2021/03/14(日) - 13:56
カナダに拠点を構えるアルゴン18が展開するエンデュランスロードのKrypton Proをインプレッション。アップライトなポジションにフォーカスしたジオメトリーでエンデュランス性能を確保しつつ、フラッグシップバイクと同じカーボンを採用することで、レーシングバイクとしての反応性を実現した1台だ。
2015年にボーラ・アルゴン18に機材供給を開始し、近年までアスタナをサポート。GalliumやNitrogenでグランツールを戦い、レーシングバイクブランドとして知名度を高めてきたアルゴン18。
ブランドのルーツを遡ると元レーサーであるジュルベー・リューが経営するサイクルショップのオリジナルブランドに辿り着く。経営難に陥ったショップを引き継いだリュー氏は、選手時代の経験とノウハウを活かしアルゴン18の知名度を上げた。そして、1998年にインターバイクに出展したことで、北米からヨーロッパ、オセアニア、アジアへと広がるグローバルブランドへと進化を続けたブランドだ。
ブランドが進歩した背景には「Optimal Balance(最適化されたバランス)」というコンセプトと、それを基礎とした「乗りやすく速いスポーツバイク」の開発がある。ジオメトリー、剛性、快適性、ハンドリングといった性能を状況、選手のライディングスタイルに合わせるために、アルゴン18は自社での研究開発にこだわっているのだ。
その結果として先述したUCIワールドチームとともにグランツールに出場し、世界最高峰の舞台へと登りつめた。また、レースでの活躍を語る上で外せないのは、トラックやトライアスロンでの結果だ。特にトラックでは強豪オーストラリアやデンマークのナショナルチームに機材を供給し、アルゴン18のバイクで次々と記録を打ち立てているほど。
「イノベーションとレースDNAこそがアルゴン18」とはセールスマネージャーのジェフ・ハモンド氏の言葉。モントリオールにあるラボには様々なテスト機材が設置されており、悪路での振動減衰を測定する機械も導入されている。そこで性能が鍛えられたバイクが、今回紹介するKrypton Pro(クリプトン・プロ)だ。
Kryptonシリーズはいわゆるエンデュランスロードというカテゴリーに属しているバイクだが、Krypton Proはレーススペックであることがポイント。レースバイクでお馴染みのGalliumやNitrogenもプロ選手達が使う物はProグレードで、軽量かつ高剛性のバイクに仕立てられており、Krypton Proも同じようにレースユースにフィットしたバイクとして、カーボンレイアップが煮詰められた。
結果としてKrypton Proはフレーム870g/フォーク380gという軽量性を獲得。セカンドグレードのKrypton CSのフレーム1308g/フォーク489gと比較すると大幅なダイエットが果たされていると言える。また、重量面で洗練されたことで、登坂での戦闘力が高められていると期待できるだろう。
エンデュランスロードには欠かせない振動吸収性についてもカーボンレイアップ設計の面からも追求されたという。もちろんルックスからも伝わるように大胆にベンドするフロントフォークや扁平したトップチューブといった形状からも衝撃吸収性に関するアプローチも行われている。これらを組み合わせて生み出されたフレームは、先述した振動減衰を計測できる試験機と実地でのテストを経て、コンフォート性能が煮詰められているという。
また、レーシングブランドと自認するアルゴン18だけあり、Kryptonシリーズはエアロダイナミクスに配慮したチューブ形状とされた。さらにKrypton Proでは特殊形状のステム下部からケーブルを内装するシステムが採用され、通常モデルよりもさらに空力特性を強化されていることも注目のポイントだ。
アルゴン18はグローバルサイトでKrypton Proが適しているフィールドは、グランフォンドやクラシックと説明している。石畳のクラシックは想像の通りだと思うが、海外の荒れた路面でのホビーの長距離レースではスパルタンな性能だけではなく、Kryptonのようなコンフォートさが求められるのだろう。
