2018/07/20(金) - 20:18
3日連続のアルプス山岳ステージに有力スプリンターのほとんどがレースを去った。ラルプデュエズの大興奮から一夜明けるとまたひとり、総合争いの有力候補ニバリがレースを去ることに。かつてこれほどまでに早い段階で「主役たち」が居なくなるツールがあっただろうか。
アルプス3連戦は日ごと厳しさを増し、ラルプデュエズに頂上フィニッシュするクイーンステージで中盤のクライマックスを迎える。
まずスタート前の時点で残念なニュースはリゴベルト・ウラン(EFエデュケーションファースト・ドラパック)の離脱。昨年総合2位のウランは第9ステージのルーベの石畳の落車で負った怪我から回復できず、前日のグランボルナンで遅れを喫した。まだ総合争いさえ諦めていないコメントを残していたものの、朝のスタート前にツールを去る決心をした。チームカーのルーフに積まれたエースナンバーがついたウランのバイクは降ろされることがなかった。
昨第11ステージはマルセル・キッテル(カチューシャ・アルペシン)とマーク・カヴェンディッシュ(ディメンションデータ)が揃ってタイムアウトとなりツールを去った。そしてこの第12ステージは今大会中もっとも山岳が厳しいステージ。しかも有力選手を含む30人の逃げが発生し、それを追ったメイン集団のペースも上がることに。
25.3kmもの登りが続く超級山岳マドレーヌ峠ではメイン集団のはるか後方に、散り散りになった選手たちの塊がバラバラと続いていた。一緒に協力できる選手を見つけてはグループを作り、走り続ける選手たち。次の上りに入るまでの下りと平坦区間でグルペット集団に追いつけなければ、タイムアウトは免れない。
平坦を引ける、そしてスプリント時には発射台役となるチームメイトのジャコポ・グアルニエーリを引き連れてマドレーヌ峠を登るのはアルノー・デマール(グルパマFDJ)。昨年は第9ステージでタイムアウトとなった悪夢が蘇る。チームカーも従えた体制での追走でグルペットに追いつくことができ、2年連続のタイムアウトは免れることができた。
昨日、チームメイト3人に引かれて、かつチームカーを従えての完璧な体制を敷いた追走でタイムアウトを免れたディラン・フルーネウェーヘン(ロットNLユンボ)だったが、この日は同じく早くから遅れたアンドレ・グライペルを引くロット・スーダルの列車に便乗してのグルペット追走だ。
そしてその小グループのすぐあとには、こちらもクイックステップフロアーズのチームカー伴走付きで、ティム・デクレルクに引かれたグループにフェルナンド・ガビリアがぶら下がる。標高2,000mとは思えないほど気温も高く、苦しむ表情に大量の汗が滴り落ちる。
今ツールで2勝を挙げたガビリアとフルーネウェーヘンは、続く2級山岳ラセ・ド・モンヴェルニエ、超級山岳クロワドフェール峠を前にグルペットに合流することができず、バイクを降りた。そしてグライペルも途中リタイア。
昨日はツール通算30勝のカヴェンディッシュ、昨年ステージ4勝のキッテルが。そしてこの日は、通算11勝のグライペル、そして今年の主役のガビリア、フルーネウェーヘンがツールを去った。ビッグネームのスプリンターたち5人が、たった2日間で一気に居なくなってしまった。
残るスプリンターは、ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)、アレクサンドル・クリストフ(UAEチームエミレーツ)、ソニー・コルブレッリ(バーレーン・メリダ)、アンドレア・パスクアロン(ワンティ・グループゴベール)、ジョン・デゲンコルプ(トレック・セガフレード)など。今年のツールに設定された厳しいコースの前に、ピュアスプリンターと形容される選手はもはやひとりも残っていない状況だ。翌13ステージとシャンゼリゼ、まだあるスプリントのチャンスを前に、それらを狙えるチームもレースをコントロールする力を残しているかは疑問になった。
■ラフな観客とオートバイが引き起こしたニバリの落車リタイア
おそらくは週末でない木曜日であったためか、ラルプデュエズに詰めかけた観客数は過去20年ではもっとも少ない数だったという印象がある。しかしそれでも、ツールでもっとも有名な勝負所の興奮状態は特別なものがある。名物のオランダコーナーや、各国の応援団が場所を陣取り、独特の工夫をこらした応援スタイルで選手たちの通過を待った。
