2022/04/13(水) - 18:03
ピナレロのDOGMA F12から多くの要素を受け継いだ直系モデルとなるPRINCEをインプレッション。ケーブルフル内装化も実現し、性能とデザインをブラッシュアップしたレーシングモデルの実力に迫る。
イネオス・グレナディアーズと共に、レースシーンにおいて枚挙に暇の無い実績を残し、際立った存在感を放つイタリアのピナレロ。ONDAフォークや左右非対称のフレームデザイン等、多くの独創的な設計を取り入れつつ極めて優れた走行性能を実現する手腕は、多くのシリアスライダーから支持を集める生粋のレーシングバイクブランドだ。
そのラインアップの中で、イネオス・グレナディアーズが使用するハイエンドモデル"DOGMA"に次ぐレーシングモデルとして用意されているのが"PRINCE"だ。現在はセカンドモデルの座に収まっているPRINCEだが、そのモデル名はピナレロの歴史の中でも特別な位置を占めている。
実際のところPRINCEの歴史は、DOGMAよりも長い。2003年にデビューしたDOGMAから遡ること6年、1997年に初代PRINCEは世に出ることとなった。世界初のカーボンバック&インテグラルヘッド採用バイクという画期的な1台としてデビューしたPRINCEは、プロトタイプを駆ったヤン・ウルリッヒ(ドイツ、当時チームテレコム)がマイヨジョーヌを獲得したことで、世界的な人気モデルに。
その後、ONDAフォークを与えられたPRINCE SL、そしてピナレロのフラグシップモデルで初となるフルカーボン化を2008年に果たし、アレハンドロ・バルベルデのアルデンヌクラシック制覇やツール・ド・フランスのステージ優勝など、勝利を量産。
その後を追うようにDOGMAもフルカーボン化した後は、トップレースの場に姿を現すことは無くなったが、ピナレロは常にPRINCEを勝利を目指すレーサーのためのハイパフォーマンスバイクとして位置づけ、その性能を磨き続けてきた。
2014年にデビューした第4世代以降、その時代のDOGMAの設計理念を受け継ぐことで性能を洗練させてきたPRINCEだが、今回も最新世代のDOGMA F12から多くの要素を継承している。所有欲を掻き立てるピナレロらしいデザイン、そしてエアロダイナミクスの改善によるレーシング性能向上を両立させることで、この第6世代もPRINCEの名に相応しい一台となっている。
フルモデルチェンジが施されたPRINCEにおいて最も大きな変更点は、シフトとブレーキのケーブルフル内装システムが投入されたこと。DOGMA F12の開発によって誕生したTiCR(トータル・インテグレーテッド・ケーブル・ルーティング)システムを採用しており、コクピット周りのケーブルが一切露出しないスマートなルックスを実現した。
TiCRでは上側ヘッドベアリングをフォークコラムよりも大口径な1.5インチサイズとし、ハンドル&ステム内を通したケーブル類を専用スペーサーによってコラム側面からフレーム内へ引き込むことでフル内装化を実現。すっきりとしたシルエットと共にハンドル周りの空気抵抗低減を叶えている。
ケーブルフル内装システム以外にも、ボリュームあるヘッド周りやトップチューブのベンド形状などにDOGMA F12の面影が色濃く残されている。一方で、フロントフォークやシートステーの形状はPRINCE専用設計とされており、金型を流用せずゼロから作り上げている点にピナレロのこだわりが窺える。ダウンチューブもわずかに細身になっているほか、チェーンステーはよりマイルドな剛性感になるようカーボン積層を変更しているという。
空力性能を向上させるためにボトル取り付け部を凹ませた"Concaveダウンチューブ"や、フォークエンドに設けられた整流効果を生み出す"フォークフラップ"、DI2ジャンクションなどをスマートに配置できる"E-Linkシステム"、ディスクブレーキに最適化された左右非対称設計など、ピナレロ独自のテクノロジーはこのPRINCEにも全て注ぎ込まれている
このPRINCEに合わせ、TiCRに対応した別体式のハンドルとステムも用意され、スマートなコックピットながらフィッテングの自由度も確保されている。完成車にはアルミモデルがアセンブルされるが、カスタム用のカーボンモデルも展開される。また、別売でノーマルステムアダプターも用意されるため、内装対応でないハンドル/ステムも装着可能だ。
今回インプレッションするのは、T900 3Kカーボンを採用した上位グレードのPRINCE FX。他社のハイエンドモデルに匹敵するプレミアムなマテリアルを使用するリアルレーシングモデルの実力を紐解いていこう。
−インプレッション
「走りも軽く、快適性も高い"イマドキ"のレーシングバイク」安藤光平(Bicicletta SHIDO)
