プロローグのおしめりが通り雨だったかのようにロッテルダムは再び快晴に恵まれた。ここのところの暑さはとても「北」とは思えないほど。グランデパールはやはり晴れていないとツールに似合わない。

今日は最初のロードステージにして223.5kmという長丁場。スタートに集まったチームのスタッフたちが少し慌しく準備を整える。

ガーミンのバスにはタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)の勇姿が特大でガーミンのバスにはタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・トランジションズ)の勇姿が特大で photo:Makoto Ayanoエロス・カペッキ(イタリア、フットオン・セルヴェット)のバイクはゴールド仕様エロス・カペッキ(イタリア、フットオン・セルヴェット)のバイクはゴールド仕様 photo:Makoto Ayano

前日落車し未出走となったマヌエル・カルドソ(ポルトガル、フットオン・セルヴェット)のゼッケンを持ち帰るチームスタッフ。カルドソは、頭部を9針縫う怪我を負ったという前日落車し未出走となったマヌエル・カルドソ(ポルトガル、フットオン・セルヴェット)のゼッケンを持ち帰るチームスタッフ。カルドソは、頭部を9針縫う怪我を負ったという photo:Makoto Ayanoオランダでレース参戦中のReady Go Japanの松田千裕と堀友紀代も駆けつけたオランダでレース参戦中のReady Go Japanの松田千裕と堀友紀代も駆けつけた photo:Makoto Ayano

マティアス・フランク(スイス、BMCレーシングチーム)とマヌエル・カルドソ(ポルトガル、フットオン・セルヴェッット)のふたりが昨日の転倒で負傷し、棄権を決めた。(ドーピング陽性の元になる)股ズレの薬を無断で使ったことでチームからツール前夜に除外を言い渡されたシャビエル・フロレンシオ(スペイン)とあわせ、これで早くも3人が第1ステージ前にツールを去ることになる。


・不出場のボーネン現わる

スタート地点に登場したトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)スタート地点に登場したトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ) photo:Kei Tsujiクイックステップのバスにはトム・ボーネン(ベルギー)が現れた。膝の故障でツール出場を直前になて見送った。アフターウェアに身を包んでこざっぱりと、しかし悲しげな表情で。

ボーネンは言う「膝はまだ痛むので自転車に乗ることがまだできないでいる。でも毎日水泳をたくさんやっているんだ。ツールにこんなカタチでやってくるのは本当に変な気分だ。チームメイトがスタートの用意をしているというのに、僕はまるでよそ者だ。こんなに苦しい気持ちになるとは思ってなかった」。

カンチェラーラとの勝負を期待されたはずだった第3ステージのパヴェ区間について訊かれると、こう答えた。「パリ〜ルーベとツール・ド・フランスのパヴェは違うふたつだ。ツールではパヴェそのものの難しさより落車の危険がある。50人と120人の集団では危険度が違う。カンチェラーラは絶好調なのだろうけど、僕はスプリンターのカヴェンディッシュかファラーが勝つと思っている。とくにファラーが強そうだ」。

・ユキヤの目印は赤い袖とヘルメットの日の丸

新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)の袖口には過去の日本チャンピオンの証の赤いラインと日本国旗が入る新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)の袖口には過去の日本チャンピオンの証の赤いラインと日本国旗が入る photo:Makoto Ayanoユキヤはブイグテレコムのジャージの袖口に赤をあしらったジャージで登場。この赤い袖は、日本のナショナル選手権を優勝した経歴を表している。もし先の6月末の全日本選手権ロードに優勝していれば全身でそれを表すことができたが、22歳当時の大分で開催された「嵐の中の」全日本ロード制覇の経歴を表している。

実は昨年もこれをあしらうことができたのに、単に思いつかなかったということらしい(別に強制されるものではないから)。

プレゼンでは間に合わせのトリコローレを着ていたチームメイトのヴォクレールも、しっかりとスポンサーロゴがデザインされた3色ジャージになった。ちなみにブイグのジャージは日本で販売されていないので、輸入代理店募集中とのことだ。

ユキヤは袖口と合わせ側頭部には日本の国旗をデザインしたオージーケーカブトの新型レジモスヘルメットを被る。「赤が目立つので集団のなかで見つけやすくなったでしょう」とユキヤ。これにクロムメッキの同社製スペシャルサングラスが目印となる。


