2018/07/20(金) - 17:49
ツール・ド・フランスは休息日を明け山岳ステージへ。アルプスの山々を駆ける選手らの姿、沿道に集まる大勢の観客、そして現地の風景を目黒誠子さんがレポートします。
今大会帯同をはじめてから三日間が過ぎました。レースは第12ステージ。休息日明けから連続して3日間のアルプス山岳ステージとなりました。第10ステージでは未舗装路区間があるグリエール高原、第11ステージではビザンヌ峠、ル・プレ峠、そして第12ステージでは数々の名勝負を生み出してきた、「ツール・ド・フランスの象徴」ラルプデュエズ。この山々で、各国の観客はどのように応援しているのでしょうか?その様子を取材してみました。
第10ステージ最大のハイライトであるグリエール高原の未舗装路。グリエール高原は、フランス人にとって歴史的にとても有名なところで、第二次世界大戦中にレジスタンスが抵抗運動を起こした拠点。サルコジ元大統領が現役時たびたびこの高原をお参りしており、この日もグリエール高原から実はすぐ近くのフィニッシュ地点であるグランボルナンに訪れていました。レジスタンスの国立記念碑が立ち、キャラバン隊は迂回しました。
また前日から「未舗装」ということで話題になっていました。「下見に行ってみたけどほんとにダートだった」「当日朝6時以降は交通規制が敷かれていては入れないらしい」などなど。実際は入ることができたのですが、行ってみてびっくり。農道のような、ガードレールもない細い山道を登り目の前にぱっと開けたのが真っ白の道。舗装されておらず、土と言うか、砂がむき出しで、車が通る度に砂ぼこりが。必要以上の砂ぼこりを避けるためスピードを落とすよう注意されます。「パヴェの次は、土?砂?」。
沿道には観客がびっしり。メディアもたくさん。一軒の山小屋風のロッジがあって、観客もメディアも、テラスでビールや食事を楽しんでいます。選手が来るまでまだ少し時間があるので近くにいた家族連れに話しかけてみました。
「どこからいらしたのですか?」。すると「この近所に住んでいる」とのこと。「ツール・ド・フランスが来るから、昨日はこのロッジに家族で泊まったんだ」。「近所なんですね。この道がコースになるのはどんな感じですか?」すると、「ファンタスティック!この道がコースになるなんて夢みたい。舗装してなくて砂ぼこりがすごいかもしれないけど、僕たちはいつもこの道を使っている。それがコースになるなんて!」
ロッジ風レストランでは、ツール2018仕様の透明のカップに入った琥珀色のビールと、なんと、緑色の「ビール」で乾杯する人たち。これは「ジェネピー」と言われるアルプス地方特産のお酒で、「ニガヨモギ」という標高1500メートル以上でしか取れない高山ハーブでつくられた蒸留酒だそう。本来はアルコール度が高いのだけど、オリジナルで作ったものなのか、「アルコールはそれほど高くないジェネピービールだよ。飲んでみる?」
そんなことをしていると、いよいよ選手が来る時間。ロッジが準備した巨大スピーカーからはいつの間にかドドドドドド、ズドズドズド…と体にまで響き渡るようなドラマティックな音楽が。ディレクターカーやコミッセールカー、チームカー、そして選手が通るたびに白い砂ぼこりが舞いあがり、白い煙が道沿いに立ち込め、白い道ができあがる。そこにドラマティックな音響が加わり、歴史的背景と重ね合わせ、まるで、生でみる映画のようでした。ここまで演出するとは。やるなぁ、このロッジ。
第11ステージでは超級山岳のル・プレ峠のあとに現れる美しい湖「ロズラン湖」。キャンピングカーでご主人と観戦を楽しむマダムが教えてくれた「見て、あの山。綱渡りしているのよ」。目の前の高い高い山。見上げると気が遠くなるような山頂が二つ並んでおり、それぞれをつなげて綱をはり、確かにその綱をそ~っと歩く人間の姿が。え、ど、どういうこと?望遠カメラで撮ってみたら、確かに綱渡りしています。そしてその模様はハイライト映像にもバッチリ映し出されていました。ツールに合わせて綱渡りしていたのでしょうか?