一言でいえば「イマドキ」のレーシングバイクですね。走りも軽やかなのに、快適性も高くて、レースバイクながらロングライドだってこなしてしまうような懐の深さを持った一台だと感じました。
荒れた路面に突っ込んでもバタバタ暴れるようなこともなく、安心して走れます。エンデュランスバイクの路面に吸い付くような感覚とは少し違い、路面への追従性を必要十分な量だけ確保することで、体へのダメージを抑えつつしっかりと前へ進む力を路面へ伝えてくれるような乗り味です。
剛性面に関しても、硬すぎずかといって柔らかすぎないバランスに仕上げられていますね。しっかりとペダリングパワーを受け止める芯がありつつ、脚へのダメージを抑えるような味付けがなされています。
力をかけると、半テンポくらいタメてからスピードに乗せていくような感覚です。このBB周辺の程よいウィップ感が快適性や疲れにくさにも繋がっているのでしょう。少し重めのギアでトルクをかけていったほうが、このバイクの良さは引き出せると思いますよ。
このパッケージだと少し重さが気になるかなと予想していたのですが、登りでも7~8%程度の勾配であれば、重量が気になることも無く気持ちよく登っていけましたね。ずっと10%以上の勾配が続くような峠では、もう少し軽量化したくなるかもしれません。
安定感のあるハンドリングもこのバイクの特徴ですね。峠の高速ワインディングなどは気持ちよくこなして行けそうですね。一方で、低速でクイックに曲がっていかないといけないようなコーナーは苦手かもしれません。少し自分の思っていたラインより外側に膨らんでいくので、普段よりも内側を通すイメージが必要です。
良くも悪くも、想定しているのがロードレースなんだと思いますね。長距離を高めのスピードで走る中にいくつか仕掛け所があって、というようなシチュエーションが似合う一台です。ペダリングフィールもハンドリングも安心感があって懐が広いので、レースに出る人でなくとも十分扱いやすいという意味では、ロングライドにももってこいですね。
ハンドル周りもすっきりとまとめられている一方で、一体型ではなくハンドルポジションも出しやすいような構成にされているのもそういったユーザー像が反映されているのでしょう。
アルテグラ完成車で80万円ということですが、ピナレロというプレミアムブランドであることを鑑みれば納得の価格でしょう。ホイールを50㎜程度のディープリムでそれなりに軽いカーボンモデルに交換してあげれば走りは更に良くなると思いますし、長い間楽しめる1台だと思います。
「あらゆるシーン、ライダーを受け入れる万能レーサー」高木三千成(シクロワイアード編集部)
とても素直で扱いやすいレーシングバイクだな、というのがこのバイクの第一印象でしたね。ここが際立って良い!とか、逆にここはどうもダメ、というクセがあまり感じられず、登りでも平坦でも下りでも、真っすぐ走らせても、コーナーを攻めても、どんなシーンでも破綻することなくバランスが取れているのが最大の特徴だと思います。
フレームの剛性としてはレーシングバイクらしい味付けでした。踏み込んだ後のレスポンスは速く、反応性に優れているので、レースでも性能を発揮してくれると思いますね。ピナレロのバイクは剛性がしっかりしているモデルが多いですよね。グランツールを含めたあらゆるレースを勝ってきたブランドが、レーサーのために作ったバイクだと納得できるペダリングフィールで、レーサー目線で見た時も一切不満がないバイクです。
フレーム形状もピナレロらしいですよね。DOGMA F12のDNAを受け継いでいる各部の形状や、エッジが立ったフレームのフォルムも相まって、空力性能も確保されているように感じました。
このピナレロ独自の形状はトラクションの良さに関係しているのかもしれません。乗り心地自体は硬めな印象だったのですが、荒れた箇所でも跳ねることなくしっかり路面を掴んでくれていたんです。登りで低速域から踏み込んだ時も、路面を捉えながら加速してくれていて、滑るようなことは一切無かったんですよね。
基本的に安定感に優れたハンドリングで、勝手に真っすぐ走っていってくれるような安心感もこのバイクの特徴です。平坦で巡航していても、余計な神経を使わないので楽に速く走れるような乗り味ですね。
コックピット周りもケーブルフル内装を採用しているのは嬉しいポイントです。今回のテストバイクは機械式だったのですが、それを感じさせないスマートなルックスに仕上げられるのには驚かされました。ただ、フレームの性能も高いですし、軽さや利便性、メンテナンス性などを考えても、せっかくなら電動コンポーネントで組み上げたいバイクではあると思いますね。
ホイールもある程度軽い40~50mm程度のカーボンホイールを入れてあげたいですね。フレーム剛性がしっかりしているので、組み合わせるホイールによって味付けを調整しやすいでしょう。新しいシマノのカーボンホイールやカンパニョーロのBORA WTOなどが有力候補でしょうか。
