2010/05/31(月) - 12:46
ジロ最終ステージとなる第21ステージはヴェローナでの15kmの個人タイムトライアル。最速タイムはラーション(サクソバンク)がマークし、2位のピノッティ(HTCコロンビア)を下しステージ優勝。危なげなく走ったバッソ(リクイガス)が2006年に次ぐ総合優勝を果たした。
多くの観客が詰めかけたヴェローナのアリーナにゴールする (c)RCS sports
ヴェローナのスタート台を駆け出した新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsujiジロ・デ・イタリア最終第21ステージは、ロミオとジュリエットの舞台となったイタリア北部の美しい都ヴェローナを舞台とする距離15kmの個人タイムトライアル。約3週間の間、厳しいレースを戦い、そして前日までの厳しい山岳を乗り越えてきた選手たちが、疲労の蓄積した身体に鞭打って、最後の「時間との闘い」に挑む。
コースはヴェローナ中心部のブラ広場をスタートし、郊外の3級山岳(平均勾配4.4%)トリチェッリの丘を上って再びヴェローナ中心部へと戻る。標高差200mほどのアップダウンコースであり、平地独走力と同時に登坂力が要求される。
ゴール地点はローマ時代の円形闘技場が完全なカタチで残っているアリーナだ。用意されたコースは、2004年世界選手権ロードレースに使用されたコースとほぼそのまま同じ。ただし当時のコースは逆回りだった。ちなみに当時はオスカル・フレイレ(スペイン)が優勝している。(タイムトライアルはガルダ湖畔バルドリーノで開催され、マイケル・ロジャースが優勝)
コースのほぼ中間地点となるトリチェッレの丘が最高標高地点(277m)、標高差は220mだ。また、トリチェッレの丘からのダウンヒルはコーナーが多いため、スピードによっては危険を伴なう。また街全体が世界遺産に指定されているヴェローナ市街の路面は石畳のため、路面の振動が大きく、最後にタイトなコーナーも待ち構える。15kmと短いからこその厳しさをもったコースだ。
総合成績トップ10のタイム差に注目が集まる。(前ステージまでの総合順位とタイム差)
1位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) 87h23'00"
2位 ダビ・アローヨ(スペイン、ケスデパーニュ) +1'15"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・ドイモ) +2'56"
4位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)+2'57"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) +3'47"
6位 リッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク) +7'25"
7位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) +7'31"
8位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム) +8'55"
9位 ロベルト・キセロフスキー(クロアチア、リクイガス・ドイモ) +14'06"
10位 マルコ・ピノッティ(イタリア、チームHTC・コロンビア) +15'00"
ジロ・デ・イタリア完走に向けて追い込む新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) photo:Kei Tsuji新城が完走!ツールに続きジロの完走も成し遂げる
上位陣の闘いが始まる前に、早めのスタートをした新城幸也が走り切る。タイムは22:12で、80人がスタートし、56人がゴールした時点で暫定36位。そしてなにより、この瞬間にジロ・デ・イタリア完走を果たした。これでツール・ド・フランスとジロ・デ・イタリアの2つのグランツールを完走した初の日本人選手になった。新城は結果的にはステージ97位、個人総合93位でジロを終えている。
その歴史的意義と完走直後の新城のコメントはこちら。
セレモニー用のジャージに着替えたジルベルト・シモーニ(ランプレ) (c)CorVosシモーニのファイナルラン
ジロ・デ・イタリア2001・2003覇者のジルベルト・シモーニ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)が、最後のジロを走る。このジロを最後に引退を表明している英雄「ジーボ」の走りに、観客から暖かい声援が飛ぶ。シモーニのジャージにはなんと白いワイシャツの襟がついていて、ピンクのネクタイをしている!
