2021/01/07(木) - 09:22
ヴィットリアのグラベルタイヤ用インサート "AIR-LINER GRAVEL"をインプレッション。MTBでポピュラーなリム打ちパンクやリム破損のリスクを低減する挿入式の発泡コアライナーは、グリップを増し低圧でのライドを可能にするためシクロクロスにも有効だ。
マウンテンバイクではすでに多くの愛用者を獲得している発泡コアライナー(タイヤインサート)。チューブレスタイヤの内側に入れることで、タイヤが大きな衝撃を受けた際に発生するリム打ちパンクや、リムの破損リスクを低減してくれるアイテムだ。
ヴィットリアもMTB用は既にラインアップしており、今回グラベルタイヤ用"AIR-LINER"を追加発売。700Cまたは29インチ用で、対応タイヤ幅31mm~40mm、対応リム幅17C~25Cという細身のタイヤ用となっている。
単にMTB用からサイズダウンを行ったわけではなく、細いリム幅にフィットする台形状のグラベル専用設計が採用されている。MTB用はタイヤのほぼ全周がコアライナーでプロテクションされ、形状でタイヤトレッドやサイドウォールの柔軟性をコントロールしているが、グラベル用はトレッド下に広めの空間が設けられているため、タイヤは自由に柔軟性を発揮してくれそうだ。
またコアライナーを使用することでタイヤ空気圧を低圧にすることが可能となる。低圧にセットするとグリップ力が向上するとともに振動減衰性も向上する。もちろんコアが挿入されているため、横方向への安定性は確保される。
Air-Liner GRAVELのポリマー素材は耐久性に優れている。通常の走行では最大で2000時間、フラットタイヤ(エア抜け)の状態では1時間の使用に耐えられるという。このポリマー素材はシーラント剤を吸い込まないため、空気保持やパンク補修機能はそのまま生かされる。なおシーラント剤はノン・アンモニア仕様が推奨される。
付属品として専用チューブレスバルブが開発されていることも特徴だ。タイヤ内部側のベース部分に通常のバルブ穴とは別の空気が通る穴が設けられており、コアでメインホールが塞がっても空気圧調整が行えるようになっている。ライナー単体の重量は47gだ。
―インプレッション
今回はシクロクロスタイヤに仕込んで使用してのインプレをお届けする。CX全日本チャンピオンに5度輝いた竹之内悠選手(Toyo Frame)によれば、最近欧州トップレースでチューブレスタイヤとコアライナーを併用して実戦使用されるシーンが増えているとのこと。
竹之内選手はチャレンジタイヤのサポートを受けているが、泥との戦いになった長野・飯田での全日本選手権ではレース当日にヴィットリアタイヤのサポートブースで購入したこのAIR-LINER GRAVELを、チャレンジのチューブレスタイヤ内にセットして試走、好感触を得て本番のレースでも使用したことをToyo Frameブログで公表している。
筆者も欧州シクロクロスでの使用例があることは海外レース情報で知っていたため、かつ現在ではまだグラベルライドではコアを使用する例がそれほどポピュラーではないこと、かつ空気圧を下げるメリットが重要視されていないことで、今回はあえてシクロクロスを想定してのインプレとした。
まずは取り付け手順からレポートする。内幅20mmのアルミリム、DT SWISS製XR331リムにタイヤはヴィットリアのTERRENO MIXと同DRYをチョイスし、組み付けてみた。
弾力がある密度の高いフォームによるコアライナーは余裕のある長さになっており、リムに添わせて余らない長さにカットし、タイラップでつなぐ。チューブレスタイヤのビードを嵌め込む前に一度外し、片側のビードを嵌めてからタイヤ内にコアを仕込んでいき、収まったらもう片方のビードを収めていく。
ビードを上げるにはコツが必要だ。コアがビードを邪魔するため、タイヤの外側からコアを揉み込むようにしてタイヤ内に収め、両側のビードをリム中央の溝に寄せるようにするのがコツ。これが構造的に理解してイメージできないと、ビードを上げるのに苦労することになる。滑りを良くするためにコアを石鹸水で十分に濡らしてから作業すること、コアの接合をキツくしすぎないこと(伸ばして繋がないこと)もポイントだ。タイヤのトレッド側にコアが入り込まないとビードがリム内側の高い側面に残ったままになり、その状態からはビードが上がらない。
