2010/06/20(日) - 09:27
どのようなアプローチであってもデローザを知ったことは幸いだろう。これこそが現在も守られる伝統的なイタリアンバイクの正しい姿と言える。
多くの海外メーカーが製作をアジアへの外注に委ねる中、デローザは現在でもイタリアで製作していることでも知られている。腕利きの職人たちが、フレーム一本一本を手作業で仕上げていく。創始者のウーゴ・デローザはすでにビルダーとして現役を退いているが、その鋭い眼光は現在でも健在で、職人たちの仕事を厳しく見つめる。
そのグラフィックにはいかにも「手作業」であることを露呈するかのような、マスプロモデルには見られない「味わい深い部分」もあるが、これも含めてデローザの魅力といえる。デローザならすべて許せてしまう。そう言ったら贔屓が過ぎるだろうか。塗装に関しては工房近くの協力工場で職人が手塗りしているという。
そして2010年のデローザはラインナップに大きな変更が加えられた。上位モデルのほとんどはブラッシュアップされ、さらに名車といわれた「メラク」が復活したのだ。
メラクはかつてデローザにラインナップされていたレーシングモデルだ。オールドファンならご存知だと思うが、ロマンス・ヴァインシュタインスをして2000年の世界選手権ロードレースを制したバイクなのだ。
当時のスペックは軽量アルミフレームを用いたコンペティションモデルであったが、それからハイドロフォーミング成型アルミの造形的曲線を活かしたモデルを経て、2010年に復活したメラクはフルカーボン化を果たしている。コンセプトは2000年当時と同じ、美しきコンペティションバイクである。
メラクはデローザのラインナップにおいては3つめのグレードとなる。最上位モデルはキング3RSで、次にキング3、そしてメラクとなる。
メラクのフォルムはどこか有機的で躍動感に溢れ、キング3RSやキング3と同様のモノコック構造ながら、また異なるイメージをもたせることに成功している。そういった演出や棲み分けのうまさも「デローザだからこそ」と言える。
エアロダイナミクス効果を追求したそのチューブ構造にくわえ、パワーロスを感じさせないダウンチューブと、チェーンステーの大口径チューブは魅力的だ。
インテグラルシートポストはキング3RSやアイドルと同様に専用のやぐらをチューブに挿入するスタイルで、25mmほど高さ調整できる。その形状は楕円状に変形したエアロチューブデザインを用いている。
ヘッドチューブはステアリング性能を高めるために上下異径ベアリングコラムを用いる。下側のベアリングを1-1/2サイズ化することで、フォークのボリュームアップも可能となり、より安定したハンドリングを提供する。
BBはキャノンデールなどが提唱するBB30を採用。シマノやカンパニョーロのBBを使う場合はアダプターを挿入することで、従来と同じように使うことができる。
フレーム素材にはユニディレクショナルカーボンを採用している。クリア塗装の下(カラーリング:カーボンシルバーの場合)には光の加減により、マーブル模様に輝くが、まさしくこれがカーボン繊維そのものであり、独特の上質感を演出している。この高弾性カーボンとフレーム形状、そして優れたテクノロジーによって軽量かつ高い剛性と耐久性を備えている。
ラグジュアリーな外観は、初めて見た印象ではとてもピュアレーシングバイクとは思えない。この美しいカーボンバイクを二人のインプレライダーはどのように感じたのだろうか?
―インプレッション
「速く走ってこそ楽しい自転車」鈴木祐一(Rise Ride)
インプレッションはひとつひとつのバイクの動作や挙動を確認しながら行っているのだが、このメラクはアクションを起こすたびにやる気になるような、そんなバイクだ。
メラクを「ハートマークをあしらった可愛いイタリアの自転車」と思っていると騙されてしまうだろう。ターゲットとしては当然ロードレースといえるが、私のように仕事をしながらレースを楽しむ人が乗りやすいフィーリングに好感がもてる。
どの部位のパフォーマンスが優れているとか、ひとつひとつを挙げていくとキリがない。漠然としていると言われるかもしれないが、「すべての性能が優れている」と言える。そして性能のバランスにまとまりがあり、クセが無く仕上がっているのでさらに乗りこなしやすいのだろう。これだけキレイにまとめたこと自体が素晴らしい。
全体のバランスに優れている部分がメラクの特徴ともいえるが、ひとつひとつの性能も輝いている。その中でもコーナリング精度は高く素直でコントロールしやすい。そして剛性や硬さは非常にレベルが高い。もちろんレーシングモデルとしてもダッシュ力は高めだろう。
高級ホイールをつけてもビジュアルや性能のバランスが崩れない質感はさすがだ。カンパニョーロ・ボーラウルトラを履き、カンパニョーロ・スーパーレコードをアッセンブルするという前提を基に設計したかのようにフィットしている。その性能に垣根はなく、ヒルクライムでもロードレースでも、高いパフォーマンスを発揮してくれるに違いない。
まぎれもなく2010年モデルの中でもトップクラスの性能といえる。これには乗って驚いた。正直、上位モデルのキング3とダブる性能かと思ったが、いままで乗ったバイクのなかでも特に印象深いレースバイクであった。
