2019/06/06(木) - 13:42
6月2日にヴェローナで閉幕したジロ・デ・イタリア。逃げによって大きな注目を浴びた初山翔の完走、ダミアーノ・チーマのステージ優勝、第1ステージでタイムアウト失格となった西村大輝。NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネが、チームとしての3度めの出場のジロを振り返る。
ー NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネより
5月11日にボローニャで開幕した第102回目のジロ・デ・イタリアが、6月2日にヴェローナにて閉幕しました。最終日となる第21ステージは、17kmの個人タイムトライアルで、走り終えた選手たちは一人一人、ヴェローナの歴史あるアリーナの中央をパレードする演出がなされ、駆けつけた大勢の観客たちが、3週間におよぶ長いレースを走り切った選手たちへ声援を送りました。
最終日のステージでは、個人総合成績で最下位(142位)となりながらも完走を果たした初山翔に、最下位を象徴する黒いジャージ「マリアネーラ」が贈呈されました。現在は非公式の賞ながら、1946年から51年まで実際に存在し、そのユニークさから多くのイタリア人ファンに愛されている伝統的なジャージです。ステージでの演出は第3ステージにて単独で逃げ、今大会で大きな注目を集めた初山翔をねぎらい、改めてスポットライトを当てるものでした。また5ステージで逃げに乗り、逃げた総距離(932km)でトップに立ったダミアーノ・チーマはフーガ賞を獲得。ポイント賞ランキングでも3位をマークし、ジロ・デ・イタリア最終日の名誉あるポディウムに立ちました。
今回、NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネはワイルドカード(主催者招待枠)を獲得し、2015、16年に次ぐ3年ぶり3回目の出場となりました。UCIのルール改正により1チームあたりの選手数が9名から8名に減ってからは初めての参戦でしたが、二人の日本人選手が出場メンバーに選ばれました。
ジロ・デ・イタリア出場選手と監督
初山翔、西村大輝、マルコ・カノラ(イタリア)、フアンホセ・ロバト(スペイン)、イヴァン・サンタロミータ(イタリア)、ニコラ・バジョーリ(イタリア)、ダミアーノ・チーマ(イタリア)、ジョバンニ・ロナルディ(イタリア)、監督 :マリオ・マンゾーニ、水谷壮宏、アレッサンドロ・ドナーティ
大会初日は、ボローニャ中心部から郊外のサンルーカ聖堂へと向かう登坂区間が組み込まれた個人タイムトライアルで、大きな緊張やプレッシャーから西村大輝がスタート直前になり体調を崩してタイムアウトにより失格。誰もが想定しなかった波乱の展開から、チームのジロは始まりました(西村はその後順調に回復し、現在トレーニングを積んでいます)。
第2ステージから通常のロードレースが始まり、雨に見舞われたボローニャをあとにし、一行はトスカーナ地方から南下していきます。そして初日からチーマが7名の逃げに乗る活躍。初山とチーマに逃げに乗るように指示が出ていたもので、この日はチーマが作戦通りの走りをしました。
翌第3ステージでは、今度は初山がスタート直後のアタックに成功して先行する展開に。通常であれば、他のチームの選手が追随して数名で逃げ集団を形成するところですが、この日はどういうことか、初山のアタックに反応する選手が現れず。また集団もこの動きを容認したために、初山と集団のタイム差が徐々に広がっていきました。
これから始まる3週間のレースのことを考慮しながら一定ペースで走り続けた初山。しかし、単独でのエスケープは144kmにも及び、テレビ中継は3時間以上にわたって初山の姿を映し続けました。そしてレースを終えると、一人で果敢に逃げ続けた初山は一躍注目の存在に。初山が流暢なイタリア語を話すこともあり、ガゼッタ・デッロ・スポルト紙をはじめ多くのイタリアのメディアが取り上げ、この日を境に初山のもとには多くのファンが集まるようになりました。また初山は第10ステージでも逃げに成功しています。
