2018/11/23(金) - 16:44
世界最高峰のレースで勝利を量産しているスペシャライズドの「S-Works Tarmac SL6」。そのディスクブレーキモデルのインプレッションをお届けしよう。世界のマスプロメーカーに先駆けてディスクブレーキ搭載レーシングモデルの開発を行ってきたスペシャライズドの最新フラッグシップモデルの実力に迫る。
スペシャライズド S-Works Tarmac men SL6 Disc Di2 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
UCIロードレースにおける使用がついに解禁されたディスクブレーキ。安定した制動力とコントローラブルな特性を持つ一方、軽量化を突き詰めてきたロードバイク、特にヒルクライムでは必要かどうか、集団で落車した際にローターが凶器になるのではないか?など、様々なメリット・デメリットの議論が盛んに行われているパーツでもある。一方で、ここ数年バイクメーカー各社はディスクブレーキ搭載モデルの開発に重点を置くようになり、ユーザーが選べるバイクの数を増やしてきた。
そんな状況の中で、いち早くディスクブレーキロードに目をつけ、開発を行っていたブランドの1つがスペシャライズドである。2013年にS-Works Roubaix SL4 Discを、2014年にはオールラウンドレーサーであるS-Works Tarmac SL5をリリース。フラッグシップのレーシングバイクにディスクブレーキという存在は、2014年当時マスプロメーカー初の試みであったところに、スペシャライズドのアグレッシブさを感じられる。UCIが限定的に使用を解禁したのは、S-Works Tarmac SL5のデビューより2年が経過した2016年シーズンのことだった。
リア三角はコンパクトな設計とすることで、剛性やエアロ性能を向上させた
ダウンチューブもD型断面としている上、フロントタイヤとの距離も短くすることで空力性能を向上させる
フロントフォークもエアロダイナミクスを意識したチューブ断面形状を採用している
しかし、その年はシーズン序盤に起きた落車によってディスクブレーキ使用が再び禁止となってしまい、活躍する姿を目にすることは叶わなかった。UCIが様々な状況に煽られ揺れ動く中、スペシャライズドはディスクブレーキの優位性と使用の全面解禁を疑わず、2016年の夏にS-Works Venge ViAS Discを市場に投下する。
2017年シーズン再び試験使用が行われるようになると同時に、トム・ボーネン(当時クイックステップフロアーズ)がS-Works Venge ViAS Discを駆り、ブエルタ・ア・サンフアンのステージ優勝に輝くことに。ディスクブレーキロードによるプロレース初勝利という歴史的な出来事にスペシャライズドは名を刻んだ。
その後もマルセル・キッテル(ドイツ)やエリア・ヴィヴィアーニ、フェルナンド・ガビリアらスプリンターがディスクブレーキロードで勝ち星を積み重ねており、ディスクブレーキロードというジャンルに於いてスペシャライズドが一歩抜きん出る形となっている。
シートチューブ形状をD型とすることで快適性とエアロを同時に高める
細かな解析を経て生み出されたシンプルなヘッド周り
完成車にパワーメーターS-Works Power Cranksが搭載される
エンドは12mmスルーアクスル規格を採用している
そんなスペシャライズドがフラッグシップのオールラウンドモデルTarmacにもディスクブレーキを搭載することは必然であり、第6世代のリムブレーキモデルが発表された2017年夏よりディスクブレーキモデル登場が待たれた。2018年シーズンに入るとUCI女子チームのブールス・ドルマンスがメインバイクとして使用し始め、3月に満を持してS-Works Tarmac Discがラインナップに加えられた。
開発のキーポイントはライダーファーストエンジニアードだ。スペシャライズドによると、ディスクブレーキ化によって生み出される重い車重、過剰な剛性、エアロダイナミクスを損うというデメリットは、リムブレーキモデルをベースに開発を始めているから生まれる弊害なのだという。リムブレーキモデルと同じ乗り味を実現するために、ライダーファーストエンジニアードを通して、ゼロからディスクブレーキモデルの開発を行った。
ボトムブラケット周りの剛性が高い反応性を生み出している
フラットマウント規格を採用する。標準でDTスイスのRWSレバーが搭載される