第12ステージでは、マドレーヌ峠からラルプデュエズへ。マドレーヌ峠には、ベルギーのフランドル地方からキャンピングカーで来たというムッシューがいました。ツールはもう何年も、毎年観戦に来ているそう。『ツール・ド・フランスは、「サイクリング」を超えた魅力があるんだよね。』「見て、この方向、あれはモンブラン。ここから直線距離でたった60kmだよ」。応援グッズもたくさん出て来て、選手がほぼ通り過ぎた頃、ふと気づくと、見事にツール仕様にお色直しが。
第12ステージのフィニッシュは「ラルプデュエズ」。13.8kmの間にコーナーが21。うねりが続きます。麓には悪魔おじさん。ここから先はすごい人だかりでした。
私がこの日カメラを構えていたのはラスト4kmの手前。鉄柵がちょうど切れるあたりでした。鉄柵がないところまでは人がたくさんで、かなりしっかりした音響設備とスピーカーが設置。マイクでMCをする人、DJをして音楽を回す人。そのまわりに踊る人、飲む人、騒ぐ人。キャンピングカーのテレビを熱心に見る人。オランダ人、イギリス人、カナダ人、コロンビア人…まるでどこかのパーティ会場のようで、この場を自転車で選手が走ってくるなんて信じられない感じ。鉄柵の外にいておとなしく見守るオーストラリア人、ドイツ人。こんなところにも国民性が出るのでしょうか。
イギリスの国旗を背負ったカップル。聞いてみました。フルームのファン。とのこと。「ゲラントトーマスが昨日は勝ったけれどそれはどう思いますか?」「僕は両方のファンだから、どっちが勝ってもいい。どちらでもうれしい。イギリス人だからね!」。
近くに車を停めて、自転車で上まで来たというドイツ人カップルは、「ジロは見たことがあるけれど、ツールははじめてだけれどすっごく楽しい。あちらのみんなももう、パーティ会場のようになってるね。ちょっと危険だけど。」
さていよいよ選手が来る時間に!ジャンダルマリの先導で選手がやってくると、いったんスペースは広がるものの、選手がやってくる頃には興奮した人々でスペースは再び狭くなり、選手がいつどこを走っているのかわかりません。皆の興奮は最高潮に。自転車に乗っている選手の腰をバタバタたたく人もいれば、一緒に走り出してしまう人も。選手や車めがけて旗をなびかせる人や、応援がエスカレートして発煙筒を焚いてしまう人も。オレンジ、黄色、水色。視界が悪い。
実は後で知ったのですが、ちょうど私がいたすぐ手前の場所で、バーレーンメリダのニバリ選手が落車をしていました。落車してもすぐに立ち上がり自転車に乗ったこともあり、すぐ近くにいたのに、騒ぎと人だかりでまったく気づきませんでした。ニバリはこの落車で腰椎を骨折、ツールのリタイアを余儀なくされました。
フルームにとびかかろうとしたファンも逮捕されたとのニュース。自転車レースは、ファンにとっては選手を間近で応援できることが魅力でもありますが、命がけで戦う選手にとってはとても危険。選手がいなければ私たちも楽しめません。選手を尊重しマナーを守って楽しめるようになったらいいです。
筆者プロフィール:目黒 誠子(めぐろせいこ)
宮城県丸森町生まれ。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。2014年より3年間、ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当していた。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。現在は宮城県丸森町に拠点を置きつつ、海外の自転車事情やライフスタイルを取材しながら、ライター、プロデューサー、コーディネーターとして活動。自転車とまちづくり・クリーン工房アドバイザー、「自転車と旅の日~MARUVÉLO(マルベロ)」主宰。(https://www.facebook.com/maruvelo/)
