2010/07/07(水) - 20:00
「パヴェでツールには勝てないが、ツールを失うことはある」その言葉通り、トラブルが優勝候補たちの明暗を分けた。そしてユキヤは心配をよそに無傷でパヴェを乗り切った。
・「名探偵コナン」の漫画家 青山剛昌さんがユキヤを訪問
ブイグテレコムのチームバスにある訪問者があった。アニメ「名探偵コナン」の作者である漫画家・青山剛昌さんとその一行だ。
ユイ郊外の街ワンゼのスタート地点にユキヤの激励に駆けつけた青山さんと関係者の皆さん。朝のチームミーティングが行われているバスの前で待ち、ユキヤが現われると感激の対面を果たした。
青山さんはレキップ紙のカメラマンの求めに応じてペンをとり、紙にすらすらとコナンを描くとユキヤと一緒にカメラに収まった。
名探偵コナンはアニメ・漫画とも世界各国で親しまれている。フランスでも翻訳され、パリを中心に人気が高く、じつに100万部を売り上げる人気を誇るそうだ。
フランスにもマンガにあたるものはあるが、コナンはじめ日本の漫画だけは「MANGA」として独自のジャンルとして認識されているそうだ。レキップ紙とASOもそのことを十分知っており、作者の訪問とあって特別待遇だったようだ。
青山さんにはこれから自転車レースをテーマにした漫画を描いてくれることを期待してしまうが、アシスタントさんによれば、自転車は描きたくても線の複雑さが作品作りを躊躇する要因になっているのだとか。
青山さん一行はこれから数日ツールを追いかけて観戦することのことだ。
・ユキヤの予想がずばり的中
手首にサポートのためのバンデージを巻き、パヴェの振動に備えるユキヤ。Bboxブイグテレコムのパヴェへの準備は、ツール前まで使用していたチームバイクのコルナゴEPSをパヴェ仕様にしたこと。タイヤを太めのチューブラーに替え、アルミホイールを使う。前半の舗装路が長いので、走りが重くなる極端なパヴェ対策バイクは不要とのことだ。
ユキヤはツール開幕前にパヴェの試走を済ませているが、そのときは手のひらに血豆をつくっていた。試走の感想は
「かなり本格的なパヴェ。ちょっと走っただけでこうなった(手のひらから血が出た)。手強いです。そこで何も起こらないわけがない。優勝候補はウショフ(フースホフトのフランス語流の発音)でしょう、絶対。ウショフのためのレースみたいなものです」と話していた。結果的には予想的中!
この日はどう走りますか? の答えは「前で走ります。集団のずっと前でパヴェに入りたい!」。
・パヴェ対策とマイヨジョーヌ&アポアカラーのバイク
シルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)は半分がイエロー、半分がグリーンにペイントされたエディメルクスのバイクで現れた。そして山岳賞のジェローム・ピノーは赤い水玉模様のバイクだ。
最新型にクラシックなホイールの組み合わせはなんとも奇妙だが、それが各チームの今日の装備。タイヤはいずれも太めのチューブラーが選ばれる。北のクラシックを得意とするチームはアルミリムを使った手組みのノーマルスポークホイールが多数派だ。しかしパリ~ルーベほど特殊な機材は見当たらない。サクソバンクやチームスカイなど、むしろパヴェ専用のスペシャルバイクを用意しているチームが目立つ存在だ。
第2ステージに続いて北のクラシックのコースが取り入れられた今回のツール。落車やパンクのトラブルが予想され、ツールの優勝候補たちが早い段階でタイムを失うことについての批判もあった。
コースディレクターのジャン=フランソワ・ペシューさんは言う。
「スペイン人はこのステージを嫌うでしょう。山岳でツールに勝つ選手は何人かいる。タイムトライアルで勝つ選手もいる。だからパヴェで勝つ選手がいてもいいのではないかと考えます。
山岳のないツールを想像できますか? 山岳の下りは非常に危険なもの。でも山を80 km/hで下っても誰も文句は言わないでしょう。サイクリングはそのように危険を伴うもの。そういうスポーツなのです。