ライダーファーストエンジニアードで導き出されたのは、ディスクブレーキモデルは500枚にも上るカーボンプリプレグのレイアップとジオメトリー調整。これにより、高い制動力に対応する剛性、リムブレーキと変わらないフィーリングのハンドリング特性を実現している。ジオメトリーに関しては、チェーンステー長がリムブレーキ版では各サイズごとに調整されていたが、ディスクブレーキ版では410mmに統一されている。
乗り味や性能の調整と同時にライダーファーストエンジニアードでは、ディスクブレーキの採用による重量増を抑えていることもポイントだ。スペシャライズドの最高峰カーボン素材FACT 12rを使用することに変わりないが、レイアップの調整によって、リムブレーキモデルから微増に抑えられた800g(56サイズ)を実現している。フォークは約338g。若干の重量増ではあるが、シマノDURA-ACE Di2完成車では6.65kg(ペダルなし)とUCI規定の下限を下回る程の重量となっている。
ゼロから再設計されたとはいえ、フレーム形状はリムブレーキの新型Tarmacと共通だ。コンパクトなリア三角や後輪にあわせてカットオフされたシートチューブ、D型形状を採用した各チューブ、エアロシートポストなどが、剛性、軽量性、エアロなど各性能を向上させている。エアロダイナミクスに関しては、自社の風洞実験施設Win Tunnelで徹底的に試験を行い煮詰めることで、ディスクブレーキが空力特性に影響を及ぼすことの無い性能を実現したという。
マッシブなストレートフォークにディスクブレーキは搭載される
シートチューブはタイヤの形に合わせてカットオフすることで空力性能を高めている
しなやかな曲線を描くシートステー
ディスクブレーキに関するスペックは現在のスタンダード規格を採用している。前作のSL5ではクイックリリース用の9mmエンドを採用していたが、今作では前後ともに12mmスルーアクスルに。マウント方法もポストマウントからフラットマウントへとチェンジしている。付属するスルーアクスルはDTスイスのRWSレバーと信頼性の高いものであるとともに、より軽量なボルトオンタイプの「フラッシュアクスル」も標準で付属する。
今回インプレッションを行ったのは、S-Works Tarmac men SL6 Disc Di2だ。アセンブルされるコンポーネントはシマノDURA-ACE Di2(R9150)という油圧ブレーキ/電動変速システム。クランクはスペシャライズドのパワーメーター搭載モデルS-Works Power Cranks。ホイールはRoval CLX 50、タイヤはTurbo Cotton。最高峰のフレームとパーツで組み上げられたフラッグシップの実力は如何に。シルベストサイクルの藤岡徹也さん、GROVE港北の遠藤誠さんにインプレッションを語っていただいた。
― インプレッション
「全方位に進化を遂げた最先端のレーシングバイク」藤岡徹也(シルベストサイクル)
Tarmacは歴代の各モデルに乗っていて、現在メインで使用しているバイクもこの新型Tarmacのリムブレーキモデルです。昔に遡ると、Tarmac SL2やアルミとカーボンのハイブリッドモデルにも乗っていた経験があります。その当時からスペシャライズドのトップモデルは非常に良い自転車で、各時代にあわせた完璧なレーシング性能を追求しているバイクだと思っています。もちろん、このSL6になってからも全方位で進化を感じる事ができました。
「全方位に進化を遂げた最先端のレーシングバイク」藤岡徹也(シルベストサイクル)
前作に当たるSL5まではフレームの推進力に重点を置いたバイクであったと思います。ゴールスプリントでの反応性もピカイチでグイグイ踏んでいくことを楽しめるフレームでした。それが今作では乗り心地を重視しており、印象がガラッと変わったように思います。それでもフレーム全ての要素が速さへ繋がっているので、現在における最先端のレーシングバイクであることは変わりないです。
乗り心地の良さはフレームの縦方向への柔軟性の向上と踏んだときの剛性バランスの良さに起因するものでしょう。フロントフォークが細身になっていたり、シートピラーが多少しなるように作られていたりと快適性を向上させる仕組みが見られます。だからといって剛性が不足していないことが進化したポイントですね。無駄がなくなり、快適性が向上したのに剛性も高い性能を持っています。
踏みごたえに関しては、踏むとリニアに加速するけれど多少のバネ感がある前作に対して、新型は効率が良い踏み方をアシストしてくれるような印象で、踏みすぎて脚がなくなるといったこともないのが特徴です。リムブレーキモデルと比べてみても、踏んだときの加速感や上りの軽快さなどは全く同じだと感じられました。
