさも知っており、更にはそこにグラベル区間が追加されることで更に過酷なものとなることが予想されたため、E-MTBを持ち出すことに。とはいえ、かなり長距離のコースであるため、バッテリーが保つかも不安の種である。
スタートを待つ参加者の列も、まずは距離の長いグラベルフォンドが先頭に。ファウスト・ピナレロのイタリア語による挨拶を、ゲストライダーとして呼ばれたはずの今中大介さんが臨時で通訳する(流石!)という一幕を交えつつ、和気あいあいとした雰囲気の中でスタートが切られた。
コースをざっくりと説明すると、清里の森を出たのち、小淵沢方面へ西進。そこから白州を経由し、須玉、明野と一気に下っていく。明野地区がこのイベントの最低標高地点となり、そこから先は一路スタート地点となる清里まで登り続ける。一言で言うと、前半は下り、後半は登り、というコースなので、前半に無駄脚を使うと後半に地獄が待っている、ペーシングが重要なイベントである。
だがしかし、一筋縄ではいかないのがグラベルフォンド。そう、ロードであれば下りもしくは平坦のみの前半区間においてもアップダウンのあるグラベルが出現し、脚を使わされることになるのだ。しかもグラベルは、下りでもなかなか体力を消耗するもの。果たしてどうなってしまうのか。
頭の中で色々と戦略を練りつつ、最初のグラベル区間である「信玄棒道」へと向かっていく。ただ、意外にこのアプローチ区間も意外に脚を使うことに。そう、これまでのコースであった「八ヶ岳高原ライン」が豪雨による影響で封鎖されており、一本南の「泉ライン」を通ることになったのだ。
JR小海線沿いに作られた泉ラインは、高低差も少ないワインディングロードで、オンロードバイクであれば森林浴を楽しみながらの爽快なライドを楽しめる。だが、今回日和った私がチョイスしたのはフルサスE-MTB。20km/hを超えてくるあたりではアシストの恩恵もほぼ無く、ゴウゴウとブロックタイヤを鳴らして走り続ける。
無心で踏み続けた先にお待ちかねの第一グラベル区間「信玄棒道」が登場だ。信玄棒道とは戦国時代に武田信玄が開発した軍用道路で、甲斐と信濃の国境へアクセスを良くするために整備されたものだという。「棒」のように真っすぐなルートを切り開くことで、効率的な輸送を可能としたのだ。
時代が時代であれば多くの軍馬が駆け抜けた信玄棒道へ、今日は次々にグラベルライダーが入っていく。モトのことを「鉄馬」と呼ぶ方もいるが、この日の主役は鉄、アルミ、チタン、そして炭素繊維と様々な馬に乗ったもののふたち。
入り口からしばらくは走りやすいダブルトラックが続いていく。ちなみに、早速登りである。ただでさえ過酷な未舗装路を走るのだから、コース設定は楽になってもよさそうなものなのだが、オンロードカテゴリーより、距離も長く、そして登る。
なぜそうなるのかわからないのだが、エンデュランス系のオフロードカテゴリーはこうなりがちで、例えばランニングの世界でもトレイルランの方が長い距離・時間を走るイベントが目立つ。まあ、大体オンロードに飽きた人間が流れ着く最果ての地、ということなのかもしれないのだが、それにしたって刺激を求めすぎではないだろうか?
そんなこといってE-MTBで楽してるくせに、なんて声も聞こえてきそうだが、滅相も無い。100km、獲得標高2,000m超のライドなのでアシストモードは常に最も低いECOモード縛り。フルサス、E-BIKEという重量増をカバーして、すこしお釣りがあるかな?というくらいのアシスト感であり、そこまでノーマルバイクと変わらない。まあ、まったり走る分には良いのだが、写真を撮って、追い着く、なんて動きをしているとあっという間に脚はパンパンだ。
ヒーヒー言いつつ走っていくと、何やら渋滞が起きている。なんだろうと思っていると、「担ぎ区間です!」とスタッフさん。思わず「聞いてねえぇーーー!!」と叫びたくなるのをグッとこらえ、「聞いてないんですけど……マジですか」と真顔で尋ねてしまった。
「マジです」と指さす先には、ごつごつした小川の岩場をバランスを取りつつ渡っていく皆さんの姿が。ちょっとどう見ても乗っていける感じではない。私にダニー・マカスキル並みのテクニックがあればいけるかもしれないが、あいにく私はただの一般サイクリスト。E-MTBで来たことを後悔しつつ、よっこらせっと、バイクを担ぎ何とかクリア。
さて、この先も同じようなダブルトラックが続いていく……と思いきやさにあらず。信玄棒道はその様相を一気に変え、草が生い茂る踏み跡を辿るようなシングルトラック区間へ変貌した。少し前に降った雨の影響だろうか、土の路面はハーフウェットで、細めのグラベルタイヤは刺さりやすそうなコンディション。
ところどころには倒木をくぐったり、小さなドロップオフがあったり、ちょっとしたロックセクションも出てきたりと、一気に増すトレイル感にテンションもマックスである。「最高なんですけどぉ!?」と、先ほどの担ぎ区間での恨み言はどこへやら、コース設定者への賛辞を叫びつつ下りを満喫。
