2010/06/10(木) - 00:46
世界屈指のチューブメーカーとして名高いデダチャイがプロデュースするフレームブランドがある。それが「デダチャイ ストラーダ」だ。
もともとはOEMを中心とした展開であったが、2010年モデルから自社のフレームブランドとして「デダチャイ ストラーダ」を立ち上げ、フレームメーカーとして本格的に市場に参入している。
デダチャイ ストラーダではチタンフレームを含めると5つのラインナップを展開しているが、この「テメラリオ」は同社のフラッグシップモデルだ。
テメラリオはカーボン、チタン等のチューブ製造およびフレーム成型で培ったデダチャイの優れたテクノロジーを集結したモデルだ。その希有なデザインは、もっとも高いねじれ剛性を提供するために構築されており、ホイールの軸下から生じる遠心力やストレスによるエネルギーロスを排除することに集中し、より正確で効果的なハンドリングを提供するのだという。
凄まじいボリュームのダウンチューブ、立体構造のチェーンステーなど、理路整然とした近代建築を彷彿とさせるデザインのフレーム構造は、たくましい四肢をもつ獣のような躍動感も感じさせる。
メインはカーボンモノコックのフレームながら、いくつもの部材をジョイントしたかのような配置方法。そしてバックステーにはチタンチューブを配置している。
このバックステーはフレーム本体に配置した台座(いわゆるブリッジにあたる箇所)からまっすぐに伸びる。チタンチューブ自体はプレーン管で、指ではじくと乾いた軽い音が響く。かなり薄い肉厚であることが想像できる。
たくましいメインチューブと、チタン製バックステーを組み合わせることで、加速性能と振動吸収性という、相反する性能を両立するための選択である。
テメラリオの設計思想はあくまでも「ピュアレーシング」である。剛性を高めるのに一役買うインテグラルシートポスト、ハンドリング性能を高める上下異径ベアリングを採用したテーパードヘッドチューブなど、最新トレンドの導入も忘れない。
カーボン素材にはハイモジュールカーボンのT800を採用している。これは同級グレードに値するスクーロRSと同様である。形状設計を引き立てる優れた素材といえるだろう。
カーボンフォークはフレームにあわせて製作したパワフルな専用フォークだ。優れたステアリング性能を提供しつつ、クラウンの内側に施されたエアインテークによって整流効果も期待できる。
いくつものギミックや形状を含めボリューム感たっぷりであるが、フレーム重量は1050g(Mサイズ)に留めているのはさすが。ハイエンドモデルといえば1000g以下であるのは当然のように思えるが、あえてこのレベルに落ち着つくことができるのは、950gと軽量な姉妹モデル「スクーロRS」の存在も大きいだろう。
グラフィックもまたフレーム形状を引き立てる工夫が盛り込まれる。ダウンチューブの下側いっぱいにロゴを配置しているのも流行に沿ったもの。そして、あたかもシートチューブを軸に見立てたように、ブラック一色に染め、色鮮やかなチューブ群を添えることでメリハリのあるデザインに仕上がっている。
マスプロダクツの常識を覆すデザイン。一見して奇をてらったようではあるものの、有数のチューブメーカーが真面目に製作したバイクであろう。
価格はぎりぎり40万円を切る398,000円(フレームセット)。けっして手頃とはいえない価格ではあるが、その高いステータス性に触れ、運動性能を体感すれば、価格以上のスペックであることを知るはずだ。
さて、2人のインプレライダーはテメラリオをどのように評価したのだろうか。さっそくインプレッションを紹介しよう。
インプレッション
「ロードバイクの醍醐味『速く、より遠くまで』という思いを満たしてくれる」鈴木祐一(Rise Ride)
まず、すごいなって思いました。今までの自転車にはないデザインで、まるで戦隊モノのアニメに出てきそうな感じ(笑)。フレーム全体にすごくボリュームがあるので、先入観で硬そうなイメージをもってしまいますが、意外にもショックを吸収してくれて、乗り心地は良いといえる。
このフレームの良くできていると感じる部分は乗り心地が良いこと。脚にダメージが残るようなウィップの感じではなく、しなやかさがあるような感覚がある。
しかしながらパワーロスはないという不思議な乗り味も特徴的でしょうか。加速性と振動吸収性を兼ね備える不思議なバイクだ。路面からの突き上げをマイルドにする一方で、踏んだ瞬間に硬く感じることもあるが脚に来ない感じがする。つまり乗りやすいバイクと言える。
相反する能力を両立している運動性能
例えば、硬いフィーリングのフレームは走りは軽いが、イコール振動を伝えやすくなるのが一般的。しなやかで乗り味も良くなってくると、どうしてももたつく傾向にある。このテメラリオはそれぞれのメリットを両立している。一般的なセオリーが当てはまらない自転車とも言えるだろう。