ジオメトリーも前傾になりすぎない設計とされており、長距離・長時間のライドでも負担になりにくいはず。もちろんアルゴン独自の3Dヘッドチューブによって、ヘッド剛性を確保されているため、どのようなハンドルの高さにセットしてもアルゴン18のOptimal Balanceを感じられる。
タイヤクリアランスは34mmまでとレーシングバイクとしては非常に広め。細めのグラベルやシクロクロスタイヤも履けるため、オフロード遊びでも走りを求めたい方までカバーしてくれるだろう。
そんなKrypton Proをなるしまフレンドの藤野智一、ペダリストの福本元がテスト。パリ〜ルーベの実戦にも投入されたエンデュランスレーサーを二人はどう評価するのか。それではインプレッションに移ろう。
― インプレッション
「ヒルクライムバイクかと思うほど、走りが軽いエンデュランスバイク」藤野智一(なるしまフレンド)
エンデュランスロードにカテゴライズされるバイクですが、乗ってみた感じは非常に軽くてヒルクライム向けのバイクかと思いました。見た目から受けるイメージのまま乗ってみたら軽いし、硬いので、途中で停車して自転車を持ち上げてみたんですよ。そうしたら、手に持ってみても軽い。
登りのフィーリングも重量の軽さと高剛性が相まって、シャキシャキとしたフィーリングで走れますし、エンデュランスというよりは軽さを利用したヒルクライム系バイクと思います。長距離かつ獲得標高差が大きいコースにぴったりかもしれませんね。
ただ、スピードが落ちるやや勾配のある登りで感じたことなんですけど、ダンシングをしている時に車体の挙動に癖があります。ヘッドが立っているのに、フォークがベンドしている設計や、BBハンガーが高い位置にあるジオメトリーの影響でしょう。スピードが乗っている時は癖を感じないので、ゆっくりなスピードで走る時に現れる性格の1つです。ハイスピードを維持したまま、乗り越えられる坂は得意でしょうね。
踏み込んだ瞬間の加速感を活かせると非常に気持ちよく進んでくれる印象です。例えば、踏み出しではその加速感が軽快さを感じさせるんですよね。一方で、瞬間的な加速感であるがゆえに、高速域からのスプリントの場合はスピードの伸びに物足りなさを感じます。そういった部分でエアロのスプリントマシンではなく、エンデュランスマシンであることを思い出させてくれます。
このバイクが得意とするところは、高いスピード域を維持する巡航です。これが凄く良い。重いギアを低めのケイデンスで踏んでいくと、いいペース、35km/hくらいになると自転車が軽く前に進んでくれるような感覚で巡航が楽しめます。足が回ってきたら、ギアを重くして、ケイデンスが高くなりすぎないように気を配ることが、この自転車で気持ちよく走るコツですかね。
エンデュランス系の自転車は低重心で地面を這うように進むフィーリングをイメージする方もいるかもしれませんが、Krypton Proに関しては重心は高めで、コーナリング中はハンドルの軽さが気になります。フレーム自体は剛性がしっかりしているので、柔らかくて怖さを感じることはありませんが、車体の挙動が独特なんですよね。
乗り心地に関しても、剛性が高めのスコープが試乗車にアセンブルされていた影響もあり、意外と硬いという印象です。タイヤやホイールのセッティング次第で煮詰めていきたいですね。フレーム重量が軽いので軽量なホイールを装着して、登りにフォーカスしてもいいですし、40mmハイトくらいのホイールをアセンブルして巡航スピードを高めても良いと思います。
アルゴン18の自転車は3Dヘッドチューブのおかげでポジション調整をしても剛性は変わらないですし、低めのセッティングもできるんですよね。Galliumの話ですが、それのおかげでポジションを出せたという方もいます。チェーンキャッチャーがネジ止めであったり、内装システムもステムの下にケーブルを這わせる方式であったりと、細かい部分で親切さを感じられるバイクですね。
「ポジションやセッティングを突き詰めると面白い」福本元(ペダリスト)
想像以上に軽やかな自転車というのが率直な感想です。エンデュランス、ロングライドを目的とした自転車だと思うんですけど、マシン単体の剛性だけで考えるとレーシーな雰囲気があり、どのようなサイクリストが乗ったとしても剛性不足を感じることは少ないでしょう。
