2021/05/07(金) - 16:17
前年度覇者が不在の「マリアローザ」を巡る争い。前哨戦を制したサイモン・イェーツや、コンディションが疑問視されるベルナルとエヴェネプール、昨年大会で活躍したアルメイダやヒンドレーなど、ジロ・デ・イタリアの総合優勝候補を紹介します。
トロフェオセンツァフィーネを受け取ったテイオ・ゲイガンハート(イギリス、イネオス・グレナディアーズ) photo:LaPresse
例年通りの5月に戻ってきたジロ・デ・イタリア。その栄誉ある総合優勝者が着用するジャージが、ピンクに彩られたマリアローザだ。
「バラ色ジャージ」と名付けられたマリアローザの由来は、ガゼッタ・デッロ・スポルト紙の紙の色。今年で第104回目を迎える歴史深い大会を主催するのはガゼッタ紙と同じメディアグループのRCSスポルトで、ジャージスポンサーは引き続き元国営の電力会社であるエネル社が務める。
マリアローザはツール・ド・フランスのマイヨジョーヌと同様、各ステージの成績を積算し、そのタイムが最も少ない選手が翌日のステージで着用する。そして最終日を終えた時点でマリアローザを着ている選手がジロ・デ・イタリアの総合優勝の栄冠に輝く。
また各ステージにはボーナスタイムも設定されており、個人TTを除く各ステージの上位3名(1位-10秒、2位-6秒、3位-4秒)と、中間スプリントポイント上位3名(1位-3秒、2位-2秒、3位-1秒)に与えられる。そのため山岳フィニッシュの着順が大きく総合タイムに影響を及ぼすことになる。
ジロ初出場となるエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) (c)CorVos
イネオス・グレナディアーズが2年連続のマリアローザを守るべくエースに選んだのは、昨年王者テイオ・ゲイガンハート(イギリス)ではなくジロ初出場のエガン・ベルナル(コロンビア)。昨年から続く背中の痛みに悩まされながらも、今季はツール・ド・ラ・プロヴァンス総合3位、ストラーデ・ビアンケ2位、ティレーノ~アドリアティコ総合4位と好調をキープ。直近2ヶ月は前哨戦に出場するのではなく、母国コロンビアに戻り高地トレーニングに勤しんだ。「背中の問題も忘れてはならない。一日一日を大切に走れればと思っている」と不安要素に折り合いをつけながらも、プロキャリアをスタートさせた第二の故郷イタリアで、2019年ツールに続く2つ目のグランツール制覇を狙う。
ツアー・オブ・ジ・アルプスで総合優勝を挙げたサイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ) (c)CorVos
怪我明け復帰戦でグランツール初挑戦となるレムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ) (c)CorVos
昨年15日間マリアローザを守ったジョアン・アルメイダ(ポルトガル、ドゥクーニンク・クイックステップ) photo:CorVos
その対抗に挙げられるのが、「やり残した仕事をやり遂げる」ため4年連続のジロに挑むサイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ)。第18ステージで失速しマリアローザが手元からすり抜けていったのは3年前の2018年大会。昨年は新型コロナウイルス感染のため第8ステージでバイクを降りたが、今シーズンはライバル達を退け総合優勝したツアー・オブ・ジ・アルプスの勢いをそのままに、ジロのリベンジに挑む。
本来ならば3人目に挙げるべき状態にないのだが、エースナンバーをつけるレムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)の名前を無視することはできない。グランツール初出場となる21歳は、今年初レースどころか骨盤骨折に見舞われた昨年8月以来の復帰戦をトリノで迎える。「レースに出場せずに100%の準備をするのは不可能だ。しかしそんなリスクも織り込み済みだ」と語るエヴェネプールだが、昨季はステージレース4戦で4度の総合優勝という規格外の走りには、否が応でも期待がかかる。
そんなドゥクーニンク・クイックステップで事実上のエースを担うのは、昨年大会で15日間に渡りマリアローザを着用した22歳のジョアン・アルメイダ(ポルトガル、ドゥクーニンク・クイックステップ)。結果的に山岳ステージで耐えきれず総合4位と苦汁をなめたが、初日と最終日に設定された得意の個人タイムトライアルでマリアローザを狙う。
アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック) (c)Astana–Premier Tech/GettySport
パヴェル・シヴァコフ(ロシア、イネオス・グレナディアーズ) (c)Bettini Photo/Vitesse
優勝候補にロシアの若手アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック)とパヴェル・シヴァコフ(ロシア、イネオス・グレナディアーズ)の2人を挙げる声も少なくない。ウラソフは今季パリ〜ニースとツアー・オブ・ジ・アルプスでそれぞれ総合表彰台に上がる好調を見せ(2位、3位)、それをゴルカ・イサギレ(スペイン)とルイスレオン・サンチェス(スペイン)のベテラン2人が脇を固める。一方2度目のジロ出場となるシヴァコフは、「あくまでも役割はベルナルのアシスト」だと語りながらも「(ベルナルではない)違う選択肢があってもいいと思っている」と自信を伺わせる。