そしてゴールするやいなやジャージを脱いで着替えだす。黒基調のジャージにピンクのライン、そしてアレーナの中に入っていくと、ステージへ上がり、ここで簡単な引退式が行われるという粋な計らいがあった。アレーナの観客が拍手喝采、シモーニはにこやかに手を振る。これが本当の見納めだ。
総合順位シャッフルとステージ優勝を狙う争い
総合上位陣が走り出す前の暫定順位で注目すべきは、昨年のジロ最終ステージのローマでの個人TT覇者イグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、サーヴェロ・テストチーム)のタイムだ。20:42をマークし、暫定トップに。
トップタイムを叩き出したグスタフ・ラーション(スウェーデン、サクソバンク) (c)CorVosそして2009年世界選手権個人タイムトライアル2位、2008年北京五輪個人TT2位のダブル銀メダリスト、グスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)がコースに出る。ラーションは中間計測地点でトップタイムを更新。そしてゴールではコノヴァロヴァスのタイムを23秒も上回る20:19の暫定トップタイムをたたき出す。
そして、もっとも多くのジャーナリストが優勝候補に挙げた優勝候補最右翼のブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)がスタート。
白基調にイギリス国旗のユニオンジャックカラーをあしらったジャージに身を包み、気迫満点で飛び出していくウィギンズ。2009ジロでは最終ステージのローマでの個人TTで、雨に降られたため、(降られない時間にスタートした)コノヴァロヴァスに1秒差の2位になっているウィギンズは、1年越しのリベンジというモチベーションもあった。しかし、ウィギンズの中間計測地点でのタイムはラーションに対して8秒遅かった。
ラーションはレース後こう回想している「下りではウィギンスに負けたことがなかったので、このタイムを聞いて恐れる必要はなくなった」。
ステージ7位に終わったブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
ライバルたちの走りをテレビで見つめるグスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク) photo:Kei Tsuji
総合トップ10の選手たちがスタート
3週間のレースの後半のタイムトライアルは、TTスペシャリストよりも総合上位に残る選手たちの地脚が勝ることがしばしばある。そして、注目は総合上位の順位がシャッフルされるかどうかだ。
トップから2秒遅れのステージ2位に入ったマルコ・ピノッティ(イタリア、チームHTC・コロンビア) photo:Kei Tsujiもうひとりの優勝候補マルコ・ピノッティ(イタリア、チームHTC・コロンビア)がスタート。2007年ジロの最終ステージのミラノでのタイムトライアルで優勝したピノッティは、とくにスタミナが必要とされるステージレース後半のタイムトライアルに強い選手で、登りも得意。まさにもう一人の本命だ。
ピノッティは中間計測ポイントでラーションのタイムを上回る最高タイム13:23を出す。ラーションはレース後に「ピノッティが脅威だった」と語っている。
しかしダウンヒルが得意なラーションに対し、ピノッティは下りでタイムを伸ばすことができず、結果的には2位のタイム。
トップから17秒遅れのステージ3位に入ったアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Riccardo Scanferlaアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)がスタート! 緩いアップダウンを得意とするため優勝候補に入るヴィノ。中間計測ポイントで13:40をマークし、暫定3位。2位が狙える可能性があるタイムだ。そして結果的にはステージ3位の好タイムを出す。
総合6位のリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)がスタートして行く。真っ白なジャージに身を包み、得意のタイムトライアルに期待が集まる。しかしヴィノクロフのタイムを下回り、総合順位で逆転されてしまい7位にダウン。しかし当然マリアビアンカは守りきった。
カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)がスタート! ロッソ・パッショーネの真っ赤なジャージに身を包み、得意のTTに期待が集まる。スカルポーニとの総合でのタイム差は50秒。それを返せば表彰台に上がれる可能性がある。昨ステージ後のコメントではステージ優勝を狙うことを公言。昨ステージはそのために力をセーブしたとも言う。そして、「調子が出ないのは、ある問題を抱えているから。それをヴェローナで話す」とコメントしていた。
エヴァンスの中間計測ポイント通過タイムは13:42。リッチー・ポルトとほぼ並ぶが、総合順位を入れ替えるインパクトはなかった。
マリアビアンカのリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)はステージ11位 photo:Kei Tsuji
ステージ4位に入ったカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Riccardo Scanferla
ニーバリとスカルポーニの秒差バトル
タイムを失うだろうと予想されていた総合4位のミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)は13:42で中間点を通過。
そしてスカルポーニとわずか1秒差の総合3位、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・ドイモ)が中間計測通過タイムでスカルポーニと同タイムで並んだ。TTを得意とするニーバリが大きくタイムを奪うと予想された闘いで、スカルポーニの予想外の健闘に、ポディウム・シャッフルの可能性も見え出す。しかし下りを得意とするニーバリはゴールまでにタイムを伸ばし、スカルポーニを12秒上回るタイムを出し、シャッフルはならず。ニーバリが総合3位を確実にした。
