かつてクイックステップやBMCレーシングで活躍し、現在は気鋭のスロバキアンサイクリングウェアブランド「Isadore(イザドア)」のオーナーである、マルティン・ベリトスとペーター・ベリトスが来日。「洒落たプリントを乗せただけのウェアは作らない」と言う彼らに、ブランドの生い立ちや、徹底した品質へのこだわりについて聞いた。



イザドアブランドを立ち上げたベリトス兄弟が来日。ブランドの生い立ちやこだわりについて話を聞いたイザドアブランドを立ち上げたベリトス兄弟が来日。ブランドの生い立ちやこだわりについて話を聞いた photo:So.Isobe
国内ロードレース界を沸かせたジャパンカップ開催と時を同じくして、登りを得意とするオールラウンダーとして活躍したベリトス兄弟が来日した。目的は、兄弟が母国スロバキアで立ち上げたサイクリングアパレルブランド「Isadore(イザドア)」のPRと視察のため。大阪と東京ではイザドアの国内販売を行うショップ「TOKYO WHEELS」を訪ね、東京では一般サイクリストを招いたファンライドも行った。

ミルラムやHTC-ハイロード、クイックステップといったワールドチームで活躍していたマルティンとペーターがイザドアを立ち上げたのは2013年。「もともと引退後も自転車に寄り添ったことをしたいと考えていたし、現役生活中に自分が本当に着たいサイクリングジャージのアイディアを溜めていた。そこで選手活動を続けながらアパレルブランド立ち上げたんだ」とマーティンは言う。ペーターが2016年に、マーティンが2017年に現役引退してブランドの活動に専念すると、イザドアはその歩みを静かに、しかし着実に強化していくこととなる。

"尾根幹"エリアを走ったイザドアライド photo:東京ライフ
3,4年前まで屈指のオールラウンダーとして活躍した走りは健在3,4年前まで屈指のオールラウンダーとして活躍した走りは健在 photo:東京ライフよみうりランドの観覧車を眺めるベリトス兄弟よみうりランドの観覧車を眺めるベリトス兄弟 photo:So.Isobe


彼ら二人が一貫してこだわるのが上質なウェアを生み出すことだ。メリノウール素材を軸に着心地が非常に柔らかく、温かみのあるカラーリングやデザインを施したアパレル類は日本国内でもじわじわと人気を増し、本当に良いものを求めるサイクリスト間で静かなる注目を浴びる存在となった。スロバキア国内での一貫した生産管理や環境保全にも気を配るあたりにも好感が持てる(ブランドについての解説はこちらの記事に詳しい)。

シクロワイアード編集部はライドイベントを終えたベリトス兄弟にインタビューを行ない、ブランドの生い立ちや、徹底した品質へのこだわりについて聞いた。



― 今日はよろしくお願いします。まずは自身のブランドを立ち上げた理由を教えてもらいますか?現役生活を続ける傍でイザドアをスタートしたと聞いていますが、そのモチベーションとは何だったのでしょう?

ペーター・ベリトス。かつてブエルタでマイヨロホ着用や総合3位に入った一線級のオールラウンダー。2016年に膝の故障で引退。イザドアではCEOを務めるペーター・ベリトス。かつてブエルタでマイヨロホ着用や総合3位に入った一線級のオールラウンダー。2016年に膝の故障で引退。イザドアではCEOを務める photo:So.Isobeペーター:一番最初の理由は、自分たちが着たいウェアを自分たち自身で作ってみたいと思ったから。6,7年の現役生活の中でアイディアも溜まっていたし、ただファッショナブルなだけのウェアではなくて、快適で、そして自分自身が夢中になれるウェアが欲しかった。もう一つの理由は、人生における新しいチャレンジをしてみたかったから。プロ選手としての生活は楽しかったけれど、6,7年も選手を続けていると毎日が、そして毎年がルーティーンの連続で正直つまらなかった。生活に刺激を入れたかったのも一つの理由さ。

プロ選手として走る中で培った一番の知見は、フィッティングこそがウェアの命だということ。プロ選手は毎日6時間も7時間もレースやトレーニングに出たりする。その中でウェアがどう身体にフィットすべきかを知ることができたんだ。絶対必要なこと、あるいは不必要なことなど色々問題や課題が見えていた。

