2022/03/04(金) - 13:01
「今までにないほど良い状態なのでこれからのシーズンが楽しみです」。2年目となるスペインでの生活にも慣れ、様々なプレッシャーからも解放された中根英登(EFエデュケーション・イージーポスト)の声のトーンは明るかった。2022年シーズン初戦を終え、次戦ストラーデビアンケに向けて地道なトレーニングを積む31歳に話を聞いた。
動画配信にも勤しむ、2年目のジローナ生活
「ワールドチームの中から、レース以外の部分を見てもらいたかったんです」。トレーニング後の動画編集中にリモートインタビューに対応してくれた中根は笑った。スペインのジローナで生活しながら中根はYouTubeチャンネル『NAKA’s channel』を立ち上げて動画を配信。「チームに溶け込んでいる選手目線の動画を見てほしいという気持ちから配信しています。せっかくその場所に自分がいるならやるべきだと思って」と、トレーニングの合間にせっせと撮影と編集に勤しんでいる。
動画配信の余裕が生まれていることは生活が落ち着いた証拠。チーム1年目と2年目の間には、様々な面で違いがあると中根は話す。「自分らしく生活して、自分らしく走れるようになったのは去年の夏あたりからです。去年のシーズン前半はビザの問題とか、ジローナでの新しい生活環境とか、チームキャンプもないまま新しいチームに入ったこともあり、『我ここにあらず』というほどストレスの塊でした。ワールドチームというプレッシャーものしかかり、正直言うと『自分にはこのカテゴリーで走れないんじゃないか』という気持ちもありました。やっぱり慣れが一番大きいですね。生活、チーム、レースの全てにおける慣れ。生活に不安がなくなり、去年の夏あたりからジローナに戻ることが『家に帰る』感覚になってきたんです」。
他にも中根はSTRAVAページにレース日を含む日々の走行データをアップロード。2022年からはパワー出力から心拍数までおおっぴらに公表している。「あれ?逆に今まで出ていませんでした?」と、少し無頓着なところもあるが、本人には特に走行データを隠すつもりはない。「別に隠したところで何も変わらないので、昔からどうぞ見てくださいというスタンスです。例えば僕のデータを見た若いライダーが『俺でも行けるかも、チャレンジしてみるべきかも』と思って、何かの切っ掛けになってくれたらいいと思います」。
中根は生活やレース活動が落ち着いた要因の一つに言語の上達を挙げる。イタリアチーム所属経験が豊富な中根にとって、カタルーニャ語やスペイン語が飛び交う地で、主に英語が使用されるチームでの活動にはある程度のストレスがあったようだ。「英語の環境に慣れてきたことも大きいです。『全然英語の単語が出てこない!』と嘆いていた去年と比べたら今は断然マシ。上達はしているけど、(31歳という)年齢からか習得のスピードは決して早くないですよ(笑)」。
「近くに住むアイルランドのベン・ヒーリーとか、タイミングやメニューが合えば一緒に走ります。車で30分ほどの距離に住まれているバイクトライアルライダーの藤波貴久さんとも一緒に走りますね。あとは去年のアパートの大家さんとも一緒に走ったり。そう考えると去年よりずっと生活が軌道に乗って、環境が整っています」。EFエデュケーションNIPPOデベロップメントチームのカルぺ合宿後に岡篤志がしばらくジローナのアパートに滞在していた時には、ワールドチームに所属しながらオフロードレースに積極的に出場しているラクラン・モートンと一緒にグラベルライドにも出かけている。
「それでいて調子が良いんです」と声を弾ませる。「実際ツール・ド・ランカウイでステージ優勝したのもこの時期ですし、毎年この時期にいい調子の波が来るんです。トレーニングも充実していて、トレーニングコーチと冬場から密に連絡を取り合いながらコンディションを作っていったので、それがちゃんと実を結んでいる感じです」。
レースで好調を確認し、次なるレースへ
UCIワールドチームのEFエデュケーション・イージーポストで2年目を迎える中根は、2022年1月中旬にオフシーズンを過ごした日本を離れて渡欧。トレーニングキャンプを経て、2月中旬にかけてスペインのブエルタ・ア・ムルシア(UCI1.1)とクラシカ・デ・アルメリア(UCI1.Pro)、クラシカ・ハエン(UCI1.1)の3連戦をこなし、すぐにフランスでのツール・デ・アルプマリティーム・デュヴァー(UCI2.1)に出場した。アシストとしてエースのサポートに専念し、それぞれ97位、102位、DNF、総合81位で終えている。