ちなみにこれ、2.6インチのエンデューロタイヤを履いたフルサスバイクに乗っているからの余裕であって、32Cのセンタースリックグラベルタイヤを履いたグラベルバイクで同じ感想を保証するものではありませんので悪しからず……。
その後、ゴルフ場の脇のトレイルを駆け抜けたら、第1エイドの「道の駅 こぶちざわ」は目と鼻の先。先に出発したグラベルフォンドの参加者だが、このエイドにはグランフォンドの参加者が既に沢山。ちなみにどちらに参加しているのかは、尋ねるまでもない。足元を見て、草や泥に塗れていればグラベルフォンドの参加者である。奇妙な連帯感を感じつつ、再度コースへ向かうのだった。
text&photo:Naoki Yasuoka
イタリア語で「長大な旅」を意味するグランフォンド。現地ではロングライドとほぼ同じ意味合いで使われる言葉のようだが、日本においては少し違ったイメージを持つサイクリストも多いのではないだろうか。ロングライド~~と名付けられた大会よりも、グランフォンドと冠された大会の方が山岳メインで、ちょっと難易度が高そうだけど、その分見れる景色と得られる達成感はひとしお。私個人としては、そんな非常にふんわりとしたイメージを持っている。
なぜ、そんなイメージがあるのか。きっとその源流の一つとなるのが、グランフォンドピナレロ八ヶ岳。2008年初開催以来、日本のロングライドシーンを牽引する大会の一つとして、中でも起伏に富んだ日本ならではの地形を生かした山岳ライドのメルクマークとして、多くのサイクリストが参加してきた。シクロワイアードでも、過去に何度か取材を行い、そのダイナミックな地形を生かしたコース設定、日本屈指の避暑地ならではの走りやすさ、そして地域の魅力を活かしたグルメの数々をお伝えしてきた。
そんなグランフォンドピナレロ八ヶ岳は、その名が示す通りイタリアの名門ブランド「ピナレロ」が全面協賛して開催される。イタリアでピナレロが主催する「グランフォンドピナレロ」、その日本版がこのグランフォンドピナレロ八ヶ岳となる。
実際、ピナレロを率いるファウスト・ピナレロをはじめ、セールスマネージャーなど、ピナレロの重鎮がこのイベントには必ず顔を出している。グランフォンドピナレロを名乗るにふさわしいコースであることを実際に自身の脚で確認し、正式にイタリアの本大会と姉妹大会として認定されているのだ。いうなれば、日本に居ながらにして、イタリアのグランフォンドの雰囲気を感じられるのがこのグランフォンドピナレロ八ヶ岳、ということだ。
そんなグランフォンドピナレロ八ヶ岳が、コロナ禍における2年の休止期間を挟み3年ぶりに開催。一足早く秋めく八ヶ岳山麓、清里の森に大会復活を待ち望んでいたサイクリストたちが集まった。
大きくピナレロのブースが展開されたメイン会場には、早朝から多くのサイクリストが行き交う。ピナレロブースでは、オーナー向けに専用ラウンジも用意され、あったかいコーヒーを飲みつつゆったりと準備を行うことも出来たようだ。
3年というブランクを感じさせない大会だが、一方で大きな変更点も用意されている。それが今年初開催となった「グラベルフォンド」の存在だ。グランフォンドのコースをベースとしつつ、八ヶ岳エリアの3つのグラベル区間を追加し、近年盛り上がるグラベルライドを身近に楽しんでもらおうという試みである。
レギュレーションとしては、32mm幅以上のタイヤを履いたバイクであればOKというもので、グラベルバイクでなければNGという縛りも無い。グランフォンドピナレロ八ヶ岳に何度も参加してきたサイクリストであれば、新たに加わったスパイスとしても非常に心惹かれる提案だろう。
ということで、過去に何度か取材を重ねてきたCW編集部もグラベルフォンドへと参加することになったのは自然な成り行き。ただ、このイベントのアップダウンの厳しさも知っており、更にはそこにグラベル区間が追加されることで更に過酷なものとなることが予想されたため、E-MTBを持ち出すことに。とはいえ、かなり長距離のコースであるため、バッテリーが保つかも不安の種である。
スタートを待つ参加者の列も、まずは距離の長いグラベルフォンドが先頭に。ファウスト・ピナレロのイタリア語による挨拶を、ゲストライダーとして呼ばれたはずの今中大介さんが臨時で通訳する(流石!)という一幕を交えつつ、和気あいあいとした雰囲気の中でスタートが切られた。
コースをざっくりと説明すると、清里の森を出たのち、小淵沢方面へ西進。そこから白州を経由し、須玉、明野と一気に下っていく。明野地区がこのイベントの最低標高地点となり、そこから先は一路スタート地点となる清里まで登り続ける。一言で言うと、前半は下り、後半は登り、というコースなので、前半に無駄脚を使うと後半に地獄が待っている、ペーシングが重要なイベントである。