チーム最初のトップ10リザルトは雨に見舞われた第5ステージ。危険な集団ゴールスプリントに挑んだプロ1年目、今季アジアで2勝した勢いをもってジロに挑むジョバンニ・ロナルディが区間9位でゴール。その後もスプリントで、第8ステージでマルコ・カノラが区間8位、第10ステージで再びロナルディが区間8位と格上チームに健闘します。
しかし、レースが2週目に入ると、蓄積する疲労や長引く悪天候も影響して、体調を崩す選手が出始め、第13ステージにロナルディ、第16ステージにニコラ・バジョーリが相次いでリタイア。厳しい山岳ステージが続くなか、他のメンバーたちも体力と精神力の限界を越えて走り続けます。
そして、山岳ステージに挟まれた今大会最後の平坦ステージである第18ステージで、再びチーマが3名でエスケープ。多くのワールドチームが集団ゴールスプリントを狙っていたため、その展開が濃厚とみられていましたが、レースが後半に差し掛かると、詰まり切らないタイム差から逃げ切りの可能性が生まれ始め、先頭の3名はわずかなチャンスにかけて、ハイペースを刻み続けます。残り1km地点通過時、彼らに残されたアドバンテージは15秒ほど。一瞬でもひるんだら加速する大集団に飲み込まれるという状況下で、仕掛けどころを待って一気にラストスパートを仕掛けたチーマが、僅差で集団を振り切り区間優勝。プロコンチネンタル体制5年目にして、チーム史上最大、夢にまでみた大きな勝利を掴みました。
この勝利によりチームは再び強く団結。3週目を迎え、疲労の色が大きく滲むなか、残りのステージに向けてモチベーションが高まる瞬間でもありました。そして第19ステージではイヴァン・サンタロミータとともに逃げに乗ったカノラが終盤にアタックを仕掛けて一時単独で先行するシーンも。フィニッシュが近づき、強豪選手たちに交わされていきますが、果敢に食らいつき区間7位の好成績でフィニッシュしました。
チーム全員で協力しながら最後の難関山岳となる第20ステージも走破。初山を含む5選手が最終ゴール地点となるヴェローナのアリーナへと到達しました。最後の個人タイムトライアルを走り終えると、スポンサーや関係者も集まり、今大会の成功を祝してチーム全員で乾杯。チームにとって素晴らしい結果を残し、また大きな達成感を得てのグランフィナーレを迎えることができました。
3週間の長丁場、日本からも多くのご声援をいただきました。皆様の温かい応援が厳しいレースと向き合う選手たちの背中を押してくださいました。日頃からサポートしていただいているスポンサーやファンの皆様に改めて、チーム一同、大きな感謝の意を伝えたいと思います。
初山翔のコメント
この3週間、これだけの長期間にわたってつらい思いをしたのは初めての経験。とはいえ、3週間を耐えきり、大きく体調を崩すこともなく走りきることができたことに自分でもびっくりしている。とくにローベレをスタートした第16ステージはきつかった。本当にリタイヤしたかった。監督から「リタイヤするか?」って聞かれたら「はい」って言っていたと思う。やめればラクになるけれど、その分、後味の悪さも残ると思った。
スタートする前から「完走が目的じゃない」と言ってきたが、走り続けていると自分の完走を本気で応援したり、祈ったりしてくれる人がたくさんいた。それを裏切ってしまうことはできないと思った。新城選手や別府選手のように世界的に有名ではない自分のことを、ジロという大舞台で、HATSUYAMAコールが起こるくらいに応援してくれるというのは、言葉では言い表すことができない感情だった。
日本のファンやスポンサーの皆様には、まずは3週間、時差があるなか、応援いただいたことに感謝している。ワールドツアーとプロコンチネンタルの選手は合わせて世界で1000人しかいない。そこからチームがワイルドカード枠で出場権を得て、さらにチームからジロ・デ・イタリアのメンバーに選ばれた。出場できたことだけでもすごいと思っているが、それを真剣に応援してくれた人たちに対して、ありがたいという気持ちでいっぱいだ。
水谷壮宏監督のコメント
監督として初参戦した2019年のジロ・デ・イタリア。チームの目標を区間優勝とチームの存在感をアピールすることとし、スタート。 初日からチームとして厳しい条件下に追い込まれたが、それを跳ね返すかのように素晴らしい走りを見せた初山の逃げ、そしてチーマの劇的な区間優勝と立派に目標を達成した素晴らしいジロとなった。