調子の良さはシーズン初戦のムルシアから明白だったという。「たらればになるんですけど」という前提を置いた上でこう続ける。「日本出国前に5分間の出力のベストを更新できていたし、今年は調子がいいのは明らかだったので、不安な気持ちもありませんでした。実際ムルシアでは前の集団で走れていたんですが、遅れたエースを待つためにチームオーダーとして後ろに下がらないといけなかった。リザルトを見る限り、そのまま前に残っていたらトップ10には入れていたと思います」。
「でもチームカーの監督に『悪いけど後ろを待ってくれ』と言われた。頼ってもらえるのは評価されている証拠なんですが、自分でもトライしたかった」。チームスポーツにおけるアシストとしての役目を第一に考えながら、ストレスを抱えながら、チャンスがあれば狙わない手はない。実際に2021年のヨーロッパ最終戦プリムスクラシック(UCI1.Pro)ではアシスト役を解かれた結果、チーム内最高位&UCIポイント獲得を果たしている。
公私ともに頼れる仲というトレーニングコーチと、どこかのレースにピークを合わせているか話し合っているかを聞くと「僕の場合はそれはないですね」という返答。「すでに良いコンディションを作れているので、疲れ過ぎないことに気をつけながらベースを少しずつ着実に上げていこうという状態です」。
新型コロナウイルス陽性者がプロトン内でも相次いでいる影響で、他のレースに突然召集される場合もある。それだけに調子の良さを常にキープしていないといけないという意識が強い。実際にフランスでレースを走っていた選手の陽性になるなど、新型コロナウイルスが身近な存在になっている。当初は3月22日にイタリアで開幕するコッピ・エ・バルタリ(UCI2.1)が次戦になる予定だったが、「陽性者が多発しているので、スケジュールはフレキシブルな対応になると思います」という本人の言葉通り、インタビュー後に3月5日開催のストラーデビアンケ(UCIワールドツアー)への出場が急遽決まっている。
「とにかく今までの選手人生の中で一番いい状態。いいスタートが切れたので、いいシーズンにしたい」。念願の家族へのビザ発給が決まり、今年も中根はジローナで生活を送る。良い波に乗って、良い走りを見せてほしい。
text:Kei Tsuji
photo:Hideto Nakane
動画配信にも勤しむ、2年目のジローナ生活
「ワールドチームの中から、レース以外の部分を見てもらいたかったんです」。トレーニング後の動画編集中にリモートインタビューに対応してくれた中根は笑った。スペインのジローナで生活しながら中根はYouTubeチャンネル『NAKA’s channel』を立ち上げて動画を配信。「チームに溶け込んでいる選手目線の動画を見てほしいという気持ちから配信しています。せっかくその場所に自分がいるならやるべきだと思って」と、トレーニングの合間にせっせと撮影と編集に勤しんでいる。
動画配信の余裕が生まれていることは生活が落ち着いた証拠。チーム1年目と2年目の間には、様々な面で違いがあると中根は話す。「自分らしく生活して、自分らしく走れるようになったのは去年の夏あたりからです。去年のシーズン前半はビザの問題とか、ジローナでの新しい生活環境とか、チームキャンプもないまま新しいチームに入ったこともあり、『我ここにあらず』というほどストレスの塊でした。ワールドチームというプレッシャーものしかかり、正直言うと『自分にはこのカテゴリーで走れないんじゃないか』という気持ちもありました。やっぱり慣れが一番大きいですね。生活、チーム、レースの全てにおける慣れ。生活に不安がなくなり、去年の夏あたりからジローナに戻ることが『家に帰る』感覚になってきたんです」。
他にも中根はSTRAVAページにレース日を含む日々の走行データをアップロード。2022年からはパワー出力から心拍数までおおっぴらに公表している。「あれ?逆に今まで出ていませんでした?」と、少し無頓着なところもあるが、本人には特に走行データを隠すつもりはない。「別に隠したところで何も変わらないので、昔からどうぞ見てくださいというスタンスです。例えば僕のデータを見た若いライダーが『俺でも行けるかも、チャレンジしてみるべきかも』と思って、何かの切っ掛けになってくれたらいいと思います」。
