2021/01/20(水) - 12:15
アメリカ・カリフォルニアのMTB専業ブランドであるサンタクルズのE-MTB、Heckler(ヘックラー)をインプレッション。27.5インチホイールを採用し、150mmのサスペンショントラベルでトレイルを走る性能を追求した本格派E-MTBだ。
MTB専業メーカーとして高い人気を誇るアメリカ・カリフォルニア州発祥のMTBブランド、SANTA CRUZ(サンタクルズ)。幅広いモデル・ラインナップを揃える展開でマニアの心をつかむオフロードバイク界のリーディングブランドだ。今回紹介するHecklerは同社が初めてリリースするE-MTBだ。
Hecklerは150mmストロークのサスを備えたフルサスモデル。スウィングアームまでフルカーボンのフレームは27.5インチホイールに最適化されて設計。モーターユニットにはシマノ製を搭載している。Hecklerは同社のモーター無しのMTBモデルで言えばグラヴィティ系モデルのBRONSON(ブロンソン)に相当する。アンチスクワットを低くするように調整され、27.5インチホイール採用により機敏な動きと操る楽しさを追求したダウンヒルモデルだ。
同社が近年マイナーチェンジにより続々と採用を進めるロワーリンク式リアサスペンションはHecklerにも搭載される。リンク構造にVPP(Virtual Pivot Point)システムを搭載、より低重心化を図ることでより路面追従性の高い俊敏な動きを実現している。バッテリーはダウンチューブ下側のカバー内に収納され、取り外して走ることも可能だ。
27.5インチホイールは最大タイヤ幅2.8までの27.5プラス規格までに対応。今回テストする完成車はスラムNX EAGLEコンポ採用モデルのHeckler 8。アセンブルされるサスペンションは前がロックショックスYARI RC、後がSuper Deluxe Selectだ。
今回は同社の新モデル「5010(フィフティーテン)」のインプレッションも担当してくれた三上和志さん(サイクルハウスMIKAMI)が、神奈川県小田原市のMTBパーク「フォレストバイク」のトレイルで一日フルに乗ってテストしてくれた。
「27.5はファン(楽しい)サイズ」として、走破性や速さだけではない、操る楽しさを追求する27.5インチモデルを幅広く揃えるサンタクルズならではの設計が生かされているHeckler。欧米では早くも人気沸騰のモデルとなっているE-MTBの実力を探ってみた。
―インプレッション
前回インプレを担当した5010が非常に好印象で、かつ5010と同系統のアクションバイクであるHecklerでのライドを楽しみにしていました。MTBパーク「フォレストバイク」でのライドの前にも地元のフィールドである自然の里山トレイルで走り回り、それ以上の限界性能を確かめようとゲレンデに持ち込んでみました。また今回は普段乗り込んでいるスペシャライズドのLEVO SL COMPも持ち込み、乗り比べながらのライドとしました。
Hecklerは150mmのロングストロークのDH系トレイルバイクにモーターを備えるだけあってバイク自体はさすがに重量感たっぷりです。それでも取り回しがいいのは27.5インチバイクだからですね。走らせてみた印象は、22kgというその重量をまったく感じさせないほど機敏な動きが可能なE-MTBだということ(LEVOは19kg)。
ダニー・マッカスキルがYOUTUBE動画でHecklerに乗ってぴょんぴょんと跳ね回っていますが、さすがにジャンプしてヒネりを入れるといったアクションは大変です。しかし地形のままにトレイルを走り、ジャンプで飛ぶといった走りには安定感ばっちり。動きは軽く、車重があることのメリットも感じます。重量があることによって常にサスペンションが沈み込んで路面の凸凹に追従し、グリップしながら走ることができるんです。重心の低い、安定した乗り方ができます。E-Bikeでもバイクが軽いことが大事だと思っていたのですが、これは発見でした。
ロングストロークなサスペンションと、ハイスペックなホイール&タイヤもバランスが良く、上りも下りも攻めて楽しむことができます。パワフルなユニットと容量のあるバッテリーで、パワー枯渇を気にすること無く、バイクの能力に助けられて一日中トレイルライドを楽しむことができます。
サスは150mmストロークで、ベースとなっているBRONSONと同じくダウンヒル性能を高めたモデルです。ハイグリップなDHタイヤを装着し、軽量化よりも重ためのパーツがアッセンブルされたグラヴィティモデル。レーシングバイクではなく、27.5インチの機敏さとサスのロングストロークを活かしてパークのゲレンデの下りを楽しもうといったライディングに最適で、激しくコーナーを攻めるダウンヒルを楽しもうというバイクです。そういった走りが得意な人なら高性能を引き出せるでしょう。
