2010/06/11(金) - 15:01
ジロ・デ・イタリア最終日前日、レース総合ディレクターを務めるアンジェロ・ゾメニャン氏にインタビューする機会を得た。強風により落車が多発したオランダ、泥レースが繰り広げられたトスカーナ、大逃げが決まったラクイラ、そして伝説的な山岳ステージ・・・。最高の盛り上がりを見せた今年の第93回大会にゾメニャン氏は大きな満足感を得ている。
大会最後の難関山岳ステージのスタート前、ゾメニャン氏はエスプレッソを片手にレースの素晴らしさを語り始めた。
「今年のジロは最後の最後まで勝負の行方が分からない。それこそレース主催者が望むレース展開だ。オープンな状態(誰にでも総合優勝のチャンスがある状態)が続くことで、興味を示した観客をテレビの前や沿道に集めることが出来る。圧倒的なリーダーが最初から最後まで総合首位に君臨するようなレースは面白くないだろ?」ゾメニャン氏は自信にあふれた表情でそう語る。
2010年のジロは、実にマリアローザの交代が7回も起こった。アムステルダムでウィギンズが獲得したマリアローザは、エヴァンス、ヴィノクロフ、ニーバリ、ヴィノクロフ、ポルト、アローヨ、そしてバッソが受け継ぐことになる。
「我々レース主催者は、退屈なステージが無いように、毎ステージ何か特別なファクターを取り入れた。ステージ優勝者が簡単に予想出来るステージなんて一つもなかったはず。今年は落車の影響もあり、スプリンターたちに勢いが感じられなかった。それだけに連日スタート直後からアタックが続発。毎日違うレース展開が繰り広げられた」。
ゾメニャン氏によると、トスカーナの未舗装区間を走る構想は1年前から練られていた。ゾメニャン氏が予想していたのは、砂埃を巻き上げて選手たちが「白い道」を走る姿。まさか雨が降って泥が舞い、ジャージが判別出来ないような地獄絵図になろうとは予想していなかった。
MTBクロスカントリー出身のカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)は、そんな悪条件の未舗装路で飛び出し、ステージ優勝を飾ってみせた。ちょうど未舗装区間突入前に落車したマリアローザのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)を大きく引き離して。
「モンタルチーノのステージは、今年で開催4回目を迎えるモンテパスキ・ストラーデビアンケのオマージュだ。『特別なレース』をイタリアから世界に発信出来たことに喜びを感じている。選手たちがリアルな表情を見せ、悪路を走る姿こそロードレースの真骨頂。近年ロードレースはドーピング関連のスキャンダルで信頼を失っていた。人間らしい力と力のぶつかり合いを生々しく写し出したことで、ライダーと観客の距離は縮まったはずだ」。
モンタルチーノの泥レースから1週間後、ジロ・デ・イタリアは新たな才能を発掘した。そう、56名の大逃げに乗り、ステージ7位に入ってマリアローザに袖を通したリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)だ。
「ツール・ド・ロマンディの個人タイムトライアルで優勝していたとは言え、アムステルダムにやって来た時点でポルトはほぼ無名選手だった。まだ若い選手だが、常にポルトは前方でレースを展開していた。そのおかげでマリアローザ着用を果たしたんだ」。
ポルトはただ運が良かったという理由でマリアローザを獲得したわけではない。
アムステルダムの個人タイムトライアルでは好走してステージ6位。強風が吹き荒れたステージでも先頭集団に残り、クーネオのチームタイムトライアルでも上位に。モンタルチーノでも上位に入り、大会最初の頂上ゴール・テルミニッロでも大崩れしなかった。
「ポルトが将来グランツールで総合優勝出来るかどうかは誰にも分からない。将来グランツールでの活躍が確約されたような若手選手を過去に何人も見て来たが、それらの選手全員が実際に活躍しているとは限らない。例えば過去にマリアビアンカを獲得したアンディ・シュレクはまだグランツールで勝てていない。だが、ポルトは他の選手とは違うものを感じる。頭脳明晰で強靭なカラダの持ち主だ」。
最終週の難関山岳ステージが姿を現すと、徐々にポルトは総合順位を失った。しかし最後までマリアビアンカを守り抜くことに成功する。
ゾメニャン氏は最終週の山岳シリーズに誇りを持っている。特にモンテゾンコランでの闘いがジロの総合争いを盛り上げる切っ掛けとなった。
「もうゾンコランはモルティローロやステルヴィオ、ポルドイと言ったジロを代表する伝説峠の仲間入りを果たしたと言っていいだろう。ブエルタのアングリルやツールのラルプ・デュエズに並ぶ世界有数の難関山岳だ」。
