まるで昨ステージの再現のように3人がリュズ・アルディダン山頂へと駆け抜けた。2日連続マイヨジョーヌ姿で勝利のフィニッシュをしたポガチャルはプールスからマイヨアポワまで奪ってしまう。レースを楽しむスタイルで、容赦のないノーギフトぶりだ。
マイヨアポワを守りたいワウト・プールス(オランダ、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:Makoto AYANO
ツールのスタート地点としてお馴染みのポー。市街中央の公園に設けられたスタート地点には決戦日の緊張感が漂う。バーレーン・ヴィクトリアスのホテルに警察の捜査が入ったという話だが、過去にもチームが目立った活躍をするとこうした「ガサ入れ」が行われるのはこのスポーツの暗い過去があるから。山岳賞ジャージを守りたいワウト・プールスとチームメイトたちには不必要な雑音になってしまったことだろう。
マティ・モホリッチはスロベニア、ソンニ・コルブレッリはイタリアカラーのバイクに乗る photo:Makoto AYANO
ディラン・トゥーンス(バーレーン・ヴィクトリアス)のポケットにはバナナ photo:Makoto AYANO
2日間連続の山頂フィニッシュで決するピレネー決戦2日目。この日も涼しい日になった。緑深い丘陵が続くピレネーの麓で走り始めた集団からマテイ・モホリッチ、ショーン・ベネット、クリストファー・ユールイェンセンの3人が抜け出すと、2年前のこの場所でマイヨジョーヌを着て圧倒的な個人TT勝利を収めたジュリアン・アラフィリップが集団から軽々と抜け出し、ピエールリュック・ペリションとともに前に合流した。
スタートしてすぐ抜け出したマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・ヴィクトリアス)やクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、バイクエクスチェンジ)、ショーン・ベネット(アメリカ、クベカ・ネクストハッシュ)の3名 photo:Makoto AYANO
ピレネーの山村を逃げるクリストファー・ユールイェンセン(デンマーク、バイクエクスチェンジ)ら photo:ASO Charly Lopez
アラフィリップはカヴェンディッシュのための中間スプリントポイントをトップ通過するというミッションを今日も遂行。他の選手にみすみすマイヨヴェールポイントを与えないというチームプレーだ。この流れにマイケル・マシューズも乗ろうと動いたが、うまくいかなかった。そしてカヴも集団で先頭通過し、むしろそのリードを広げることに成功した。パリでのマイヨヴェールはまた近づいた。
逃げる3人にブリッジを架けるジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:Makoto AYANO
ワウト・プールスの山岳ポイント獲得を狙いたいバーレーン・ヴィクトリアスがコントロール photo:ASO Charly Lopez
アラフィリップとモホリッチの2人が超級山岳トゥールマレー峠に突入すると、ヴァランタン・マデュアス、ピエール・ラトゥール、ケニー・エリッソンド、ピエール・ロラン、そしてダヴィド・ゴデュらフランス人たちが揃っての追走アタック。ディレクターカーから見守るマクロン大統領の期待に応えた。一日遅れのフランス革命記念日?と思えるほど。
逃げグループから抜け出すマテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)とジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:ASO Charly Lopez
トゥールマレー峠を登るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:ASO Charly Lopez
メイン集団ではイネオス・グレナディアーズの牽引によってリゴベルト・ウランが脱落。昨日総合を落としたバッドデーは昨日のみにとどまらず、今日もだった。ツール開幕前には好調ぶりを見せていたが体調のピークはすでに下り坂にあったようだ。ウランは8分58秒遅れて総合10位まで大きく順位を下げてしまう。
ステージ勝利を欲するイネオス・グレナディアーズが強力な牽引を見せた。しかしラファウ・マイカが今日も破壊的なスピードでマイヨジョーヌのタデイ・ポガチャルをアシストし、対抗した。
先頭に進むメイングループが膠着状態でリュ・ザルディダン頂上に向かう photo:Makoto AYANO
超級山岳リュズ・アルディダンでの最終攻防は前日同様ポガチャル、リチャル・カラパス、ヨナス・ヴィンゲゴーの3強、そしてセップ・クスとエンリク・マスがそれに加わった。
ライバルを警戒しながら応援する家族を見るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO
エンリク・マスの2度のアタックはポガチャルに対処され、不発に終わる。ラスト1kmを切った沿道にはポガチャルの家族が応援旗を持って陣取っており、ポガチャルはライバルたちが飛び出さないか警戒しながらも家族のほうを見て、手を挙げて挨拶する余裕ぶりを見せた。
アタックして後方の距離を見るタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO
そしてポガチャルはアタックすると何度も振り返ってライバルたちの様子を伺いながらフィニッシュラインまで踏み切った。その様子には余裕さえあり、むしろ楽しむかのよう。そして勝てるレースを徹底的に勝つ、ライバルたちに容赦しないスタイル。
アタックしてラスト450mを行くタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO
マイヨジョーヌを着た選手がリュズ・アルディダン山頂でステージ優勝を挙げた例ではツール100周年記念大会となった2003年のランス・アームストロングの勝利がある。そのときアームストロングは観客のサコッシュにハンドルを取られて落車したが、復帰してヤン・ウルリッヒらライバルたちから独走アタックを掛けて逃げ切った。同じような霧の出る日に繰り広げられたシーンを覚えている人も多いだろう。
ポガチャルの登坂タイム35分45秒は当時のアームストロングの最速タイムに12秒まで迫るものだった。しかし2003年はすでにトゥールマレー峠で総合争いバトルが始まっていた。そして今回は長い膠着状態を経てのタイムであり、かつポガチャルは明らかに最後まで追い込んでいない。
着実に総合リードを広げているタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツ) photo:Bettiniphoto
マイヨジョーヌを着ている場合、他の選手にステージ勝利を譲ることが王者の余裕とされてきた。譲らなかった場合は「ノーギフト」。譲る優しさを見せてきたツール5勝の英雄ミゲール・インデュラインに対して、アームストロングが発した言葉だ。ポガチャルは今日もノーギフト。エディ・メルクスやベルナール・イノーに近いスタイルだ。勝てるレースは勝つ。どこかレースを楽しむように。
「レースは君にとってゲームみたいなもの?」という少し誘導的な記者の質問だったが、ポガチャルはレース後インタビューでこう応える。「そう、自転車を始めた頃からレースは僕にとってゲーム。プレイするのをいつだって楽しんでいるよ!」
ポガチャルの勝利を喜びながらフィニッシュに向かうラファウ・マイカ(UAEチームエミレーツ) photo:Makoto AYANO
なにかのアクシデントがない限りほとんど確実になったように思える総合優勝。その確率は?と訊かれて「50%ぐらい? まだ3日間あるし、わからないよ」と、慎重な姿勢は崩さない。「タイムトライアルはどうなるだろうね。ベストを尽くすけど、もちろんバッドデイの可能性だってあるから。それは新しい体験だね」。
TTではヴィンゲゴーのことは心配していない? また昨年のような「ログリッチ―ポガチャル」のような逆転をヴィンゲゴーにされないかどうか?と訊かれれば、笑って応えた。「いやいや、それは無いことを祈るね! もちろんタイムトライアルで6分を失うこともゼロじゃないけど、そうならない自信はあるよ」と、自信をのぞかせた。
若き王者の強さを徹底的に知らしめたピレネーの2日間になった。ジャーナリストの間では新しいカニバル、メルクスの再来は確実、など、賛美の声が挙がっている。しかしと、ポガチャルはレムコ・エヴェネプールはじめ他のライバルのことも忘れていない。
「みんなが言う『ポガチャルの時代がやってきた』なんて馬鹿げた表現だ。たしかに多くの若い選手たちが高いレベルで活躍しているので、新しい世代は来ているのだろう。それはとても良い時代なんだと思う。この先、素晴らしい10年が待っているんじゃないかな」。
マイヨアポワを失うと知って泣きながらフィニッシュに向かうワウト・プールス(オランダ、バーレーン・ヴィクトリアス) photo:Makoto AYANO
トゥールマレー峠の頂上では10ポイントを獲得してマイヨアポワのリードを広げたワウト・プールスだが、最後の超級山岳リュズ・アルディダンで獲得できる最大40ポイントを前にして小さなリードにすぎなかった。ステージ優勝とともにマイヨアポワをさらったポガチャル。2年連続でマイヨヴェール以外の、総合優勝・ヤングライダー賞・山岳賞の3つすべてを持っていくことになった。
やることはやったが、やはり恐れていた通りのことが起こった。プールスは肩を落としてリュズ・アルディダン山頂へと向かっていたが、ラスト500mに来ると泣いていた。
グルペットではソンニ・コルブレッリとマイク・テウニッセンが談笑しながらフィニッシュに向かう photo:Makoto AYANO
ほぼ最終のグルペットは5人のウルフパック列車。マイヨヴェールのカヴェンディッシュを制限時間内に送り届けた。これで心配だった山岳はタイムアウトなく乗り越え、翌第19ステージと最終シャンゼリゼステージでエディ・メルクスの記録を更新するチャンスが生まれた。
マーク・カヴェンディッシュ(ドゥクーニンク・クイックステップ)を制限タイム以内にサポートしたウルフパック列車がフィニッシュ photo:Makoto AYANO
マーク・カヴェンディッシュとチームメイトたちがフィニッシュ photo:Makoto AYANO
カヴはそっけないほどの表情でポディウムに立った。走り終えたティム・デクレルクも浮かれず、落ち着いた表情で話す。「明日の作戦はまだ決まっていないけど、もちろんステージ勝利を狙うだろうね。でもコントロールがとても難しいのは確か。もし目標通りカヴが勝ってシャンゼリゼでグリーンが実現したら、それは夢のようだね」。
子供にボトルを手渡すクリストフ・ラポルト(フランス、コフィディス) photo:Makoto AYANO
text&photo:Makoto.AYANO in PAU FRANCE

