2019/05/31(金) - 15:41
劇的とはこのことを言うのではないかと。222kmのステージで172kmを逃げ、わずか2mの差で先着したダミアーノ・チーマ。NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネが3度目のジロでステージ優勝、しかも刺激的な逃げ切り勝利を飾ったジロ・デ・イタリア第18ステージを振り返ります。
プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)がご機嫌で出走サインにやってきた。前日まで気難しい表情でサインを済ませていたが、天気の良い平坦ステージだけに表情もリラックス。スタート地点ヴァルダオーラはスロベニアの首都リュブリャナから車で3時間ほどの距離だけに、多くのスロベニア国旗が沿道に詰めかけた。出走サイン後にMCに捕まったログリッチェは、笑顔を見せながらスロベニア語でファンに挨拶した。
ご機嫌なのはマリアローザを着るリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター)も同様で、前日に誕生日プレゼントとしてキャニオンから受け取ったマリアローザカラーのスペシャルバイクに乗って登場した。ジロの生中継が行われているエクアドルは、カラパスの言葉を借りると「とても大変なフィーバーが起こっている」らしい。
エクアドルはコロンビアと国境を接する人口1,400万人の南アメリカの国で、その名の通りエクアドル(スペイン語で赤道)直下にある。太平洋に浮かぶガラパゴス諸島もエクアドル領だ。首都はキトで最大の都市はグアヤキル。面積は28万km2で、日本の本州と九州と四国を足したぐらい。
「自転車競技の伝統がない国」というカラパスの言葉通り、過去にヨーロッパで大きな成績を残したエクアドル人選手はいない。ロードレースにおける新興国だが、現在3名のエクアドル人選手がUCIワールドチームで活動中。その3名とはカラパスとヨナタン・カイセド(エクアドル、EFエデュケーションファースト)、ジョナタン・ナルバエス(エクアドル、チームイネオス)で、全員がこのジロに出場している。
このカラパスの活躍でさらにエクアドルのロードレース人気に火がつくことになりそう。なお、現在エクアドルのテレビ局の計らいでカラパスの奥さんと母親がイタリアに向かっている。
前日の現地レポートでも書いた通り、第18ステージはドイツ語しか聞こえない南チロル地方を離れ、ドロミテの山々に囲まれた渓谷を走ってヴェネト州を目指す。山間部から下界までの222km移動は、気候や景色、文化、言葉の違いもあって、距離以上に大きく移動した(大げさに言うと別の国に来た)気分になる。
ヴェネト州はイタリア有数のロードレース人気を誇る地域。伝統的にヴェネト州出身選手の多いこと多いこと。第18ステージはそんなヴェネト州の平野のど真ん中にフィニッシュする。
アントニオ・ベヴィラックアの出身地だから。それがサンタマリア・ディ・サーラという小さな町がフィニッシュ地点に選ばれた理由だ。1918年10月22日生まれのベヴィラックアは1950年と1951年のトラック世界選手権4km個人追い抜きで優勝し、さらに1951年パリ〜ルーベで優勝。大柄なルーラーで、主に平坦レースで成績を残した。ウィリエールトリエスティーナは2012年に『トニ・ベヴィラックア』というトラックバイクを発売している。サンタマリア・ディ・サーラの周りは登りののの字も無いほど真っ平らで、確かにクライマーが生まれにくそうな地形だと思う。
開幕から合計916kmにわたって逃げたダミアーノ・チーマ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)が、ついに逃げ切った。逃げ切っただけでなく中間スプリント賞とフーガ賞(逃げ賞)でもトップに。初山翔の逃げと合わせてNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネは合計10ステージで逃げており、逃げといえばNIPPOというイメージの総仕上げとなった。
ニコ・デンツ(ドイツ、アージェードゥーゼール)とミルコ・マエストリ(イタリア、バルディアーニCSF)とともに逃げたチーマは、残り50kmを平均スピード48.2km/hで駆け抜けている。対して、メイン集団は残り50kmを平均スピード52km/hで追いかけたが届かず。範囲を残り10kmに狭めると、逃げグループは平均スピード49.2km/h、メイン集団は54.3km/hだった。
STRAVAでデンツとメイン集団の選手のタイム差を比較したグラフ(下記参照:マイル表示)を見ると、残り40kmを切ってからいわゆる10km/1分のペースで確実に縮まりながらも、スプリンターチームがスプリントの隊列を整えるために力をセーブした影響か、残り15kmあたりで縮小ペースが少し弱まっている。
チームカーには競技無線を通して間違ったタイム差が伝えられていたという情報もある。確かに、レース後に出されるコミュニケの中には「残り50kmでタイム差3分」という記載があるが、中継画面には4分20秒と表示されていた。STRAVAのデータを見る限り4分20秒が正しいタイム差であることがわかる。