一方、ディスクブレーキバイクはブレーキキャリパーという重量物がバイクの下部に装着されているため、バイクの重心が低くなっています。スルーアクスルによりハブ周りの剛性が向上していることもあり、バイクのコントロール性能とともに下りでの安心感が高まっています。
オールラウンドモデルながらエアロも意識しているということで、初代ヴェンジと同等のエアロ性能があるようです。その謳い文句の通りで、スーッと風を切るような感覚を感じられます。純粋なエアロダイナミクスは新型ヴェンジに譲りますが、長距離を走るのであれば、オールラウンドバイクとしては破格のエアロ性能としなやかさを持つTarmacが良いと思います。
速さを求める人に一番オススメなバイクだと思いますが、それこそ快適性や下りの安心感もあるのでロングライドを楽しむ人にも良いバイクだと思います。逆にレーサーの人はVengeが良いかもしれないですね。それに、サガンなどトッププロと同じバイクに乗れる満足感は、走る意欲を掻き立ててくれることでしょう。
「漕ぎ出しから加速、高速巡航、コーナリングまで、全ての動きが軽快」遠藤誠(GROVE港北)
試乗してみて強く印象に残ったのは、走りの全領域で乗り味が軽いことですね。漕ぎ出しから加速、高速巡航、コーナリングまで全ての動きが軽快です。自分の思い通りにバイクが動いてくれるので、乗っているとやる気が出てくるというか、挑戦させてくれる気持ちになります。そんな印象を受けるバイクですね。
「漕ぎ出しから加速、高速巡航、コーナリングまで、全ての動きが軽快」遠藤誠(GROVE港北) 剛性感は昔のスペシャライズドの硬くて速いというイメージからすると、全く特性の違うバイクに仕上がっています。硬いという感覚は過去のスペシャライズドのバイクと比較すれば大分薄れており、その上で優しさを持っているような乗り味です。芯はしっかりしていますので力強く踏むと応えてくれますが、その後は楽をさせてくれますね。快適なのにしっかり進むというバランスの高さが特徴です。
この感覚は車のスポーツカーの足回りと似ているかもしれません。振動吸収性を含めた性能がバイクの挙動を安定させてくれるため、安心して速く走ることができます。そのためか下り坂でもスピードに乗せたまま、思った通りのラインを走ることができたと思います。
ディスクブレーキはリムブレーキモデルより重量が増えますが、ブレーキングの優位性を加味するとネガティブな面よりもポジティブな面のほうが際立つと思います。例えば雨天で路面がウェットな状況では、ディスクブレーキの優位性は顕著に現れますし、実際有り難いと思う場面が何度もあります。
リムブレーキでも困るようなシチュエーションも無いと思うのですが、今日のように雨天でディスクロードに乗ると、やはり楽で安心だなと改めて強く感じました。リムブレーキは無くならないと思いますが、ディスクの割合というのはもう少し増えていくのではないと思います。これが当たり前になる時代がすぐそこまで来ていると思います。
また、フレーム単体だけではなく、完成車で見たときのパーツアッセンブルも非常に良いです。完成車価格は100万超えと額面では非常に高価ですが、ホイールも50mmハイトながら非常に軽いので、多少の上りでも問題なくこなしてくれます。S-WORKSのカーボンクランクやパワーメーターも付いていますので、価値に対する値付けは安いと言えます。
レーシングバイクではありますが、選手に限らず誰が乗っても楽しむことが出来るバイクです。走っているとちょっと楽しくなってきて、やる気が湧き出てくるような人馬一体感が良いですね。漕いでいるときも下っているときも安定感、安心感、一体感を感じさせやる気にさせてくれる、良いバイクです。
スペシャライズド S-Works Tarmac men SL6 Disc Di2 (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
スペシャライズド S-WORKS TARMAC MEN SL6 DISC DI2
カラー:GLOSS FLO RED/METALLIC WHITE SILVER/SATIN BLACK、SATIN BLACK/SILVER HOLO/CLEAN
サイズ:49、52、54、56
価 格:1,100,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
藤岡徹也(シルベストサイクル) 藤岡徹也(シルベストサイクル)