今大会帯同をはじめてから三日間が過ぎました。レースは第12ステージ。休息日明けから連続して3日間のアルプス山岳ステージとなりました。第10ステージでは未舗装路区間があるグリエール高原、第11ステージではビザンヌ峠、ル・プレ峠、そして第12ステージでは数々の名勝負を生み出してきた、「ツール・ド・フランスの象徴」ラルプデュエズ。この山々で、各国の観客はどのように応援しているのでしょうか?その様子を取材してみました。
第10ステージ最大のハイライトであるグリエール高原の未舗装路。グリエール高原は、フランス人にとって歴史的にとても有名なところで、第二次世界大戦中にレジスタンスが抵抗運動を起こした拠点。サルコジ元大統領が現役時たびたびこの高原をお参りしており、この日もグリエール高原から実はすぐ近くのフィニッシュ地点であるグランボルナンに訪れていました。レジスタンスの国立記念碑が立ち、キャラバン隊は迂回しました。
また前日から「未舗装」ということで話題になっていました。「下見に行ってみたけどほんとにダートだった」「当日朝6時以降は交通規制が敷かれていては入れないらしい」などなど。実際は入ることができたのですが、行ってみてびっくり。農道のような、ガードレールもない細い山道を登り目の前にぱっと開けたのが真っ白の道。舗装されておらず、土と言うか、砂がむき出しで、車が通る度に砂ぼこりが。必要以上の砂ぼこりを避けるためスピードを落とすよう注意されます。「パヴェの次は、土?砂?」。
沿道には観客がびっしり。メディアもたくさん。一軒の山小屋風のロッジがあって、観客もメディアも、テラスでビールや食事を楽しんでいます。選手が来るまでまだ少し時間があるので近くにいた家族連れに話しかけてみました。
「どこからいらしたのですか?」。すると「この近所に住んでいる」とのこと。「ツール・ド・フランスが来るから、昨日はこのロッジに家族で泊まったんだ」。「近所なんですね。この道がコースになるのはどんな感じですか?」すると、「ファンタスティック!この道がコースになるなんて夢みたい。舗装してなくて砂ぼこりがすごいかもしれないけど、僕たちはいつもこの道を使っている。それがコースになるなんて!」
ロッジ風レストランでは、ツール2018仕様の透明のカップに入った琥珀色のビールと、なんと、緑色の「ビール」で乾杯する人たち。これは「ジェネピー」と言われるアルプス地方特産のお酒で、「ニガヨモギ」という標高1500メートル以上でしか取れない高山ハーブでつくられた蒸留酒だそう。本来はアルコール度が高いのだけど、オリジナルで作ったものなのか、「アルコールはそれほど高くないジェネピービールだよ。飲んでみる?」
そんなことをしていると、いよいよ選手が来る時間。ロッジが準備した巨大スピーカーからはいつの間にかドドドドドド、ズドズドズド…と体にまで響き渡るようなドラマティックな音楽が。ディレクターカーやコミッセールカー、チームカー、そして選手が通るたびに白い砂ぼこりが舞いあがり、白い煙が道沿いに立ち込め、白い道ができあがる。そこにドラマティックな音響が加わり、歴史的背景と重ね合わせ、まるで、生でみる映画のようでした。ここまで演出するとは。やるなぁ、このロッジ。
第11ステージでは超級山岳のル・プレ峠のあとに現れる美しい湖「ロズラン湖」。キャンピングカーでご主人と観戦を楽しむマダムが教えてくれた「見て、あの山。綱渡りしているのよ」。目の前の高い高い山。見上げると気が遠くなるような山頂が二つ並んでおり、それぞれをつなげて綱をはり、確かにその綱をそ~っと歩く人間の姿が。え、ど、どういうこと?望遠カメラで撮ってみたら、確かに綱渡りしています。そしてその模様はハイライト映像にもバッチリ映し出されていました。ツールに合わせて綱渡りしていたのでしょうか?
