2021/10/04(月) - 18:30
千葉競輪場跡地に完成した屋内型バンク「ティップスタードーム千葉」で、競輪の新シリーズ「ピスト6チャンピオンシップ」が開幕した。華やかな開幕初日の模様を、従来の「競輪」との違いを交えてレポートする。
「ピスト6チャンピオンシップ(PIST6 Championship)」は、国際規格に沿って建設された250m板張りバンク「ティップスタードーム千葉(TIPSTAR DOME CHIBA)」を舞台に、競輪の「250競走」として新たにスタートするシリーズ戦だ。その開幕戦が、10月2日と3日の2日間に渡り行われた。
初日のレース前には千葉市の神谷俊一市長、PIST6の鈴木千樹代表、JPFの渡辺俊太郎代表らが出席しての開幕挨拶が行われた。その席上で、神谷市長は「千葉競輪はこれまでも競輪界に大きな貢献をしてきたという自負があり、千葉市は今回の新しいスタートでさらに競輪界を盛り上げていきたい」と語った。
会場の名称「ティップスタードーム千葉」は、後述するスマートフォンアプリ「ティップスター(TIPSTAR)」を提供する株式会社ミクシィがネーミングライツを獲得したことにより、「千葉JPFドーム」から名称変更された。
メインエントランスから中に入ると、現代美術家の松山智一氏が手がけたという横幅約30mの壁画と、ひまわりをモチーフにした彫刻が出迎える。そこからおよそ3階分の高さを階段で登ると、250mバンクに面した観客席に出る。
フィンランドから取り寄せた木材で造られたという走路は、最大傾斜角45度のコーナーを備える世界選手権仕様。伊豆ベロドローム同様に屋根を支える柱はなく、競輪場に設置が義務付けられている観客席と走路を分け隔てるフェンスもない。
ピスト6チャンピオンシップの観戦は有料だ。10月中は無観客開催が決定しているが、有観客開催の際には約2,000席が全席指定として販売される。そのうち正面(ホーム側)の最前列58席は「プレミアムシート」として設定され、一般席2,000円に対し、5,000円で販売される。自動車用シートで有名なレカロ社製のレザーシートが並ぶ最前列は、スタートやフィニッシュが間近で見られる、文字通り「特等席」だ。また、インフィールドには入場者が自由に使えるソファー席もあり、バンクの外と内を行き来して観戦することが可能だ。
土曜日、日曜日共に昼ごろからのデイレースと、夕方からのナイトレースの2部構成。デイレースとナイトレースは完全入れ替え制となる。
力を入れているという場内の飲食ブースは計4カ所あり、それぞれに違ったものが提供される予定。正面観客席の最上段にあるバーからは、バンクを見下ろすように一望しながらビールを楽しむことが出来る。
また、レース前と合間には照明設備を駆使したアトラクションで幻想的な雰囲気が作り出されるほか、ピスト6オフィシャルダンスチーム「PSD」が、レースを盛り立てる。
「競輪」であって「競輪」でないピスト6
さて、ピスト6はUCIルールに準拠したレースを行うとは言え、公営競技としての「競輪」として開催されるレースだ。出場選手はピスト6出場資格を獲得した競輪選手で、従来の競輪同様に斡旋を受けて出場が決定する。車券の販売も行われるが、従来の競輪とは違う点は多い。
ピスト6は金曜日から日曜日の3日間で行われる。金曜日は1次予選の組み合わせを決める200mタイムトライアルが非公開で行われる。土曜日のデイレースは1次予選、ナイトレースは1次予選の結果を元に組み合わせを変えて2次予選のレースが行われる。その結果を踏まえ、日曜日のデイレースで準決勝と順位決定戦、ナイトレースで準決勝と決勝戦のレースが行われ、総合順位が決定する。
来年4月以降の新年度には、1年間を4つのシーズンに分け、総合首位の選手同士によるシーズン首位を決めるレースを行い、さらにその中から年間チャンピオンを決定するレースが開催される。
競輪は通常9名出走だが、ピスト6は最大6名出走。競輪で使用する機械式のホルダーは使用せず、人が支えてスタートする。レースは6周で行われ、3周目まではペーサーが先導。競輪の先導は選手と同じ自転車を使用するが、ピスト6では電動アシスト自転車のペーサーとなる。これらは国際大会の「ケイリン」と同じやり方だ。
従来の競輪では使用出来なかったカーボンフレームやエアロホイールの使用が可能となったことも特徴のひとつ。認可を受けた機材に限られるが、開幕戦では様々なメーカーのフレームが見られ、選択幅は広そうだ。