万華鏡模様の特別ジャージで挑むEFエデュケーションNIPPOは、昨年ブエルタ・ア・エスパーニャで総合3位とブレイクしたヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーションNIPPO)がエースを務める。今季は登坂で精彩を欠いているが、自身初となる単独エースという責務を果たせるかが今後の待遇に影響するだろう。
昨年ブエルタで総合3位に入ったヒュー・カーシー(イギリス、EFプロサイクリング)
直前のロマンディで勝利を挙げているマルク・ソレル(スペイン、モビスター) photo:CorVos
ミケル・ランダ(スペイン)と新城幸也(バーレーン・ヴィクトリアス) (c)CorVos
バーレーン・ヴィクトリアスはミケル・ランダ(スペイン)とペリョ・ビルバオ(スペイン)の二枚看板。エースを担うのは昨年ツールで総合4位とグランツールで抜群の安定感を見せるランダだが、今シーズンの走りだけを見れば直前のツアー・オブ・ジ・アルプスでステージ勝利と総合2位に入ったビルバオも侮れない。
チームDSMは2020年大会で最終日に逆転負けを喫したジャイ・ヒンドレー(オーストリア、チームDSM)とロマン・バルデ(フランス)を軸に戦う。またニュージーランド王者ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ユンボ・ヴィスマ)や、マルク・ソレル(スペイン、モビスター)、エマヌエル・ブッフマン(ドイツ)、ダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)らも総合上位に絡んでくるだろう。
なお出場メンバーの中で唯一総合優勝を経験するヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)だが、開幕3週間前のトレーニング中に右手首を骨折。回復途上での強行出場となっているため、総合上位に絡むことは難しそうだ。
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例年通りの5月に戻ってきたジロ・デ・イタリア。その栄誉ある総合優勝者が着用するジャージが、ピンクに彩られたマリアローザだ。
「バラ色ジャージ」と名付けられたマリアローザの由来は、ガゼッタ・デッロ・スポルト紙の紙の色。今年で第104回目を迎える歴史深い大会を主催するのはガゼッタ紙と同じメディアグループのRCSスポルトで、ジャージスポンサーは引き続き元国営の電力会社であるエネル社が務める。
マリアローザはツール・ド・フランスのマイヨジョーヌと同様、各ステージの成績を積算し、そのタイムが最も少ない選手が翌日のステージで着用する。そして最終日を終えた時点でマリアローザを着ている選手がジロ・デ・イタリアの総合優勝の栄冠に輝く。
また各ステージにはボーナスタイムも設定されており、個人TTを除く各ステージの上位3名(1位-10秒、2位-6秒、3位-4秒)と、中間スプリントポイント上位3名(1位-3秒、2位-2秒、3位-1秒)に与えられる。そのため山岳フィニッシュの着順が大きく総合タイムに影響を及ぼすことになる。
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イネオス・グレナディアーズが2年連続のマリアローザを守るべくエースに選んだのは、昨年王者テイオ・ゲイガンハート(イギリス)ではなくジロ初出場のエガン・ベルナル(コロンビア)。昨年から続く背中の痛みに悩まされながらも、今季はツール・ド・ラ・プロヴァンス総合3位、ストラーデ・ビアンケ2位、ティレーノ~アドリアティコ総合4位と好調をキープ。直近2ヶ月は前哨戦に出場するのではなく、母国コロンビアに戻り高地トレーニングに勤しんだ。「背中の問題も忘れてはならない。一日一日を大切に走れればと思っている」と不安要素に折り合いをつけながらも、プロキャリアをスタートさせた第二の故郷イタリアで、2019年ツールに続く2つ目のグランツール制覇を狙う。
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その対抗に挙げられるのが、「やり残した仕事をやり遂げる」ため4年連続のジロに挑むサイモン・イェーツ(イギリス、バイクエクスチェンジ)。第18ステージで失速しマリアローザが手元からすり抜けていったのは3年前の2018年大会。昨年は新型コロナウイルス感染のため第8ステージでバイクを降りたが、今シーズンはライバル達を退け総合優勝したツアー・オブ・ジ・アルプスの勢いをそのままに、ジロのリベンジに挑む。
本来ならば3人目に挙げるべき状態にないのだが、エースナンバーをつけるレムコ・エヴェネプール(ベルギー、ドゥクーニンク・クイックステップ)の名前を無視することはできない。グランツール初出場となる21歳は、今年初レースどころか骨盤骨折に見舞われた昨年8月以来の復帰戦をトリノで迎える。「レースに出場せずに100%の準備をするのは不可能だ。しかしそんなリスクも織り込み済みだ」と語るエヴェネプールだが、昨季はステージレース4戦で4度の総合優勝という規格外の走りには、否が応でも期待がかかる。