私も監督として多く学ぶことがあり、この21ステージでの出来事は貴重な経験となった。特に3週間と言う長丁場でのレースは前半と後半では集団の動きが大きく走りが変わり、レース展開や作戦も違うことには興味を持った。そしてチーマの劇的な逃げ切りは特に、自転車レースはゴールするまで何があるかわからないことと、諦めない気持ちを持って走ることがいかに大事かを再認識した瞬間だった。
あと初山は今回のジロをただ完走しただけではなく、自らアタックし、挑戦した140kmの独走劇のおかげでイタリア全土、いや世界的に一躍注目される選手となった。この逃げで掴んだファンの心が彼への声援と変わり、毎ステージ勇気付られたはず。全21ステージ完走した彼の身体は一回り絞られ、また一段と風格ある選手に代わっていたことが大変に嬉しかった。
NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネは、総合優勝争いには加われなかったが、毎ステージ誰かが逃げに乗って活躍する走りが出来たことも素晴らしかった。このグランツールで活躍することは偉大であり、今回このような環境で走らせてもらっている大門マネージャーや日本のメインスポンサーであるNIPPOの方々、またすべてのスポンサーの方々のおかげであり感謝の気持ちで一杯。この素晴らしい体制があることを、今の日本自転車競技界の皆様に多く知っていただきたい。そしてこのチームへの加入が本場ヨーロッパで走りたいと願う選手たちの憧れになることを願っている。私自身、アマチュアからワールドツアーまでの道が繋がっている限り、選手育成に協力し、日本自転車競技界全体が盛り上がるように努力したい。
最後に、今回のジロで一番印象に残ったことは、チーマが勝ったステージで補給が終了するラスト15キロ直前で、チーマに最後のボトルとジェルを渡し「ALLEZ CIMA! FULL GAS!!」と言い渡して離れたことでしょうか。
大門宏マネージャーのコメント
ワイルドカード枠で参加したチームの中で、最も存在感を発揮できたという意味では、主催者からの期待に応えられ、チームに関わった多くの方々にとって、今後を占う意味でも大変関心深いグランツールだった。 ファルネーゼ社と共にメインスポンサーの一角を担うNIPPOとしては、将来を見据えて日本人監督をはじめ日本人スタッフに経験を積ませることも、選手を派遣すること以上に重要なミッションだったが、期待以上の成果は得られたと確信している。
チームの運営予算が我々と比べて10倍前後あるワールドチームを相手に、良くぞココまで善戦したと思う。 西村選手の初日の失格に関しては、日本のロードレースファンの方々にも多くの心配を掛けたが、西村選手は今年に入って最も成長を遂げていたメンバーの1人。今後のレースで必ず期待に応えてくれると考えてるので特に心配はしていない。 本人には「人生は長く、生きてれば『穴が有ったら入りたい』と思う恥ずかしい経験は誰もがしてること。人間なら誰でも2度と振り返りたくない大失敗は付き物。ただしお前のケースは国際放送…大物の証だ!」と慰めたことが今となっては遠い昔の出来事だったように感じる。応援しがいのある素晴らしいキャラクターでもあるので、国際レベルでの活躍が期待される若手日本人選手の1人として、引き続き温かく見守ってほしい。
一方の初山選手は、連日大きな注目を浴びて本人が最も戸惑っていたと思うが、欲を言えばもう数回グランツールを走るような選手に成長してほしいと思っている。 グランツールを初めて走った選手にとって、周囲から色々と実感を探るのは無理があると思っている。 特に実際グランツールを経験している日本人選手が稀な国内だとなおさらだ。 もちろん僕自身だってグランツールは未体験ゾーンで、経験した選手との交友が多い指導者の1人に過ぎない。
5年後に2人に再会できるチャンスに恵まれれば、2019年のジロ・デ・イタリアへの参加以降、どのような選手人生を辿ったかを是非聞いてみたい。 そこで初めてグランツールを走った意味について、遠慮なく語り合えると思っている。 特に西村選手に関しては、初日の出来事が笑い話になるような立派な選手に成長してくれていることを心から願っている。
text:NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ
ー NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネより
5月11日にボローニャで開幕した第102回目のジロ・デ・イタリアが、6月2日にヴェローナにて閉幕しました。最終日となる第21ステージは、17kmの個人タイムトライアルで、走り終えた選手たちは一人一人、ヴェローナの歴史あるアリーナの中央をパレードする演出がなされ、駆けつけた大勢の観客たちが、3週間におよぶ長いレースを走り切った選手たちへ声援を送りました。
最終日のステージでは、個人総合成績で最下位(142位)となりながらも完走を果たした初山翔に、最下位を象徴する黒いジャージ「マリアネーラ」が贈呈されました。現在は非公式の賞ながら、1946年から51年まで実際に存在し、そのユニークさから多くのイタリア人ファンに愛されている伝統的なジャージです。ステージでの演出は第3ステージにて単独で逃げ、今大会で大きな注目を集めた初山翔をねぎらい、改めてスポットライトを当てるものでした。また5ステージで逃げに乗り、逃げた総距離(932km)でトップに立ったダミアーノ・チーマはフーガ賞を獲得。ポイント賞ランキングでも3位をマークし、ジロ・デ・イタリア最終日の名誉あるポディウムに立ちました。
今回、NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネはワイルドカード(主催者招待枠)を獲得し、2015、16年に次ぐ3年ぶり3回目の出場となりました。UCIのルール改正により1チームあたりの選手数が9名から8名に減ってからは初めての参戦でしたが、二人の日本人選手が出場メンバーに選ばれました。
ジロ・デ・イタリア出場選手と監督
初山翔、西村大輝、マルコ・カノラ(イタリア)、フアンホセ・ロバト(スペイン)、イヴァン・サンタロミータ(イタリア)、ニコラ・バジョーリ(イタリア)、ダミアーノ・チーマ(イタリア)、ジョバンニ・ロナルディ(イタリア)、監督 :マリオ・マンゾーニ、水谷壮宏、アレッサンドロ・ドナーティ
大会初日は、ボローニャ中心部から郊外のサンルーカ聖堂へと向かう登坂区間が組み込まれた個人タイムトライアルで、大きな緊張やプレッシャーから西村大輝がスタート直前になり体調を崩してタイムアウトにより失格。誰もが想定しなかった波乱の展開から、チームのジロは始まりました(西村はその後順調に回復し、現在トレーニングを積んでいます)。
第2ステージから通常のロードレースが始まり、雨に見舞われたボローニャをあとにし、一行はトスカーナ地方から南下していきます。そして初日からチーマが7名の逃げに乗る活躍。初山とチーマに逃げに乗るように指示が出ていたもので、この日はチーマが作戦通りの走りをしました。
翌第3ステージでは、今度は初山がスタート直後のアタックに成功して先行する展開に。通常であれば、他のチームの選手が追随して数名で逃げ集団を形成するところですが、この日はどういうことか、初山のアタックに反応する選手が現れず。また集団もこの動きを容認したために、初山と集団のタイム差が徐々に広がっていきました。
これから始まる3週間のレースのことを考慮しながら一定ペースで走り続けた初山。しかし、単独でのエスケープは144kmにも及び、テレビ中継は3時間以上にわたって初山の姿を映し続けました。そしてレースを終えると、一人で果敢に逃げ続けた初山は一躍注目の存在に。初山が流暢なイタリア語を話すこともあり、ガゼッタ・デッロ・スポルト紙をはじめ多くのイタリアのメディアが取り上げ、この日を境に初山のもとには多くのファンが集まるようになりました。また初山は第10ステージでも逃げに成功しています。
チーム最初のトップ10リザルトは雨に見舞われた第5ステージ。危険な集団ゴールスプリントに挑んだプロ1年目、今季アジアで2勝した勢いをもってジロに挑むジョバンニ・ロナルディが区間9位でゴール。その後もスプリントで、第8ステージでマルコ・カノラが区間8位、第10ステージで再びロナルディが区間8位と格上チームに健闘します。