先日ロードバイクが趣味のMTB初心者にHecklerに乗ってもらい、MTBに乗る私と一緒にトレイルへと入ってもらったのですが、激坂登りや木の根っこなど難セクションにもかかわらず、10年ぶりにMTBに乗るというその友人は難なくクリア。しかもハイパワーモードでガンガン登って私についてきました。パワーと高スペックがテクニック不足をカバーしてくれて、オフロード初心者でも楽しくライドできるのです。
パワフルさのおかげで、楽さ以上にパワーを活用して難しいセクションを登る楽しみがあります。トラクションはパワフルだが、細やかではないのはシマノ製ユニットの特徴。出力の立ち上がりがやや急で、足を止めたところからでも漕ぎ出すと一気にパワーがかかるので、ゼロ発進に苦労しない反面、バイクが飛び出すことも。上りコーナーでもパワーがかかりすぎることからのコースアウト、なんてことも起きます。しかしそれを差し引いてもどこでも登ってしまうパワーがある。
バイク重量がデメリットとなるシチュエーションは「ステアケース」、つまり高さのある段差を登るようなとき。前輪がクリアできても後輪を上げる際にペダリングを一瞬止めるとアシストも切れてしまい、つっかえてしまう。ペダルを回しながら登るときはガンガン行くけど、そうしたケースはバイクを手で持ち上げることも。そこは戸惑うポイントです。なだらかなコースでスピードが出て、アシストが切れる状況が続く場合も車重の重さが気になります。
先日、スペシャLEVOと一緒に山の中を30km、獲得標高1000mといった激しめのトレイルライドをして、LEVOのバッテリー残量が25%に対して、Hecklerは65%残っていました。まだまだ走れる電池容量があるということで、ハイパワーでの一日中のライドも可能ということ。LEVOは拡張バッテリーをつけることができますが、それでもHecklerの大容量には及ばないでしょう。
LEVOはあくまで人間のパワー不足を補って助けてくれるアシスト力が好評ですが、HecklerはEパワーをメインに操ることを楽しめるパワフルさです。そういう意味で脚力の劣る初心者も助けてくれるE-MTBとも言えるでしょう。リフトやゴンドラなどの搬送の無いMTBパーク/ゲレンデライドにはいちばんマッチするでしょう。
搬送のあるゲレンデなら、バッテリーを外して走ることもできます(LEVOはモーターを外さないとバッテリーが取れない構造)。モーターの重さは残るけれど、ダウンヒルコースなら軽量化した状態で楽しめるでしょう。ただし少しでも登り返しやスピードの(20km以下に)落ちるペダリングセクションがあるならバッテリーはそのままに、時々でもEパワーを活かすのが良さそう。
登りが楽しくなるのがE-MTB。このパワフルさを活かした乗り方がしたくなるもの。トレイルカッターなどのMTBガイドツアーも、シングルトラックの下りを逆走して上りの時間も楽しもうというツアーを考案中だとか。パークでも林道やダブルトラックをダラダラと登るのでなく、テクニックが必要な難しい上りコースを楽しむというコース設定も考えられ始めています。乗るフィールドの問題が常につきまとうE-MTBですが、そうした展開は追い風になりそうです。
E-MTBは荷物を背負っていても問題なくパワフルに走れるから、トレイルを整備するのにも使えるんです。実際、各地のトレイルビルダーやゲレンデ管理者の仲間たちはE-MTBを活用してトレイル整備を行っていて、チェーンソーなど必要な道具を自走で担ぎ上げて作業しています。E-MTBがトレイルに与える高負荷を懸念していた反面、トレイルを直したり整備したりすることにも使いやすいので、こんなパワフルなE-MTBを手にしたら、ぜひ積極的にトレイルメンテンナンス活動にも参加して欲しいものです。
MTB専業メーカーとして高い人気を誇るアメリカ・カリフォルニア州発祥のMTBブランド、SANTA CRUZ(サンタクルズ)。幅広いモデル・ラインナップを揃える展開でマニアの心をつかむオフロードバイク界のリーディングブランドだ。今回紹介するHecklerは同社が初めてリリースするE-MTBだ。
Hecklerは150mmストロークのサスを備えたフルサスモデル。スウィングアームまでフルカーボンのフレームは27.5インチホイールに最適化されて設計。モーターユニットにはシマノ製を搭載している。Hecklerは同社のモーター無しのMTBモデルで言えばグラヴィティ系モデルのBRONSON(ブロンソン)に相当する。アンチスクワットを低くするように調整され、27.5インチホイール採用により機敏な動きと操る楽しさを追求したダウンヒルモデルだ。
