全長11.4kmで平均勾配10.5%、最大勾配22%という日本全国、いや恐らく世界中を見渡してもトップレベルの過酷さを誇るであろう「ふじあざみライン」を舞台に争われた富士山国際ヒルクライムで市民ライダーたちに激坂対策を聞きました。

エキスパートクラス優勝、2連覇達成のクレイトン ロックさんエキスパートクラス優勝、2連覇達成のクレイトン ロックさん photo:Haruo.Fukushima激坂「「ふじあざみライン」は、海外招待チームも参戦するツアー・オブ・ジャパンでは毎年、総合優勝争いを左右する重要なステージとなっている。また日本のトップレーサーが競うJサイクルツアー第6戦では、イメーナの森本誠選手がプロ選手を破り、日本人レコード記録で優勝したのは先日お伝えした通り。

そしてこのJサイクルツアーと同時開催された市民レース「第7回 富士山国際ヒルクライム」では、250名を超える市民レーサーたちが、この厳しいヒルクライムコースに挑んだ。そこでシクロワイアード編集部では"あざみの壁"に挑んだ勇者たちにインタビュー。レースを振り返ってもらうと同時に、彼らの激坂対策について話を伺った。


"軽量ブレーキにノーボトル。でも基本は普段どおりのバイク"
エキスパートクラス優勝Clayton Locke(クレイトン ロック)さん


エキスパートクラスで優勝したのは、昨年の覇者でもあるTokyo Cycling Clubのクレイトン ロックさん。2位を5分近く引き離す46分34秒の好記録での2連覇達成となった。

「FUN!今日は楽しかったよ。暑くも寒くもなくて、とにかく走りやすかったよ。とても良いコンディションで2連覇を達成できて良かったね」「あざみラインは厳しいコースだけれども、特別なトレーニングはしなかったね。そう、大月周辺とかは良く走ったね。バイクもスペシャルな仕様では無いね。ローギアは39T×27Tをセットしたけれど、25Tを一番多く使ったかな。タイヤはビットリアのOPEN CORSA EVO CX。これもスタンダードだよ。まあ軽量化としてはKCNCのブレーキかな。(86g:メーカー公表値)ただこれも普段から使っているものだよ。」

クレイトンさんが使うKCNCのブレーキアーチクレイトンさんが使うKCNCのブレーキアーチ photo:Haruo.Fukushimaめねじがむき出しのままのダウンチューブめねじがむき出しのままのダウンチューブ photo:Haruo.Fukushima


普段通りの練習に、そして普段通りのバイクで臨んだというクレイトンさん。しかしダウンチューブとシートチューブからは、ボトルゲージとともにボルトも外されて、メネジがむき出しになっていたのは、やはりディフェンディングチャンピオンならではのこだわりの表れかもしれない。


"ポイントは22Tのチェーンリング、今日の為に夫が換えてくれたおかげです"
レディースクラス 2位 ワイマント直美さん(Tokyo Cycling Club)


ご主人とともにこの大会に挑んだのはワイマント直美さん。エキスパートクラスで優勝したクレイトン ロックさんとは同じTokyo Cycling Clubに所属するサイクリング仲間とのこと。

Tokyo Cycling Clubの皆さん。左からエキスパート優勝のクレイトンさん、直美さんの夫 アランさん、直美さん、マイクさんTokyo Cycling Clubの皆さん。左からエキスパート優勝のクレイトンさん、直美さんの夫 アランさん、直美さん、マイクさん photo:Haruo.Fukushima

「今日はすっごく楽しかった。このレースは初めてだけど、練習では3回走りました。」

このコースは一度しか走った経験のない(そしてもう2度と走りたくないと思っている)筆者から言わせて頂くと、この激坂コースで3回も練習を重ねるというのは、並大抵のモチベーションではできないはず。いったいどんな気持ちで練習に臨んだのでしょうか?

「練習中はここを走るのは本当にイヤでした。富士山も見たくなかったです。でも頑張りました。あとはゴールデンウィークに、夫とチームメイトのマイクさんと3人で、海抜0mから表富士の5合目まで走ったのと、山梨県側のスバルラインを走りました。特に海抜0mから5合目まで走るのがずっと夢だったんです。」とハードな練習内容について語ってくれた。そしてバイクの仕様について尋ねてみると

直美さんのスペシャル仕様、22T×27Tのドライブトレイン直美さんのスペシャル仕様、22T×27Tのドライブトレイン photo:Haruo.Fukushima

「アッハッハ! 今日はマウンテンバイク用の22Tのチェーンリングを使ったんです。そしてスプロケットはえーっと・・・(チームメンバー揃って)ニジューナナ(27T)!」
「実は練習では何度も止まってしまったので、今日はビリにならないことと、完走することが目標だったんです。そこで夫が今日の為に22Tのクランクに交換してくれました。効果は抜群で、練習より大幅にタイムアップ、快調に走れました。」

チームメンバーとともに楽しく今日のレースを振り返ってくれた直美さん。次はロードのギアで1時間5分以内がターゲットという直美さんの、来年の走りに注目です。


"今日はコールドのカラーコデイネイトで決めてきました"
男子Dクラス 小林基裕さん(SWIFT R.T)