DOGMAとどれくらいの差があるのか気になる人もいると思いますが、正直なところ差はあります。クルマで例えるならDOGMA Fはフォーミュラカーで、完全にプロレベルの機材として開発されています。つまり、良く進んで速いのですが、ちゃんと鍛えられた脚が無いと一体感を持って乗りこなすことはできません。一方でこのPRINCE FXはGTカーのような位置づけでしょうか。もちろんそれなりのスキルやフィジカルは求められますが、より間口が広いですし、乗りこなすハードルも低く設定されています。
登りもあれば下りもある、長いラインレースに求められる様々な要素をしっかりと確保しつつ、万人に扱いやすい乗り味へとまとめられたPRINCE FXは、本当に万能なレースバイクだと思いますね。ロードレースはもちろん、ホイールを変えればヒルクライムにも対応しますし、クリテリウムでもそこまでテクニカルではない平均スピードが高いコースであれば十分活躍できるでしょう。
ピナレロ PRINCE FX DISK
フレームマテリアル:T900 3K CARBON / TORAYCA
サイズ:43、46、49、51.5、53、54.5、56、58(C-C)
カラー:ボレアリスブラック、ラディアントレッド、フラッシュスカイ、グレイスティール
価格:836,000円(税込、Ultegra Di2 R8100 12S)、539,000円(税込、フレームセット)
インプレッションライダーのプロフィール
安藤光平(Bicicletta SHIDO)
東京都狛江市に店舗を構えるBicicletta SHIDOの店長。強豪クラブチームを渡り歩き、Jプロツアーに10年間参戦した実力派ライダー。2012年には2days race in 木祖村でスプリント賞を獲得。店主としてのコンセプトは「店長と遊んでくれる仲間募集中」で、ロード、グラベル、シクロクロスを共に楽しみたいという。
Bicicletta SHIDO
高木三千成(シクロワイアード編集部)
JCLに参戦するさいたまディレーブに所属しながら、シクロワイアード編集部に勤める。学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブへと移籍。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。
text:Naoki Yasuoka
photo:Makoto AYANO
イネオス・グレナディアーズと共に、レースシーンにおいて枚挙に暇の無い実績を残し、際立った存在感を放つイタリアのピナレロ。ONDAフォークや左右非対称のフレームデザイン等、多くの独創的な設計を取り入れつつ極めて優れた走行性能を実現する手腕は、多くのシリアスライダーから支持を集める生粋のレーシングバイクブランドだ。
そのラインアップの中で、イネオス・グレナディアーズが使用するハイエンドモデル"DOGMA"に次ぐレーシングモデルとして用意されているのが"PRINCE"だ。現在はセカンドモデルの座に収まっているPRINCEだが、そのモデル名はピナレロの歴史の中でも特別な位置を占めている。
実際のところPRINCEの歴史は、DOGMAよりも長い。2003年にデビューしたDOGMAから遡ること6年、1997年に初代PRINCEは世に出ることとなった。世界初のカーボンバック&インテグラルヘッド採用バイクという画期的な1台としてデビューしたPRINCEは、プロトタイプを駆ったヤン・ウルリッヒ(ドイツ、当時チームテレコム)がマイヨジョーヌを獲得したことで、世界的な人気モデルに。
その後、ONDAフォークを与えられたPRINCE SL、そしてピナレロのフラグシップモデルで初となるフルカーボン化を2008年に果たし、アレハンドロ・バルベルデのアルデンヌクラシック制覇やツール・ド・フランスのステージ優勝など、勝利を量産。
その後を追うようにDOGMAもフルカーボン化した後は、トップレースの場に姿を現すことは無くなったが、ピナレロは常にPRINCEを勝利を目指すレーサーのためのハイパフォーマンスバイクとして位置づけ、その性能を磨き続けてきた。
2014年にデビューした第4世代以降、その時代のDOGMAの設計理念を受け継ぐことで性能を洗練させてきたPRINCEだが、今回も最新世代のDOGMA F12から多くの要素を継承している。所有欲を掻き立てるピナレロらしいデザイン、そしてエアロダイナミクスの改善によるレーシング性能向上を両立させることで、この第6世代もPRINCEの名に相応しい一台となっている。
フルモデルチェンジが施されたPRINCEにおいて最も大きな変更点は、シフトとブレーキのケーブルフル内装システムが投入されたこと。DOGMA F12の開発によって誕生したTiCR(トータル・インテグレーテッド・ケーブル・ルーティング)システムを採用しており、コクピット周りのケーブルが一切露出しないスマートなルックスを実現した。
