2021/01/03(日) - 09:19
100年を超える歴史を持つ老舗イタリアンブランド、ウィリエールが軽量オールラウンダーのセカンドモデルに位置づける"ZERO SL"。ハイエンドモデルの形状を受け継ぎつつ、カーボングレードを調整し手の届きやすい価格と高い性能を両立した一台の実力に迫る。
イタリア北部の町、ロッサーノ・ヴェネトに拠点を構えるウィリエール。歴史を遡ること110年以上前、1906年にバッサーノのピエトロ・ダル・モリン氏によって立ち上げられた自転車工房にルーツを持て、現存する自転車ブランドの中でも屈指の歴史を誇る老舗として、特別な存在感を誇っている。
そんなウィリエールの歴史は、常にロードレースへの情熱と共にあった。イタリアの英雄、「イル・ピラータ(海賊)」ことマルコ・パンターニと共に、今に至るまで破られていないラルプ・デュエズ最速登坂記録を打ち立てたのは、その中でも最も大きなエピソードの一つ。
2020シーズンではワールドチームのアスタナとパートナーシップを締結。コロナ禍の影響により変則的なシーズンとなったものの、ツール・ド・フランスにおいて2つのステージ優勝を勝ち取るなど確かな実績を残してきた。
その原動力となったのが、世界初のディスクブレーキかつケーブルフルインターナル仕様の軽量クライミングバイクとして、昨年ウィリエールが送り出した"ZERO SLR"だ。780gという山岳を軽々とこなす軽量性と、平坦路でも後れを取らないエアロダイナミクスを両立した、新世代のオールラウンドバイクとしてデビューしたニューバイクが勝利のカギとなった。
アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)が制した第6ステージ、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)が手中に収めた第17ステージともに登りフィニッシュであったことからも、ZERO SLRのヒルクライム性能の優秀性は窺いしれよう。
そんな、ワールドツアーのプロトンにおいても屈指のレーシングバイクであるZERO SLRをベースに、より手の届きやすいセカンドモデルとして、2021モデルラインアップに加わったのが、今回インプレッションする"ZERO SL"だ。
フレームワークはほぼZERO SLRと共通としつつ、"HUS-MOD+三菱65Tカーボン+L.C.P"という最先端のマテリアルを使用していたZERO SLRに対し、ZERO SLは"HU-MOD カーボン"とすることで、高い基本性能はそのままにより手の届きやすい価格を実現した。
重量面で見ると、フレーム単体で930g(Mサイズ、マットブラック)、フォークが370gと、ZERO SLRから150gほどの重量増に留められている。一方、価格としては345,000円とZERO SLR比で40%ほど抑えられ、一気に手に取りやすい存在となっている。
無駄を削ぎ落としたフレームワークや、ディスクブレーキ専用設計、そして一歩進んだインテグレートデザインはZERO SLにも受け継がれている。ZERO SLならではのポイントとして挙げられるのが、ケーブル内装化のために採用された新型のアルミ製専用ステム「STEMMA SL」の存在だろう。ハンドル一体型モデルではなく、自由なハンドル選択を可能とするノーマルステムを採用することで、ハンドル周りのセッティングの自由度を高めている。
ケーブル内装システムにもアップデートが加わっており、特注のベアリングを使用することでケーブル内装のためのクリアランスを確保する設計となった。また、このシステムの採用によって、ステアリングコラムがD型から真円形状へと変更されている。ブレーキングやコーナーリング時に様々な方向から力がかかるステアリングコラムだけに、真円形状を採用するメリットは大きいはずだ。なお、シマノDI2など電動式で組むことが推奨されている。
トレンドの最先端を行くハイエンドモデルの弟分として、そのテクノロジーを受け継ぎつつ、更に磨きをかけた"ZERO SL。今回はシマノULTEGRA DI2で組み上げた試乗車にてテストした。ウィリエールの2021モデルラインアップの中核を担うミドルグレードの実力をインプレッションしていこう。
― インプレッション
「左右にブレず前へと進む、新世代のウィリエールらしさを感じられるオールラウンダー」
錦織大祐(フォーチュンバイク)
軽快感があって、反応性にも優れていて、乗り心地も良い。気持ち良いテンポでペダリングのリズムを作ることが出来ますし、踏んだ時の脚へのダメージも非常に少なく、好印象な一台です。