パヴェを嫌う選手は山岳が好きな選手です。もしくは山岳が嫌いなスプリンターです。山岳のない大通りフィニッシュだけのツールなんて。パヴェだって同じです。現代のツールはどこだって走るんです」。
・フースホフトのリベンジウィン
近年、パリ~ルーベでの勝利の間近かにいながらも優勝だけは逃してきたフースホフトにとって、このステージの勝利は格別なものだ。そして昨日のステージでは、選手たちのストライキによる自主ニュートラリゼーションにスプリントのチャンスを阻まれた。この勝利はそのことで抱いたフラストレーションを解消するには十分な勝利だ。
フースホフトは言う
「今日は僕にとってパーフェクトだった。いい走りをするモチベーションは高かった。石畳とパリ~ルーベが好きだから、今日は感慨深い一日だ。
このステージのことはずいぶん前から狙いを定めていた。そして勝てて本当に嬉しい。まして昨日のような(ストライキのあった)ステージの後には。
今朝、もう昨日のことは忘れていた。過ぎたことだ。今日に集中して勝てた。(マイヨヴェールを着たことで)今日がこの(ノルウェーチャンピオンの)ジャージを着る最後の日になったらいい。もちろんそのジャージのことは誇りに思っているけれどね。
・フランクを失ったがアンディのリードに成功したサクソバンク
この日、逃げグループを除いて集団のパヴェの走りを先導したのは経験豊富なサクソバンクだった。
レースが決まったのはフランク・シュレク(サクソバンク)の落車があった第4セクターのパヴェだった。フランクの落車で分裂した集団は、弟アンディ・シュレクとファビアン・カンチェラーラを前のグループに送り込むことに成功した。カンチェラーラとアンディは倒れたフランクを待たず、リードを広げた。
カンチェラーラは得意のパヴェで勝利することではなく、アンディ・シュレクの総合のために走った。コンタドールとアームストロングの2人のライバルを引き離すことに成功したことで、タイム差をより開くために先頭集団を徹底的に引いた。同集団にいたカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)とはその点で利害が一致していた。フースホフトに勝利をさらわれることは承知のうえの走りだ。
ゴールしたカンチェラーラは言う
「いろんな感情が混じり合っている。サクソバンクにとってすごい一日だった。しかし我々はフランクを失った」。
再びマイヨジョーヌを取り返したことよりも、アンディのリードを築けたこと、フランクがリタイアしたことのほうが強烈だ。
・フランクの落車が火をつけた
フランク・シュレクの落車リタイア。2008年度総合4位、昨年度総合5位のツールの主役のひとりがレースを去ることになった。フランクは病院での自身の写真をtwitterで公開している。
ビャルヌ・リース監督は言う。
「チームは今日すごかった。ファビアンとアンディの走りは素晴らしかった。彼らの走りには満足している。彼らは強かった。
フランクは今病院にいる。彼は大丈夫だ。鎖骨を折っている。落車があったとき、私はすぐにフランクのもとに駆け寄ったが、彼はただ私の手をとって握り返すことしかできなかった。私たちは言葉も交わさなかった。私はすぐチームカーに戻って、マイクでフランクがレースを去ることを残った皆に伝えた。
『これから残りのレースをするぞ。フランクのために走るんだ』と言ったんだ。こんな事態のときこそ、素早く決断して次へのことに向けて集中しなければいけない」。
カンチェラーラは言う。
「彼のクラッシュを聞いたとき、アンディには『振り返るな、前を目指そう』と言った。コンタドールとアームストロングとのタイム差を開くチャンスだった。だからそうしたんだ。カデル(エヴァンス)も同じだった。今日は待つべき時じゃなかった。これもゲームの一部だ、ソーリー」。