TiCRでは上側ヘッドベアリングをフォークコラムよりも大口径な1.5インチサイズとし、ハンドル&ステム内を通したケーブル類を専用スペーサーによってコラム側面からフレーム内へ引き込むことでフル内装化を実現。すっきりとしたシルエットと共にハンドル周りの空気抵抗低減を叶えている。
ケーブルフル内装システム以外にも、ボリュームあるヘッド周りやトップチューブのベンド形状などにDOGMA F12の面影が色濃く残されている。一方で、フロントフォークやシートステーの形状はPRINCE専用設計とされており、金型を流用せずゼロから作り上げている点にピナレロのこだわりが窺える。ダウンチューブもわずかに細身になっているほか、チェーンステーはよりマイルドな剛性感になるようカーボン積層を変更しているという。
空力性能を向上させるためにボトル取り付け部を凹ませた"Concaveダウンチューブ"や、フォークエンドに設けられた整流効果を生み出す"フォークフラップ"、DI2ジャンクションなどをスマートに配置できる"E-Linkシステム"、ディスクブレーキに最適化された左右非対称設計など、ピナレロ独自のテクノロジーはこのPRINCEにも全て注ぎ込まれている
このPRINCEに合わせ、TiCRに対応した別体式のハンドルとステムも用意され、スマートなコックピットながらフィッテングの自由度も確保されている。完成車にはアルミモデルがアセンブルされるが、カスタム用のカーボンモデルも展開される。また、別売でノーマルステムアダプターも用意されるため、内装対応でないハンドル/ステムも装着可能だ。
今回インプレッションするのは、T900 3Kカーボンを採用した上位グレードのPRINCE FX。他社のハイエンドモデルに匹敵するプレミアムなマテリアルを使用するリアルレーシングモデルの実力を紐解いていこう。
−インプレッション
「走りも軽く、快適性も高い"イマドキ"のレーシングバイク」安藤光平(Bicicletta SHIDO)
一言でいえば「イマドキ」のレーシングバイクですね。走りも軽やかなのに、快適性も高くて、レースバイクながらロングライドだってこなしてしまうような懐の深さを持った一台だと感じました。
荒れた路面に突っ込んでもバタバタ暴れるようなこともなく、安心して走れます。エンデュランスバイクの路面に吸い付くような感覚とは少し違い、路面への追従性を必要十分な量だけ確保することで、体へのダメージを抑えつつしっかりと前へ進む力を路面へ伝えてくれるような乗り味です。
剛性面に関しても、硬すぎずかといって柔らかすぎないバランスに仕上げられていますね。しっかりとペダリングパワーを受け止める芯がありつつ、脚へのダメージを抑えるような味付けがなされています。
力をかけると、半テンポくらいタメてからスピードに乗せていくような感覚です。このBB周辺の程よいウィップ感が快適性や疲れにくさにも繋がっているのでしょう。少し重めのギアでトルクをかけていったほうが、このバイクの良さは引き出せると思いますよ。
このパッケージだと少し重さが気になるかなと予想していたのですが、登りでも7~8%程度の勾配であれば、重量が気になることも無く気持ちよく登っていけましたね。ずっと10%以上の勾配が続くような峠では、もう少し軽量化したくなるかもしれません。
安定感のあるハンドリングもこのバイクの特徴ですね。峠の高速ワインディングなどは気持ちよくこなして行けそうですね。一方で、低速でクイックに曲がっていかないといけないようなコーナーは苦手かもしれません。少し自分の思っていたラインより外側に膨らんでいくので、普段よりも内側を通すイメージが必要です。
良くも悪くも、想定しているのがロードレースなんだと思いますね。長距離を高めのスピードで走る中にいくつか仕掛け所があって、というようなシチュエーションが似合う一台です。ペダリングフィールもハンドリングも安心感があって懐が広いので、レースに出る人でなくとも十分扱いやすいという意味では、ロングライドにももってこいですね。
ハンドル周りもすっきりとまとめられている一方で、一体型ではなくハンドルポジションも出しやすいような構成にされているのもそういったユーザー像が反映されているのでしょう。
アルテグラ完成車で80万円ということですが、ピナレロというプレミアムブランドであることを鑑みれば納得の価格でしょう。ホイールを50㎜程度のディープリムでそれなりに軽いカーボンモデルに交換してあげれば走りは更に良くなると思いますし、長い間楽しめる1台だと思います。
「あらゆるシーン、ライダーを受け入れる万能レーサー」高木三千成(シクロワイアード編集部)