発煙筒を炊いてカラーのついたスモークをはる、ビートの効いた音楽を流す、ビールを飲み酔っ払いながら騒ぐ....ラフすぎる観戦スタイルが随所に見られた。チームスカイにはいまだにブーイングが浴びせられる。意味不明な掛け声や罵りが所々で飛び出し、フルームに走り寄ってパンチを浴びせようとした男もいた。
そしてもっともラフな状態に陥っていたラスト4kmで、ヴィンチェンツォ・ニバリ(バーレーン・メリダ)に災難が降り掛かった。問題の場所は、沿道にバリア(冊)が設置されるフィニッシュまでのラスト4kmの始点にあたる。キャラバンの帰路の抜け道と合流する地点になっているため、道路幅は広いものの、その車線を一車線ぶんを確保した状態でバリアが設置されており、コースの道幅は急に狭くなる印象はある。
そして、選手たちのグループの前につく護衛オートバイ2台は、バリアの無い箇所ではコース沿道から溢れんばかりの人垣となって選手に近づく観客たちを左右にかき分けながら進む。それが、このバリアの始まる箇所で飽和状態に達してしまった。
ニバリはこの落車について、「警察のオートバイが2台居た。その場所にはバリアが無く、フルームがアタックしたときについていった。調子が良かった。そして(前が)スローダウンして、僕は転んでいた。何があったか分からなかった」とレース後に話している。人混みのためTVのライブカメラも状況を捉えていなかった。すぐ後ろに居たマイヨジョーヌのゲラント・トーマス(チームスカイ)もニバリの後輪に乗り上げ、あわや落車するところだったという。
落車してしばし動けなくてもなおバイクに飛び乗り、トーマスらマイヨジョーヌ集団を追い詰めるまでに走り続けたニバリ。しかし背中に激しい痛みがあるとして、検査を受けるためにすぐさまグルノーブルの病院に搬送された。レントゲン検査結果は胸椎の椎体骨折という、レースを続けられないものだった。
観客がSNSに投稿した2つの動画を見る限りは、次のように見える。スモークによる煙幕で視界が効かなくなっていたこと、アタックのタイミングと、狭い場所で溢れた観客、狭くなったバリアのタイミングが重なったとき、前を行く警察のオートバイがスピードを落とさざるを得なくなり、ニバリは観客(が手にした何か。カメラのストラップのようなもの)と接触して地面に転がり落ちた。
(観客が投稿した動画1、動画2)
2年前のモン・ヴァントゥーで起こった事故がすぐさま思い起こされた。強風によるコース短縮によってバリアの設置が間に合わず、溢れた観客に行く手を阻まれた先導の警察のオートバイが急停車。それにマイヨジョーヌのフルームやリッチー・ポート、バウケ・モレマらが突っ込んで落車した。そしてフルームは自転車無しでランニングし、ついたタイムの救済処置について議論を呼んだ事故。
当初言われていたような、警察のオートバイそのものにぶつかった事故ではなかったようだが、オートバイと観客によって引き起こされた事故ということは言えそうだ。しかも、総合争いにおける非常に重要な局面で、レース結果そのものを左右してしまったこと、そして優勝候補選手のリタイアという最悪の事態につながったこと。それが故意では無かったにしろ、その場の荒れた雰囲気と無責任な行動が引き起こしていることは確かだ。
ニバリの母国のイタリア自転車選手協会は、この事故に対し「観客と触れ合うほど距離が近いことは自転車競技のショーの一部だが、今日ラルプデュエズで起こったようなことが世界最大のスポーツイベントで起きたことは到底受け入れがたい。主催者とUCIは、選手たちの身の安全を保証すべきだ」と公式ツイッターで声明を出した。
観戦マナーの向上は言われ続けて久しいはずだが、はしゃぎすぎるが上に、もはやフーリガンと呼びたくなるほどの心無いファンが一向に減らないことは残念だ。ニバリの離脱に対し、各選手たちがSNSでこぞってレースに影響を与える行動を慎むこと、マナーの遵守と、選手たちへのリスペクト、ブーイングなどの行動をやめることなどを呼びかけている。
昨年の総合2位ウラン、そしてスプリンターたち。打倒フルーム&チームスカイの最有力候補ニバリ。アルプスの3日間はツールの今後の闘いを予想以上に変えてしまった。数々の主役たちを失ったツールはいったん山岳を離れ、平坦ステージに戻る。マナーに対する議論はふたたび盛んになるだろう。
text:Makoto AYANO