英文だが作業マニュアルは付属しているので、必ず読んでからその手順に沿って作業すること。コツがわからないと苦労するが、正しい手順を踏みさえすればビードが嵌まらないことはない。(もし往生したら上の「コツ」を読んで理解してください)
YouTubeのヴィットリア公式チャンネル(英語)に装着動画がアップロードされているため、そちらを参照して欲しい。(動画は記事下部の埋め込み、もしくはこちらのリンクから。)
専用バルブはシーラントを脇から流入させる基部を備えており、バルブコアを外してシーラントを注入する。ビード上げのポンピング(コンプレッサー使用)の際もコアを取り付けない状態で行えば空気流量が多いためビードが上がりやすい。ビードが上がったら改めてバルブコアを取り付ける。
シーラントを入れ、エアを満たして馴染み出しに数時間置いてから実走テスト。タイヤの気圧を下げられることがメリットなので、オフロードを走りながら徐々に下げていく。
その前に、前提としてシクロクロスではチューブレス(レディ)タイヤは2気圧以下で使用する。タイヤサイドの最低空気圧の表示は3気圧などになっていたとしても、それはリムから外れないことを前提にした「メーカーが安全に責任の負える範囲の表示」であると捉えること。実際には体重60kg程度の筆者の場合で1.5〜1.8気圧程度が、タイヤがうまく変形してグリップもいい「レースでの適正空気圧」になる。さらに路面状況により、どこまで圧を下げればグリップを稼げるか、振動をいなして速いか、リム打ちパンクのリスクと天秤にかけながら決めることになる。
ウェットやキャンバーでのグリップが十分得られるほど低圧にセットすると、コーナーではヨレが出てくるもの。チューブレスの場合は捩れた際のビード落ちの危険も増加する。そうしたことを念頭に圧を下げていくが、エアライナーが入ることでタイヤに芯があり、気になるヨレや腰砕けがなくなる。タイヤを手で押し込んで感じるとおり、タイヤ内がフォームで満たされており、かつトレッド下の空間の空気で変形も大きい。低圧にするほど凸凹でのグリップ力は増していく。
ヴィットリアのTERRENOシリーズはもともと芝のキャンバーでのグリップ力が強くサイドのコシが強いタイヤだが、この特長がさらに増大する。1.4気圧でも腰砕け無く、グリップは強くなる。芝キャンバーや土斜面でのサイドグリップは強力で、いままで滑っていたセクションが乗ったままクリアできるようになる。1.3や1.2気圧まで下げても大丈夫だった。なお筆者の体重は60kg。
1.2気圧は超低圧だ。角度のあるキャンバーでも滑ること無くノブが喰い付く。スリックに近いトレッドのタイヤなら砂浜などサンドセクションも乗ったまま行ける距離が伸びるはず。そしてラフに乗ってもコアの芯を感じ、タイヤが完全に潰れず、リム打ちパンクしないという安心感がある。それらの感触は誰でもすぐ感じ取ることができるだろう。
圧を変えながら3時間たっぷりグラベルライドをしてみて、これはレースで試す価値が大いにあり、コンディションによっては武器になると感じた。まだ他のタイヤで試せてはいないが、今のところ感じるデメリットはセッティングに手間がかかること、40g程度の重量増になることぐらいだ。タイヤサイドを指で局所的に押すとシーラントがにじみ出ることもある。それほどの低圧だが、丁寧な乗り方を心がければビード外れは起こりにくいと感じる。その点は確証がもてないが、ヴィットリアのCXタイヤはビード外周のフックにかかる部分がしっかり造り込まれているので安心感が高い。タイヤとリムの相性が左右しそうだが、よく試してからレースで使うようにしたい。
「高価なカーボンリムを壊さないために」「リム打ちパンクを防ぐ」という2点がコアライナーのメリットとして言われるが、約40グラムの重量増と引き換えに空気圧を大胆に下げられること、下げた際のグリップが活かせることで、よりアグレッシブに走れる。グラベルライドにも当然メリットがありそうだ。
それにしてもバルブが付属するのに2,800円(税抜)という価格は安い (MTB用はバルブ無しで1万円以上)。普及を狙っての戦略的価格なのだろうか?使ってみるまでのハードルが高いが、一度使って効果を実感すれば、すべてのオフロード系チューブレスタイヤに入れたいと思えるほど効果のあるアイテムだと感じた。
ヴィットリア AIR-LINER GRAVEL
対応リム径:最大700C(29インチ)
対応リム幅:17C~25C
対応タイヤ幅:31mm~40mm
重量:47g
付属品:専用チューブレスバルブx 1本
