2018/07/17(火) - 10:35
1週目の休息日を迎えたツール・ド・フランス。総合選手にも様々な試練が降りかかった波乱のパヴェステージの観戦レポートが目黒誠子さんから届きました。
こんにちは!目黒誠子です。ツール・ド・フランスの取材も今年で四年目となりました。少しですが記事を楽しみにしている、というお声をいただきとてもうれしいです。今年もがんばります!どうぞよろしくお願いいたします。
さて、今年の本格的帯同は1回目の休息日明けからとなりますがその前に。プレスパスを持たず、パリから日帰りで沿道から観戦をしてきました。7月15日の第9ステージ、石畳区間(パヴェ)が15か所に渡って合計21.7km含まれる注目のステージです。パリへのツアー旅行中で「この日が唯一の自由行動の日」、その貴重な一日をツール観戦に充てた仙台在住でラジオディレクターをしている水上綾子さんと、パリ在住で元アナウンサーの高野志津さんとご一緒させていただきました。
「ツール・ド・フランスを観戦したい!」という思いはあるものの、現地でレンタカーを借りて地図を見ながら……というのはなかなかハードルが高いし、ツール以外にもフランスを観光したい。そこで「パリから日帰りできるところ」というフィルターにかけたどり着いたのが今回の場所でした。
パリ北駅から、9:46分発のTGVに乗りまずはリールまで。その後在来線に乗り換えタンプルーブへ。タンプルーブはスタートから124km地点、残り32km地点にある小さな町です。駅から15分ほど歩いたところに、「セクター5」のパヴェ区間があります。(フィニッシュから5つ目。フィニッシュに向かってカウントダウン形式)。500mのパヴェ区間と短いですが、パリから日帰り観戦するには絶好の場所。
キャラバン隊は13:43に通過するのでそれも楽しんで、その後選手は15:28~15:43に通過する予定。帰りはタンプルーブ 17:09発の電車に乗ればパリへは19:14に到着するので十分日帰りできます!
パリ北駅に9:15分に待ち合わせし、向かった先はまずはリール。車内にはツールの観戦らしき人はいないものの、駅にはトリコロールのフランス国旗を持った人がちらほら。そう、この日はワールドカップの決勝の日です。駅ほかありとあらゆるところでフランス国旗を見ました。
タンプルーブ駅前はすごく静かでしたがコースに向かう通りに出ると、路駐が増え始めます。見ると「Parking Organization」。歩道をつぶすような路上駐車であっても、オフィシャルの駐車場になっているのですね。文化の違いと言われればそれまでですが、何かを「みんなで楽しむ」ことに太っ腹なフランス文化を感じます。
どこからか音楽が聞こえてきました。どうやら区役所のようですがイベント会場になっていました。音楽が流れ、出店がたくさん。ツールのオフィシャルグッズも売っています。ここまで来ると観戦の人もたくさん!日の丸を準備していたのであらゆるところから「ジャパン!」「こにちは!」「SUSHI-!」と話しかけられます。
いきなり声をかけてきたお父さんはベルギー人だそうで、「あのね~、日本のプレーは素晴らしかったよ!グッジョブ!」。サッカーの話です(笑)。ワールドカップとツール・ド・フランスで沸くフランス。いいですね~!
沿道脇でワインを飲みながらピクニック観戦する人たちを傍目に一路パヴェ区間へ!このパヴェ、どんな風になっているのだろうとワクワクしながら向かったのですが、「なんとまぁこんなところが!」という細~い道路でした。
車がよく通る大通りから脇の小道に逸れ、さらに麦畑へと延びるいわゆる「農道」?道幅は、車がようやく通れる幅、約2mほどでしょうか。とにかく狭い。石畳は、整然と敷かれているわけではなく、とってもとっても、ガチャガチャ(な感じ)。昔は平らだったのでしょうが、轍はへこみ、中央が盛り上がり、波打っています。
中央の石は幾度も車輪に踏みつけられたからか黒光りしています。「こんなところを自転車で走るなんて……しかも、転んだら痛そう……」はじめて目にした石畳に衝撃。こんなところをコースにするなんて……。選手はどんなスピードで走ってくるのだろう?と言うか自転車でここを走る?と思っていたら2歳位の男の子がバランスバイクに乗ってやってきました。こんな小さなころからこの石畳に慣れ親しんでいるのでしょうか?まさに英才教育です。
石畳を下見できたのでキャラバンを待つことにしました。キャラバン隊は石畳区間を通れませんから迂回路をまわりますが、そのせいか、予定時間よりも大幅に遅れての到着でした。キャラバン隊のスピードも速め。投げてくれるものも少なめ、あとから猛スピードで追いかけるキャラバンも。
選手が到着。選手の前にはオフィシャルカーやコミッセールカーが走るのですが、それはもう大変な砂ぼこり!あたり一面真っ白、と言うより砂色で、選手が走ってくる姿はわかるけど顔までは判別不可能、誰が誰だかわかりません。かろうじて黄色ジャージは発見しました。
そしてガタガタガタ……ドドドドドドという大きな振動。車の音、自転車の音、観客の歓声。時々ゴホゴホという咳払い。砂が舞いすぎてサングラスなしでは目は開けられないし、口も開けられない……。選手はマスクなんてしてないし、呼吸をするのにも口は開いてしまうだろうから、この砂ぼこりを15セクターに渡って、21.7kmも吸い込んでいるのかと思うと、どれだけの砂ぼこりを吸ってしまっているのだろうと、正直、心が痛くなりました。腕に包帯を巻いている選手が数名。この日は落車も多く、直前の村でも落車があったようで、傷跡をかばうように走る姿は痛々しい……ここは振動の大きなパヴェ区間です。