photo:Makoto AYANO, Kei Tsuji ,CorVos in L'Alpe d'Huez France
アルプス3連戦は日ごと厳しさを増し、ラルプデュエズに頂上フィニッシュするクイーンステージで中盤のクライマックスを迎える。
まずスタート前の時点で残念なニュースはリゴベルト・ウラン(EFエデュケーションファースト・ドラパック)の離脱。昨年総合2位のウランは第9ステージのルーベの石畳の落車で負った怪我から回復できず、前日のグランボルナンで遅れを喫した。まだ総合争いさえ諦めていないコメントを残していたものの、朝のスタート前にツールを去る決心をした。チームカーのルーフに積まれたエースナンバーがついたウランのバイクは降ろされることがなかった。
昨第11ステージはマルセル・キッテル(カチューシャ・アルペシン)とマーク・カヴェンディッシュ(ディメンションデータ)が揃ってタイムアウトとなりツールを去った。そしてこの第12ステージは今大会中もっとも山岳が厳しいステージ。しかも有力選手を含む30人の逃げが発生し、それを追ったメイン集団のペースも上がることに。
25.3kmもの登りが続く超級山岳マドレーヌ峠ではメイン集団のはるか後方に、散り散りになった選手たちの塊がバラバラと続いていた。一緒に協力できる選手を見つけてはグループを作り、走り続ける選手たち。次の上りに入るまでの下りと平坦区間でグルペット集団に追いつけなければ、タイムアウトは免れない。
平坦を引ける、そしてスプリント時には発射台役となるチームメイトのジャコポ・グアルニエーリを引き連れてマドレーヌ峠を登るのはアルノー・デマール(グルパマFDJ)。昨年は第9ステージでタイムアウトとなった悪夢が蘇る。チームカーも従えた体制での追走でグルペットに追いつくことができ、2年連続のタイムアウトは免れることができた。
昨日、チームメイト3人に引かれて、かつチームカーを従えての完璧な体制を敷いた追走でタイムアウトを免れたディラン・フルーネウェーヘン(ロットNLユンボ)だったが、この日は同じく早くから遅れたアンドレ・グライペルを引くロット・スーダルの列車に便乗してのグルペット追走だ。
そしてその小グループのすぐあとには、こちらもクイックステップフロアーズのチームカー伴走付きで、ティム・デクレルクに引かれたグループにフェルナンド・ガビリアがぶら下がる。標高2,000mとは思えないほど気温も高く、苦しむ表情に大量の汗が滴り落ちる。
今ツールで2勝を挙げたガビリアとフルーネウェーヘンは、続く2級山岳ラセ・ド・モンヴェルニエ、超級山岳クロワドフェール峠を前にグルペットに合流することができず、バイクを降りた。そしてグライペルも途中リタイア。
昨日はツール通算30勝のカヴェンディッシュ、昨年ステージ4勝のキッテルが。そしてこの日は、通算11勝のグライペル、そして今年の主役のガビリア、フルーネウェーヘンがツールを去った。ビッグネームのスプリンターたち5人が、たった2日間で一気に居なくなってしまった。
残るスプリンターは、ペテル・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)、アレクサンドル・クリストフ(UAEチームエミレーツ)、ソニー・コルブレッリ(バーレーン・メリダ)、アンドレア・パスクアロン(ワンティ・グループゴベール)、ジョン・デゲンコルプ(トレック・セガフレード)など。今年のツールに設定された厳しいコースの前に、ピュアスプリンターと形容される選手はもはやひとりも残っていない状況だ。翌13ステージとシャンゼリゼ、まだあるスプリントのチャンスを前に、それらを狙えるチームもレースをコントロールする力を残しているかは疑問になった。
■ラフな観客とオートバイが引き起こしたニバリの落車リタイア
おそらくは週末でない木曜日であったためか、ラルプデュエズに詰めかけた観客数は過去20年ではもっとも少ない数だったという印象がある。しかしそれでも、ツールでもっとも有名な勝負所の興奮状態は特別なものがある。名物のオランダコーナーや、各国の応援団が場所を陣取り、独特の工夫をこらした応援スタイルで選手たちの通過を待った。
発煙筒を炊いてカラーのついたスモークをはる、ビートの効いた音楽を流す、ビールを飲み酔っ払いながら騒ぐ....ラフすぎる観戦スタイルが随所に見られた。チームスカイにはいまだにブーイングが浴びせられる。意味不明な掛け声や罵りが所々で飛び出し、フルームに走り寄ってパンチを浴びせようとした男もいた。