フランクとアンディの兄弟はふたりでひとつ。ともに山岳スペシャリストで、同じ局面で闘える似たキャラクター。アンディにとっては、これからの山岳での対コンタドールの闘いにおける重要なアシストを無くしたことになる。そしてなにより心の支えが欠けた損失は大きい。
・ホイールトラブルを抱えていたコンタドール
ヴィノクロフの引く集団のペースアップについていけなかったコンタドールは、アンディとエヴァンスらに対して1分13秒失った。総合ではアンディに対しては1分1秒、エヴァンスに対しては31秒遅れの6位に付けることになった。今後の山岳が控えることを考えれば、その差は大きくはない。
コンタドールはレース後にホイールに問題を抱えていたことを明らかにしている。スポークが折れたことで大きな横振れを引き起こし、リムがブレーキシューに当たったまま走っていたという。
「ホイールがタイトで、ダンシングしてスピードを上げることができなかったんだ。でも自転車を交換するよりも走り続けることを選んだ。もし自転車交換していたらもっとタイムを失うことが分かっていたから。
「クラッシュしなかっただけでいい一日だった。あれこれ分析するにはまだ早い。ランスが後ろにいたか前にいたかは重要じゃないよ」。
マネジャーのイヴォン・サンケール氏は言う。
「今日の結果には満足している。ホイールトラブルだけで済んだのだから。少しタイムを失ったとはいえ、他のライバルたちにはタイム差を開くことができた。石畳の試練を経て、コンタドールは前以上にリラックスしている。リラックスしているが、同時に集中している。我々はアルベルトが最高のコンディションでいられるように手を尽しているが、それがうまくいっている。
ヴィノクロフは素晴らしい働きをしたし、そのことでチームは安らかな気持ちでいられ、さらにモチベーションを高めてくれる。凄いことができそうだ。
コンタドールもサンケール監督も、コンタドールがゴールで見せた<ヴィノへの>不満のゼスチャーについては触れることがなかった。そう見えたのは思い過ごしだろうか?
・タイム差を得たエヴァンス、失ったアームストロング
アンディとともにタイム差を稼ぐことに成功したエヴァンス。最後はステージ優勝を狙わず、差を開くために逃げ集団を引くことを選んだ。エヴァンスは言う。
「総合狙いの選手としてはここでタイムを失わずに通過できることだけを願っていた。僕は本当にパヴェが得意じゃない。20秒はピレネー山岳のことを考えると大きな意味を持たないけど、少しのタイムでも無いよりはましだね。
一方、今日最大の負けはアームストロングだろう。一時はコンタドールを引き離すことに成功していながら、パンクによって遅れてしまった。山岳ステージではコンタドールに敵わないことを公言しているアームストロングにとって、パヴェはタイム差をつけておく絶好の機会だった。
アームストロングは言う。
「斧にもなれば爪にもなる。今日の僕は爪だった。今まで僕はたくさん斧になってきたけど...。でも文句は言うまい。今日の僕は運が悪かったんだ。誰もがクライマーがタイム差を失うだろうと思っていた。でも彼らは前にいた。
集団の前にいる苦労は計り知れないよ。アンディにはすごいチームがあった。嘘は言えないね、僕は限界だった。練習のときとはずいぶん違っていた」。
・無傷でゴールしたユキヤ 身体のアチコチが痛む
第6グループ、2分25秒遅れの72位でゴールしたユキヤ。落車もなく、無事難関のパヴェを乗りきった。もちろんパリ~ルーベもまだ経験していないユキヤにとっては、十分以上の順位と言えるだろう。
「思ったより平気でした! でも、明日が楽しみです。きっと身体のいろんなところが痛いはずです。手とか脚とかだけじゃなく、アチコチが痛むでしょうね!」
ひとまずツール前半の難関ステージを無傷で乗り切った。これからの逃げのステージがくることが楽しみだ。
ユキヤが気になるのは第5ステージ。コースプロフィールというよりも、ジロで逃げを成功させたのと同じ『第5ステージ』の響きに縁起の良さを感じているとのことだ。本気かどうかはともかく、見たところ調子も良さそうで、期待させてくれる。
text:Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO,Kei.TSUJI,
・「名探偵コナン」の漫画家 青山剛昌さんがユキヤを訪問
ブイグテレコムのチームバスにある訪問者があった。アニメ「名探偵コナン」の作者である漫画家・青山剛昌さんとその一行だ。
ユイ郊外の街ワンゼのスタート地点にユキヤの激励に駆けつけた青山さんと関係者の皆さん。朝のチームミーティングが行われているバスの前で待ち、ユキヤが現われると感激の対面を果たした。
青山さんはレキップ紙のカメラマンの求めに応じてペンをとり、紙にすらすらとコナンを描くとユキヤと一緒にカメラに収まった。
名探偵コナンはアニメ・漫画とも世界各国で親しまれている。フランスでも翻訳され、パリを中心に人気が高く、じつに100万部を売り上げる人気を誇るそうだ。
フランスにもマンガにあたるものはあるが、コナンはじめ日本の漫画だけは「MANGA」として独自のジャンルとして認識されているそうだ。レキップ紙とASOもそのことを十分知っており、作者の訪問とあって特別待遇だったようだ。
青山さんにはこれから自転車レースをテーマにした漫画を描いてくれることを期待してしまうが、アシスタントさんによれば、自転車は描きたくても線の複雑さが作品作りを躊躇する要因になっているのだとか。
青山さん一行はこれから数日ツールを追いかけて観戦することのことだ。
・ユキヤの予想がずばり的中
手首にサポートのためのバンデージを巻き、パヴェの振動に備えるユキヤ。Bboxブイグテレコムのパヴェへの準備は、ツール前まで使用していたチームバイクのコルナゴEPSをパヴェ仕様にしたこと。タイヤを太めのチューブラーに替え、アルミホイールを使う。前半の舗装路が長いので、走りが重くなる極端なパヴェ対策バイクは不要とのことだ。
ユキヤはツール開幕前にパヴェの試走を済ませているが、そのときは手のひらに血豆をつくっていた。試走の感想は
「かなり本格的なパヴェ。ちょっと走っただけでこうなった(手のひらから血が出た)。手強いです。そこで何も起こらないわけがない。優勝候補はウショフ(フースホフトのフランス語流の発音)でしょう、絶対。ウショフのためのレースみたいなものです」と話していた。結果的には予想的中!
この日はどう走りますか? の答えは「前で走ります。集団のずっと前でパヴェに入りたい!」。
・パヴェ対策とマイヨジョーヌ&アポアカラーのバイク
シルヴァン・シャヴァネル(クイックステップ)は半分がイエロー、半分がグリーンにペイントされたエディメルクスのバイクで現れた。そして山岳賞のジェローム・ピノーは赤い水玉模様のバイクだ。
最新型にクラシックなホイールの組み合わせはなんとも奇妙だが、それが各チームの今日の装備。タイヤはいずれも太めのチューブラーが選ばれる。北のクラシックを得意とするチームはアルミリムを使った手組みのノーマルスポークホイールが多数派だ。しかしパリ~ルーベほど特殊な機材は見当たらない。サクソバンクやチームスカイなど、むしろパヴェ専用のスペシャルバイクを用意しているチームが目立つ存在だ。
第2ステージに続いて北のクラシックのコースが取り入れられた今回のツール。落車やパンクのトラブルが予想され、ツールの優勝候補たちが早い段階でタイムを失うことについての批判もあった。
コースディレクターのジャン=フランソワ・ペシューさんは言う。
「スペイン人はこのステージを嫌うでしょう。山岳でツールに勝つ選手は何人かいる。タイムトライアルで勝つ選手もいる。だからパヴェで勝つ選手がいてもいいのではないかと考えます。
山岳のないツールを想像できますか? 山岳の下りは非常に危険なもの。でも山を80 km/hで下っても誰も文句は言わないでしょう。サイクリングはそのように危険を伴うもの。そういうスポーツなのです。