ステージ5位に入ったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス) photo:Kei Tsuji
ステージ9位に入ったミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ) photo:Kei Tsuji
アローヨとバッソは堅実な走り
総合2位のダビ・アローヨ(スペイン、ケースデパーニュ)は21:37秒でフィニッシュ。ニーバリに対し1分近く失ったが、タイムマージンとしてもっていた1分41秒差は大きかった。
そして最終走者、マリアローザを着るイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・ドイモ)が大きな深呼吸のあとスタート。「もう90%勝利をポケットに入れている」と形容されるバッソは、リスクを冒さず、堅実に走るのみ。
大歓声を受けて山岳を上るマリアローザのイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) photo:Riccardo Scanferla
ステージ47位と伸び悩んだダビ・アローヨ(スペイン、ケースデパーニュ) photo:Kei Tsuji
バッソはトップタイムのラーションに42秒遅れのステージ15位で走りきった。この瞬間、トップタイムはグスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)の20:19に決定した。
大歓声に包まれたアリーナに登場したイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) photo:Kei Tsuji
観客が詰めかけたアレーナ内へと向かうバッソ。2006年ぶり2度目のジロ総合優勝を決め、待っていた子供、ドゥミティッラちゃんとサンチャゴちゃんにキスをする。そしてザナッタ監督、アマディオ監督らとも抱き合い、チームメイトにも祝福を受けた。
息子と娘を抱きしめるイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) photo:Kei Tsuji
チーム監督たちと勝利を喜ぶイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) photo:Kei Tsuji
優勝トロフィーを高く掲げるイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) photo:Kei Tsuji困難な時期を乗り越えたバッソが2度目のジロ総合優勝
2006年のジロ・デ・イタリア優勝を経験しているバッソ。しかしここまでの道のりは決して平穏ではなかった。ジロに優勝した後、ドーピング騒動「オペラシオン・プエルト」への関与が疑われ、続く7月のツール・ド・フランス出場前夜にツール・ド・フランスのスタートを主催者によって拒まれる。
その後結局はドーピング問題の中心人物、フエンテス医師への関与を認め、ドーピングをするつもりだったことを告白し、2年間の出場停止処分を受け入れた。
2008年ジャパンカップでレースに復帰し、2009年ジロ・デ・イタリアは総合5位で終えているバッソ。続いた誹謗中傷、そしてかつてのパフォーマンスを取り戻すのに時間がかかったが、この総合優勝はバッソにとって真のカムバックの証と言えそうだ。バッソはドーピングについての現在の自分の姿勢を明らかにするために、自分の血液データやトレーニング記録をすべて自身のウェブサイトにおいてオンライン公開している。
バッソ及び各選手のコメントは追って紹介する。
山岳賞トップに輝いたマシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット) photo:Kei Tsuji
総合2位のアローヨと握手するイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) photo:Kei Tsuji
マリアビアンカを最後まで守り抜いたリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク) photo:Kei Tsuji
総合敢闘賞に輝いたカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsuji
チーム総合成績トップに輝いたリクイガス photo:Riccardo Scanferla
最終個人タイムトライアルを制したグスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク) photo:Kei Tsujiジロ・デ・イタリア2010第21ステージ 結果
1位 グスタフ・ラーション(スウェーデン、サクソバンク) 20'19"
2位 マルコ・ピノッティ(イタリア、チームHTCコロンビア) +02"
3位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) +17"
4位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) +22"
5位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・ドイモ) +23"
6位 グナタス・コノバロバス(リトアニア、サーヴェロ・テストチーム) +23"
7位 ブラッドリー・ウィギンス(イギリス、チームスカイ) +29"
8位 キャメロン・メイヤー(オーストラリア、ガーミン・トランジションズ)+32"
9位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)+35"
10位 トム・スタムスニデル(オランダ、ラボバンク) +37"