ツールのスタート地点としてお馴染みのポー。市街中央の公園に設けられたスタート地点には決戦日の緊張感が漂う。バーレーン・ヴィクトリアスのホテルに警察の捜査が入ったという話だが、過去にもチームが目立った活躍をするとこうした「ガサ入れ」が行われるのはこのスポーツの暗い過去があるから。山岳賞ジャージを守りたいワウト・プールスとチームメイトたちには不必要な雑音になってしまったことだろう。


2日間連続の山頂フィニッシュで決するピレネー決戦2日目。この日も涼しい日になった。緑深い丘陵が続くピレネーの麓で走り始めた集団からマテイ・モホリッチ、ショーン・ベネット、クリストファー・ユールイェンセンの3人が抜け出すと、2年前のこの場所でマイヨジョーヌを着て圧倒的な個人TT勝利を収めたジュリアン・アラフィリップが集団から軽々と抜け出し、ピエールリュック・ペリションとともに前に合流した。


アラフィリップはカヴェンディッシュのための中間スプリントポイントをトップ通過するというミッションを今日も遂行。他の選手にみすみすマイヨヴェールポイントを与えないというチームプレーだ。この流れにマイケル・マシューズも乗ろうと動いたが、うまくいかなかった。そしてカヴも集団で先頭通過し、むしろそのリードを広げることに成功した。パリでのマイヨヴェールはまた近づいた。


アラフィリップとモホリッチの2人が超級山岳トゥールマレー峠に突入すると、ヴァランタン・マデュアス、ピエール・ラトゥール、ケニー・エリッソンド、ピエール・ロラン、そしてダヴィド・ゴデュらフランス人たちが揃っての追走アタック。ディレクターカーから見守るマクロン大統領の期待に応えた。一日遅れのフランス革命記念日?と思えるほど。


メイン集団ではイネオス・グレナディアーズの牽引によってリゴベルト・ウランが脱落。昨日総合を落としたバッドデーは昨日のみにとどまらず、今日もだった。ツール開幕前には好調ぶりを見せていたが体調のピークはすでに下り坂にあったようだ。ウランは8分58秒遅れて総合10位まで大きく順位を下げてしまう。
ステージ勝利を欲するイネオス・グレナディアーズが強力な牽引を見せた。しかしラファウ・マイカが今日も破壊的なスピードでマイヨジョーヌのタデイ・ポガチャルをアシストし、対抗した。

超級山岳リュズ・アルディダンでの最終攻防は前日同様ポガチャル、リチャル・カラパス、ヨナス・ヴィンゲゴーの3強、そしてセップ・クスとエンリク・マスがそれに加わった。

エンリク・マスの2度のアタックはポガチャルに対処され、不発に終わる。ラスト1kmを切った沿道にはポガチャルの家族が応援旗を持って陣取っており、ポガチャルはライバルたちが飛び出さないか警戒しながらも家族のほうを見て、手を挙げて挨拶する余裕ぶりを見せた。