そしてもっともラフな状態に陥っていたラスト4kmで、ヴィンチェンツォ・ニバリ(バーレーン・メリダ)に災難が降り掛かった。問題の場所は、沿道にバリア(冊)が設置されるフィニッシュまでのラスト4kmの始点にあたる。キャラバンの帰路の抜け道と合流する地点になっているため、道路幅は広いものの、その車線を一車線ぶんを確保した状態でバリアが設置されており、コースの道幅は急に狭くなる印象はある。
そして、選手たちのグループの前につく護衛オートバイ2台は、バリアの無い箇所ではコース沿道から溢れんばかりの人垣となって選手に近づく観客たちを左右にかき分けながら進む。それが、このバリアの始まる箇所で飽和状態に達してしまった。
ニバリはこの落車について、「警察のオートバイが2台居た。その場所にはバリアが無く、フルームがアタックしたときについていった。調子が良かった。そして(前が)スローダウンして、僕は転んでいた。何があったか分からなかった」とレース後に話している。人混みのためTVのライブカメラも状況を捉えていなかった。すぐ後ろに居たマイヨジョーヌのゲラント・トーマス(チームスカイ)もニバリの後輪に乗り上げ、あわや落車するところだったという。
落車してしばし動けなくてもなおバイクに飛び乗り、トーマスらマイヨジョーヌ集団を追い詰めるまでに走り続けたニバリ。しかし背中に激しい痛みがあるとして、検査を受けるためにすぐさまグルノーブルの病院に搬送された。レントゲン検査結果は胸椎の椎体骨折という、レースを続けられないものだった。
観客がSNSに投稿した2つの動画を見る限りは、次のように見える。スモークによる煙幕で視界が効かなくなっていたこと、アタックのタイミングと、狭い場所で溢れた観客、狭くなったバリアのタイミングが重なったとき、前を行く警察のオートバイがスピードを落とさざるを得なくなり、ニバリは観客(が手にした何か。カメラのストラップのようなもの)と接触して地面に転がり落ちた。
(観客が投稿した動画1、動画2)
2年前のモン・ヴァントゥーで起こった事故がすぐさま思い起こされた。強風によるコース短縮によってバリアの設置が間に合わず、溢れた観客に行く手を阻まれた先導の警察のオートバイが急停車。それにマイヨジョーヌのフルームやリッチー・ポート、バウケ・モレマらが突っ込んで落車した。そしてフルームは自転車無しでランニングし、ついたタイムの救済処置について議論を呼んだ事故。
当初言われていたような、警察のオートバイそのものにぶつかった事故ではなかったようだが、オートバイと観客によって引き起こされた事故ということは言えそうだ。しかも、総合争いにおける非常に重要な局面で、レース結果そのものを左右してしまったこと、そして優勝候補選手のリタイアという最悪の事態につながったこと。それが故意では無かったにしろ、その場の荒れた雰囲気と無責任な行動が引き起こしていることは確かだ。
ニバリの母国のイタリア自転車選手協会は、この事故に対し「観客と触れ合うほど距離が近いことは自転車競技のショーの一部だが、今日ラルプデュエズで起こったようなことが世界最大のスポーツイベントで起きたことは到底受け入れがたい。主催者とUCIは、選手たちの身の安全を保証すべきだ」と公式ツイッターで声明を出した。
観戦マナーの向上は言われ続けて久しいはずだが、はしゃぎすぎるが上に、もはやフーリガンと呼びたくなるほどの心無いファンが一向に減らないことは残念だ。ニバリの離脱に対し、各選手たちがSNSでこぞってレースに影響を与える行動を慎むこと、マナーの遵守と、選手たちへのリスペクト、ブーイングなどの行動をやめることなどを呼びかけている。
昨年の総合2位ウラン、そしてスプリンターたち。打倒フルーム&チームスカイの最有力候補ニバリ。アルプスの3日間はツールの今後の闘いを予想以上に変えてしまった。数々の主役たちを失ったツールはいったん山岳を離れ、平坦ステージに戻る。マナーに対する議論はふたたび盛んになるだろう。
text:Makoto AYANO
photo:Makoto AYANO, Kei Tsuji ,CorVos in L'Alpe d'Huez France
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