ツアー・オブ・ジャパンのために一時帰国していたNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネの田中苑子フォトグラファーが日本から飛んできて、会場に着いて2分後にチーマが勝利した。6分遅れでフィニッシュした初山に急ぎ足で感想を聞くと「すごい、信じられないぐらい、すごい」の無限ループだった。
ジロ3回目の出場でNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネがステージ初優勝。きっと夜はヴィーニファンティーニのワインが盛大に振舞われる楽しい宴になったはず。あまり飲みすぎて山岳ステージに影響が出なければいいけど・・・。
パスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)は僅差でステージ優勝を逃したものの、表彰台では晴れ渡った表情を見せた、それもそのはず、マリアチクラミーノをアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)から奪回するとともに、さらにポイント賞1位の座をほぼ確実なものにした。
アッカーマンとデマールの差は13ポイント。まだ閉幕まで3ステージ残っているので、計算上はデマールが逆転することは可能だが、第19ステージの第1スプリント(ポイントが与えられるのは1つ目のスプリントだけ)は3級山岳サンボルド峠(距離6.5km/平均7.1%)を越えた先なので難しい。仮にデマールが先頭通過しても獲得できるのは12ポイントなので、逆転には1ポイント足りない。さらにアッカーマンがそこでポイントを稼ぐことができればさらに逆転の可能性が下がる。
第20ステージの第1スプリントは2級山岳チーマカンポ(距離18.7km/平均5.9%)の後で、ここも現実的にデマールがポイントを獲得するとは不可能。実際、ここまでの山岳ステージでアッカーマンはデマールよりも登れているので、デマールがアッカーマンを差し置いて山岳ステージでポイントを獲得するのは考えにくい。そしてそのアッカーマンの登坂力がフレッシュさに繋がり、第18ステージのスプリントの最後に差となって現れたのかもしれない。最終個人タイムトライアルではステージ優勝者に15ポイントが与えられるが、ここもデマールにポイント獲得のチャンスは無し(可能性が0%ではないけど・・・)。
7日間デマールが着用したマリアチクラミーノはアッカーマンの手に。マリアアッズーラもジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)でほぼ確定している状態であり、ここから先のステージでは、ステージ優勝と総合争い、つまりマリアローザとマリアビアンカ争いがよりフォーカスされる。
第19ステージは2級山岳サンマルティーノ・ディ・カストロッツァの山頂フィニッシュ。難易度3つ星の中級山岳ステージだが、誰もが身構える難易度5つ星の第20ステージよりもサプライズが起こりやすいのはこういったステージだったりする。
text&photo:Kei Tsuji in Treviso, Italy
プリモシュ・ログリッチェ(スロベニア、ユンボ・ヴィズマ)がご機嫌で出走サインにやってきた。前日まで気難しい表情でサインを済ませていたが、天気の良い平坦ステージだけに表情もリラックス。スタート地点ヴァルダオーラはスロベニアの首都リュブリャナから車で3時間ほどの距離だけに、多くのスロベニア国旗が沿道に詰めかけた。出走サイン後にMCに捕まったログリッチェは、笑顔を見せながらスロベニア語でファンに挨拶した。
ご機嫌なのはマリアローザを着るリチャル・カラパス(エクアドル、モビスター)も同様で、前日に誕生日プレゼントとしてキャニオンから受け取ったマリアローザカラーのスペシャルバイクに乗って登場した。ジロの生中継が行われているエクアドルは、カラパスの言葉を借りると「とても大変なフィーバーが起こっている」らしい。
エクアドルはコロンビアと国境を接する人口1,400万人の南アメリカの国で、その名の通りエクアドル(スペイン語で赤道)直下にある。太平洋に浮かぶガラパゴス諸島もエクアドル領だ。首都はキトで最大の都市はグアヤキル。面積は28万km2で、日本の本州と九州と四国を足したぐらい。
「自転車競技の伝統がない国」というカラパスの言葉通り、過去にヨーロッパで大きな成績を残したエクアドル人選手はいない。ロードレースにおける新興国だが、現在3名のエクアドル人選手がUCIワールドチームで活動中。その3名とはカラパスとヨナタン・カイセド(エクアドル、EFエデュケーションファースト)、ジョナタン・ナルバエス(エクアドル、チームイネオス)で、全員がこのジロに出場している。
このカラパスの活躍でさらにエクアドルのロードレース人気に火がつくことになりそう。なお、現在エクアドルのテレビ局の計らいでカラパスの奥さんと母親がイタリアに向かっている。
前日の現地レポートでも書いた通り、第18ステージはドイツ語しか聞こえない南チロル地方を離れ、ドロミテの山々に囲まれた渓谷を走ってヴェネト州を目指す。山間部から下界までの222km移動は、気候や景色、文化、言葉の違いもあって、距離以上に大きく移動した(大げさに言うと別の国に来た)気分になる。
ヴェネト州はイタリア有数のロードレース人気を誇る地域。伝統的にヴェネト州出身選手の多いこと多いこと。第18ステージはそんなヴェネト州の平野のど真ん中にフィニッシュする。