大阪府箕面市にあるシルベストサイクルみのおキューズモール店で店長を務める。マトリックスやNIPPOに所属した経歴を持つ元プロロードレーサーで、ツール・ド・フクオカ優勝、ツール・ド・熊野の個人TT2位などの実績を持つ。現在は実業団レースやロングライド、トライアスロンなど幅広く自転車を嗜みスタッフとして「自転車の楽しさを伝える」ことをモットーに活動している。
CWレコメンドショップページ
シルベストサイクル ショップHP
遠藤誠(GROVE港北) 遠藤誠(GROVE港北)
神奈川県横浜市のプロショップ、GROVE港北の店長。元々はMTB乗りとして自転車を嗜む内に現在の系列店舗スタッフとして働くように。自転車歴は10年以上でロードバイク、MTB両方に精通する豊富な知識と経験から、メカ・ポジション・乗り方まで幅広いアドバイスを提供する。”初心者にもわかりやすく”を常に心がけ、お客さんと一緒に自転車を楽しむことを重視している。
CWレコメンドショップページ
GROVE港北 ショップHP
ウェア協力:Funkier(ファンキアー)
text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto.AYANO
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UCIロードレースにおける使用がついに解禁されたディスクブレーキ。安定した制動力とコントローラブルな特性を持つ一方、軽量化を突き詰めてきたロードバイク、特にヒルクライムでは必要かどうか、集団で落車した際にローターが凶器になるのではないか?など、様々なメリット・デメリットの議論が盛んに行われているパーツでもある。一方で、ここ数年バイクメーカー各社はディスクブレーキ搭載モデルの開発に重点を置くようになり、ユーザーが選べるバイクの数を増やしてきた。
そんな状況の中で、いち早くディスクブレーキロードに目をつけ、開発を行っていたブランドの1つがスペシャライズドである。2013年にS-Works Roubaix SL4 Discを、2014年にはオールラウンドレーサーであるS-Works Tarmac SL5をリリース。フラッグシップのレーシングバイクにディスクブレーキという存在は、2014年当時マスプロメーカー初の試みであったところに、スペシャライズドのアグレッシブさを感じられる。UCIが限定的に使用を解禁したのは、S-Works Tarmac SL5のデビューより2年が経過した2016年シーズンのことだった。
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しかし、その年はシーズン序盤に起きた落車によってディスクブレーキ使用が再び禁止となってしまい、活躍する姿を目にすることは叶わなかった。UCIが様々な状況に煽られ揺れ動く中、スペシャライズドはディスクブレーキの優位性と使用の全面解禁を疑わず、2016年の夏にS-Works Venge ViAS Discを市場に投下する。
2017年シーズン再び試験使用が行われるようになると同時に、トム・ボーネン(当時クイックステップフロアーズ)がS-Works Venge ViAS Discを駆り、ブエルタ・ア・サンフアンのステージ優勝に輝くことに。ディスクブレーキロードによるプロレース初勝利という歴史的な出来事にスペシャライズドは名を刻んだ。
その後もマルセル・キッテル(ドイツ)やエリア・ヴィヴィアーニ、フェルナンド・ガビリアらスプリンターがディスクブレーキロードで勝ち星を積み重ねており、ディスクブレーキロードというジャンルに於いてスペシャライズドが一歩抜きん出る形となっている。
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開発のキーポイントはライダーファーストエンジニアードだ。スペシャライズドによると、ディスクブレーキ化によって生み出される重い車重、過剰な剛性、エアロダイナミクスを損うというデメリットは、リムブレーキモデルをベースに開発を始めているから生まれる弊害なのだという。リムブレーキモデルと同じ乗り味を実現するために、ライダーファーストエンジニアードを通して、ゼロからディスクブレーキモデルの開発を行った。
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ライダーファーストエンジニアードで導き出されたのは、ディスクブレーキモデルは500枚にも上るカーボンプリプレグのレイアップとジオメトリー調整。これにより、高い制動力に対応する剛性、リムブレーキと変わらないフィーリングのハンドリング特性を実現している。ジオメトリーに関しては、チェーンステー長がリムブレーキ版では各サイズごとに調整されていたが、ディスクブレーキ版では410mmに統一されている。