デローザのラインナップの中核を支えるアイドルやネオプロとは味付けがまったく違う。凡例として、世の中のロードバイクにはデザインだけを変更してセールスポイントにしているが、実際のところ中身はあまり変わらない、というケースも多くある。しかし、デローザの場合は各モデルのターゲットがしっかりとしているので、性能にブレがない。
先代メラクはアルミチューブながら形状で遊んでいる。それでちゃんとレーサーの性能を出していたが、新生メラクも同様にユニークな形状ながらも選手が求める性能をしっかりと具現化しているのだ。
人それぞれ好みもあると思うが、こういう乗り味のバイクでツーリングをする楽しさもあるだろう。運動能力にも左右されるが、ゆっくり30km/hで巡航するなら、姉妹モデルのネオプロなどが適しているだろう。
メラクはもう少しアベレージスピードが高いツーリングに向いているだろう。例えば平坦は40km/hほどで巡航し、上りも元気よく踏むような走り。逆にレースに近くなると言えなくもない。
やはり速く走ってこそ楽しい自転車なので、上級者ほどこのバイクの性能を引き出せると思う。そしてバイクの良さを引き出せると、このバイクがもっと好きになれるのではないか。
よく乗り込んでいるサイクリストほどこのバイクを気に入ると思う。これまでに2台3台と、いろいろなバイクを乗り継いで走り方を心得ている「よく乗る人」にオススメ。美しいからといって、床の間自転車にするにはもったいない!
「何度乗っても色あせることが無い素晴らしい乗り心地」山本健一(バイクジャーナリスト)
メラクといえばアルミとカーボンのハイブリッドバイクで、非常に軽快な走行感をもつバイク、というイメージがある。ちょうどこの仕事をはじめた年の世界選手権で優勝したバイクだった。緊張しつつ世界戦制覇バイクのスタジオ撮りをしたという記憶が今でも鮮明に残っている。
そしてこのカーボン化した新生メラクは、過去を知る人間には「メラク」として認識するために時間がかかった。しかしながら一度またがると、その運動性能はメラクに課せられたレーシングスペックであることがわかる。
じつはメラクには過去半年間のうち雑誌企画などで3度ほどテストライドをする機会があった。この半年の間でいろいろなバイクのデータやイメージが脳内に蓄積し、それぞれが稀薄していく中、メラクは色あせることなく濃厚なイメージが残っている。単純に運動性能が優れているだけでなく、コンフォート性能も充実し、乗っていて実に「楽」なバイクである。
トルクがかかる小さなギヤでは、かなり軽い踏み出し感を得られる。上りでの加速感は、快感のレベルだろう。しかしながら一変してギヤをかけると、ペダリング入力に対し、BB付近から来るウィップ量は大きくなるが、その反発感が心地よいのだ。
さらにバックステーなどもしっかりとした剛性を保ち、ホイールを引きずっているようなねじれを起こすこともない。
パワーロスは極めて少なく「シャキッ」というイメージがもっとも近い。しかしフレームは硬くは感じない。パワーロスを生み出さない心地よいねじれ方をしている印象だ。
一方で、フォークの高い剛性によってステアリング性能は安定感抜群だ。上りでのダンシングはフォームが安定するので、ストレス無くペダリングに集中できる。さらに下りでは極上の安定性を発揮し、ダウンヒルテクニックのスキルが上がったような感覚に捕われた。
まさしくコンペティションのためのフレームだろう。セカンドグレードとはいえ他社のハイエンドモデルと匹敵している。性能は全体的に底上げされているイメージなので、むしろキング3RSはスペシャルモデルとして存在しており、このメラクが実質のハイエンドモデルとっても良いレベルだろう。
コンポーネントもフレームのレベルにあわせてカンパニョーロ・レコード以上で組みたい。ホイールはもちろんカンパニョーロ・ボーラクラスがよく似合う。
このメラクに乗ったら、速く走らざるを得ないが、ぜひ速く走る努力をしていただきたい。実際にプロのようには走れないかもしれないが、どんなレベルのサイクリストの走りにも、分け隔てなく応えてくれる良質なバイクなのだから。
デローザ メラク DE ROSA MERAK スペック
フレームマテリアル:ユニディショナルカーボンモノコック
サイズ(AF):57、59、61、63.5、66、69、71
カラー:カーボンシルバー、ホワイトレッド、パープルレッド、グレイオレンジ
希望小売価格:51万300円(本体価格 48万6000円、フレームセット)
完成車参考価格 121万2750円 (本体価格 115万5000円、カンパニョーロ・スーパーレコード11v/デローザVsホイール)
インプレライダーのプロフィール
鈴木 祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
山本健一(バイクジャーナリスト)
身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。
ウェア協力:ETXE ONDO(エチェオンド)(サイクルクリエーション)
text&edit :Kenichi.YAMAMOTO
photo:Makoto.AYANO
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