アントニオ・ベヴィラックアの出身地だから。それがサンタマリア・ディ・サーラという小さな町がフィニッシュ地点に選ばれた理由だ。1918年10月22日生まれのベヴィラックアは1950年と1951年のトラック世界選手権4km個人追い抜きで優勝し、さらに1951年パリ〜ルーベで優勝。大柄なルーラーで、主に平坦レースで成績を残した。ウィリエールトリエスティーナは2012年に『トニ・ベヴィラックア』というトラックバイクを発売している。サンタマリア・ディ・サーラの周りは登りののの字も無いほど真っ平らで、確かにクライマーが生まれにくそうな地形だと思う。
開幕から合計916kmにわたって逃げたダミアーノ・チーマ(イタリア、NIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネ)が、ついに逃げ切った。逃げ切っただけでなく中間スプリント賞とフーガ賞(逃げ賞)でもトップに。初山翔の逃げと合わせてNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネは合計10ステージで逃げており、逃げといえばNIPPOというイメージの総仕上げとなった。
ニコ・デンツ(ドイツ、アージェードゥーゼール)とミルコ・マエストリ(イタリア、バルディアーニCSF)とともに逃げたチーマは、残り50kmを平均スピード48.2km/hで駆け抜けている。対して、メイン集団は残り50kmを平均スピード52km/hで追いかけたが届かず。範囲を残り10kmに狭めると、逃げグループは平均スピード49.2km/h、メイン集団は54.3km/hだった。
STRAVAでデンツとメイン集団の選手のタイム差を比較したグラフ(下記参照:マイル表示)を見ると、残り40kmを切ってからいわゆる10km/1分のペースで確実に縮まりながらも、スプリンターチームがスプリントの隊列を整えるために力をセーブした影響か、残り15kmあたりで縮小ペースが少し弱まっている。
チームカーには競技無線を通して間違ったタイム差が伝えられていたという情報もある。確かに、レース後に出されるコミュニケの中には「残り50kmでタイム差3分」という記載があるが、中継画面には4分20秒と表示されていた。STRAVAのデータを見る限り4分20秒が正しいタイム差であることがわかる。
ツアー・オブ・ジャパンのために一時帰国していたNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネの田中苑子フォトグラファーが日本から飛んできて、会場に着いて2分後にチーマが勝利した。6分遅れでフィニッシュした初山に急ぎ足で感想を聞くと「すごい、信じられないぐらい、すごい」の無限ループだった。
ジロ3回目の出場でNIPPOヴィーニファンティーニ・ファイザネがステージ初優勝。きっと夜はヴィーニファンティーニのワインが盛大に振舞われる楽しい宴になったはず。あまり飲みすぎて山岳ステージに影響が出なければいいけど・・・。
パスカル・アッカーマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)は僅差でステージ優勝を逃したものの、表彰台では晴れ渡った表情を見せた、それもそのはず、マリアチクラミーノをアルノー・デマール(フランス、グルパマFDJ)から奪回するとともに、さらにポイント賞1位の座をほぼ確実なものにした。
アッカーマンとデマールの差は13ポイント。まだ閉幕まで3ステージ残っているので、計算上はデマールが逆転することは可能だが、第19ステージの第1スプリント(ポイントが与えられるのは1つ目のスプリントだけ)は3級山岳サンボルド峠(距離6.5km/平均7.1%)を越えた先なので難しい。仮にデマールが先頭通過しても獲得できるのは12ポイントなので、逆転には1ポイント足りない。さらにアッカーマンがそこでポイントを稼ぐことができればさらに逆転の可能性が下がる。
第20ステージの第1スプリントは2級山岳チーマカンポ(距離18.7km/平均5.9%)の後で、ここも現実的にデマールがポイントを獲得するとは不可能。実際、ここまでの山岳ステージでアッカーマンはデマールよりも登れているので、デマールがアッカーマンを差し置いて山岳ステージでポイントを獲得するのは考えにくい。そしてそのアッカーマンの登坂力がフレッシュさに繋がり、第18ステージのスプリントの最後に差となって現れたのかもしれない。最終個人タイムトライアルではステージ優勝者に15ポイントが与えられるが、ここもデマールにポイント獲得のチャンスは無し(可能性が0%ではないけど・・・)。
7日間デマールが着用したマリアチクラミーノはアッカーマンの手に。マリアアッズーラもジュリオ・チッコーネ(イタリア、トレック・セガフレード)でほぼ確定している状態であり、ここから先のステージでは、ステージ優勝と総合争い、つまりマリアローザとマリアビアンカ争いがよりフォーカスされる。
第19ステージは2級山岳サンマルティーノ・ディ・カストロッツァの山頂フィニッシュ。難易度3つ星の中級山岳ステージだが、誰もが身構える難易度5つ星の第20ステージよりもサプライズが起こりやすいのはこういったステージだったりする。
text&photo:Kei Tsuji in Treviso, Italy