レース展開上での大きな違いは、競輪特有の「ライン」が禁止されていることだ。「ライン」とは、ロードレースのエースとアシストのような関係を作ること。出身地や所属団体が同じ選手同士で形成されることが多く、コアな競輪ファンは選手の関係性からどのような「ライン」が形成されるのかを予想した上で勝者を予想すると言う。
一方で、この「ライン」が競輪を難解にしている要素でもある(ロードレースのエースとアシストの関係も、知らない人にとっては難解ではあるが)。スポーツとしてのわかりやすさはピスト6が命題とする新規ファン獲得の条件であり、個々の選手同士の力勝負を見られるのは歓迎すべき点だろう。
指定席購入も、車券販売もネットのみ。会場ではキャッシュレス決済のみ
従来の競輪場のイメージを払拭し、子供連れでも観戦できるスポーツイベントを目指すとしているピスト6。車券販売は、公営競技のベッティングが行えるスマートフォンアプリ「ティップスター(TIPSTAR)」のみで行われ、会場内には車券販売の窓口や機械は一切無い。それだけでなく、会場内では現金収受が一切されず、飲食ブースでの購入もキャッシュレス決済のみとなる予定。入場用のチケットもピスト6公式サイトでのオンライン販売のみだ。
そうしたピスト6の方針に対し、従来の競輪ファンからは否定的な意見があるようだ。しかし各地の競輪場が売上の減少に悩まされ、千葉競輪場も一度は廃止に追い込まれた経緯を考えれば、従来のやり方ではまた同じ轍を踏むことになるだろう。競輪に興味はあっても、競輪場に足を運ぶことは躊躇うという人は少なくないはず。ピスト6の試みは、新たなファン獲得の試金石となるか。
ピスト6以外の会場活用は?
ティップスタードーム千葉は音楽イベントなどの会場としての使用も予定されており、コロナ禍で出来なかった千葉市の成人式を開催することが決定しているという。ただし、週末の金曜日から日曜日はピスト6の開催で埋まっているので、使用できるのは月曜日から木曜日のみとなる。ピスト6以外の競技大会の開催は先の話となりそうだ。
とは言え、まずは世界最高峰のトラックシリーズを目指すというピスト6の今後の展開に期待したい。
text&photo:Satoru Kato
「ピスト6チャンピオンシップ(PIST6 Championship)」は、国際規格に沿って建設された250m板張りバンク「ティップスタードーム千葉(TIPSTAR DOME CHIBA)」を舞台に、競輪の「250競走」として新たにスタートするシリーズ戦だ。その開幕戦が、10月2日と3日の2日間に渡り行われた。
初日のレース前には千葉市の神谷俊一市長、PIST6の鈴木千樹代表、JPFの渡辺俊太郎代表らが出席しての開幕挨拶が行われた。その席上で、神谷市長は「千葉競輪はこれまでも競輪界に大きな貢献をしてきたという自負があり、千葉市は今回の新しいスタートでさらに競輪界を盛り上げていきたい」と語った。
会場の名称「ティップスタードーム千葉」は、後述するスマートフォンアプリ「ティップスター(TIPSTAR)」を提供する株式会社ミクシィがネーミングライツを獲得したことにより、「千葉JPFドーム」から名称変更された。
メインエントランスから中に入ると、現代美術家の松山智一氏が手がけたという横幅約30mの壁画と、ひまわりをモチーフにした彫刻が出迎える。そこからおよそ3階分の高さを階段で登ると、250mバンクに面した観客席に出る。
フィンランドから取り寄せた木材で造られたという走路は、最大傾斜角45度のコーナーを備える世界選手権仕様。伊豆ベロドローム同様に屋根を支える柱はなく、競輪場に設置が義務付けられている観客席と走路を分け隔てるフェンスもない。
ピスト6チャンピオンシップの観戦は有料だ。10月中は無観客開催が決定しているが、有観客開催の際には約2,000席が全席指定として販売される。そのうち正面(ホーム側)の最前列58席は「プレミアムシート」として設定され、一般席2,000円に対し、5,000円で販売される。自動車用シートで有名なレカロ社製のレザーシートが並ぶ最前列は、スタートやフィニッシュが間近で見られる、文字通り「特等席」だ。また、インフィールドには入場者が自由に使えるソファー席もあり、バンクの外と内を行き来して観戦することが可能だ。