入数:タイヤ1本分
価格:2,800円(税抜)
text&photo:Makoto AYANO
マウンテンバイクではすでに多くの愛用者を獲得している発泡コアライナー(タイヤインサート)。チューブレスタイヤの内側に入れることで、タイヤが大きな衝撃を受けた際に発生するリム打ちパンクや、リムの破損リスクを低減してくれるアイテムだ。
ヴィットリアもMTB用は既にラインアップしており、今回グラベルタイヤ用"AIR-LINER"を追加発売。700Cまたは29インチ用で、対応タイヤ幅31mm~40mm、対応リム幅17C~25Cという細身のタイヤ用となっている。
単にMTB用からサイズダウンを行ったわけではなく、細いリム幅にフィットする台形状のグラベル専用設計が採用されている。MTB用はタイヤのほぼ全周がコアライナーでプロテクションされ、形状でタイヤトレッドやサイドウォールの柔軟性をコントロールしているが、グラベル用はトレッド下に広めの空間が設けられているため、タイヤは自由に柔軟性を発揮してくれそうだ。
またコアライナーを使用することでタイヤ空気圧を低圧にすることが可能となる。低圧にセットするとグリップ力が向上するとともに振動減衰性も向上する。もちろんコアが挿入されているため、横方向への安定性は確保される。
Air-Liner GRAVELのポリマー素材は耐久性に優れている。通常の走行では最大で2000時間、フラットタイヤ(エア抜け)の状態では1時間の使用に耐えられるという。このポリマー素材はシーラント剤を吸い込まないため、空気保持やパンク補修機能はそのまま生かされる。なおシーラント剤はノン・アンモニア仕様が推奨される。
付属品として専用チューブレスバルブが開発されていることも特徴だ。タイヤ内部側のベース部分に通常のバルブ穴とは別の空気が通る穴が設けられており、コアでメインホールが塞がっても空気圧調整が行えるようになっている。ライナー単体の重量は47gだ。
―インプレッション
今回はシクロクロスタイヤに仕込んで使用してのインプレをお届けする。CX全日本チャンピオンに5度輝いた竹之内悠選手(Toyo Frame)によれば、最近欧州トップレースでチューブレスタイヤとコアライナーを併用して実戦使用されるシーンが増えているとのこと。
竹之内選手はチャレンジタイヤのサポートを受けているが、泥との戦いになった長野・飯田での全日本選手権ではレース当日にヴィットリアタイヤのサポートブースで購入したこのAIR-LINER GRAVELを、チャレンジのチューブレスタイヤ内にセットして試走、好感触を得て本番のレースでも使用したことをToyo Frameブログで公表している。
筆者も欧州シクロクロスでの使用例があることは海外レース情報で知っていたため、かつ現在ではまだグラベルライドではコアを使用する例がそれほどポピュラーではないこと、かつ空気圧を下げるメリットが重要視されていないことで、今回はあえてシクロクロスを想定してのインプレとした。
まずは取り付け手順からレポートする。内幅20mmのアルミリム、DT SWISS製XR331リムにタイヤはヴィットリアのTERRENO MIXと同DRYをチョイスし、組み付けてみた。
弾力がある密度の高いフォームによるコアライナーは余裕のある長さになっており、リムに添わせて余らない長さにカットし、タイラップでつなぐ。チューブレスタイヤのビードを嵌め込む前に一度外し、片側のビードを嵌めてからタイヤ内にコアを仕込んでいき、収まったらもう片方のビードを収めていく。
ビードを上げるにはコツが必要だ。コアがビードを邪魔するため、タイヤの外側からコアを揉み込むようにしてタイヤ内に収め、両側のビードをリム中央の溝に寄せるようにするのがコツ。これが構造的に理解してイメージできないと、ビードを上げるのに苦労することになる。滑りを良くするためにコアを石鹸水で十分に濡らしてから作業すること、コアの接合をキツくしすぎないこと(伸ばして繋がないこと)もポイントだ。タイヤのトレッド側にコアが入り込まないとビードがリム内側の高い側面に残ったままになり、その状態からはビードが上がらない。
英文だが作業マニュアルは付属しているので、必ず読んでからその手順に沿って作業すること。コツがわからないと苦労するが、正しい手順を踏みさえすればビードが嵌まらないことはない。(もし往生したら上の「コツ」を読んで理解してください)