パヴェを嫌う選手は山岳が好きな選手です。もしくは山岳が嫌いなスプリンターです。山岳のない大通りフィニッシュだけのツールなんて。パヴェだって同じです。現代のツールはどこだって走るんです」。
・フースホフトのリベンジウィン
近年、パリ~ルーベでの勝利の間近かにいながらも優勝だけは逃してきたフースホフトにとって、このステージの勝利は格別なものだ。そして昨日のステージでは、選手たちのストライキによる自主ニュートラリゼーションにスプリントのチャンスを阻まれた。この勝利はそのことで抱いたフラストレーションを解消するには十分な勝利だ。
フースホフトは言う
「今日は僕にとってパーフェクトだった。いい走りをするモチベーションは高かった。石畳とパリ~ルーベが好きだから、今日は感慨深い一日だ。
このステージのことはずいぶん前から狙いを定めていた。そして勝てて本当に嬉しい。まして昨日のような(ストライキのあった)ステージの後には。
今朝、もう昨日のことは忘れていた。過ぎたことだ。今日に集中して勝てた。(マイヨヴェールを着たことで)今日がこの(ノルウェーチャンピオンの)ジャージを着る最後の日になったらいい。もちろんそのジャージのことは誇りに思っているけれどね。
・フランクを失ったがアンディのリードに成功したサクソバンク
この日、逃げグループを除いて集団のパヴェの走りを先導したのは経験豊富なサクソバンクだった。
レースが決まったのはフランク・シュレク(サクソバンク)の落車があった第4セクターのパヴェだった。フランクの落車で分裂した集団は、弟アンディ・シュレクとファビアン・カンチェラーラを前のグループに送り込むことに成功した。カンチェラーラとアンディは倒れたフランクを待たず、リードを広げた。
カンチェラーラは得意のパヴェで勝利することではなく、アンディ・シュレクの総合のために走った。コンタドールとアームストロングの2人のライバルを引き離すことに成功したことで、タイム差をより開くために先頭集団を徹底的に引いた。同集団にいたカデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)とはその点で利害が一致していた。フースホフトに勝利をさらわれることは承知のうえの走りだ。
ゴールしたカンチェラーラは言う
「いろんな感情が混じり合っている。サクソバンクにとってすごい一日だった。しかし我々はフランクを失った」。
再びマイヨジョーヌを取り返したことよりも、アンディのリードを築けたこと、フランクがリタイアしたことのほうが強烈だ。
・フランクの落車が火をつけた
フランク・シュレクの落車リタイア。2008年度総合4位、昨年度総合5位のツールの主役のひとりがレースを去ることになった。フランクは病院での自身の写真をtwitterで公開している。
ビャルヌ・リース監督は言う。
「チームは今日すごかった。ファビアンとアンディの走りは素晴らしかった。彼らの走りには満足している。彼らは強かった。
フランクは今病院にいる。彼は大丈夫だ。鎖骨を折っている。落車があったとき、私はすぐにフランクのもとに駆け寄ったが、彼はただ私の手をとって握り返すことしかできなかった。私たちは言葉も交わさなかった。私はすぐチームカーに戻って、マイクでフランクがレースを去ることを残った皆に伝えた。
『これから残りのレースをするぞ。フランクのために走るんだ』と言ったんだ。こんな事態のときこそ、素早く決断して次へのことに向けて集中しなければいけない」。
カンチェラーラは言う。
「彼のクラッシュを聞いたとき、アンディには『振り返るな、前を目指そう』と言った。コンタドールとアームストロングとのタイム差を開くチャンスだった。だからそうしたんだ。カデル(エヴァンス)も同じだった。今日は待つべき時じゃなかった。これもゲームの一部だ、ソーリー」。
フランクとアンディの兄弟はふたりでひとつ。ともに山岳スペシャリストで、同じ局面で闘える似たキャラクター。アンディにとっては、これからの山岳での対コンタドールの闘いにおける重要なアシストを無くしたことになる。そしてなにより心の支えが欠けた損失は大きい。