ショートリーチ、ヘッドが長い設計によるアップライトなポジションはエンデュランスバイクらしいです。長時間サドルの上に座り続けても腰が痛くなりにくいというのはメリットなので、まさにコンセプト通りと言ったところでしょうか。
フレームが高剛性かつ軽量なおかげもあり入力に対してキビキビと反応してくれるので、40km/hを超えるスピード域までカバーしてくれる印象があります。そういう高速域で走ろうとすると前傾姿勢を取りたくなってしまいますが、ジオメトリーの影響で上体は起き上がりがちなんですよね。
ポジションだけで考えると20~25km/hほどが気持ちよさそうなんですけど、フレームとしては楽な姿勢で速いスピードを出せるというコンセプトを感じさせます。ポジションによるエアロダイナミクスを気にせず力でガンガン踏み込める人が、エンデュランスバイクを突き詰めようとすると面白さが出てくると思います。
ただパワーを出せば解決というわけでもなく、フレームが非常に硬いので、綺麗なペダリングかつケイデンスを保つことが、この自転車で長距離を走り切るためには必要だと感じています。登りでも自分が気持ち良いと思うケイデンスを保ちながら登っていったほうが良さそうです。勾配がきついところでもダンシングではなくシッティングで淡々と回していくペダリングのほうが進ませやすいですね。
ライド中は同じポジションで、同じ様なペースで乗ると活きるバイクです。軽さも武器となるので、ロングライドをメインに楽しんでいて軽さを捨てられない方にはフィットするのかなと感じます。
エンデュランスバイクというと直進安定性が強く、コーナリングでは緩やかな挙動というイメージがありますが、Krypton Proではホイールベースが長いことによる曲がりにくさみたいな癖はありませんでした。もちろんハンドル位置は高めである影響はありますが、その点を考慮して突き詰めていくバイクだと思います。
今回の試乗車はスコープのホイールとミシュランのPOWER ROADといったレース用パーツが装着されていて、それらによる印象であることも忘れてはならないと思いました。シャープな加速感などが際立つバイクになりますが、異なる性格のホイールをアセンブルするとまた変わった印象になるかと思います。
例えば、カンパニョーロのBORA WTOシリーズやSHAMAL CARBONは良いかもしれませんね。他にもチューブレスタイヤや、ラテックスチューブとしてあげることで、乗り心地の良さを引き立てられるでしょう。
エンデュランス系のバイクだとポジションやセッティングを煮詰めて乗るというイメージは少ないでしょう。Krypton Proの場合はレーシーな走行感とアップライトなポジションについて突き詰めることができれば、フラッグシップ級のカーボンを使っていて質が良く、フレーム設計の良さを引き出せるでしょう。
アルゴン18 KRYPTON PRO
フレーム重量:870g
フォーク重量:380g
カラー:BLACK
サイズ:XXS・XS・S・M
価格:410,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
藤野智一(なるしまフレンド)
92年のバルセロナ五輪ロードレースでの21位を皮切りに、94/97年にツール・ド・おきなわ優勝、98/99年は2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦歴を持つ。引退してからはチームブリヂストンアンカーで若手育成に取り組み同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。ブリヂストン時代にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ。
なるしまフレンド神宮店
CWレコメンドショップページ
福本元(ペダリスト ピナレロショップ青山)
東京都港区に構えるペダリスト ピナレロショップ青山の店長。中学生からロードバイクを楽しみ、高校に上がるとともに競技生活をスタート。実業団レースでE1まで昇格し、富士ヒルクライムでゴールドを獲得したレーサー。その経験を活かし、ショップではスクールなども担当。接客のモットーは「要望を実現できる方法を考える」こと。