薄曇りで時折ガスもかかるゴール地点に、一際輝くコルナゴのバイクでゴールしたのは、静岡県のサイクリングチーム SWIFT R.Tの小林基裕さん。

ゴールドのカラーコーディネイトで決めた小林基裕さんゴールドのカラーコーディネイトで決めた小林基裕さん photo:Haruo.Fukushima

「くたびれましたよ。去年はレース前に試走したのですが、レース出場は断念しました。今年はスバルラインの"富士ヒルクライム"もあったのですが、こっち(あざみライン)のほうがリーズナブルかな?と思って来ました。今日はチームメイトは誰も来ていないので、地元静岡のチーム代表としての参戦ということになりますね。レースを走ってみると人数も多すぎないし、同じくらいのペースの人と走ることもできて、苦しくも楽しく走れました。このコースに向けた特別な練習はしませんでしたが、先週は王滝のマウンテンバイクレースで100km走ったのが、良い練習になったかもしれませんね。マウンテンバイクでの100kmに比べたら、激坂と言えども、ロードの11.4kmなんてあっと言う間ですよ。馬返しの後からのしばらくの間は特に辛いけれども、そこさえ乗り切っちゃえば、あとは何とかなります。」

小林さんがゴールドのコルナゴとシャマルに合わせてチョイスしたタイヤはヴェロフレックス ブラック小林さんがゴールドのコルナゴとシャマルに合わせてチョイスしたタイヤはヴェロフレックス ブラック photo:Haruo.Fukushima

「バイクは激坂を意識したものではありませんね。カーボンパーツも使っていますが、今日のレースの為に用意したものではありません。タイヤも普段から使っている、ヴェロフレックスのブラックです。これが私には一番合うタイヤで、下りでも思った通りに止まってくれます。今日の下りはレースじゃないけれど、安心して下れるこのタイヤを選びました。もちろんカラーはゴールドのシャマル、フレームは去年の限定モデルのコルナゴに合わせてイエローを選択しています。どこに行ってもこのカラーリングのバイクに会うことは無いのが良いところです。」


ビギナークラス7位の小野康太郎くんビギナークラス7位の小野康太郎くん photo:Haruo.Fukushima"夢は世界チャンピオン、尊敬する選手は平塚吉光さんです"
ビギナークラス 7位 小野康太郎くん (チームラバネロ)


中学1年生の小野くんが、スポーツバイクに乗り始めたのは小学5年生の時。きっかけは近くに自転車屋さんがあったからとのこと。1時間05分の記録は、大人顔負けの立派な成績だ。

「あざみラインは今日初めて走りましたが、きつかったです。特に馬返しの後がつらくって、腰が痛くなりました。ギアはほとんど34T×25Tを使って走りました。今はLSD中心のトレーニングで、平日は毎日1時間くらい走るのと、筋トレをやっています。休日はチーム練習に参加して、最近は150kmくらい走れるようになりました。尊敬する選手はチーム出身の平塚吉光さん。高校生になったらインターハイ優勝、そして将来の夢は世界戦チャンピオンになることです。」



"父はピストの元国体選手、今は親子でヒルクライムを楽しんでいます"
MTBクラス 3位 小出正明さん (シルバーウインドサイクリングクラブ)
         小出日生さん (シルバーウインドサイクリングクラブ)


「新潟から来ました。ここは数年前に一度走った経験がありましたが、レースで走るのは初めてです。当初はスバルラインのレースに出ようと思っていたのですが、一日で締め切りになってしまいました。でもあざみラインのほうが面白いかなって思い、エントリーしました。富士山を上るレースとしては4月の表富士、そして今日開催されているスバルラインも走った経験がありますが、ここが一番厳しいですね。途中に休めるところもありません。もし富士山のレースに挑戦したいと思っている方は、スバルライン、表富士、そしてあざみラインの順番で挑戦するのが良いと思います。」と、初心者にアドバイスしてくれた。

親子揃っての記念撮影親子揃っての記念撮影 photo:Haruo.Fukushima

小出さんが自転車レースを始めたきっかけは、お父さんの影響とのこと。そしてそのお父さんの自転車歴はなんと50年以上で、かつてはピスト競技で国体の出場経験もあるベテランサイクリスト。この日もレースがスタートする前に、自走でゴール地点にやって来られたという健脚の持ち主である。そこでお父さん(日生さん)にもお話を伺った。

4月に行われた表富士自転車登山競走大会で、最高齢者としてインタビューを受ける小出日生さん4月に行われた表富士自転車登山競走大会で、最高齢者としてインタビューを受ける小出日生さん photo:Haruo.Fukushima「今日は息子の応援でやって来たんだよ。息子もきっと入賞圏内だと思うからね。今日は写真を撮りながら登って来たけれど、2時間半くらいかかったかな。私も4月の表富士のレースには参加して最高齢者で表彰されちゃったんだけれども、ここはちょっと厳しいからね」。(いやいや、ちょっとどころの厳しさじゃないですよ...。)

国体の経験もあったからこそ、50年以上自転車に乗り続けてこられたという日生さん。来年はひょっとして選手としてのお姿を拝見することになるのでは?と思われるほど、パワー溢れるコメントを頂きました。


ハードなコースにも関わらず、ゴールした選手の誰もが"楽しい"と元気な笑顔を見せてくれた富士山国際ヒルクライム。レースを終えた選手たちはコース脇に集まり、ゴールする選手たちに声援と拍手を送る。そしてJサイクルツアーの迫力あるレースを楽しむことができるのも、このイベントの大きな魅力。来年も多くのチャレンジャーの走りに期待します。

ゴール後はJサイクルツアー観戦を楽しむことができるゴール後はJサイクルツアー観戦を楽しむことができる photo:Haruo.Fukushima下山を待つ選手たち下山を待つ選手たち photo:Haruo.Fukushima





Text&Photo:Haruo.Fukushima