・横風と闘うスプリンターたちのステージ

爽やかに晴れ上がったロッテルダムを出発する選手たち。スターティングセレモニーはパレードスタートを経てエラスムス橋の上で盛大に行われるとのことだった。コースを先行して向かうが、橋の上だけにプレスカーを停めるスペースがまったくなく、市街までガッチリとバリケードが続く。しかたなくコースを先行してリアルスタートの0km地点で撮影することになってしまった。

談笑しながら3週間の旅へと出発する選手たち。興奮のツールを期待しよう。

パリ・シャンゼリゼまで残り3633kmパリ・シャンゼリゼまで残り3633km photo:Kei Tsuji強い風に巨大なオランダ国旗もたなびく強い風に巨大なオランダ国旗もたなびく photo:Makoto Ayano

オランダ第ニの都市ロッテルダムとベルギーの首都ブリュッセルを結ぶ道は、まったくの平坦。ほぼ確実にスプリンターのためのステージとなるため、逃げを得意とするユキヤとBboxブイグテレコムは静観。プロローグ前に訊いたインタビューでも「スプリンター擁するチームがコントロールしてくるので逃げるのは難しいでしょう。おそらくこういったステージでは、動きを見てチャンスがあれば動くけれど、(ブイグの)みんなはおとなしくしているでしょうね」とのことだ。

風力発電の巨大なプロペラが選手たちを見下ろす風力発電の巨大なプロペラが選手たちを見下ろす photo:Kei Tsujiこの日、選手たちが心配するのは山ではなく強風。ロッテルダムから海沿いに出たZEELAND一帯はその名のとおり海の国。海岸線の堤防は海抜ゼロメートルの国オランダの生命線だ。ジロ・デ・イタリアで通ったコースとほぼ同じで、落車と集団分裂の波乱の展開となったことは記憶に新しい。

その下を通過するのが恐ろしくなるほど巨大な風車が林立する一帯に入る。応援の旗が風になびいて、カモメがティッシュペーパーのように舞っている。オランダ人観客に訊けば「強風が吹くことがある」ではなく、「強風は止むこともある」だそうだ。

強風が横風となれば、集団分裂が起こる。加えて道路には中央分離帯や路側帯が<選手にとっては突然に>ついているので、危険がいっぱいだ。

しかし警戒した以上に混乱がなかったのは、逃げたラース・ボーム(オランダ、ラボバンク)、アラン・ペレス(スペイン、エウスカルテル)、マールテン・ワイナンツ(ベルギー)の3人が逃げてリードを保ったから。集団は平静を保ち、風を受けながらも一団となって進む。位置取り争いに混乱するよりは、3人を泳がせる間は、とくに危険な争いをしなくてすむほうを選んだようだ。

カメラマンとしてはトラブルと集団分裂をある意味期待していたが、落ち着いたままレースは進む。殺風景な海岸線に、いろんな国旗の応援旗が風ではためく。


・オランダからベルギーへ ビールがつなぐレース

レースはベルギーの首都ブリュッセルが近づき、ブラームス・ブラバント地方へと入る。コース上のメイセにはクイックステップが乗るエディ・メルクス社がある。エディ・メルクス氏が先日65歳の誕生日を迎えたことが大きく取り上げられており、そのことを記念してのメイセ通過だ。日本に還暦があるように、ヨーロッパでは65歳の誕生日がひとつの記念となるようだ。

ベルギーと言えば…やっぱりビール!ベルギーと言えば…やっぱりビール! photo:Makoto Ayanoフラマン旗を掲げるファンフラマン旗を掲げるファン photo:Makoto Ayano

ベルギーに入ると、オランダに増して観客の数が増える。路肩にはライオンの紋章の旗がはためき(フランドル地方よりは少ないのだろうが)、ビールを煽りながら観戦する観客もたくさん! プレスカーで通過するたびに、観客のなかにビールを飲んで行けというゼスチャーをするおじさんが現れる。申し合わせたかのように...。

観客の人垣はどこまでも続く。ベルギー通過で思うのは、間違いなくフランスよりベルギーの方が自転車レースに対して熱狂度が高いということ。おそろいのデザインのチームジャージで応援する自転車クラブの大人子供も多い。