ゾメニャン氏の頭の中にはすでに来年のコース構想があるはず。今年のように波乱に満ちたコースが用意されるのは間違いないだろう。
text:Gregor Brown
photo&translation:Kei Tsuji
大会最後の難関山岳ステージのスタート前、ゾメニャン氏はエスプレッソを片手にレースの素晴らしさを語り始めた。
「今年のジロは最後の最後まで勝負の行方が分からない。それこそレース主催者が望むレース展開だ。オープンな状態(誰にでも総合優勝のチャンスがある状態)が続くことで、興味を示した観客をテレビの前や沿道に集めることが出来る。圧倒的なリーダーが最初から最後まで総合首位に君臨するようなレースは面白くないだろ?」ゾメニャン氏は自信にあふれた表情でそう語る。
2010年のジロは、実にマリアローザの交代が7回も起こった。アムステルダムでウィギンズが獲得したマリアローザは、エヴァンス、ヴィノクロフ、ニーバリ、ヴィノクロフ、ポルト、アローヨ、そしてバッソが受け継ぐことになる。
「我々レース主催者は、退屈なステージが無いように、毎ステージ何か特別なファクターを取り入れた。ステージ優勝者が簡単に予想出来るステージなんて一つもなかったはず。今年は落車の影響もあり、スプリンターたちに勢いが感じられなかった。それだけに連日スタート直後からアタックが続発。毎日違うレース展開が繰り広げられた」。
ゾメニャン氏によると、トスカーナの未舗装区間を走る構想は1年前から練られていた。ゾメニャン氏が予想していたのは、砂埃を巻き上げて選手たちが「白い道」を走る姿。まさか雨が降って泥が舞い、ジャージが判別出来ないような地獄絵図になろうとは予想していなかった。
MTBクロスカントリー出身のカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)は、そんな悪条件の未舗装路で飛び出し、ステージ優勝を飾ってみせた。ちょうど未舗装区間突入前に落車したマリアローザのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス)を大きく引き離して。
「モンタルチーノのステージは、今年で開催4回目を迎えるモンテパスキ・ストラーデビアンケのオマージュだ。『特別なレース』をイタリアから世界に発信出来たことに喜びを感じている。選手たちがリアルな表情を見せ、悪路を走る姿こそロードレースの真骨頂。近年ロードレースはドーピング関連のスキャンダルで信頼を失っていた。人間らしい力と力のぶつかり合いを生々しく写し出したことで、ライダーと観客の距離は縮まったはずだ」。
モンタルチーノの泥レースから1週間後、ジロ・デ・イタリアは新たな才能を発掘した。そう、56名の大逃げに乗り、ステージ7位に入ってマリアローザに袖を通したリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)だ。
「ツール・ド・ロマンディの個人タイムトライアルで優勝していたとは言え、アムステルダムにやって来た時点でポルトはほぼ無名選手だった。まだ若い選手だが、常にポルトは前方でレースを展開していた。そのおかげでマリアローザ着用を果たしたんだ」。
ポルトはただ運が良かったという理由でマリアローザを獲得したわけではない。
アムステルダムの個人タイムトライアルでは好走してステージ6位。強風が吹き荒れたステージでも先頭集団に残り、クーネオのチームタイムトライアルでも上位に。モンタルチーノでも上位に入り、大会最初の頂上ゴール・テルミニッロでも大崩れしなかった。
「ポルトが将来グランツールで総合優勝出来るかどうかは誰にも分からない。将来グランツールでの活躍が確約されたような若手選手を過去に何人も見て来たが、それらの選手全員が実際に活躍しているとは限らない。例えば過去にマリアビアンカを獲得したアンディ・シュレクはまだグランツールで勝てていない。だが、ポルトは他の選手とは違うものを感じる。頭脳明晰で強靭なカラダの持ち主だ」。
最終週の難関山岳ステージが姿を現すと、徐々にポルトは総合順位を失った。しかし最後までマリアビアンカを守り抜くことに成功する。
ゾメニャン氏は最終週の山岳シリーズに誇りを持っている。特にモンテゾンコランでの闘いがジロの総合争いを盛り上げる切っ掛けとなった。
「もうゾンコランはモルティローロやステルヴィオ、ポルドイと言ったジロを代表する伝説峠の仲間入りを果たしたと言っていいだろう。ブエルタのアングリルやツールのラルプ・デュエズに並ぶ世界有数の難関山岳だ」。
ゾメニャン氏の頭の中にはすでに来年のコース構想があるはず。今年のように波乱に満ちたコースが用意されるのは間違いないだろう。
text:Gregor Brown
photo&translation:Kei Tsuji