そんなドゥクーニンク・クイックステップで事実上のエースを担うのは、昨年大会で15日間に渡りマリアローザを着用した22歳のジョアン・アルメイダ(ポルトガル、ドゥクーニンク・クイックステップ)。結果的に山岳ステージで耐えきれず総合4位と苦汁をなめたが、初日と最終日に設定された得意の個人タイムトライアルでマリアローザを狙う。
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優勝候補にロシアの若手アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ・プレミアテック)とパヴェル・シヴァコフ(ロシア、イネオス・グレナディアーズ)の2人を挙げる声も少なくない。ウラソフは今季パリ〜ニースとツアー・オブ・ジ・アルプスでそれぞれ総合表彰台に上がる好調を見せ(2位、3位)、それをゴルカ・イサギレ(スペイン)とルイスレオン・サンチェス(スペイン)のベテラン2人が脇を固める。一方2度目のジロ出場となるシヴァコフは、「あくまでも役割はベルナルのアシスト」だと語りながらも「(ベルナルではない)違う選択肢があってもいいと思っている」と自信を伺わせる。
万華鏡模様の特別ジャージで挑むEFエデュケーションNIPPOは、昨年ブエルタ・ア・エスパーニャで総合3位とブレイクしたヒュー・カーシー(イギリス、EFエデュケーションNIPPO)がエースを務める。今季は登坂で精彩を欠いているが、自身初となる単独エースという責務を果たせるかが今後の待遇に影響するだろう。
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バーレーン・ヴィクトリアスはミケル・ランダ(スペイン)とペリョ・ビルバオ(スペイン)の二枚看板。エースを担うのは昨年ツールで総合4位とグランツールで抜群の安定感を見せるランダだが、今シーズンの走りだけを見れば直前のツアー・オブ・ジ・アルプスでステージ勝利と総合2位に入ったビルバオも侮れない。
チームDSMは2020年大会で最終日に逆転負けを喫したジャイ・ヒンドレー(オーストリア、チームDSM)とロマン・バルデ(フランス)を軸に戦う。またニュージーランド王者ジョージ・ベネット(ニュージーランド、ユンボ・ヴィスマ)や、マルク・ソレル(スペイン、モビスター)、エマヌエル・ブッフマン(ドイツ)、ダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)らも総合上位に絡んでくるだろう。
なお出場メンバーの中で唯一総合優勝を経験するヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)だが、開幕3週間前のトレーニング中に右手首を骨折。回復途上での強行出場となっているため、総合上位に絡むことは難しそうだ。
歴代マリアローザ獲得選手
2020年 | テイオ・ゲイガンハート(イギリス) |
2019年 | リチャル・カラパス(エクアドル ) |
2018年 | クリストファー・フルーム(イギリス) |
2017年 | トム・デュムラン(オランダ) |
2016年 | ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア) |
2015年 | アルベルト・コンタドール(スペイン) |
2014年 | ナイロ・キンタナ(コロンビア) |
2013年 | ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア) |
2012年 | ライダー・ヘシェダル(カナダ) |
2011年 | ミケーレ・スカルポーニ(イタリア) |
2010年 | イヴァン・バッソ(イタリア) |
2009年 | デニス・メンショフ(ロシア) |
2008年 | アルベルト・コンタドール(スペイン) |
2007年 | ダニーロ・ディルーカ(イタリア) |
2006年 | イヴァン・バッソ(イタリア) |
2005年 | パオロ・サヴォルデッリ(イタリア) |
2004年 | ダミアーノ・クネゴ(イタリア) |
2003年 | ジルベルト・シモーニ(イタリア) |
2002年 | パオロ・サヴォルデッリ(イタリア) |
2001年 | ジルベルト・シモーニ(イタリア) |
2000年 | ステファノ・ガルゼッリ(イタリア) |
1999年 | イヴァン・ゴッティ(イタリア) |
1998年 | マルコ・パンターニ(イタリア) |
1997年 | イヴァン・ゴッティ(イタリア) |
1996年 | パヴェル・トンコフ(ロシア) |
1995年 | トニー・ロミンゲル(スイス) |
1994年 | エフゲニー・ベルツィン(ロシア) |
1993年 | ミゲール・インドゥライン(スペイン) |
1992年 | ミゲール・インドゥライン(スペイン) |
1991年 | フランコ・キオッチォーリ(イタリア) |
1990年 | ジャンニ・ブーニョ(イタリア) |
text:Sotaro Arakawa