左右方向にブレることなく、ビシっと安定感のあるフィーリングが特徴的ですね。ワイドスタンスのフロントフォークの影響が大きいのでしょう、しっかりと振動をいなしつつ、かといって過剰にスクワットしてしまって力が抜けるようなこともありません。左右にしっかりと踏ん張ってくれるので、ペダリングが不安定でも、自転車が自動的に真っすぐ誘導してくれるようなスタビリティを感じました。
オンザレール、という言葉がしっくりくるような乗り味で、初心者や中級者がロングライドに挑戦しても安心して扱えるような性格のバイクです。疲れてきてペダリングが雑になってもふらつきづらく、自転車がサポートしてくれるように感じるでしょう。
こういったステアリング周りの味付けについては、ブランドの思想をダイレクトに映し出すものだと思っています。常に入力を素直に受け止めてそのまま挙動として出力するブランドもあれば、一定のベクトルを与えることで理想的な走りを表現するブランドもあります。この左右方向へのブレなさは、ウィリエールが新世代のバイクで表現したいコンセプトなのだと感じます。こういった味付けはイタリアンブランドらしいですよね。
このように表現すると癖が強いのかと思われてしまうかもしれませんが、ハンドリング自体はニュートラルでコーナーでもアンダーが出るようなことはありません。むしろ思い描いたラインに乗せやすく、旋回中の安定感にも優れているので、スピードが上がってきても安心できます。
リアバックがかなり細身なので強めに踏むと少し暴れるのかと思いきや、そんなことも無く。おそらくブリッジが入っていることが良い影響を及ぼしているのでしょう。トルクを乗せたまま回していっても足にダメージが残りづらいのは左右の非対称設計も効いているのだと思います。
登録選手で優勝を狙うようなレーサーだともう一段高い剛性が必要になるでしょうが、ホビーレーサーでサーキットエンデューロをメインに走るような使い方であれば脚も残しやすく、非常にマッチした性格だと思います。
ぱっと見ると、シートクランプの出っ張りも気にはなるのですが、ある種の合理性も感じとれます。シートを抑えられればそれでよいので、軽量化のためには臼の高さを稼ぎつつ、余計なボリュームを抑えるというアプローチは一つの解だといえるでしょう。
内装システムもステム下から入っていく方式で、メンテナンスも容易だと思います。ポジションもある程度は調整できそうですし、ケーブルフル内装だからといって身構える必要は少ないでしょう。空力面でもメリットはあると思いますし、ステムのデザイン含めウィリエールらしいポイントでもあると思います。
スタビリティの高さが印象的なバイクですから、ある程度ホイールには軽さと剛性感を求めたいところですね。ホイールが柔らかかったり重かったりすると、切り返しでアンダーのように感じる人もいると思います。そういった意味では、今回のテストバイクのアセンブルはいい組み合わせですね。
総じて剛性バランスも良く、しっかりと振動も吸収してくれる懐深いオールマイティーなバイクです。ウィリエールの新世代バイクの特徴でもある、ロール方向への安定感と前へ進む強い推進力を、ミドルグレードながらしっかり感じられるのは、嬉しいですね。
「ヒルクライムをメインフィールドにするバランスの取れた一台」
小西真澄(ワイズロードお茶の水)
登りでも下りでも安心感のある自転車ですね。基本的には、どんな場所でも走れるオールラウンドなバイクだと思いますが、その中でもやはり登りでこそ本領を発揮できるバイクだと思いますね。関東でいえば、週末に都民の森やヤビツへと出かけるようなヒルクライム好きなサイクリストにはぜひオススメしたいですね。
全体的には硬めの踏み味なのですが、トルクをかけてしならせながら登っていくほうが気持ちよく走れるバイクです。クルクルと高めのケイデンスを維持して登っていこうとすると、僕には少しリズムが早い印象でした。それよりもギアの倍数をかけつつグイグイ振りながら走る方がフィットしましたね。ダンシング派のクライマーにはぜひ試してほしい一台です。
思い切り踏み込んだ時にも、しっかりと自転車が支えてくれる安心感がそういった乗り味につながるのだと思います。高い剛性感のあるヘッドチューブとフォークが効いているのでしょう、下りでもシャープでグッと切り込んでいけます。スタビリティが高いので、目線もブレないですし、タイヤのグリップ感も掴みやすい。コーナーの立ち上がりでもイメージ通りのラインを通しやすかった。
一方で、平坦での巡航性能はそこまで高いわけではないです。イメージとしては35km/hくらいまでが得意なスピード域といったところでしょうか。もちろん平均的なレベルにはありますが、その性能を求めるのであればCENTOシリーズを選んだ方が良いでしょうね。海よりも山派、アップダウンのあるコースが好きな人はこちらがフィットすると思います。