中根は生活やレース活動が落ち着いた要因の一つに言語の上達を挙げる。イタリアチーム所属経験が豊富な中根にとって、カタルーニャ語やスペイン語が飛び交う地で、主に英語が使用されるチームでの活動にはある程度のストレスがあったようだ。「英語の環境に慣れてきたことも大きいです。『全然英語の単語が出てこない!』と嘆いていた去年と比べたら今は断然マシ。上達はしているけど、(31歳という)年齢からか習得のスピードは決して早くないですよ(笑)」。
「近くに住むアイルランドのベン・ヒーリーとか、タイミングやメニューが合えば一緒に走ります。車で30分ほどの距離に住まれているバイクトライアルライダーの藤波貴久さんとも一緒に走りますね。あとは去年のアパートの大家さんとも一緒に走ったり。そう考えると去年よりずっと生活が軌道に乗って、環境が整っています」。EFエデュケーションNIPPOデベロップメントチームのカルぺ合宿後に岡篤志がしばらくジローナのアパートに滞在していた時には、ワールドチームに所属しながらオフロードレースに積極的に出場しているラクラン・モートンと一緒にグラベルライドにも出かけている。
「それでいて調子が良いんです」と声を弾ませる。「実際ツール・ド・ランカウイでステージ優勝したのもこの時期ですし、毎年この時期にいい調子の波が来るんです。トレーニングも充実していて、トレーニングコーチと冬場から密に連絡を取り合いながらコンディションを作っていったので、それがちゃんと実を結んでいる感じです」。
レースで好調を確認し、次なるレースへ
UCIワールドチームのEFエデュケーション・イージーポストで2年目を迎える中根は、2022年1月中旬にオフシーズンを過ごした日本を離れて渡欧。トレーニングキャンプを経て、2月中旬にかけてスペインのブエルタ・ア・ムルシア(UCI1.1)とクラシカ・デ・アルメリア(UCI1.Pro)、クラシカ・ハエン(UCI1.1)の3連戦をこなし、すぐにフランスでのツール・デ・アルプマリティーム・デュヴァー(UCI2.1)に出場した。アシストとしてエースのサポートに専念し、それぞれ97位、102位、DNF、総合81位で終えている。
調子の良さはシーズン初戦のムルシアから明白だったという。「たらればになるんですけど」という前提を置いた上でこう続ける。「日本出国前に5分間の出力のベストを更新できていたし、今年は調子がいいのは明らかだったので、不安な気持ちもありませんでした。実際ムルシアでは前の集団で走れていたんですが、遅れたエースを待つためにチームオーダーとして後ろに下がらないといけなかった。リザルトを見る限り、そのまま前に残っていたらトップ10には入れていたと思います」。
「でもチームカーの監督に『悪いけど後ろを待ってくれ』と言われた。頼ってもらえるのは評価されている証拠なんですが、自分でもトライしたかった」。チームスポーツにおけるアシストとしての役目を第一に考えながら、ストレスを抱えながら、チャンスがあれば狙わない手はない。実際に2021年のヨーロッパ最終戦プリムスクラシック(UCI1.Pro)ではアシスト役を解かれた結果、チーム内最高位&UCIポイント獲得を果たしている。
公私ともに頼れる仲というトレーニングコーチと、どこかのレースにピークを合わせているか話し合っているかを聞くと「僕の場合はそれはないですね」という返答。「すでに良いコンディションを作れているので、疲れ過ぎないことに気をつけながらベースを少しずつ着実に上げていこうという状態です」。
新型コロナウイルス陽性者がプロトン内でも相次いでいる影響で、他のレースに突然召集される場合もある。それだけに調子の良さを常にキープしていないといけないという意識が強い。実際にフランスでレースを走っていた選手の陽性になるなど、新型コロナウイルスが身近な存在になっている。当初は3月22日にイタリアで開幕するコッピ・エ・バルタリ(UCI2.1)が次戦になる予定だったが、「陽性者が多発しているので、スケジュールはフレキシブルな対応になると思います」という本人の言葉通り、インタビュー後に3月5日開催のストラーデビアンケ(UCIワールドツアー)への出場が急遽決まっている。
「とにかく今までの選手人生の中で一番いい状態。いいスタートが切れたので、いいシーズンにしたい」。念願の家族へのビザ発給が決まり、今年も中根はジローナで生活を送る。良い波に乗って、良い走りを見せてほしい。
text:Kei Tsuji
photo:Hideto Nakane
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