同社が近年マイナーチェンジにより続々と採用を進めるロワーリンク式リアサスペンションはHecklerにも搭載される。リンク構造にVPP(Virtual Pivot Point)システムを搭載、より低重心化を図ることでより路面追従性の高い俊敏な動きを実現している。バッテリーはダウンチューブ下側のカバー内に収納され、取り外して走ることも可能だ。
27.5インチホイールは最大タイヤ幅2.8までの27.5プラス規格までに対応。今回テストする完成車はスラムNX EAGLEコンポ採用モデルのHeckler 8。アセンブルされるサスペンションは前がロックショックスYARI RC、後がSuper Deluxe Selectだ。
今回は同社の新モデル「5010(フィフティーテン)」のインプレッションも担当してくれた三上和志さん(サイクルハウスMIKAMI)が、神奈川県小田原市のMTBパーク「フォレストバイク」のトレイルで一日フルに乗ってテストしてくれた。
「27.5はファン(楽しい)サイズ」として、走破性や速さだけではない、操る楽しさを追求する27.5インチモデルを幅広く揃えるサンタクルズならではの設計が生かされているHeckler。欧米では早くも人気沸騰のモデルとなっているE-MTBの実力を探ってみた。
―インプレッション
前回インプレを担当した5010が非常に好印象で、かつ5010と同系統のアクションバイクであるHecklerでのライドを楽しみにしていました。MTBパーク「フォレストバイク」でのライドの前にも地元のフィールドである自然の里山トレイルで走り回り、それ以上の限界性能を確かめようとゲレンデに持ち込んでみました。また今回は普段乗り込んでいるスペシャライズドのLEVO SL COMPも持ち込み、乗り比べながらのライドとしました。
Hecklerは150mmのロングストロークのDH系トレイルバイクにモーターを備えるだけあってバイク自体はさすがに重量感たっぷりです。それでも取り回しがいいのは27.5インチバイクだからですね。走らせてみた印象は、22kgというその重量をまったく感じさせないほど機敏な動きが可能なE-MTBだということ(LEVOは19kg)。
ダニー・マッカスキルがYOUTUBE動画でHecklerに乗ってぴょんぴょんと跳ね回っていますが、さすがにジャンプしてヒネりを入れるといったアクションは大変です。しかし地形のままにトレイルを走り、ジャンプで飛ぶといった走りには安定感ばっちり。動きは軽く、車重があることのメリットも感じます。重量があることによって常にサスペンションが沈み込んで路面の凸凹に追従し、グリップしながら走ることができるんです。重心の低い、安定した乗り方ができます。E-Bikeでもバイクが軽いことが大事だと思っていたのですが、これは発見でした。
ロングストロークなサスペンションと、ハイスペックなホイール&タイヤもバランスが良く、上りも下りも攻めて楽しむことができます。パワフルなユニットと容量のあるバッテリーで、パワー枯渇を気にすること無く、バイクの能力に助けられて一日中トレイルライドを楽しむことができます。
サスは150mmストロークで、ベースとなっているBRONSONと同じくダウンヒル性能を高めたモデルです。ハイグリップなDHタイヤを装着し、軽量化よりも重ためのパーツがアッセンブルされたグラヴィティモデル。レーシングバイクではなく、27.5インチの機敏さとサスのロングストロークを活かしてパークのゲレンデの下りを楽しもうといったライディングに最適で、激しくコーナーを攻めるダウンヒルを楽しもうというバイクです。そういった走りが得意な人なら高性能を引き出せるでしょう。
先日ロードバイクが趣味のMTB初心者にHecklerに乗ってもらい、MTBに乗る私と一緒にトレイルへと入ってもらったのですが、激坂登りや木の根っこなど難セクションにもかかわらず、10年ぶりにMTBに乗るというその友人は難なくクリア。しかもハイパワーモードでガンガン登って私についてきました。パワーと高スペックがテクニック不足をカバーしてくれて、オフロード初心者でも楽しくライドできるのです。
パワフルさのおかげで、楽さ以上にパワーを活用して難しいセクションを登る楽しみがあります。トラクションはパワフルだが、細やかではないのはシマノ製ユニットの特徴。出力の立ち上がりがやや急で、足を止めたところからでも漕ぎ出すと一気にパワーがかかるので、ゼロ発進に苦労しない反面、バイクが飛び出すことも。上りコーナーでもパワーがかかりすぎることからのコースアウト、なんてことも起きます。しかしそれを差し引いてもどこでも登ってしまうパワーがある。