加減速に対しての反応性が高いので、クリテリウムなどでも活躍してくれそうです。もう少しディープなカーボンホイールと組み合わせれば、巡航性能も底上げしてくれ、非常にバランスの取れたバイクに仕上がりそうですね。
乗り心地は意外とソリッドで、しっかりと路面の情報を伝えてくる印象ですから、チューブレスタイヤを組み合わせてもいいでしょう。
ミドルグレードながらケーブルフル内装というのもしっかりトレンドを掴んでいますね。エアロでルックスもスマートだし、ヘッドチューブとケーブルの擦れ傷がつくことも無くなるので、そういったことを気にされる方には良い機構だと思います。
作業性の良しあしというのは、ショップの問題ですので脇に置いておくと、残る問題はポジションの出しやすさくらい。このステムは上に普通のスペーサーが使えまし、専用スペーサーも分割式になっているので、そのあたり良く考えられたシステムだな、という印象です。
フレームで34万円という価格もなかなか絶妙な設定だと思います。ライバルも多い価格帯ですが、その中でもしっかりと個性を感じられる一台ですね。イタリアンブランドが気になっていて、ヒルクライムが好きな方は選択肢に入れておいて損は無いと思いますよ。
ウィリエール ZERO SL
フレーム:HU-MODカーボン
サイズ:XS、S、M、L、XL
フレームセット+STEMMA SL:345,000円(税抜)
シマノULTEGRA DI2完成車:535,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
錦織大祐(フォーチュンバイク)
幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
CWレコメンドショップページ
フォーチュンバイク HP
小西真澄(ワイズロードお茶の水)
ワイズロードお茶の水でメカニックと接客、二足のわらじを履くマルチスタッフ。接客のモットーは「カッコイイ自転車に乗ってもらう」こと。お客さんにぴったりの一台が無ければ他の店舗を案内するほど、そのこだわりは強い。ロードでのロングライドを中心に、最近はグラベルにもハマり中。現在の愛車はスコットADDICT エステバン・チャベス限定モデルやキャノンデールTOP STONE。
CWレコメンドショップページ
ワイズロードお茶の水HP
text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
イタリア北部の町、ロッサーノ・ヴェネトに拠点を構えるウィリエール。歴史を遡ること110年以上前、1906年にバッサーノのピエトロ・ダル・モリン氏によって立ち上げられた自転車工房にルーツを持て、現存する自転車ブランドの中でも屈指の歴史を誇る老舗として、特別な存在感を誇っている。
そんなウィリエールの歴史は、常にロードレースへの情熱と共にあった。イタリアの英雄、「イル・ピラータ(海賊)」ことマルコ・パンターニと共に、今に至るまで破られていないラルプ・デュエズ最速登坂記録を打ち立てたのは、その中でも最も大きなエピソードの一つ。
2020シーズンではワールドチームのアスタナとパートナーシップを締結。コロナ禍の影響により変則的なシーズンとなったものの、ツール・ド・フランスにおいて2つのステージ優勝を勝ち取るなど確かな実績を残してきた。
その原動力となったのが、世界初のディスクブレーキかつケーブルフルインターナル仕様の軽量クライミングバイクとして、昨年ウィリエールが送り出した"ZERO SLR"だ。780gという山岳を軽々とこなす軽量性と、平坦路でも後れを取らないエアロダイナミクスを両立した、新世代のオールラウンドバイクとしてデビューしたニューバイクが勝利のカギとなった。
アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)が制した第6ステージ、ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア)が手中に収めた第17ステージともに登りフィニッシュであったことからも、ZERO SLRのヒルクライム性能の優秀性は窺いしれよう。
そんな、ワールドツアーのプロトンにおいても屈指のレーシングバイクであるZERO SLRをベースに、より手の届きやすいセカンドモデルとして、2021モデルラインアップに加わったのが、今回インプレッションする"ZERO SL"だ。
フレームワークはほぼZERO SLRと共通としつつ、"HUS-MOD+三菱65Tカーボン+L.C.P"という最先端のマテリアルを使用していたZERO SLRに対し、ZERO SLは"HU-MOD カーボン"とすることで、高い基本性能はそのままにより手の届きやすい価格を実現した。