第12ステージでは、マドレーヌ峠からラルプデュエズへ。マドレーヌ峠には、ベルギーのフランドル地方からキャンピングカーで来たというムッシューがいました。ツールはもう何年も、毎年観戦に来ているそう。『ツール・ド・フランスは、「サイクリング」を超えた魅力があるんだよね。』「見て、この方向、あれはモンブラン。ここから直線距離でたった60kmだよ」。応援グッズもたくさん出て来て、選手がほぼ通り過ぎた頃、ふと気づくと、見事にツール仕様にお色直しが。
第12ステージのフィニッシュは「ラルプデュエズ」。13.8kmの間にコーナーが21。うねりが続きます。麓には悪魔おじさん。ここから先はすごい人だかりでした。
私がこの日カメラを構えていたのはラスト4kmの手前。鉄柵がちょうど切れるあたりでした。鉄柵がないところまでは人がたくさんで、かなりしっかりした音響設備とスピーカーが設置。マイクでMCをする人、DJをして音楽を回す人。そのまわりに踊る人、飲む人、騒ぐ人。キャンピングカーのテレビを熱心に見る人。オランダ人、イギリス人、カナダ人、コロンビア人…まるでどこかのパーティ会場のようで、この場を自転車で選手が走ってくるなんて信じられない感じ。鉄柵の外にいておとなしく見守るオーストラリア人、ドイツ人。こんなところにも国民性が出るのでしょうか。
イギリスの国旗を背負ったカップル。聞いてみました。フルームのファン。とのこと。「ゲラントトーマスが昨日は勝ったけれどそれはどう思いますか?」「僕は両方のファンだから、どっちが勝ってもいい。どちらでもうれしい。イギリス人だからね!」。
近くに車を停めて、自転車で上まで来たというドイツ人カップルは、「ジロは見たことがあるけれど、ツールははじめてだけれどすっごく楽しい。あちらのみんなももう、パーティ会場のようになってるね。ちょっと危険だけど。」
さていよいよ選手が来る時間に!ジャンダルマリの先導で選手がやってくると、いったんスペースは広がるものの、選手がやってくる頃には興奮した人々でスペースは再び狭くなり、選手がいつどこを走っているのかわかりません。皆の興奮は最高潮に。自転車に乗っている選手の腰をバタバタたたく人もいれば、一緒に走り出してしまう人も。選手や車めがけて旗をなびかせる人や、応援がエスカレートして発煙筒を焚いてしまう人も。オレンジ、黄色、水色。視界が悪い。
実は後で知ったのですが、ちょうど私がいたすぐ手前の場所で、バーレーンメリダのニバリ選手が落車をしていました。落車してもすぐに立ち上がり自転車に乗ったこともあり、すぐ近くにいたのに、騒ぎと人だかりでまったく気づきませんでした。ニバリはこの落車で腰椎を骨折、ツールのリタイアを余儀なくされました。
フルームにとびかかろうとしたファンも逮捕されたとのニュース。自転車レースは、ファンにとっては選手を間近で応援できることが魅力でもありますが、命がけで戦う選手にとってはとても危険。選手がいなければ私たちも楽しめません。選手を尊重しマナーを守って楽しめるようになったらいいです。
筆者プロフィール:目黒 誠子(めぐろせいこ)
宮城県丸森町生まれ。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。2014年より3年間、ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当していた。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。現在は宮城県丸森町に拠点を置きつつ、海外の自転車事情やライフスタイルを取材しながら、ライター、プロデューサー、コーディネーターとして活動。自転車とまちづくり・クリーン工房アドバイザー、「自転車と旅の日~MARUVÉLO(マルベロ)」主宰。(https://www.facebook.com/maruvelo/)
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