バイク重量がデメリットとなるシチュエーションは「ステアケース」、つまり高さのある段差を登るようなとき。前輪がクリアできても後輪を上げる際にペダリングを一瞬止めるとアシストも切れてしまい、つっかえてしまう。ペダルを回しながら登るときはガンガン行くけど、そうしたケースはバイクを手で持ち上げることも。そこは戸惑うポイントです。なだらかなコースでスピードが出て、アシストが切れる状況が続く場合も車重の重さが気になります。
先日、スペシャLEVOと一緒に山の中を30km、獲得標高1000mといった激しめのトレイルライドをして、LEVOのバッテリー残量が25%に対して、Hecklerは65%残っていました。まだまだ走れる電池容量があるということで、ハイパワーでの一日中のライドも可能ということ。LEVOは拡張バッテリーをつけることができますが、それでもHecklerの大容量には及ばないでしょう。
LEVOはあくまで人間のパワー不足を補って助けてくれるアシスト力が好評ですが、HecklerはEパワーをメインに操ることを楽しめるパワフルさです。そういう意味で脚力の劣る初心者も助けてくれるE-MTBとも言えるでしょう。リフトやゴンドラなどの搬送の無いMTBパーク/ゲレンデライドにはいちばんマッチするでしょう。
搬送のあるゲレンデなら、バッテリーを外して走ることもできます(LEVOはモーターを外さないとバッテリーが取れない構造)。モーターの重さは残るけれど、ダウンヒルコースなら軽量化した状態で楽しめるでしょう。ただし少しでも登り返しやスピードの(20km以下に)落ちるペダリングセクションがあるならバッテリーはそのままに、時々でもEパワーを活かすのが良さそう。
登りが楽しくなるのがE-MTB。このパワフルさを活かした乗り方がしたくなるもの。トレイルカッターなどのMTBガイドツアーも、シングルトラックの下りを逆走して上りの時間も楽しもうというツアーを考案中だとか。パークでも林道やダブルトラックをダラダラと登るのでなく、テクニックが必要な難しい上りコースを楽しむというコース設定も考えられ始めています。乗るフィールドの問題が常につきまとうE-MTBですが、そうした展開は追い風になりそうです。
E-MTBは荷物を背負っていても問題なくパワフルに走れるから、トレイルを整備するのにも使えるんです。実際、各地のトレイルビルダーやゲレンデ管理者の仲間たちはE-MTBを活用してトレイル整備を行っていて、チェーンソーなど必要な道具を自走で担ぎ上げて作業しています。E-MTBがトレイルに与える高負荷を懸念していた反面、トレイルを直したり整備したりすることにも使いやすいので、こんなパワフルなE-MTBを手にしたら、ぜひ積極的にトレイルメンテンナンス活動にも参加して欲しいものです。
サンタクルズHeckler 8
フレーム | カーボン |
サスペンション/ピボットシステム | VPP(Virtual Pivot Point) |
フロントサスペンション | ロックショックス YARI RC |
リアサスペンション | ロックショックス Super Deluxe Select |
リアトラベル | 150mm |
モーター | シマノDU-E8080 |
バッテリー | シマノ504Wh Integrated |
ホイールサイズ | 27.5インチ(最大タイヤ幅2.8インチ) |
ローターサイズ | 203mm |
リアハブ | 148x12mm(スルーアクスル) |
シートポスト径 | 36.4mm |
価格 | ¥990,000- |
カラー | BLACKOUT、Carbon |
サイズ | S、M、L |
ビルドキット&フレーム | Carbon CC / 27.5 / R-kit、Carbon CC / MX / R-kit |
インプレッションライダーのプロフィール
三上和志(サイクルハウスMIKAMI)
埼玉県飯能市のサイクルハウスMIKAMI店長。地元の山でのMTBライドを毎朝欠かさず、ENSエンデューロシリーズにも参戦するマウンテンバイカー。愛する飯能・阿須の山々では奥武蔵マウンテンバイク友の会を主宰し、トレイル整備や清掃活動を通して地域に貢献、自治体と協力し合いながらマウンテンバイクの地位向上につとめている。ENSシリーズではハードテイルMTBでフルサスに乗ったワークスライダーを喰ってしまう成績を出すテクニックの持ち主だ。
サイクルハウスMIKAMI フェイスブックページ
text&photo:Makoto AYANO
取材協力:フォレストバイク
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