土曜日、日曜日共に昼ごろからのデイレースと、夕方からのナイトレースの2部構成。デイレースとナイトレースは完全入れ替え制となる。
力を入れているという場内の飲食ブースは計4カ所あり、それぞれに違ったものが提供される予定。正面観客席の最上段にあるバーからは、バンクを見下ろすように一望しながらビールを楽しむことが出来る。
また、レース前と合間には照明設備を駆使したアトラクションで幻想的な雰囲気が作り出されるほか、ピスト6オフィシャルダンスチーム「PSD」が、レースを盛り立てる。
「競輪」であって「競輪」でないピスト6
さて、ピスト6はUCIルールに準拠したレースを行うとは言え、公営競技としての「競輪」として開催されるレースだ。出場選手はピスト6出場資格を獲得した競輪選手で、従来の競輪同様に斡旋を受けて出場が決定する。車券の販売も行われるが、従来の競輪とは違う点は多い。
ピスト6は金曜日から日曜日の3日間で行われる。金曜日は1次予選の組み合わせを決める200mタイムトライアルが非公開で行われる。土曜日のデイレースは1次予選、ナイトレースは1次予選の結果を元に組み合わせを変えて2次予選のレースが行われる。その結果を踏まえ、日曜日のデイレースで準決勝と順位決定戦、ナイトレースで準決勝と決勝戦のレースが行われ、総合順位が決定する。
来年4月以降の新年度には、1年間を4つのシーズンに分け、総合首位の選手同士によるシーズン首位を決めるレースを行い、さらにその中から年間チャンピオンを決定するレースが開催される。
競輪は通常9名出走だが、ピスト6は最大6名出走。競輪で使用する機械式のホルダーは使用せず、人が支えてスタートする。レースは6周で行われ、3周目まではペーサーが先導。競輪の先導は選手と同じ自転車を使用するが、ピスト6では電動アシスト自転車のペーサーとなる。これらは国際大会の「ケイリン」と同じやり方だ。
従来の競輪では使用出来なかったカーボンフレームやエアロホイールの使用が可能となったことも特徴のひとつ。認可を受けた機材に限られるが、開幕戦では様々なメーカーのフレームが見られ、選択幅は広そうだ。
レース展開上での大きな違いは、競輪特有の「ライン」が禁止されていることだ。「ライン」とは、ロードレースのエースとアシストのような関係を作ること。出身地や所属団体が同じ選手同士で形成されることが多く、コアな競輪ファンは選手の関係性からどのような「ライン」が形成されるのかを予想した上で勝者を予想すると言う。
一方で、この「ライン」が競輪を難解にしている要素でもある(ロードレースのエースとアシストの関係も、知らない人にとっては難解ではあるが)。スポーツとしてのわかりやすさはピスト6が命題とする新規ファン獲得の条件であり、個々の選手同士の力勝負を見られるのは歓迎すべき点だろう。
指定席購入も、車券販売もネットのみ。会場ではキャッシュレス決済のみ
従来の競輪場のイメージを払拭し、子供連れでも観戦できるスポーツイベントを目指すとしているピスト6。車券販売は、公営競技のベッティングが行えるスマートフォンアプリ「ティップスター(TIPSTAR)」のみで行われ、会場内には車券販売の窓口や機械は一切無い。それだけでなく、会場内では現金収受が一切されず、飲食ブースでの購入もキャッシュレス決済のみとなる予定。入場用のチケットもピスト6公式サイトでのオンライン販売のみだ。
そうしたピスト6の方針に対し、従来の競輪ファンからは否定的な意見があるようだ。しかし各地の競輪場が売上の減少に悩まされ、千葉競輪場も一度は廃止に追い込まれた経緯を考えれば、従来のやり方ではまた同じ轍を踏むことになるだろう。競輪に興味はあっても、競輪場に足を運ぶことは躊躇うという人は少なくないはず。ピスト6の試みは、新たなファン獲得の試金石となるか。
ピスト6以外の会場活用は?
ティップスタードーム千葉は音楽イベントなどの会場としての使用も予定されており、コロナ禍で出来なかった千葉市の成人式を開催することが決定しているという。ただし、週末の金曜日から日曜日はピスト6の開催で埋まっているので、使用できるのは月曜日から木曜日のみとなる。ピスト6以外の競技大会の開催は先の話となりそうだ。
とは言え、まずは世界最高峰のトラックシリーズを目指すというピスト6の今後の展開に期待したい。
text&photo:Satoru Kato
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