97位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) +01'53"
個人総合成績 マリアローザ
1位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) 87h44'01"
2位 ダビ・アローヨ(スペイン、ケスデパーニュ) +1'51"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・ドイモ) +2'37"
4位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ) +2'50"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) +3'27"
6位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) +7'06"
7位 リッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク) +7'22"
8位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム) +9'39"
9位 マルコ・ピノッティ(イタリア、チームHTCコロンビア) +14'20"
10位 ロバート・キセロフスキー(クロアチア、リクイガス・ドイモ) +14'51"
93位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) +3h22'21"
ポイント賞 マリアロッサ
カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)
山岳賞 マリアヴェルデ
マシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)
新人賞 マリアビアンカ
リッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)
チーム総合成績
リクイガス・ドイモ
スーパーチーム賞
リクイガス・ドイモ
ファーストチーム賞
リクイガス・ドイモ
ステージ敢闘賞
ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)
総合敢闘賞
マシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)
フーガ(逃げ)賞
ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)
text:Makoto.AYANO
photo:Kei.Tsuji,CorVos
text:Kei Tsuji
(c)CorVos

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コースはヴェローナ中心部のブラ広場をスタートし、郊外の3級山岳(平均勾配4.4%)トリチェッリの丘を上って再びヴェローナ中心部へと戻る。標高差200mほどのアップダウンコースであり、平地独走力と同時に登坂力が要求される。
ゴール地点はローマ時代の円形闘技場が完全なカタチで残っているアリーナだ。用意されたコースは、2004年世界選手権ロードレースに使用されたコースとほぼそのまま同じ。ただし当時のコースは逆回りだった。ちなみに当時はオスカル・フレイレ(スペイン)が優勝している。(タイムトライアルはガルダ湖畔バルドリーノで開催され、マイケル・ロジャースが優勝)
コースのほぼ中間地点となるトリチェッレの丘が最高標高地点(277m)、標高差は220mだ。また、トリチェッレの丘からのダウンヒルはコーナーが多いため、スピードによっては危険を伴なう。また街全体が世界遺産に指定されているヴェローナ市街の路面は石畳のため、路面の振動が大きく、最後にタイトなコーナーも待ち構える。15kmと短いからこその厳しさをもったコースだ。
総合成績トップ10のタイム差に注目が集まる。(前ステージまでの総合順位とタイム差)
1位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) 87h23'00"
2位 ダビ・アローヨ(スペイン、ケスデパーニュ) +1'15"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・ドイモ) +2'56"
4位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)+2'57"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) +3'47"
6位 リッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク) +7'25"
7位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) +7'31"
8位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム) +8'55"
9位 ロベルト・キセロフスキー(クロアチア、リクイガス・ドイモ) +14'06"
10位 マルコ・ピノッティ(イタリア、チームHTC・コロンビア) +15'00"
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その歴史的意義と完走直後の新城のコメントはこちら。
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ジロ・デ・イタリア2001・2003覇者のジルベルト・シモーニ(イタリア、ランプレ・ファルネーゼヴィーニ)が、最後のジロを走る。このジロを最後に引退を表明している英雄「ジーボ」の走りに、観客から暖かい声援が飛ぶ。シモーニのジャージにはなんと白いワイシャツの襟がついていて、ピンクのネクタイをしている!