乗り味や性能の調整と同時にライダーファーストエンジニアードでは、ディスクブレーキの採用による重量増を抑えていることもポイントだ。スペシャライズドの最高峰カーボン素材FACT 12rを使用することに変わりないが、レイアップの調整によって、リムブレーキモデルから微増に抑えられた800g(56サイズ)を実現している。フォークは約338g。若干の重量増ではあるが、シマノDURA-ACE Di2完成車では6.65kg(ペダルなし)とUCI規定の下限を下回る程の重量となっている。
ゼロから再設計されたとはいえ、フレーム形状はリムブレーキの新型Tarmacと共通だ。コンパクトなリア三角や後輪にあわせてカットオフされたシートチューブ、D型形状を採用した各チューブ、エアロシートポストなどが、剛性、軽量性、エアロなど各性能を向上させている。エアロダイナミクスに関しては、自社の風洞実験施設Win Tunnelで徹底的に試験を行い煮詰めることで、ディスクブレーキが空力特性に影響を及ぼすことの無い性能を実現したという。
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今回インプレッションを行ったのは、S-Works Tarmac men SL6 Disc Di2だ。アセンブルされるコンポーネントはシマノDURA-ACE Di2(R9150)という油圧ブレーキ/電動変速システム。クランクはスペシャライズドのパワーメーター搭載モデルS-Works Power Cranks。ホイールはRoval CLX 50、タイヤはTurbo Cotton。最高峰のフレームとパーツで組み上げられたフラッグシップの実力は如何に。シルベストサイクルの藤岡徹也さん、GROVE港北の遠藤誠さんにインプレッションを語っていただいた。
― インプレッション
「全方位に進化を遂げた最先端のレーシングバイク」藤岡徹也(シルベストサイクル)
Tarmacは歴代の各モデルに乗っていて、現在メインで使用しているバイクもこの新型Tarmacのリムブレーキモデルです。昔に遡ると、Tarmac SL2やアルミとカーボンのハイブリッドモデルにも乗っていた経験があります。その当時からスペシャライズドのトップモデルは非常に良い自転車で、各時代にあわせた完璧なレーシング性能を追求しているバイクだと思っています。もちろん、このSL6になってからも全方位で進化を感じる事ができました。
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前作に当たるSL5まではフレームの推進力に重点を置いたバイクであったと思います。ゴールスプリントでの反応性もピカイチでグイグイ踏んでいくことを楽しめるフレームでした。それが今作では乗り心地を重視しており、印象がガラッと変わったように思います。それでもフレーム全ての要素が速さへ繋がっているので、現在における最先端のレーシングバイクであることは変わりないです。
乗り心地の良さはフレームの縦方向への柔軟性の向上と踏んだときの剛性バランスの良さに起因するものでしょう。フロントフォークが細身になっていたり、シートピラーが多少しなるように作られていたりと快適性を向上させる仕組みが見られます。だからといって剛性が不足していないことが進化したポイントですね。無駄がなくなり、快適性が向上したのに剛性も高い性能を持っています。
踏みごたえに関しては、踏むとリニアに加速するけれど多少のバネ感がある前作に対して、新型は効率が良い踏み方をアシストしてくれるような印象で、踏みすぎて脚がなくなるといったこともないのが特徴です。リムブレーキモデルと比べてみても、踏んだときの加速感や上りの軽快さなどは全く同じだと感じられました。
一方、ディスクブレーキバイクはブレーキキャリパーという重量物がバイクの下部に装着されているため、バイクの重心が低くなっています。スルーアクスルによりハブ周りの剛性が向上していることもあり、バイクのコントロール性能とともに下りでの安心感が高まっています。
オールラウンドモデルながらエアロも意識しているということで、初代ヴェンジと同等のエアロ性能があるようです。その謳い文句の通りで、スーッと風を切るような感覚を感じられます。純粋なエアロダイナミクスは新型ヴェンジに譲りますが、長距離を走るのであれば、オールラウンドバイクとしては破格のエアロ性能としなやかさを持つTarmacが良いと思います。
