2010/05/29(土) - 15:31
「これで残り一日です!」35分遅れのグルペットでゴールした新城幸也(Bboxブイグテレコム)が、笑顔でそう言ってチームバスに駆け出す。そう、ユキヤの前に立ちはだかる関門は、チーマコッピ(大会最高点)のガヴィア峠を含む大会最難関の第20ステージだけ。しかし悪天候によりガヴィア峠がコースから外れる可能性が出て来た。
リクイガスがライバルたちを蹴落とす
出走サインに向かうマリアローザのダビ・アローヨ(スペイン、ケースデパーニュ) photo:Kei Tsuji当初、この日は1級山岳モルティローロ峠で撮影するつもりだった。平均勾配10%オーバーの上りが13km近く続く登りとはどんなものか、実際に(クルマだが)走ってみたいと思ったから。そして、ジロの名物峠で観客に混ざる感覚を味わいたかったから。
いつもならレース前半に数カ所で撮影するのだが、この日は前半部を完全に無視して後半の山岳地帯に直行した。もちろんカーナビの行き先設定はモルティローロ峠。
観客はポータブルテレビに釘付け photo:Kei Tsujiしかしラジオコルサはリクイガスが前半から積極的に集団を率いていることを告げる。彼らの狙いはただ一つ、山岳でライバルたちを振るい落とすこと。マリアローザの持ち主が変わりそうな予感がして、急遽行き先を変更した。
モルティローロ峠のバトルはリカルドに任せて、ゴール地点に近いモルティローロ峠手前の1級山岳トリヴィーニョ峠に落ち着く。特に面白みのない上りで観客も少ないが、ここなら選手たちの通過後にコースを逆走すればゴール写真が撮れる。もちろん表彰台も撮れる。
リクイガスのペースアップによってメイン集団は縮小 photo:Kei Tsuji現実的な話をすると、この日マリアローザがリクイガスの某選手に移れば、翌日の第20ステージ表彰台でマリアローザを撮影する必要が無くなる。つまりゴール写真を撮らず、チーマコッピのガヴィア峠で撮影が可能になるのだ。
案の定、リクイガスのペースアップで一気に縮小したメイン集団が現れた。早くもライバルのカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)やダビ・アローヨ(スペイン、ケースデパーニュ)はチームメイトを失って丸裸に近い状態。
観客が詰めかけた1級山岳モルティローロ峠を駆け上がる先頭の3名 photo:Riccardo Scanferla次のモルティローロ峠で更にペースが上がればどうなるか?結果はご存知の通り、リクイガスの作戦成功だった。「今年のジロで一番上れているのはバッソ」という下馬評通りの走りで、ライバルたちを力でねじ伏せた。
意外だったのは、バッソ最大のライバルと目されたエヴァンスが早々に脱落したこと。ちなみに、多くの選手たちがフロントのインナーに36Tを使用する中、エヴァンスは39Tだった。MTB出身者はビッグギアを踏む傾向があるのかもしれないが、ジロの急勾配の上りで39Tは大きすぎたか。
マリアローザのアローヨよヴィノクロフに追いつくカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)ら photo:Riccardo Scanferlaゴールはモルティローロ峠の頂上ではなくアプリカ。テクニカルな下りでバッソはどうしてもニーバリについていけない。上りで稼いだタイム差がどんどん少なくなって行く。
更に悪いことに、後続のアローヨには、エヴァンス、アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、カルロス・サストレ(スペイン、サーヴェロ・テストチーム)が合流し、数の上では先頭のトリオを射落とせる状態に。
大歓声に包まれた表彰台にイヴァン・バッソ(イタリア、リクイガス)が登場 photo:Kei Tsujiリクイガスの努力が無駄になる危機。しかし誰もアローヨに協力しなかった。
一時は30秒まで詰まったタイム差が1分、2分と広がって行く。タイム差の広がりに合わせてゴール地点の観客もテンションアップ。ついにタイム差が2分半(第18ステージ終了時点でアローヨとバッソのタイム差は2分32秒)を超え、マリアローザが暫定でバッソに移ったとき、会場の盛り上がりは頂点に達した。
警備員の静止を振り切ってゴール地点を去るダビ・アローヨ(スペイン、ケースデパーニュ) photo:Kei Tsujiゴール後、マリアローザを失ったアローヨは怒りを露にした。温厚なイメージのあったアローヨが、警備員の誘導を無視して、ゴール地点を逆走してホテルに向かう。うっすら汚れたマリアローザの背中は哀愁感たっぷりだった。
1級山岳トリヴィーニョ峠通過の時点で、メイン集団から9分遅れのグルペットに新城幸也(Bboxブイグテレコム)が入っていることを確認していた。表彰式が終わって、他のカメラマンが去ったゴール地点で、ひたすらユキヤを待つ。
ユキヤはステージ優勝者から35分17秒遅れのグルペットでやってきた。これがこの日の最終便。厳しい山岳を終えて、さぞ憔悴し切っていると思いきや「これで(難関山岳は)残り一日です!」と、充実感に溢れた笑顔を見せてくれた。
最終日のヴェローナ個人タイムトライアルは問題ないとして、ユキヤの「完走」の前に立ちはだかるのは残り1ステージだ。
主催者が用意した3つの選択肢