・ホイールトラブルを抱えていたコンタドール
ヴィノクロフの引く集団のペースアップについていけなかったコンタドールは、アンディとエヴァンスらに対して1分13秒失った。総合ではアンディに対しては1分1秒、エヴァンスに対しては31秒遅れの6位に付けることになった。今後の山岳が控えることを考えれば、その差は大きくはない。
コンタドールはレース後にホイールに問題を抱えていたことを明らかにしている。スポークが折れたことで大きな横振れを引き起こし、リムがブレーキシューに当たったまま走っていたという。
「ホイールがタイトで、ダンシングしてスピードを上げることができなかったんだ。でも自転車を交換するよりも走り続けることを選んだ。もし自転車交換していたらもっとタイムを失うことが分かっていたから。
「クラッシュしなかっただけでいい一日だった。あれこれ分析するにはまだ早い。ランスが後ろにいたか前にいたかは重要じゃないよ」。
マネジャーのイヴォン・サンケール氏は言う。
「今日の結果には満足している。ホイールトラブルだけで済んだのだから。少しタイムを失ったとはいえ、他のライバルたちにはタイム差を開くことができた。石畳の試練を経て、コンタドールは前以上にリラックスしている。リラックスしているが、同時に集中している。我々はアルベルトが最高のコンディションでいられるように手を尽しているが、それがうまくいっている。
ヴィノクロフは素晴らしい働きをしたし、そのことでチームは安らかな気持ちでいられ、さらにモチベーションを高めてくれる。凄いことができそうだ。
コンタドールもサンケール監督も、コンタドールがゴールで見せた<ヴィノへの>不満のゼスチャーについては触れることがなかった。そう見えたのは思い過ごしだろうか?
・タイム差を得たエヴァンス、失ったアームストロング
アンディとともにタイム差を稼ぐことに成功したエヴァンス。最後はステージ優勝を狙わず、差を開くために逃げ集団を引くことを選んだ。エヴァンスは言う。
「総合狙いの選手としてはここでタイムを失わずに通過できることだけを願っていた。僕は本当にパヴェが得意じゃない。20秒はピレネー山岳のことを考えると大きな意味を持たないけど、少しのタイムでも無いよりはましだね。
一方、今日最大の負けはアームストロングだろう。一時はコンタドールを引き離すことに成功していながら、パンクによって遅れてしまった。山岳ステージではコンタドールに敵わないことを公言しているアームストロングにとって、パヴェはタイム差をつけておく絶好の機会だった。
アームストロングは言う。
「斧にもなれば爪にもなる。今日の僕は爪だった。今まで僕はたくさん斧になってきたけど...。でも文句は言うまい。今日の僕は運が悪かったんだ。誰もがクライマーがタイム差を失うだろうと思っていた。でも彼らは前にいた。
集団の前にいる苦労は計り知れないよ。アンディにはすごいチームがあった。嘘は言えないね、僕は限界だった。練習のときとはずいぶん違っていた」。
・無傷でゴールしたユキヤ 身体のアチコチが痛む
第6グループ、2分25秒遅れの72位でゴールしたユキヤ。落車もなく、無事難関のパヴェを乗りきった。もちろんパリ~ルーベもまだ経験していないユキヤにとっては、十分以上の順位と言えるだろう。
「思ったより平気でした! でも、明日が楽しみです。きっと身体のいろんなところが痛いはずです。手とか脚とかだけじゃなく、アチコチが痛むでしょうね!」
ひとまずツール前半の難関ステージを無傷で乗り切った。これからの逃げのステージがくることが楽しみだ。
ユキヤが気になるのは第5ステージ。コースプロフィールというよりも、ジロで逃げを成功させたのと同じ『第5ステージ』の響きに縁起の良さを感じているとのことだ。本気かどうかはともかく、見たところ調子も良さそうで、期待させてくれる。
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