しかし、レースが2週目に入ると、蓄積する疲労や長引く悪天候も影響して、体調を崩す選手が出始め、第13ステージにロナルディ、第16ステージにニコラ・バジョーリが相次いでリタイア。厳しい山岳ステージが続くなか、他のメンバーたちも体力と精神力の限界を越えて走り続けます。
そして、山岳ステージに挟まれた今大会最後の平坦ステージである第18ステージで、再びチーマが3名でエスケープ。多くのワールドチームが集団ゴールスプリントを狙っていたため、その展開が濃厚とみられていましたが、レースが後半に差し掛かると、詰まり切らないタイム差から逃げ切りの可能性が生まれ始め、先頭の3名はわずかなチャンスにかけて、ハイペースを刻み続けます。残り1km地点通過時、彼らに残されたアドバンテージは15秒ほど。一瞬でもひるんだら加速する大集団に飲み込まれるという状況下で、仕掛けどころを待って一気にラストスパートを仕掛けたチーマが、僅差で集団を振り切り区間優勝。プロコンチネンタル体制5年目にして、チーム史上最大、夢にまでみた大きな勝利を掴みました。
この勝利によりチームは再び強く団結。3週目を迎え、疲労の色が大きく滲むなか、残りのステージに向けてモチベーションが高まる瞬間でもありました。そして第19ステージではイヴァン・サンタロミータとともに逃げに乗ったカノラが終盤にアタックを仕掛けて一時単独で先行するシーンも。フィニッシュが近づき、強豪選手たちに交わされていきますが、果敢に食らいつき区間7位の好成績でフィニッシュしました。
チーム全員で協力しながら最後の難関山岳となる第20ステージも走破。初山を含む5選手が最終ゴール地点となるヴェローナのアリーナへと到達しました。最後の個人タイムトライアルを走り終えると、スポンサーや関係者も集まり、今大会の成功を祝してチーム全員で乾杯。チームにとって素晴らしい結果を残し、また大きな達成感を得てのグランフィナーレを迎えることができました。
3週間の長丁場、日本からも多くのご声援をいただきました。皆様の温かい応援が厳しいレースと向き合う選手たちの背中を押してくださいました。日頃からサポートしていただいているスポンサーやファンの皆様に改めて、チーム一同、大きな感謝の意を伝えたいと思います。
初山翔のコメント
この3週間、これだけの長期間にわたってつらい思いをしたのは初めての経験。とはいえ、3週間を耐えきり、大きく体調を崩すこともなく走りきることができたことに自分でもびっくりしている。とくにローベレをスタートした第16ステージはきつかった。本当にリタイヤしたかった。監督から「リタイヤするか?」って聞かれたら「はい」って言っていたと思う。やめればラクになるけれど、その分、後味の悪さも残ると思った。
スタートする前から「完走が目的じゃない」と言ってきたが、走り続けていると自分の完走を本気で応援したり、祈ったりしてくれる人がたくさんいた。それを裏切ってしまうことはできないと思った。新城選手や別府選手のように世界的に有名ではない自分のことを、ジロという大舞台で、HATSUYAMAコールが起こるくらいに応援してくれるというのは、言葉では言い表すことができない感情だった。
日本のファンやスポンサーの皆様には、まずは3週間、時差があるなか、応援いただいたことに感謝している。ワールドツアーとプロコンチネンタルの選手は合わせて世界で1000人しかいない。そこからチームがワイルドカード枠で出場権を得て、さらにチームからジロ・デ・イタリアのメンバーに選ばれた。出場できたことだけでもすごいと思っているが、それを真剣に応援してくれた人たちに対して、ありがたいという気持ちでいっぱいだ。
水谷壮宏監督のコメント
監督として初参戦した2019年のジロ・デ・イタリア。チームの目標を区間優勝とチームの存在感をアピールすることとし、スタート。 初日からチームとして厳しい条件下に追い込まれたが、それを跳ね返すかのように素晴らしい走りを見せた初山の逃げ、そしてチーマの劇的な区間優勝と立派に目標を達成した素晴らしいジロとなった。
