2022/02/28(月) - 14:14
「母国の状況を考えると勝利を無邪気に喜べない」とグラン・カミーニョ最終日を制したマーク・パデュン(EFエデュケーション・イージーポスト)は語る。ロシア人としての思いを綴ったパヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ)の言葉と合わせて紹介する。
困難の中、シーズン初勝利を飾ったマーク・パデュン(EFエデュケーション・イージーポスト) (c)EF Pro Cycling
「信じられないほど嬉しい結果だが、母国の状況を考えると無邪気に喜ぶことはできない。この勝利をウクライナ市民に捧げ、自転車選手という立場から彼らを励ましたい。Slava Ukraini(ウクライナに栄光あれ)」。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から3日経った2月27日、スペインで開催されたグラン・カミーニョ(UCI2.1)第4ステージを勝利したパデュンは語った。
「この冬にTTポジションを共に一から見直してくれたチームに感謝したい。彼らのおかげでTTでプロ初勝利を挙げることができた。信じられないよ。そして僕の人生を見守ってくれる神様に感謝したい」。15.8kmのコースで争われた個人タイムトライアルで区間優勝を掴んだパデュンは総合でも3位に入り、優勝したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)ともに表彰台に上がった。
1996年にウクライナ東部ドネツクで生まれたパデュンは11歳で自転車競技と出会った。そしてウクライナ国内が政治情勢により不安定になりはじめた2014年に、パデュンは親元を離れ首都キエフに逃れた。当時をパデュンはこう振り返る。
「両親のおかげで戦争とは無縁な生活を送ることができた。ドネツクに軍が集結し始めると、両親はすぐに僕を安全なキエフへと退避させたんだ。街で軍を見かけるようになり、僕も事の深刻さを理解していたから素直に従った。でもその時は”数週間もすればまたここに戻ってこれるだろう”と思っていたんだ。だがそれ以来、街に戻ることはなかった」。
有力なクライマーたちを圧倒し、2021年クリテリウム・デュ・ドーフィネ第7ステージで勝利したマーク・パデュン(ウクライナ、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:CorVos
家族が難民としてアメリカ・シアトルに逃れた後、徐々に選手として頭角を現し始めたパデュンは20歳のときにバーレーン・メリダ(当時)でプロデビューを果たす。そして2021年クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで2日連続の区間優勝を挙げると、才能を買われたパデュンはEFエデュケーション・イージーポストと3年契約を結んだ。
チームに移籍後、初勝利を挙げたパデュンについてジョナサン・ヴォーターズGMは「2022年という年にマークと活動を共にすることができて喜びを感じている。我々は彼を批判から守り、彼のタイムトライアル力の向上に手を貸すなど、共に作業するなかで彼の素晴らしい人間性に触れることができた」とコメント。「彼はとてもタフな人間だ。同時にとても頑固でもある。この数週間、彼の心は我々には想像し得ない状態にあったと思う。それを乗り越え、勝利を掴んだ彼を誇りに思う」と、パデュンを祝福した。
同日に開催されたクールネ~ブリュッセル~クールネで優勝したファビオ・ヤコブセン(オランダ、クイックステップ・アルファヴィニル)を始めとする選手たちが、続々とウクライナへの思いを語るなか、フランスに生まれながらもロシア人の両親を持ち、自らロシア国籍を選んだパヴェル・シヴァコフ(ロシア、イネオス・グレナディアーズ)もツイッターに思いを綴った。
「ここ数日、世の中では大変な出来事が起こっている。まず始めに伝えたいのは、僕は戦争に反対しているということだ。現在ウクライナで起こっていることが全く理解できないし、僕の心はウクライナの人々と共にある。また、大半のロシア人は平和を願い、戦争なんて求めていない。出自を理由に人を嫌うなんてことはあってはならないことだ。僕が綴るこの数行によって事態が好転するなんて思っていないが、この気持ちを伝えておきたかった。平和を願って」。
また、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、UCI(国際自転車競技連合)の会長ダヴィ・ラパルティアン氏も声明を発表。「UCIはウクライナにおける敵対行為の即時停止を求め、ロシアによる国際法違反を断固として非難します。我々UCIはウクライナの人々、そしてウクライナ自転車競技連盟の味方です。2022年にロシア及びベラルーシで開催されるUCI主催の大会はありません」と、ロシア政府を批判しながら、同国ならびロシアの軍事行為に協力するベラルーシでのレース開催の中止を発表した。