ペダリスト ピナレロショップ青山
CWレコメンドショップページ
ウェア協力:カステリ
text:Gakuto Fujiwara
photo:Kenta Onoguchi、Makoto AYANO
2015年にボーラ・アルゴン18に機材供給を開始し、近年までアスタナをサポート。GalliumやNitrogenでグランツールを戦い、レーシングバイクブランドとして知名度を高めてきたアルゴン18。
ブランドのルーツを遡ると元レーサーであるジュルベー・リューが経営するサイクルショップのオリジナルブランドに辿り着く。経営難に陥ったショップを引き継いだリュー氏は、選手時代の経験とノウハウを活かしアルゴン18の知名度を上げた。そして、1998年にインターバイクに出展したことで、北米からヨーロッパ、オセアニア、アジアへと広がるグローバルブランドへと進化を続けたブランドだ。
ブランドが進歩した背景には「Optimal Balance(最適化されたバランス)」というコンセプトと、それを基礎とした「乗りやすく速いスポーツバイク」の開発がある。ジオメトリー、剛性、快適性、ハンドリングといった性能を状況、選手のライディングスタイルに合わせるために、アルゴン18は自社での研究開発にこだわっているのだ。
その結果として先述したUCIワールドチームとともにグランツールに出場し、世界最高峰の舞台へと登りつめた。また、レースでの活躍を語る上で外せないのは、トラックやトライアスロンでの結果だ。特にトラックでは強豪オーストラリアやデンマークのナショナルチームに機材を供給し、アルゴン18のバイクで次々と記録を打ち立てているほど。
「イノベーションとレースDNAこそがアルゴン18」とはセールスマネージャーのジェフ・ハモンド氏の言葉。モントリオールにあるラボには様々なテスト機材が設置されており、悪路での振動減衰を測定する機械も導入されている。そこで性能が鍛えられたバイクが、今回紹介するKrypton Pro(クリプトン・プロ)だ。
Kryptonシリーズはいわゆるエンデュランスロードというカテゴリーに属しているバイクだが、Krypton Proはレーススペックであることがポイント。レースバイクでお馴染みのGalliumやNitrogenもプロ選手達が使う物はProグレードで、軽量かつ高剛性のバイクに仕立てられており、Krypton Proも同じようにレースユースにフィットしたバイクとして、カーボンレイアップが煮詰められた。
結果としてKrypton Proはフレーム870g/フォーク380gという軽量性を獲得。セカンドグレードのKrypton CSのフレーム1308g/フォーク489gと比較すると大幅なダイエットが果たされていると言える。また、重量面で洗練されたことで、登坂での戦闘力が高められていると期待できるだろう。
エンデュランスロードには欠かせない振動吸収性についてもカーボンレイアップ設計の面からも追求されたという。もちろんルックスからも伝わるように大胆にベンドするフロントフォークや扁平したトップチューブといった形状からも衝撃吸収性に関するアプローチも行われている。これらを組み合わせて生み出されたフレームは、先述した振動減衰を計測できる試験機と実地でのテストを経て、コンフォート性能が煮詰められているという。
また、レーシングブランドと自認するアルゴン18だけあり、Kryptonシリーズはエアロダイナミクスに配慮したチューブ形状とされた。さらにKrypton Proでは特殊形状のステム下部からケーブルを内装するシステムが採用され、通常モデルよりもさらに空力特性を強化されていることも注目のポイントだ。
アルゴン18はグローバルサイトでKrypton Proが適しているフィールドは、グランフォンドやクラシックと説明している。石畳のクラシックは想像の通りだと思うが、海外の荒れた路面でのホビーの長距離レースではスパルタンな性能だけではなく、Kryptonのようなコンフォートさが求められるのだろう。
ジオメトリーも前傾になりすぎない設計とされており、長距離・長時間のライドでも負担になりにくいはず。もちろんアルゴン独自の3Dヘッドチューブによって、ヘッド剛性を確保されているため、どのようなハンドルの高さにセットしてもアルゴン18のOptimal Balanceを感じられる。