そしてゴールするやいなやジャージを脱いで着替えだす。黒基調のジャージにピンクのライン、そしてアレーナの中に入っていくと、ステージへ上がり、ここで簡単な引退式が行われるという粋な計らいがあった。アレーナの観客が拍手喝采、シモーニはにこやかに手を振る。これが本当の見納めだ。
総合順位シャッフルとステージ優勝を狙う争い
総合上位陣が走り出す前の暫定順位で注目すべきは、昨年のジロ最終ステージのローマでの個人TT覇者イグナタス・コノヴァロヴァス(リトアニア、サーヴェロ・テストチーム)のタイムだ。20:42をマークし、暫定トップに。
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そして、もっとも多くのジャーナリストが優勝候補に挙げた優勝候補最右翼のブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)がスタート。
白基調にイギリス国旗のユニオンジャックカラーをあしらったジャージに身を包み、気迫満点で飛び出していくウィギンズ。2009ジロでは最終ステージのローマでの個人TTで、雨に降られたため、(降られない時間にスタートした)コノヴァロヴァスに1秒差の2位になっているウィギンズは、1年越しのリベンジというモチベーションもあった。しかし、ウィギンズの中間計測地点でのタイムはラーションに対して8秒遅かった。
ラーションはレース後こう回想している「下りではウィギンスに負けたことがなかったので、このタイムを聞いて恐れる必要はなくなった」。
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総合トップ10の選手たちがスタート
3週間のレースの後半のタイムトライアルは、TTスペシャリストよりも総合上位に残る選手たちの地脚が勝ることがしばしばある。そして、注目は総合上位の順位がシャッフルされるかどうかだ。
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ピノッティは中間計測ポイントでラーションのタイムを上回る最高タイム13:23を出す。ラーションはレース後に「ピノッティが脅威だった」と語っている。
しかしダウンヒルが得意なラーションに対し、ピノッティは下りでタイムを伸ばすことができず、結果的には2位のタイム。
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総合6位のリッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)がスタートして行く。真っ白なジャージに身を包み、得意のタイムトライアルに期待が集まる。しかしヴィノクロフのタイムを下回り、総合順位で逆転されてしまい7位にダウン。しかし当然マリアビアンカは守りきった。
カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)がスタート! ロッソ・パッショーネの真っ赤なジャージに身を包み、得意のTTに期待が集まる。スカルポーニとの総合でのタイム差は50秒。それを返せば表彰台に上がれる可能性がある。昨ステージ後のコメントではステージ優勝を狙うことを公言。昨ステージはそのために力をセーブしたとも言う。そして、「調子が出ないのは、ある問題を抱えているから。それをヴェローナで話す」とコメントしていた。
エヴァンスの中間計測ポイント通過タイムは13:42。リッチー・ポルトとほぼ並ぶが、総合順位を入れ替えるインパクトはなかった。
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ニーバリとスカルポーニの秒差バトル
タイムを失うだろうと予想されていた総合4位のミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)は13:42で中間点を通過。
そしてスカルポーニとわずか1秒差の総合3位、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・ドイモ)が中間計測通過タイムでスカルポーニと同タイムで並んだ。TTを得意とするニーバリが大きくタイムを奪うと予想された闘いで、スカルポーニの予想外の健闘に、ポディウム・シャッフルの可能性も見え出す。しかし下りを得意とするニーバリはゴールまでにタイムを伸ばし、スカルポーニを12秒上回るタイムを出し、シャッフルはならず。ニーバリが総合3位を確実にした。
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アローヨとバッソは堅実な走り
総合2位のダビ・アローヨ(スペイン、ケースデパーニュ)は21:37秒でフィニッシュ。ニーバリに対し1分近く失ったが、タイムマージンとしてもっていた1分41秒差は大きかった。
そして最終走者、マリアローザを着るイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス・ドイモ)が大きな深呼吸のあとスタート。「もう90%勝利をポケットに入れている」と形容されるバッソは、リスクを冒さず、堅実に走るのみ。
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バッソはトップタイムのラーションに42秒遅れのステージ15位で走りきった。この瞬間、トップタイムはグスタフエリック・ラーション(スウェーデン、サクソバンク)の20:19に決定した。