そして、僕らが現役時代に着ていたウェアは、もちろん空力性能や、攻めて走る時のパフォーマンスは素晴らしいけれど、その一方で決して快適ではなかった。窮屈だから長時間着用し続けたら肩が凝ってしまうし、コーヒーストップの時にはファスナーを開けたくなってしまう。僕らは「Back to Roots」と呼んでいるけれど、純粋にロードライドを楽しむためにふさわしい、上質なウェアを作ることにこだわり続けているんだ。

マルティン・ベリトス。双子の弟ピーターと共にオールラウンダーとして活躍し、2017年に引退。イザドアではプロダクトマネージャーとして製品開発を主導するマルティン・ベリトス。双子の弟ピーターと共にオールラウンダーとして活躍し、2017年に引退。イザドアではプロダクトマネージャーとして製品開発を主導する photo:So.Isobe
マルティン:だからこそ気をつけているのが素材選び。僕らの欲求を満たすには、高性能で、透湿性にも優れていることはもちろん、質感とフィット感が良くなければならない。だからメリノにせよライクラにせよ、一番優れたものを選ぶようにしているんだ。ここには相当なコストと時間をかけている。

― イザドアではメリノ素材を使ったアイテムを主軸に置いていますが、その理由は?

ペーター:マーティンが話したことに通じるけれど、メリノを使うのは性能と質感を両立する素材を求めた結果。肌触りに関して言えば、スポーツ用素材の中では現状メリノよりも優れているものはない。僕らもライクラ素材を使ったハイパフォーマンス製品をラインナップしているものの、ブランドとして推しているのはメリノラインだ。ただワット数を競ったり、STRAVA上のKOMを狙ったりするのは僕らの目指すロードサイクリングとは違う。純粋に走りそのものを楽しむためのブランドであることに誇りを感じている。

着心地柔らかなメリノ素材を主にしたイザドア。自然素材ならではの暖かな色合いも魅力の一つ着心地柔らかなメリノ素材を主にしたイザドア。自然素材ならではの暖かな色合いも魅力の一つ photo:So.Isobe
マルティン:他社と最も違うのはブランドが誕生した背景であり、僕らの選手経験の元に全ての製品が生み出されているということ。主にピーターがビジネスを担当し、僕は製品開発に携わっていて、全ての製品のアイディアを出してテストし、改善し、世に送り出す。全ては僕らの思いを元に作り出したもので、どこかからジャージを仕入れてロゴをプリントしたものは一つとしてない。真面目な製品開発が僕らのモットーだ。

そしてきめ細やかな製品アップデートのために大切にしているのが、僕らのオフィスと生産工場の距離感。僕らの製品の大部分を生産するスロバキアの提携工場はオフィスから1kmくらいの場所にあるんだ。毎日のように足を運んでより良い物作りができるように努力している。他の生産拠点もチェコやポルトガルなど全て欧州にあるのでハンドリングがしやすいんだ。



― 今日のライドではずっと日本の風景を興味深く観察している姿が印象的でした。そういったインスピレーションは製品のアイディアにも活かされているのでしょうか?

マルティン:大いにある。例えば、あえて今まで行ったことのない国に出向いたりして、そこで見た景色や感じたものをデザインに落とし込んだり、その土地ならではの気候で試すことでより良い製品を作ろうとしている。個人的にもファッションが好きで、シンプルかつ温かみのある風合いを大事にしてきたし、これからもそうしていきたいんだ。

ペーター:僕らが日本のレースに参戦した時は(2006年のツアー・オブ・ジャパンに兄弟揃って出場している。のちにペーターはBMCレーシングのメンバーとしてジャパンカップにも出場)レースばかりで全然日本の本当の姿を見ることはできなかったけれど、良く覚えているのは富士山ステージ(あざみライン)の恐ろしい急勾配のつづら折れ。僕らの「クライマーズジャージ」には「Mount Fuji」と名付けたカラーがあるけれど、その今でも忘れられない登りの光景から名付けたんだ。

2010年のブエルタ個人TTで、カンチェラーラを破りステージ優勝を挙げたペーター・ベリトス2010年のブエルタ個人TTで、カンチェラーラを破りステージ優勝を挙げたペーター・ベリトス photo:Unipublic2017年までクイックステップに所属したマーティン・ベリトス2017年までクイックステップに所属したマーティン・ベリトス photo:Kei Tsuji


― 個人的な話ですが、選手を継続しながら会社を立ち上げる例は少ないと思います。セカンドキャリアに悩む選手が多い中で二人はとてもスムーズにキャリア移行できたのでは?