タイヤクリアランスは34mmまでとレーシングバイクとしては非常に広め。細めのグラベルやシクロクロスタイヤも履けるため、オフロード遊びでも走りを求めたい方までカバーしてくれるだろう。
そんなKrypton Proをなるしまフレンドの藤野智一、ペダリストの福本元がテスト。パリ〜ルーベの実戦にも投入されたエンデュランスレーサーを二人はどう評価するのか。それではインプレッションに移ろう。
― インプレッション
「ヒルクライムバイクかと思うほど、走りが軽いエンデュランスバイク」藤野智一(なるしまフレンド)
エンデュランスロードにカテゴライズされるバイクですが、乗ってみた感じは非常に軽くてヒルクライム向けのバイクかと思いました。見た目から受けるイメージのまま乗ってみたら軽いし、硬いので、途中で停車して自転車を持ち上げてみたんですよ。そうしたら、手に持ってみても軽い。
登りのフィーリングも重量の軽さと高剛性が相まって、シャキシャキとしたフィーリングで走れますし、エンデュランスというよりは軽さを利用したヒルクライム系バイクと思います。長距離かつ獲得標高差が大きいコースにぴったりかもしれませんね。
ただ、スピードが落ちるやや勾配のある登りで感じたことなんですけど、ダンシングをしている時に車体の挙動に癖があります。ヘッドが立っているのに、フォークがベンドしている設計や、BBハンガーが高い位置にあるジオメトリーの影響でしょう。スピードが乗っている時は癖を感じないので、ゆっくりなスピードで走る時に現れる性格の1つです。ハイスピードを維持したまま、乗り越えられる坂は得意でしょうね。
踏み込んだ瞬間の加速感を活かせると非常に気持ちよく進んでくれる印象です。例えば、踏み出しではその加速感が軽快さを感じさせるんですよね。一方で、瞬間的な加速感であるがゆえに、高速域からのスプリントの場合はスピードの伸びに物足りなさを感じます。そういった部分でエアロのスプリントマシンではなく、エンデュランスマシンであることを思い出させてくれます。
このバイクが得意とするところは、高いスピード域を維持する巡航です。これが凄く良い。重いギアを低めのケイデンスで踏んでいくと、いいペース、35km/hくらいになると自転車が軽く前に進んでくれるような感覚で巡航が楽しめます。足が回ってきたら、ギアを重くして、ケイデンスが高くなりすぎないように気を配ることが、この自転車で気持ちよく走るコツですかね。
エンデュランス系の自転車は低重心で地面を這うように進むフィーリングをイメージする方もいるかもしれませんが、Krypton Proに関しては重心は高めで、コーナリング中はハンドルの軽さが気になります。フレーム自体は剛性がしっかりしているので、柔らかくて怖さを感じることはありませんが、車体の挙動が独特なんですよね。
乗り心地に関しても、剛性が高めのスコープが試乗車にアセンブルされていた影響もあり、意外と硬いという印象です。タイヤやホイールのセッティング次第で煮詰めていきたいですね。フレーム重量が軽いので軽量なホイールを装着して、登りにフォーカスしてもいいですし、40mmハイトくらいのホイールをアセンブルして巡航スピードを高めても良いと思います。
アルゴン18の自転車は3Dヘッドチューブのおかげでポジション調整をしても剛性は変わらないですし、低めのセッティングもできるんですよね。Galliumの話ですが、それのおかげでポジションを出せたという方もいます。チェーンキャッチャーがネジ止めであったり、内装システムもステムの下にケーブルを這わせる方式であったりと、細かい部分で親切さを感じられるバイクですね。
「ポジションやセッティングを突き詰めると面白い」福本元(ペダリスト)
想像以上に軽やかな自転車というのが率直な感想です。エンデュランス、ロングライドを目的とした自転車だと思うんですけど、マシン単体の剛性だけで考えるとレーシーな雰囲気があり、どのようなサイクリストが乗ったとしても剛性不足を感じることは少ないでしょう。
ショートリーチ、ヘッドが長い設計によるアップライトなポジションはエンデュランスバイクらしいです。長時間サドルの上に座り続けても腰が痛くなりにくいというのはメリットなので、まさにコンセプト通りと言ったところでしょうか。