YouTubeのヴィットリア公式チャンネル(英語)に装着動画がアップロードされているため、そちらを参照して欲しい。(動画は記事下部の埋め込み、もしくはこちらのリンクから。)
専用バルブはシーラントを脇から流入させる基部を備えており、バルブコアを外してシーラントを注入する。ビード上げのポンピング(コンプレッサー使用)の際もコアを取り付けない状態で行えば空気流量が多いためビードが上がりやすい。ビードが上がったら改めてバルブコアを取り付ける。
シーラントを入れ、エアを満たして馴染み出しに数時間置いてから実走テスト。タイヤの気圧を下げられることがメリットなので、オフロードを走りながら徐々に下げていく。
その前に、前提としてシクロクロスではチューブレス(レディ)タイヤは2気圧以下で使用する。タイヤサイドの最低空気圧の表示は3気圧などになっていたとしても、それはリムから外れないことを前提にした「メーカーが安全に責任の負える範囲の表示」であると捉えること。実際には体重60kg程度の筆者の場合で1.5〜1.8気圧程度が、タイヤがうまく変形してグリップもいい「レースでの適正空気圧」になる。さらに路面状況により、どこまで圧を下げればグリップを稼げるか、振動をいなして速いか、リム打ちパンクのリスクと天秤にかけながら決めることになる。
ウェットやキャンバーでのグリップが十分得られるほど低圧にセットすると、コーナーではヨレが出てくるもの。チューブレスの場合は捩れた際のビード落ちの危険も増加する。そうしたことを念頭に圧を下げていくが、エアライナーが入ることでタイヤに芯があり、気になるヨレや腰砕けがなくなる。タイヤを手で押し込んで感じるとおり、タイヤ内がフォームで満たされており、かつトレッド下の空間の空気で変形も大きい。低圧にするほど凸凹でのグリップ力は増していく。
ヴィットリアのTERRENOシリーズはもともと芝のキャンバーでのグリップ力が強くサイドのコシが強いタイヤだが、この特長がさらに増大する。1.4気圧でも腰砕け無く、グリップは強くなる。芝キャンバーや土斜面でのサイドグリップは強力で、いままで滑っていたセクションが乗ったままクリアできるようになる。1.3や1.2気圧まで下げても大丈夫だった。なお筆者の体重は60kg。
1.2気圧は超低圧だ。角度のあるキャンバーでも滑ること無くノブが喰い付く。スリックに近いトレッドのタイヤなら砂浜などサンドセクションも乗ったまま行ける距離が伸びるはず。そしてラフに乗ってもコアの芯を感じ、タイヤが完全に潰れず、リム打ちパンクしないという安心感がある。それらの感触は誰でもすぐ感じ取ることができるだろう。
圧を変えながら3時間たっぷりグラベルライドをしてみて、これはレースで試す価値が大いにあり、コンディションによっては武器になると感じた。まだ他のタイヤで試せてはいないが、今のところ感じるデメリットはセッティングに手間がかかること、40g程度の重量増になることぐらいだ。タイヤサイドを指で局所的に押すとシーラントがにじみ出ることもある。それほどの低圧だが、丁寧な乗り方を心がければビード外れは起こりにくいと感じる。その点は確証がもてないが、ヴィットリアのCXタイヤはビード外周のフックにかかる部分がしっかり造り込まれているので安心感が高い。タイヤとリムの相性が左右しそうだが、よく試してからレースで使うようにしたい。
「高価なカーボンリムを壊さないために」「リム打ちパンクを防ぐ」という2点がコアライナーのメリットとして言われるが、約40グラムの重量増と引き換えに空気圧を大胆に下げられること、下げた際のグリップが活かせることで、よりアグレッシブに走れる。グラベルライドにも当然メリットがありそうだ。
それにしてもバルブが付属するのに2,800円(税抜)という価格は安い (MTB用はバルブ無しで1万円以上)。普及を狙っての戦略的価格なのだろうか?使ってみるまでのハードルが高いが、一度使って効果を実感すれば、すべてのオフロード系チューブレスタイヤに入れたいと思えるほど効果のあるアイテムだと感じた。
ヴィットリア AIR-LINER GRAVEL
対応リム径:最大700C(29インチ)
対応リム幅:17C~25C
対応タイヤ幅:31mm~40mm
重量:47g
付属品:専用チューブレスバルブx 1本
入数:タイヤ1本分
価格:2,800円(税抜)
text&photo:Makoto AYANO
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