何が影響しているのか? と考察してみると、トータルの設計による部分も多々あると思うが、チタンのバックステーが思いのほか効果的なのだと思う。設計の狙いが的中している気がする。実際に、従来ではサドルに伝わってくるような不快な振動が、思ったほど感じない。
とはいうものの、フレームのキャラクターは使われているカーボン素材や全体の設計に左右されるものなので、そこだけが強い影響を及ぼしているとは言えないが、結果的に高バランスでまとまっているという事実は評価できる。
このバイクならロングツーリングからレースまで幅広く楽しめるだろう。姉妹モデルのスクーロRSに乗ったときに感じた扱いやすさも追求されている。
ロードバイクの醍醐味である「速く、より遠くまで」という思いを満たしてくれる一台だ。
「豪快なフレーム形状が高いパフォーマンスを発揮する」山本健一(バイクジャーナリスト)
過去数年を振り返っても、ここまで形状設計にこだわった近代カーボンバイクは見たことがない。もちろんサイクルショーなどで展示されるモックアップモデルの中にはテメラリオのような形状に凝ったものを見かけることもあるが、実用品としてここまでのレベルに仕上げている市販製品は初めてと言っていいのではないだろうか。
やはりチタンバックステーに目が行く。2000年前半頃はアルミやスチール、チタンといったメインフレームにカーボンバックを配したハイブリッドフレームが流行したが、その反対となるデザインだ。
かつてはカーボンバックステーが振動吸収特性を高めると信じられて、アルミといった金属素材にのメインフレームに組み合わされてきたが、カーボン素材にチタンステーを組み込むことでどのような変化が生じるか非常に興味深いところだ。そういった意味では2010年でもっとも注目すべきトライアルだ。
このような構造のバイクを、極限性能を狙い腕利きのビルダーが命を吹き込んだワンオフバイクではなく、マスプロモデルとしてデダチャイが造り出したという点にも注目すべきだ。
良い意味で見た目に反するオールラウンドバイク
見事なまでのチューブのボリューム。ダウンチューブとチェーンステーの迫力は、従来のロードバイクの常識を超えたシロモノだ。その形状どおり、パワフルなライディングを可能にしている。
軽快な踏み出しの加速力と、中速域からのスピードの伸びも気持ちがいい。この形状から上りは苦手だろうと推測していたけれど、見事に裏切られた。
シッティングでのペダリングはギヤが一枚軽く感じるほど軽快に回せる。ダンシングではやや挙動が軽く、オーバーアクションになる場面もあったが、アッセンブルされたホイール(ライトウェイト)の軽さの影響も大いにあるだろう。
そして下りでの安定性も高い。頼もしいフォークがステアリングの精度をしっかりと出すので、下りを楽しめた。精神的にも余裕を生み出す要素をもっている。
高い剛性レベルと、スタビリティの高さを兼ね備えるバイクで、レース向きのスペックと言えるだろう。馬力があるサイクリストにオススメしたいが、大会出場を目指し、目標は優勝! というレース志向派にもうってつけだ。ストイックにトレーニングに励むような人にも良いはず。
フレーム重量は1050gと、今でこそ超軽量の部類ではないけれど、十分に軽く、剛性も確保されている。このパワーロスの少なさを利用して、あえてヒルクライムバイクとして活用しても面白いかもしれない。
デダチャイ ストラーダ TEMERARIO スペック
カーボンフォーク:トップ1-1/8ボトム:1-1/2インテグラルオーバーサイズ 、オリジナルHP、I.S.P.アダプター付き
カーボンモノコック軽量カーボンフォーク
フレームマテリアル:カーボンモノコック+チタン、ハイモジュラスカーボンT800
サイズ:510、526、550、576
重量:1050g(フレーム単体)
カラー:レッド、シルバー、グリーン
希望小売価格:39万8000円(税込/フレームセット)
インプレライダーのプロフィール
鈴木 祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
山本健一(バイクジャーナリスト)
身長187cm、体重68kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質はどちらかといえばスピードマンタイプで上りは苦手。1000mタイムトライアル1分10秒(10年前のベストタイム)がプチ自慢。インプレッションはじめ製品レビューなどがライフワーク的になっている。インプレ本のバイブル、ロードバイクインプレッション(エイ出版社)の統括エディターもつとめる。
ウェア協力:ETXE ONDO(エチェオンド)(サイクルクリエーション)
text&edit :Kenichi.YAMAMOTO
photo:Makoto.AYANO
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