フレームが高剛性かつ軽量なおかげもあり入力に対してキビキビと反応してくれるので、40km/hを超えるスピード域までカバーしてくれる印象があります。そういう高速域で走ろうとすると前傾姿勢を取りたくなってしまいますが、ジオメトリーの影響で上体は起き上がりがちなんですよね。
ポジションだけで考えると20~25km/hほどが気持ちよさそうなんですけど、フレームとしては楽な姿勢で速いスピードを出せるというコンセプトを感じさせます。ポジションによるエアロダイナミクスを気にせず力でガンガン踏み込める人が、エンデュランスバイクを突き詰めようとすると面白さが出てくると思います。
ただパワーを出せば解決というわけでもなく、フレームが非常に硬いので、綺麗なペダリングかつケイデンスを保つことが、この自転車で長距離を走り切るためには必要だと感じています。登りでも自分が気持ち良いと思うケイデンスを保ちながら登っていったほうが良さそうです。勾配がきついところでもダンシングではなくシッティングで淡々と回していくペダリングのほうが進ませやすいですね。
ライド中は同じポジションで、同じ様なペースで乗ると活きるバイクです。軽さも武器となるので、ロングライドをメインに楽しんでいて軽さを捨てられない方にはフィットするのかなと感じます。
エンデュランスバイクというと直進安定性が強く、コーナリングでは緩やかな挙動というイメージがありますが、Krypton Proではホイールベースが長いことによる曲がりにくさみたいな癖はありませんでした。もちろんハンドル位置は高めである影響はありますが、その点を考慮して突き詰めていくバイクだと思います。
今回の試乗車はスコープのホイールとミシュランのPOWER ROADといったレース用パーツが装着されていて、それらによる印象であることも忘れてはならないと思いました。シャープな加速感などが際立つバイクになりますが、異なる性格のホイールをアセンブルするとまた変わった印象になるかと思います。
例えば、カンパニョーロのBORA WTOシリーズやSHAMAL CARBONは良いかもしれませんね。他にもチューブレスタイヤや、ラテックスチューブとしてあげることで、乗り心地の良さを引き立てられるでしょう。
エンデュランス系のバイクだとポジションやセッティングを煮詰めて乗るというイメージは少ないでしょう。Krypton Proの場合はレーシーな走行感とアップライトなポジションについて突き詰めることができれば、フラッグシップ級のカーボンを使っていて質が良く、フレーム設計の良さを引き出せるでしょう。
アルゴン18 KRYPTON PRO
フレーム重量:870g
フォーク重量:380g
カラー:BLACK
サイズ:XXS・XS・S・M
価格:410,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
藤野智一(なるしまフレンド)
92年のバルセロナ五輪ロードレースでの21位を皮切りに、94/97年にツール・ド・おきなわ優勝、98/99年は2年連続で全日本選手権優勝など輝かしい戦歴を持つ。引退してからはチームブリヂストンアンカーで若手育成に取り組み同チームの監督を務めた。2012年より出身チームのなるしまフレンドに勤務し、現在は神宮店の店長を務める。ブリヂストン時代にはフレームやタイヤの開発ライダーも務め、機材に対して非常に繊細な感覚を持つ。
なるしまフレンド神宮店
CWレコメンドショップページ
福本元(ペダリスト ピナレロショップ青山)
東京都港区に構えるペダリスト ピナレロショップ青山の店長。中学生からロードバイクを楽しみ、高校に上がるとともに競技生活をスタート。実業団レースでE1まで昇格し、富士ヒルクライムでゴールドを獲得したレーサー。その経験を活かし、ショップではスクールなども担当。接客のモットーは「要望を実現できる方法を考える」こと。
ペダリスト ピナレロショップ青山
CWレコメンドショップページ
ウェア協力:カステリ
text:Gakuto Fujiwara
photo:Kenta Onoguchi、Makoto AYANO
リンク
Amazon.co.jp