ジロ・デ・イタリア2010第20ステージ代替コース案1 image:RCS Sport数日前から北イタリアは厚い雲が覆っている。悪天候によって峠通過が厳しくなる場合に備え、レース主催者は第20ステージの代替案を3つ用意した。スタート地点とゴール地点は3つとも一緒で、登場する峠が異なっている。
代替コース1は沿道に4〜5メートルの雪の壁が残るガヴィア峠を回避するルート。前日に登場したトリヴィーニョ峠を別ルートから上り、アプリカを通過し、大きく西に回り込んでモルティローロ峠へ。モルティローロ峠を前日と同じ方向から上り、予定通りポンテ・ディ・レーニョ・トナーレにゴールする。
ジロ・デ・イタリア2010第20ステージ代替コース案2 image:RCS Sport代替コース2も同じくガヴィア峠回避。前半のコースレイアウトが原案と同じで、スイスに入国後フォルコラ・ディ・リヴィーニョでイタリアに戻る。後半のガヴィア峠の代わりにモルティローロ峠を前日と同じ方向から登坂。ガヴィア峠に代わって、標高2315mのフォルコラ・ディ・リヴィーニョがチーマコッピとなる。
代替コース3は、トリヴィーニョ峠の中腹に位置するサンタクリスティーナ峠を上り、アプリカ方面にダウンヒル。そしてモルティローロ峠を前日と反対側から上り、スタート地点のボルミオを通過してガヴィア峠へ。後半のコースレイアウトは原案と一緒だ。
ジロ・デ・イタリア2010第20ステージ代替コース案3 image:RCS Sportいずれにしても、原案よりも獲得標高差は少ない。とは言ってもその難易度は今大会最高だろう。モルティローロ峠とガヴィア峠が一緒に登場する可能性があるなんて。
天候や道路状況を踏まえ、主催者はレース当日の10時30分(日本時間17時30分)にどのルートを通るのかを発表する。このコース変更は総合争いにどう響くのか?そして、どこで撮影すればいいんだ??選手もプレスも、今年のジロは天候に振り回されっぱなしだ。
text&photo:Kei Tsuji
リクイガスがライバルたちを蹴落とす
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いつもならレース前半に数カ所で撮影するのだが、この日は前半部を完全に無視して後半の山岳地帯に直行した。もちろんカーナビの行き先設定はモルティローロ峠。
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モルティローロ峠のバトルはリカルドに任せて、ゴール地点に近いモルティローロ峠手前の1級山岳トリヴィーニョ峠に落ち着く。特に面白みのない上りで観客も少ないが、ここなら選手たちの通過後にコースを逆走すればゴール写真が撮れる。もちろん表彰台も撮れる。
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意外だったのは、バッソ最大のライバルと目されたエヴァンスが早々に脱落したこと。ちなみに、多くの選手たちがフロントのインナーに36Tを使用する中、エヴァンスは39Tだった。MTB出身者はビッグギアを踏む傾向があるのかもしれないが、ジロの急勾配の上りで39Tは大きすぎたか。
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1級山岳トリヴィーニョ峠通過の時点で、メイン集団から9分遅れのグルペットに新城幸也(Bboxブイグテレコム)が入っていることを確認していた。表彰式が終わって、他のカメラマンが去ったゴール地点で、ひたすらユキヤを待つ。
ユキヤはステージ優勝者から35分17秒遅れのグルペットでやってきた。これがこの日の最終便。厳しい山岳を終えて、さぞ憔悴し切っていると思いきや「これで(難関山岳は)残り一日です!」と、充実感に溢れた笑顔を見せてくれた。
最終日のヴェローナ個人タイムトライアルは問題ないとして、ユキヤの「完走」の前に立ちはだかるのは残り1ステージだ。
主催者が用意した3つの選択肢
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代替コース1は沿道に4〜5メートルの雪の壁が残るガヴィア峠を回避するルート。前日に登場したトリヴィーニョ峠を別ルートから上り、アプリカを通過し、大きく西に回り込んでモルティローロ峠へ。モルティローロ峠を前日と同じ方向から上り、予定通りポンテ・ディ・レーニョ・トナーレにゴールする。
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代替コース3は、トリヴィーニョ峠の中腹に位置するサンタクリスティーナ峠を上り、アプリカ方面にダウンヒル。そしてモルティローロ峠を前日と反対側から上り、スタート地点のボルミオを通過してガヴィア峠へ。後半のコースレイアウトは原案と一緒だ。
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天候や道路状況を踏まえ、主催者はレース当日の10時30分(日本時間17時30分)にどのルートを通るのかを発表する。このコース変更は総合争いにどう響くのか?そして、どこで撮影すればいいんだ??選手もプレスも、今年のジロは天候に振り回されっぱなしだ。
text&photo:Kei Tsuji
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