そしてポガチャルはアタックすると何度も振り返ってライバルたちの様子を伺いながらフィニッシュラインまで踏み切った。その様子には余裕さえあり、むしろ楽しむかのよう。そして勝てるレースを徹底的に勝つ、ライバルたちに容赦しないスタイル。

マイヨジョーヌを着た選手がリュズ・アルディダン山頂でステージ優勝を挙げた例ではツール100周年記念大会となった2003年のランス・アームストロングの勝利がある。そのときアームストロングは観客のサコッシュにハンドルを取られて落車したが、復帰してヤン・ウルリッヒらライバルたちから独走アタックを掛けて逃げ切った。同じような霧の出る日に繰り広げられたシーンを覚えている人も多いだろう。
ポガチャルの登坂タイム35分45秒は当時のアームストロングの最速タイムに12秒まで迫るものだった。しかし2003年はすでにトゥールマレー峠で総合争いバトルが始まっていた。そして今回は長い膠着状態を経てのタイムであり、かつポガチャルは明らかに最後まで追い込んでいない。

マイヨジョーヌを着ている場合、他の選手にステージ勝利を譲ることが王者の余裕とされてきた。譲らなかった場合は「ノーギフト」。譲る優しさを見せてきたツール5勝の英雄ミゲール・インデュラインに対して、アームストロングが発した言葉だ。ポガチャルは今日もノーギフト。エディ・メルクスやベルナール・イノーに近いスタイルだ。勝てるレースは勝つ。どこかレースを楽しむように。
「レースは君にとってゲームみたいなもの?」という少し誘導的な記者の質問だったが、ポガチャルはレース後インタビューでこう応える。「そう、自転車を始めた頃からレースは僕にとってゲーム。プレイするのをいつだって楽しんでいるよ!」

なにかのアクシデントがない限りほとんど確実になったように思える総合優勝。その確率は?と訊かれて「50%ぐらい? まだ3日間あるし、わからないよ」と、慎重な姿勢は崩さない。「タイムトライアルはどうなるだろうね。ベストを尽くすけど、もちろんバッドデイの可能性だってあるから。それは新しい体験だね」。
TTではヴィンゲゴーのことは心配していない? また昨年のような「ログリッチ―ポガチャル」のような逆転をヴィンゲゴーにされないかどうか?と訊かれれば、笑って応えた。「いやいや、それは無いことを祈るね! もちろんタイムトライアルで6分を失うこともゼロじゃないけど、そうならない自信はあるよ」と、自信をのぞかせた。
若き王者の強さを徹底的に知らしめたピレネーの2日間になった。ジャーナリストの間では新しいカニバル、メルクスの再来は確実、など、賛美の声が挙がっている。しかしと、ポガチャルはレムコ・エヴェネプールはじめ他のライバルのことも忘れていない。
「みんなが言う『ポガチャルの時代がやってきた』なんて馬鹿げた表現だ。たしかに多くの若い選手たちが高いレベルで活躍しているので、新しい世代は来ているのだろう。それはとても良い時代なんだと思う。この先、素晴らしい10年が待っているんじゃないかな」。

トゥールマレー峠の頂上では10ポイントを獲得してマイヨアポワのリードを広げたワウト・プールスだが、最後の超級山岳リュズ・アルディダンで獲得できる最大40ポイントを前にして小さなリードにすぎなかった。ステージ優勝とともにマイヨアポワをさらったポガチャル。2年連続でマイヨヴェール以外の、総合優勝・ヤングライダー賞・山岳賞の3つすべてを持っていくことになった。
やることはやったが、やはり恐れていた通りのことが起こった。プールスは肩を落としてリュズ・アルディダン山頂へと向かっていたが、ラスト500mに来ると泣いていた。

ほぼ最終のグルペットは5人のウルフパック列車。マイヨヴェールのカヴェンディッシュを制限時間内に送り届けた。これで心配だった山岳はタイムアウトなく乗り越え、翌第19ステージと最終シャンゼリゼステージでエディ・メルクスの記録を更新するチャンスが生まれた。


カヴはそっけないほどの表情でポディウムに立った。走り終えたティム・デクレルクも浮かれず、落ち着いた表情で話す。「明日の作戦はまだ決まっていないけど、もちろんステージ勝利を狙うだろうね。でもコントロールがとても難しいのは確か。もし目標通りカヴが勝ってシャンゼリゼでグリーンが実現したら、それは夢のようだね」。

text&photo:Makoto.AYANO in PAU FRANCE
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