だがしかし、一筋縄ではいかないのがグラベルフォンド。そう、ロードであれば下りもしくは平坦のみの前半区間においてもアップダウンのあるグラベルが出現し、脚を使わされることになるのだ。しかもグラベルは、下りでもなかなか体力を消耗するもの。果たしてどうなってしまうのか。
頭の中で色々と戦略を練りつつ、最初のグラベル区間である「信玄棒道」へと向かっていく。ただ、意外にこのアプローチ区間も意外に脚を使うことに。そう、これまでのコースであった「八ヶ岳高原ライン」が豪雨による影響で封鎖されており、一本南の「泉ライン」を通ることになったのだ。
JR小海線沿いに作られた泉ラインは、高低差も少ないワインディングロードで、オンロードバイクであれば森林浴を楽しみながらの爽快なライドを楽しめる。だが、今回日和った私がチョイスしたのはフルサスE-MTB。20km/hを超えてくるあたりではアシストの恩恵もほぼ無く、ゴウゴウとブロックタイヤを鳴らして走り続ける。
無心で踏み続けた先にお待ちかねの第一グラベル区間「信玄棒道」が登場だ。信玄棒道とは戦国時代に武田信玄が開発した軍用道路で、甲斐と信濃の国境へアクセスを良くするために整備されたものだという。「棒」のように真っすぐなルートを切り開くことで、効率的な輸送を可能としたのだ。
時代が時代であれば多くの軍馬が駆け抜けた信玄棒道へ、今日は次々にグラベルライダーが入っていく。モトのことを「鉄馬」と呼ぶ方もいるが、この日の主役は鉄、アルミ、チタン、そして炭素繊維と様々な馬に乗ったもののふたち。
入り口からしばらくは走りやすいダブルトラックが続いていく。ちなみに、早速登りである。ただでさえ過酷な未舗装路を走るのだから、コース設定は楽になってもよさそうなものなのだが、オンロードカテゴリーより、距離も長く、そして登る。
なぜそうなるのかわからないのだが、エンデュランス系のオフロードカテゴリーはこうなりがちで、例えばランニングの世界でもトレイルランの方が長い距離・時間を走るイベントが目立つ。まあ、大体オンロードに飽きた人間が流れ着く最果ての地、ということなのかもしれないのだが、それにしたって刺激を求めすぎではないだろうか?
そんなこといってE-MTBで楽してるくせに、なんて声も聞こえてきそうだが、滅相も無い。100km、獲得標高2,000m超のライドなのでアシストモードは常に最も低いECOモード縛り。フルサス、E-BIKEという重量増をカバーして、すこしお釣りがあるかな?というくらいのアシスト感であり、そこまでノーマルバイクと変わらない。まあ、まったり走る分には良いのだが、写真を撮って、追い着く、なんて動きをしているとあっという間に脚はパンパンだ。
ヒーヒー言いつつ走っていくと、何やら渋滞が起きている。なんだろうと思っていると、「担ぎ区間です!」とスタッフさん。思わず「聞いてねえぇーーー!!」と叫びたくなるのをグッとこらえ、「聞いてないんですけど……マジですか」と真顔で尋ねてしまった。
「マジです」と指さす先には、ごつごつした小川の岩場をバランスを取りつつ渡っていく皆さんの姿が。ちょっとどう見ても乗っていける感じではない。私にダニー・マカスキル並みのテクニックがあればいけるかもしれないが、あいにく私はただの一般サイクリスト。E-MTBで来たことを後悔しつつ、よっこらせっと、バイクを担ぎ何とかクリア。
さて、この先も同じようなダブルトラックが続いていく……と思いきやさにあらず。信玄棒道はその様相を一気に変え、草が生い茂る踏み跡を辿るようなシングルトラック区間へ変貌した。少し前に降った雨の影響だろうか、土の路面はハーフウェットで、細めのグラベルタイヤは刺さりやすそうなコンディション。
ところどころには倒木をくぐったり、小さなドロップオフがあったり、ちょっとしたロックセクションも出てきたりと、一気に増すトレイル感にテンションもマックスである。「最高なんですけどぉ!?」と、先ほどの担ぎ区間での恨み言はどこへやら、コース設定者への賛辞を叫びつつ下りを満喫。
ちなみにこれ、2.6インチのエンデューロタイヤを履いたフルサスバイクに乗っているからの余裕であって、32Cのセンタースリックグラベルタイヤを履いたグラベルバイクで同じ感想を保証するものではありませんので悪しからず……。
その後、ゴルフ場の脇のトレイルを駆け抜けたら、第1エイドの「道の駅 こぶちざわ」は目と鼻の先。先に出発したグラベルフォンドの参加者だが、このエイドにはグランフォンドの参加者が既に沢山。ちなみにどちらに参加しているのかは、尋ねるまでもない。足元を見て、草や泥に塗れていればグラベルフォンドの参加者である。奇妙な連帯感を感じつつ、再度コースへ向かうのだった。
text&photo:Naoki Yasuoka
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