重量面で見ると、フレーム単体で930g(Mサイズ、マットブラック)、フォークが370gと、ZERO SLRから150gほどの重量増に留められている。一方、価格としては345,000円とZERO SLR比で40%ほど抑えられ、一気に手に取りやすい存在となっている。
無駄を削ぎ落としたフレームワークや、ディスクブレーキ専用設計、そして一歩進んだインテグレートデザインはZERO SLにも受け継がれている。ZERO SLならではのポイントとして挙げられるのが、ケーブル内装化のために採用された新型のアルミ製専用ステム「STEMMA SL」の存在だろう。ハンドル一体型モデルではなく、自由なハンドル選択を可能とするノーマルステムを採用することで、ハンドル周りのセッティングの自由度を高めている。
ケーブル内装システムにもアップデートが加わっており、特注のベアリングを使用することでケーブル内装のためのクリアランスを確保する設計となった。また、このシステムの採用によって、ステアリングコラムがD型から真円形状へと変更されている。ブレーキングやコーナーリング時に様々な方向から力がかかるステアリングコラムだけに、真円形状を採用するメリットは大きいはずだ。なお、シマノDI2など電動式で組むことが推奨されている。
トレンドの最先端を行くハイエンドモデルの弟分として、そのテクノロジーを受け継ぎつつ、更に磨きをかけた"ZERO SL。今回はシマノULTEGRA DI2で組み上げた試乗車にてテストした。ウィリエールの2021モデルラインアップの中核を担うミドルグレードの実力をインプレッションしていこう。
― インプレッション
「左右にブレず前へと進む、新世代のウィリエールらしさを感じられるオールラウンダー」
錦織大祐(フォーチュンバイク)
軽快感があって、反応性にも優れていて、乗り心地も良い。気持ち良いテンポでペダリングのリズムを作ることが出来ますし、踏んだ時の脚へのダメージも非常に少なく、好印象な一台です。
左右方向にブレることなく、ビシっと安定感のあるフィーリングが特徴的ですね。ワイドスタンスのフロントフォークの影響が大きいのでしょう、しっかりと振動をいなしつつ、かといって過剰にスクワットしてしまって力が抜けるようなこともありません。左右にしっかりと踏ん張ってくれるので、ペダリングが不安定でも、自転車が自動的に真っすぐ誘導してくれるようなスタビリティを感じました。
オンザレール、という言葉がしっくりくるような乗り味で、初心者や中級者がロングライドに挑戦しても安心して扱えるような性格のバイクです。疲れてきてペダリングが雑になってもふらつきづらく、自転車がサポートしてくれるように感じるでしょう。
こういったステアリング周りの味付けについては、ブランドの思想をダイレクトに映し出すものだと思っています。常に入力を素直に受け止めてそのまま挙動として出力するブランドもあれば、一定のベクトルを与えることで理想的な走りを表現するブランドもあります。この左右方向へのブレなさは、ウィリエールが新世代のバイクで表現したいコンセプトなのだと感じます。こういった味付けはイタリアンブランドらしいですよね。
このように表現すると癖が強いのかと思われてしまうかもしれませんが、ハンドリング自体はニュートラルでコーナーでもアンダーが出るようなことはありません。むしろ思い描いたラインに乗せやすく、旋回中の安定感にも優れているので、スピードが上がってきても安心できます。
リアバックがかなり細身なので強めに踏むと少し暴れるのかと思いきや、そんなことも無く。おそらくブリッジが入っていることが良い影響を及ぼしているのでしょう。トルクを乗せたまま回していっても足にダメージが残りづらいのは左右の非対称設計も効いているのだと思います。
登録選手で優勝を狙うようなレーサーだともう一段高い剛性が必要になるでしょうが、ホビーレーサーでサーキットエンデューロをメインに走るような使い方であれば脚も残しやすく、非常にマッチした性格だと思います。
ぱっと見ると、シートクランプの出っ張りも気にはなるのですが、ある種の合理性も感じとれます。シートを抑えられればそれでよいので、軽量化のためには臼の高さを稼ぎつつ、余計なボリュームを抑えるというアプローチは一つの解だといえるでしょう。
内装システムもステム下から入っていく方式で、メンテナンスも容易だと思います。ポジションもある程度は調整できそうですし、ケーブルフル内装だからといって身構える必要は少ないでしょう。空力面でもメリットはあると思いますし、ステムのデザイン含めウィリエールらしいポイントでもあると思います。