・カオス落車を避けたユキヤ ビールの匂いに酔う

プロローグから第3ステージまで合流するスタッフフォトグラファーの辻啓に今日のフィニッシュ撮影を任せ、私はゴールしてくる後方で選手たちを待つことに。

6年ぶりのツールのステージ優勝を挙げたペタッキに続き、落車で傷ついて帰ってくる選手たち。ユキヤは無事、落車の影響を受けることなくゴールしてきて、それまで私も談笑していたリクイガスの中野喜文マッサーを見つけて立ち止まるとガッチリと握手。ふたりとも今ツールで顔を合わせるのは始めてだったようだ。「3週間頑張って。期待してる」と中野マッサーがエールを送る。

ユキヤのゴール後第一声は「今日はビールの匂いを嗅ぎながら走ったので酔っ払っちゃいましたよ〜」だった。

ツールを戦うもうひとりの日本人、中野喜文マッサー(リクイガス)ツールを戦うもうひとりの日本人、中野喜文マッサー(リクイガス) photo:Makoto Ayano35位でこの日を終えた新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム)35位でこの日を終えた新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Makoto Ayano

「カンチェラーラが転んだのを見ました。でも僕はとくに影響がなかった。横風はとくに気にならなかったですね。ナーバスと言われる第1ステージですが問題なく走れました」と言う。昨年は落車が味方して驚きのステージ5位だったが、今回はウィリアム・ボネがいないこともあってスプリントステージで積極的に前に入るということは役割でないユキヤ。ひとまずは神経質な第1ステージを乗り切った。

カンチェラーラはマイヨジョーヌ授与のセレモニーのためポディウムに残ったが、チームカーのルーフキャリアに乗って戻ってきたイエローバイクはリアが変速機が激しくもげていた。カンチェラーラは言う「ラストはものすごくナーバスで、何も術がなかった。カオスだった。地面に激しく打ち付けられたよ。」

マイヨジョーヌのファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)のためのスペシャルカラーバイクマイヨジョーヌのファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)のためのスペシャルカラーバイク photo:Makoto Ayanoメルクス氏から受け取ったマイヨジョーヌに袖を通すファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク)メルクス氏から受け取ったマイヨジョーヌに袖を通すファビアン・カンチェラーラ(スイス、サクソバンク) photo:Kei Tsuji

スプリントに参加できなかったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)スプリントに参加できなかったマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア) photo:Makoto Ayanoマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)を見守るエリック・ツァベルマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームHTC・コロンビア)を見守るエリック・ツァベル photo:Makoto Ayano

ラストで連発した落車。クレーデンのジャージのお尻にはチェーンホイールの跡がくっきりついていた。コンタドールも軽く怪我をして帰ってきた。幸いビッグネームで大きなケガを負った選手はいないが、フレイレ、カヴェンディッシュがチャンスを逃した。スプリント争いを大きく左右した。ポイントを争うスプリンター達にとって、1ステージでもまったく上位に絡めない日があるとマイヨヴェール争いに加わることは難しくなる。


・ペタッキ「僕は勝つためにツールに来た」

7年ぶりにツールでステージ優勝を飾ったアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ)7年ぶりにツールでステージ優勝を飾ったアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ) photo:Kei Tsujiツールではじつに2004年以来のステージ優勝となるアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア、ランプレ)。喘息を抑える処方薬に含まれるサルブタモールが原因でドーピングを疑われ、レースから除外される時期が断続的に続いた。先のジロでも喘息の発作が起こり、リタイアを余儀なくされている。ツールでの勝利はジロでのリタイアという不名誉を埋め合わせるに十分だ。

「特別なフィナーレだった。最終コーナーでは誰もが速く行こうとして、誰もブレーキを掛けたがらなかった。だから落車と混乱が起こったんだ。僕はすいぶん早くから(負ける可能性がある)リスキーなスプリントをした。向かい風が吹いている状態で、風を遮るものが何も無い広いコースで早めのアタックをしたんだ」。

オッズの低かったペタッキに対し、ジャーナリストの容赦無い質問が飛ぶ。「この勝利は期待以上のもの?」と訊かれたペタッキはこう答える。

「もしカヴェンディッシュがそににいたら僕を負かせたかどうかは分からないけど、僕はすごいスプリントをしたと思う。期待していなかったなんて思っていない。なぜなら僕は勝つためにツール・ド・フランスに来ている。今日も勝つためにスプリントしたんだ。


text:Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO,Kei.TSUJI,CorVos


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