とても素直で扱いやすいレーシングバイクだな、というのがこのバイクの第一印象でしたね。ここが際立って良い!とか、逆にここはどうもダメ、というクセがあまり感じられず、登りでも平坦でも下りでも、真っすぐ走らせても、コーナーを攻めても、どんなシーンでも破綻することなくバランスが取れているのが最大の特徴だと思います。
フレームの剛性としてはレーシングバイクらしい味付けでした。踏み込んだ後のレスポンスは速く、反応性に優れているので、レースでも性能を発揮してくれると思いますね。ピナレロのバイクは剛性がしっかりしているモデルが多いですよね。グランツールを含めたあらゆるレースを勝ってきたブランドが、レーサーのために作ったバイクだと納得できるペダリングフィールで、レーサー目線で見た時も一切不満がないバイクです。
フレーム形状もピナレロらしいですよね。DOGMA F12のDNAを受け継いでいる各部の形状や、エッジが立ったフレームのフォルムも相まって、空力性能も確保されているように感じました。
このピナレロ独自の形状はトラクションの良さに関係しているのかもしれません。乗り心地自体は硬めな印象だったのですが、荒れた箇所でも跳ねることなくしっかり路面を掴んでくれていたんです。登りで低速域から踏み込んだ時も、路面を捉えながら加速してくれていて、滑るようなことは一切無かったんですよね。
基本的に安定感に優れたハンドリングで、勝手に真っすぐ走っていってくれるような安心感もこのバイクの特徴です。平坦で巡航していても、余計な神経を使わないので楽に速く走れるような乗り味ですね。
コックピット周りもケーブルフル内装を採用しているのは嬉しいポイントです。今回のテストバイクは機械式だったのですが、それを感じさせないスマートなルックスに仕上げられるのには驚かされました。ただ、フレームの性能も高いですし、軽さや利便性、メンテナンス性などを考えても、せっかくなら電動コンポーネントで組み上げたいバイクではあると思いますね。
ホイールもある程度軽い40~50mm程度のカーボンホイールを入れてあげたいですね。フレーム剛性がしっかりしているので、組み合わせるホイールによって味付けを調整しやすいでしょう。新しいシマノのカーボンホイールやカンパニョーロのBORA WTOなどが有力候補でしょうか。
DOGMAとどれくらいの差があるのか気になる人もいると思いますが、正直なところ差はあります。クルマで例えるならDOGMA Fはフォーミュラカーで、完全にプロレベルの機材として開発されています。つまり、良く進んで速いのですが、ちゃんと鍛えられた脚が無いと一体感を持って乗りこなすことはできません。一方でこのPRINCE FXはGTカーのような位置づけでしょうか。もちろんそれなりのスキルやフィジカルは求められますが、より間口が広いですし、乗りこなすハードルも低く設定されています。
登りもあれば下りもある、長いラインレースに求められる様々な要素をしっかりと確保しつつ、万人に扱いやすい乗り味へとまとめられたPRINCE FXは、本当に万能なレースバイクだと思いますね。ロードレースはもちろん、ホイールを変えればヒルクライムにも対応しますし、クリテリウムでもそこまでテクニカルではない平均スピードが高いコースであれば十分活躍できるでしょう。
ピナレロ PRINCE FX DISK
フレームマテリアル:T900 3K CARBON / TORAYCA
サイズ:43、46、49、51.5、53、54.5、56、58(C-C)
カラー:ボレアリスブラック、ラディアントレッド、フラッシュスカイ、グレイスティール
価格:836,000円(税込、Ultegra Di2 R8100 12S)、539,000円(税込、フレームセット)
インプレッションライダーのプロフィール
安藤光平(Bicicletta SHIDO)
東京都狛江市に店舗を構えるBicicletta SHIDOの店長。強豪クラブチームを渡り歩き、Jプロツアーに10年間参戦した実力派ライダー。2012年には2days race in 木祖村でスプリント賞を獲得。店主としてのコンセプトは「店長と遊んでくれる仲間募集中」で、ロード、グラベル、シクロクロスを共に楽しみたいという。
Bicicletta SHIDO
高木三千成(シクロワイアード編集部)
JCLに参戦するさいたまディレーブに所属しながら、シクロワイアード編集部に勤める。学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブへと移籍。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位を獲得した。
text:Naoki Yasuoka
photo:Makoto AYANO
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