スタビリティの高さが印象的なバイクですから、ある程度ホイールには軽さと剛性感を求めたいところですね。ホイールが柔らかかったり重かったりすると、切り返しでアンダーのように感じる人もいると思います。そういった意味では、今回のテストバイクのアセンブルはいい組み合わせですね。
総じて剛性バランスも良く、しっかりと振動も吸収してくれる懐深いオールマイティーなバイクです。ウィリエールの新世代バイクの特徴でもある、ロール方向への安定感と前へ進む強い推進力を、ミドルグレードながらしっかり感じられるのは、嬉しいですね。
「ヒルクライムをメインフィールドにするバランスの取れた一台」
小西真澄(ワイズロードお茶の水)
登りでも下りでも安心感のある自転車ですね。基本的には、どんな場所でも走れるオールラウンドなバイクだと思いますが、その中でもやはり登りでこそ本領を発揮できるバイクだと思いますね。関東でいえば、週末に都民の森やヤビツへと出かけるようなヒルクライム好きなサイクリストにはぜひオススメしたいですね。
全体的には硬めの踏み味なのですが、トルクをかけてしならせながら登っていくほうが気持ちよく走れるバイクです。クルクルと高めのケイデンスを維持して登っていこうとすると、僕には少しリズムが早い印象でした。それよりもギアの倍数をかけつつグイグイ振りながら走る方がフィットしましたね。ダンシング派のクライマーにはぜひ試してほしい一台です。
思い切り踏み込んだ時にも、しっかりと自転車が支えてくれる安心感がそういった乗り味につながるのだと思います。高い剛性感のあるヘッドチューブとフォークが効いているのでしょう、下りでもシャープでグッと切り込んでいけます。スタビリティが高いので、目線もブレないですし、タイヤのグリップ感も掴みやすい。コーナーの立ち上がりでもイメージ通りのラインを通しやすかった。
一方で、平坦での巡航性能はそこまで高いわけではないです。イメージとしては35km/hくらいまでが得意なスピード域といったところでしょうか。もちろん平均的なレベルにはありますが、その性能を求めるのであればCENTOシリーズを選んだ方が良いでしょうね。海よりも山派、アップダウンのあるコースが好きな人はこちらがフィットすると思います。
加減速に対しての反応性が高いので、クリテリウムなどでも活躍してくれそうです。もう少しディープなカーボンホイールと組み合わせれば、巡航性能も底上げしてくれ、非常にバランスの取れたバイクに仕上がりそうですね。
乗り心地は意外とソリッドで、しっかりと路面の情報を伝えてくる印象ですから、チューブレスタイヤを組み合わせてもいいでしょう。
ミドルグレードながらケーブルフル内装というのもしっかりトレンドを掴んでいますね。エアロでルックスもスマートだし、ヘッドチューブとケーブルの擦れ傷がつくことも無くなるので、そういったことを気にされる方には良い機構だと思います。
作業性の良しあしというのは、ショップの問題ですので脇に置いておくと、残る問題はポジションの出しやすさくらい。このステムは上に普通のスペーサーが使えまし、専用スペーサーも分割式になっているので、そのあたり良く考えられたシステムだな、という印象です。
フレームで34万円という価格もなかなか絶妙な設定だと思います。ライバルも多い価格帯ですが、その中でもしっかりと個性を感じられる一台ですね。イタリアンブランドが気になっていて、ヒルクライムが好きな方は選択肢に入れておいて損は無いと思いますよ。
ウィリエール ZERO SL
フレーム:HU-MODカーボン
サイズ:XS、S、M、L、XL
フレームセット+STEMMA SL:345,000円(税抜)
シマノULTEGRA DI2完成車:535,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
錦織大祐(フォーチュンバイク)
幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。
CWレコメンドショップページ
フォーチュンバイク HP
小西真澄(ワイズロードお茶の水)
ワイズロードお茶の水でメカニックと接客、二足のわらじを履くマルチスタッフ。接客のモットーは「カッコイイ自転車に乗ってもらう」こと。お客さんにぴったりの一台が無ければ他の店舗を案内するほど、そのこだわりは強い。ロードでのロングライドを中心に、最近はグラベルにもハマり中。現在の愛車はスコットADDICT エステバン・チャベス限定モデルやキャノンデールTOP STONE。
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ワイズロードお茶の水HP
text:Naoki.Yasuoka
photo:Makoto.AYANO
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