ピーター:僕は脚にトラブルを抱えたことがきっかけで現役引退したけれど、その時既にイザドアが形になっていたので、セカンドキャリアのスタートはものすごく順調だった。僕らが100%ブランドに集中したことで会社としても規模を拡大できたし、今やスロバキアから遠く離れた日本でも展開できているのは本当に嬉しい。

マルティン:本当にそう思う。もちろんブランド立ち上げ当初はプロ選手との両立は大変だった。朝会社に出かけた後4,5時間トレーニングに出かけて、お昼に戻ってきてから夜遅くまでオフィスワーク。当然レースの時には会社を空けてしまうけれど、頼れるスタッフにも大きく助けられた。トッププロ選手としての生活は基本的に何から何まで誰かがサポートしてくれて、世界中あちこちを飛び回ってレースを走ったり、とても恵まれたものだった。でも一度それに浸りきってしまうと、ふと現役を引退した時に生活すらままらなくなってしまう。僕らのケースはかなり稀で、しかも情熱を注いだ自転車と密接に関わり、そしてビジネスもうまくいっている。とても嬉しく思っているよ。

非常に真面目で実直な雰囲気の兄弟。上質さを追求するブランドフィロソフィーは二人の性格がよく現れたものだと感じた非常に真面目で実直な雰囲気の兄弟。上質さを追求するブランドフィロソフィーは二人の性格がよく現れたものだと感じた photo:So.Isobe
― ありがとうございました。これからイザドアが何を目指していくのかを教えてもらえますか?

マルティン:僕らの目標は、本当に高品質なウェアを世に送り出すことで、もっと多くの人にロードサイクリングを楽しんでもらいたいということ。これはいくら会社が大きくなったとしても絶対にここだけは曲げたくないポイント。日本でも取り扱いショップが増えていると聞いているし、手にとって確かめる機会も今後増えていくと思う。まずは一度、試してもらいたいね。



筆者はイザドアの輸入代理店を務める株式会社東京ライフ代表の森稔さんに、取り扱いを決めたその理由や、惚れ込んだポイントについて話を聞いてみた。森さん自身もロードバイクはもちろん、グラベル系アドベンチャーライドにもチャレンジする熱心なサイクリストだ。

株式会社東京ライフ代表の森稔さん株式会社東京ライフ代表の森稔さん photo:So.Isobeインタビューを行ったTOKYO WHEELS三宿店。渋谷からもほど近いスタイリッシュな店舗だインタビューを行ったTOKYO WHEELS三宿店。渋谷からもほど近いスタイリッシュな店舗だ photo:So.Isobe


森代表:取り扱いを始めてから1年半。3年前のユーロバイクでペーターと話したことがきっかけです。とにかく肌触りが良くて、風合いも良い。普通の素材とカッティングのウェアに洒落たプリントを乗せただけの新興ブランドとは根本的に違うな、と感じました。

ちゃんと物作りからプロデュースしているし、小規模なのに品質にこだわっているところも好印象でしたし、それは今でも変わっていません。何か問いかけをした時のレスポンスも非常にクイックで真面目だし、こちらが望むことをすぐ形にしてくれるんです。そういう部分が製品にも表れているんだなと強く思いますね。現在はメリノ製品をメインで扱っていますが、パフォーマンスラインや、コミューター系のアパレルも徐々に増やしていければ、と思っています。
イザドア取り扱い店舗
取り扱いについての問い合わせ先
Isadore国内代理店 株式会社東京ライフ
https://www.tokyolife.co.jp/

text:photo:So.Isobe

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