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観客が詰めかけたアレーナ内へと向かうバッソ。2006年ぶり2度目のジロ総合優勝を決め、待っていた子供、ドゥミティッラちゃんとサンチャゴちゃんにキスをする。そしてザナッタ監督、アマディオ監督らとも抱き合い、チームメイトにも祝福を受けた。
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
2006年のジロ・デ・イタリア優勝を経験しているバッソ。しかしここまでの道のりは決して平穏ではなかった。ジロに優勝した後、ドーピング騒動「オペラシオン・プエルト」への関与が疑われ、続く7月のツール・ド・フランス出場前夜にツール・ド・フランスのスタートを主催者によって拒まれる。
その後結局はドーピング問題の中心人物、フエンテス医師への関与を認め、ドーピングをするつもりだったことを告白し、2年間の出場停止処分を受け入れた。
2008年ジャパンカップでレースに復帰し、2009年ジロ・デ・イタリアは総合5位で終えているバッソ。続いた誹謗中傷、そしてかつてのパフォーマンスを取り戻すのに時間がかかったが、この総合優勝はバッソにとって真のカムバックの証と言えそうだ。バッソはドーピングについての現在の自分の姿勢を明らかにするために、自分の血液データやトレーニング記録をすべて自身のウェブサイトにおいてオンライン公開している。
バッソ及び各選手のコメントは追って紹介する。






1位 グスタフ・ラーション(スウェーデン、サクソバンク) 20'19"
2位 マルコ・ピノッティ(イタリア、チームHTCコロンビア) +02"
3位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) +17"
4位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) +22"
5位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・ドイモ) +23"
6位 グナタス・コノバロバス(リトアニア、サーヴェロ・テストチーム) +23"
7位 ブラッドリー・ウィギンス(イギリス、チームスカイ) +29"
8位 キャメロン・メイヤー(オーストラリア、ガーミン・トランジションズ)+32"
9位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ)+35"
10位 トム・スタムスニデル(オランダ、ラボバンク) +37"
97位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) +01'53"
個人総合成績 マリアローザ
1位 イヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス) 87h44'01"
2位 ダビ・アローヨ(スペイン、ケスデパーニュ) +1'51"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・ドイモ) +2'37"
4位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、アンドローニ・ジョカトーリ) +2'50"
5位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング) +3'27"
6位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) +7'06"
7位 リッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク) +7'22"
8位 カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム) +9'39"
9位 マルコ・ピノッティ(イタリア、チームHTCコロンビア) +14'20"
10位 ロバート・キセロフスキー(クロアチア、リクイガス・ドイモ) +14'51"
93位 新城幸也(日本、Bboxブイグテレコム) +3h22'21"
ポイント賞 マリアロッサ
カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシング)
山岳賞 マリアヴェルデ
マシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)
新人賞 マリアビアンカ
リッチー・ポルト(オーストラリア、サクソバンク)
チーム総合成績
リクイガス・ドイモ
スーパーチーム賞
リクイガス・ドイモ
ファーストチーム賞
リクイガス・ドイモ
ステージ敢闘賞
ブラドレー・ウィギンズ(イギリス、チームスカイ)
総合敢闘賞
マシュー・ロイド(オーストラリア、オメガファーマ・ロット)
フーガ(逃げ)賞
ジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)
text:Makoto.AYANO
photo:Kei.Tsuji,CorVos
text:Kei Tsuji
(c)CorVos