私も監督として多く学ぶことがあり、この21ステージでの出来事は貴重な経験となった。特に3週間と言う長丁場でのレースは前半と後半では集団の動きが大きく走りが変わり、レース展開や作戦も違うことには興味を持った。そしてチーマの劇的な逃げ切りは特に、自転車レースはゴールするまで何があるかわからないことと、諦めない気持ちを持って走ることがいかに大事かを再認識した瞬間だった。
あと初山は今回のジロをただ完走しただけではなく、自らアタックし、挑戦した140kmの独走劇のおかげでイタリア全土、いや世界的に一躍注目される選手となった。この逃げで掴んだファンの心が彼への声援と変わり、毎ステージ勇気付られたはず。全21ステージ完走した彼の身体は一回り絞られ、また一段と風格ある選手に代わっていたことが大変に嬉しかった。
NIPPO・ヴィーニファンティーニ・ファイザネは、総合優勝争いには加われなかったが、毎ステージ誰かが逃げに乗って活躍する走りが出来たことも素晴らしかった。このグランツールで活躍することは偉大であり、今回このような環境で走らせてもらっている大門マネージャーや日本のメインスポンサーであるNIPPOの方々、またすべてのスポンサーの方々のおかげであり感謝の気持ちで一杯。この素晴らしい体制があることを、今の日本自転車競技界の皆様に多く知っていただきたい。そしてこのチームへの加入が本場ヨーロッパで走りたいと願う選手たちの憧れになることを願っている。私自身、アマチュアからワールドツアーまでの道が繋がっている限り、選手育成に協力し、日本自転車競技界全体が盛り上がるように努力したい。
最後に、今回のジロで一番印象に残ったことは、チーマが勝ったステージで補給が終了するラスト15キロ直前で、チーマに最後のボトルとジェルを渡し「ALLEZ CIMA! FULL GAS!!」と言い渡して離れたことでしょうか。
大門宏マネージャーのコメント
ワイルドカード枠で参加したチームの中で、最も存在感を発揮できたという意味では、主催者からの期待に応えられ、チームに関わった多くの方々にとって、今後を占う意味でも大変関心深いグランツールだった。 ファルネーゼ社と共にメインスポンサーの一角を担うNIPPOとしては、将来を見据えて日本人監督をはじめ日本人スタッフに経験を積ませることも、選手を派遣すること以上に重要なミッションだったが、期待以上の成果は得られたと確信している。
チームの運営予算が我々と比べて10倍前後あるワールドチームを相手に、良くぞココまで善戦したと思う。 西村選手の初日の失格に関しては、日本のロードレースファンの方々にも多くの心配を掛けたが、西村選手は今年に入って最も成長を遂げていたメンバーの1人。今後のレースで必ず期待に応えてくれると考えてるので特に心配はしていない。 本人には「人生は長く、生きてれば『穴が有ったら入りたい』と思う恥ずかしい経験は誰もがしてること。人間なら誰でも2度と振り返りたくない大失敗は付き物。ただしお前のケースは国際放送…大物の証だ!」と慰めたことが今となっては遠い昔の出来事だったように感じる。応援しがいのある素晴らしいキャラクターでもあるので、国際レベルでの活躍が期待される若手日本人選手の1人として、引き続き温かく見守ってほしい。
一方の初山選手は、連日大きな注目を浴びて本人が最も戸惑っていたと思うが、欲を言えばもう数回グランツールを走るような選手に成長してほしいと思っている。 グランツールを初めて走った選手にとって、周囲から色々と実感を探るのは無理があると思っている。 特に実際グランツールを経験している日本人選手が稀な国内だとなおさらだ。 もちろん僕自身だってグランツールは未体験ゾーンで、経験した選手との交友が多い指導者の1人に過ぎない。
5年後に2人に再会できるチャンスに恵まれれば、2019年のジロ・デ・イタリアへの参加以降、どのような選手人生を辿ったかを是非聞いてみたい。 そこで初めてグランツールを走った意味について、遠慮なく語り合えると思っている。 特に西村選手に関しては、初日の出来事が笑い話になるような立派な選手に成長してくれていることを心から願っている。
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