速さを求める人に一番オススメなバイクだと思いますが、それこそ快適性や下りの安心感もあるのでロングライドを楽しむ人にも良いバイクだと思います。逆にレーサーの人はVengeが良いかもしれないですね。それに、サガンなどトッププロと同じバイクに乗れる満足感は、走る意欲を掻き立ててくれることでしょう。
「漕ぎ出しから加速、高速巡航、コーナリングまで、全ての動きが軽快」遠藤誠(GROVE港北)
試乗してみて強く印象に残ったのは、走りの全領域で乗り味が軽いことですね。漕ぎ出しから加速、高速巡航、コーナリングまで全ての動きが軽快です。自分の思い通りにバイクが動いてくれるので、乗っているとやる気が出てくるというか、挑戦させてくれる気持ちになります。そんな印象を受けるバイクですね。
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この感覚は車のスポーツカーの足回りと似ているかもしれません。振動吸収性を含めた性能がバイクの挙動を安定させてくれるため、安心して速く走ることができます。そのためか下り坂でもスピードに乗せたまま、思った通りのラインを走ることができたと思います。
ディスクブレーキはリムブレーキモデルより重量が増えますが、ブレーキングの優位性を加味するとネガティブな面よりもポジティブな面のほうが際立つと思います。例えば雨天で路面がウェットな状況では、ディスクブレーキの優位性は顕著に現れますし、実際有り難いと思う場面が何度もあります。
リムブレーキでも困るようなシチュエーションも無いと思うのですが、今日のように雨天でディスクロードに乗ると、やはり楽で安心だなと改めて強く感じました。リムブレーキは無くならないと思いますが、ディスクの割合というのはもう少し増えていくのではないと思います。これが当たり前になる時代がすぐそこまで来ていると思います。
また、フレーム単体だけではなく、完成車で見たときのパーツアッセンブルも非常に良いです。完成車価格は100万超えと額面では非常に高価ですが、ホイールも50mmハイトながら非常に軽いので、多少の上りでも問題なくこなしてくれます。S-WORKSのカーボンクランクやパワーメーターも付いていますので、価値に対する値付けは安いと言えます。
レーシングバイクではありますが、選手に限らず誰が乗っても楽しむことが出来るバイクです。走っているとちょっと楽しくなってきて、やる気が湧き出てくるような人馬一体感が良いですね。漕いでいるときも下っているときも安定感、安心感、一体感を感じさせやる気にさせてくれる、良いバイクです。
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スペシャライズド S-WORKS TARMAC MEN SL6 DISC DI2
カラー:GLOSS FLO RED/METALLIC WHITE SILVER/SATIN BLACK、SATIN BLACK/SILVER HOLO/CLEAN
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価 格:1,100,000円(税抜)
インプレッションライダーのプロフィール
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大阪府箕面市にあるシルベストサイクルみのおキューズモール店で店長を務める。マトリックスやNIPPOに所属した経歴を持つ元プロロードレーサーで、ツール・ド・フクオカ優勝、ツール・ド・熊野の個人TT2位などの実績を持つ。現在は実業団レースやロングライド、トライアスロンなど幅広く自転車を嗜みスタッフとして「自転車の楽しさを伝える」ことをモットーに活動している。
CWレコメンドショップページ
シルベストサイクル ショップHP
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神奈川県横浜市のプロショップ、GROVE港北の店長。元々はMTB乗りとして自転車を嗜む内に現在の系列店舗スタッフとして働くように。自転車歴は10年以上でロードバイク、MTB両方に精通する豊富な知識と経験から、メカ・ポジション・乗り方まで幅広いアドバイスを提供する。”初心者にもわかりやすく”を常に心がけ、お客さんと一緒に自転車を楽しむことを重視している。
CWレコメンドショップページ
GROVE港北 ショップHP
ウェア協力:Funkier(ファンキアー)
text:Gakuto Fujiwara
photo:Makoto.AYANO
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