現在、ロシア国営の多国籍エネルギー企業ガスプロムがスポンサーを務めるロシア籍プロチームのガスプロム・ルスヴェロが活動しているが、UCIやレース主催者による出走制限などは行われていない。
text:Sotaro.Arakawa
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「信じられないほど嬉しい結果だが、母国の状況を考えると無邪気に喜ぶことはできない。この勝利をウクライナ市民に捧げ、自転車選手という立場から彼らを励ましたい。Slava Ukraini(ウクライナに栄光あれ)」。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から3日経った2月27日、スペインで開催されたグラン・カミーニョ(UCI2.1)第4ステージを勝利したパデュンは語った。
「この冬にTTポジションを共に一から見直してくれたチームに感謝したい。彼らのおかげでTTでプロ初勝利を挙げることができた。信じられないよ。そして僕の人生を見守ってくれる神様に感謝したい」。15.8kmのコースで争われた個人タイムトライアルで区間優勝を掴んだパデュンは総合でも3位に入り、優勝したアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)ともに表彰台に上がった。
1996年にウクライナ東部ドネツクで生まれたパデュンは11歳で自転車競技と出会った。そしてウクライナ国内が政治情勢により不安定になりはじめた2014年に、パデュンは親元を離れ首都キエフに逃れた。当時をパデュンはこう振り返る。
「両親のおかげで戦争とは無縁な生活を送ることができた。ドネツクに軍が集結し始めると、両親はすぐに僕を安全なキエフへと退避させたんだ。街で軍を見かけるようになり、僕も事の深刻さを理解していたから素直に従った。でもその時は”数週間もすればまたここに戻ってこれるだろう”と思っていたんだ。だがそれ以来、街に戻ることはなかった」。
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家族が難民としてアメリカ・シアトルに逃れた後、徐々に選手として頭角を現し始めたパデュンは20歳のときにバーレーン・メリダ(当時)でプロデビューを果たす。そして2021年クリテリウム・ドゥ・ドーフィネで2日連続の区間優勝を挙げると、才能を買われたパデュンはEFエデュケーション・イージーポストと3年契約を結んだ。
チームに移籍後、初勝利を挙げたパデュンについてジョナサン・ヴォーターズGMは「2022年という年にマークと活動を共にすることができて喜びを感じている。我々は彼を批判から守り、彼のタイムトライアル力の向上に手を貸すなど、共に作業するなかで彼の素晴らしい人間性に触れることができた」とコメント。「彼はとてもタフな人間だ。同時にとても頑固でもある。この数週間、彼の心は我々には想像し得ない状態にあったと思う。それを乗り越え、勝利を掴んだ彼を誇りに思う」と、パデュンを祝福した。
同日に開催されたクールネ~ブリュッセル~クールネで優勝したファビオ・ヤコブセン(オランダ、クイックステップ・アルファヴィニル)を始めとする選手たちが、続々とウクライナへの思いを語るなか、フランスに生まれながらもロシア人の両親を持ち、自らロシア国籍を選んだパヴェル・シヴァコフ(ロシア、イネオス・グレナディアーズ)もツイッターに思いを綴った。
「ここ数日、世の中では大変な出来事が起こっている。まず始めに伝えたいのは、僕は戦争に反対しているということだ。現在ウクライナで起こっていることが全く理解できないし、僕の心はウクライナの人々と共にある。また、大半のロシア人は平和を願い、戦争なんて求めていない。出自を理由に人を嫌うなんてことはあってはならないことだ。僕が綴るこの数行によって事態が好転するなんて思っていないが、この気持ちを伝えておきたかった。平和を願って」。
— Pavel Sivakov (@PavelSivakov) February 25, 2022
また、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、UCI(国際自転車競技連合)の会長ダヴィ・ラパルティアン氏も声明を発表。「UCIはウクライナにおける敵対行為の即時停止を求め、ロシアによる国際法違反を断固として非難します。我々UCIはウクライナの人々、そしてウクライナ自転車競技連盟の味方です。2022年にロシア及びベラルーシで開催されるUCI主催の大会はありません」と、ロシア政府を批判しながら、同国ならびロシアの軍事行為に協力するベラルーシでのレース開催の中止を発表した。
現在、ロシア国営の多国籍エネルギー企業ガスプロムがスポンサーを務めるロシア籍プロチームのガスプロム・ルスヴェロが活動しているが、UCIやレース主催者による出走制限などは行われていない。
text:Sotaro.Arakawa
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