パヴェをツールのコースに入れるのは賛否両論があるようです。「パリールーベはワンデーレースだからいいけれど、ステージレースに入れるのはどうなのか。ツールはこれから山を何度も超え過酷なコースも含まれるステージレースの最高峰。パリールーヴェを走る選手のように、パヴェに向いている選手もいればそうでない選手もいるから、公平性、安全性としてどうなのか」、「選手には過酷過ぎる」などなど。
さて、現地で沿道の声はどうでしょうか?「石畳がツールのコースに含まれるなんてすごいわ。バラエティに富んでいていいんじゃない?でもやはり過酷よね。安全じゃないかも。ベルギーから来たから近くていいのだけど。」と言うのはキャンピングカーでブルージュから来た一行さま。タンプルーブの近くの町から見に来たというマダムは「こんな小さな町にたくさんの人が来てもらえるのだから、いいわ!」と喜ぶ。
地元の沿道は歓迎の声が多いようです。「ツール・ド・フランスを勝つためにはあらゆる障害を乗り越えなければならない」と語るのはツール・ド・フランス大会ディレクターのクリスチャン・プリュドム氏。「難度を上げるのではなく、多様化すること」と続けます。
さて、ボワチュールバレ(ほうき車)が通ったので今日のレースも終了。駅に向かい電車を待ちます。ふと足元を見ると真っ黒になった靴、腕、リュック。かけていたサングラスも砂ぼこりで真っ白。デゲンコルブがツール初勝利というニュースを見つつ、ツイッターで見たレース後のサガンは、顔はもちろん腕も真っ黒……その姿にまたもや衝撃を受けました。
砂ぼこりの洗礼をうけた「パリから日帰り観戦ツアー」。過酷なパヴェを走った選手には、ヨーロッパ一透明度の高いアヌシー湖畔でゆっくり休息をとって欲しいです。
筆者プロフィール:目黒 誠子(めぐろせいこ)
宮城県丸森町生まれ。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。2014年より3年間、ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当していた。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。現在は宮城県丸森町に拠点を置きつつ、海外の自転車事情やライフスタイルを取材しながら、ライター、プロデューサー、コーディネーターとして活動。自転車とまちづくり・クリーン工房アドバイザー、「自転車と旅の日~MARUVÉLO(マルベロ)」主宰(https://www.facebook.com/maruvelo/)
こんにちは!目黒誠子です。ツール・ド・フランスの取材も今年で四年目となりました。少しですが記事を楽しみにしている、というお声をいただきとてもうれしいです。今年もがんばります!どうぞよろしくお願いいたします。
さて、今年の本格的帯同は1回目の休息日明けからとなりますがその前に。プレスパスを持たず、パリから日帰りで沿道から観戦をしてきました。7月15日の第9ステージ、石畳区間(パヴェ)が15か所に渡って合計21.7km含まれる注目のステージです。パリへのツアー旅行中で「この日が唯一の自由行動の日」、その貴重な一日をツール観戦に充てた仙台在住でラジオディレクターをしている水上綾子さんと、パリ在住で元アナウンサーの高野志津さんとご一緒させていただきました。
「ツール・ド・フランスを観戦したい!」という思いはあるものの、現地でレンタカーを借りて地図を見ながら……というのはなかなかハードルが高いし、ツール以外にもフランスを観光したい。そこで「パリから日帰りできるところ」というフィルターにかけたどり着いたのが今回の場所でした。
パリ北駅から、9:46分発のTGVに乗りまずはリールまで。その後在来線に乗り換えタンプルーブへ。タンプルーブはスタートから124km地点、残り32km地点にある小さな町です。駅から15分ほど歩いたところに、「セクター5」のパヴェ区間があります。(フィニッシュから5つ目。フィニッシュに向かってカウントダウン形式)。500mのパヴェ区間と短いですが、パリから日帰り観戦するには絶好の場所。
キャラバン隊は13:43に通過するのでそれも楽しんで、その後選手は15:28~15:43に通過する予定。帰りはタンプルーブ 17:09発の電車に乗ればパリへは19:14に到着するので十分日帰りできます!
パリ北駅に9:15分に待ち合わせし、向かった先はまずはリール。車内にはツールの観戦らしき人はいないものの、駅にはトリコロールのフランス国旗を持った人がちらほら。そう、この日はワールドカップの決勝の日です。駅ほかありとあらゆるところでフランス国旗を見ました。
タンプルーブ駅前はすごく静かでしたがコースに向かう通りに出ると、路駐が増え始めます。見ると「Parking Organization」。歩道をつぶすような路上駐車であっても、オフィシャルの駐車場になっているのですね。文化の違いと言われればそれまでですが、何かを「みんなで楽しむ」ことに太っ腹なフランス文化を感じます。
どこからか音楽が聞こえてきました。どうやら区役所のようですがイベント会場になっていました。音楽が流れ、出店がたくさん。ツールのオフィシャルグッズも売っています。ここまで来ると観戦の人もたくさん!日の丸を準備していたのであらゆるところから「ジャパン!」「こにちは!」「SUSHI-!」と話しかけられます。
いきなり声をかけてきたお父さんはベルギー人だそうで、「あのね~、日本のプレーは素晴らしかったよ!グッジョブ!」。サッカーの話です(笑)。ワールドカップとツール・ド・フランスで沸くフランス。いいですね~!
沿道脇でワインを飲みながらピクニック観戦する人たちを傍目に一路パヴェ区間へ!このパヴェ、どんな風になっているのだろうとワクワクしながら向かったのですが、「なんとまぁこんなところが!」という細~い道路でした。
車がよく通る大通りから脇の小道に逸れ、さらに麦畑へと延びるいわゆる「農道」?道幅は、車がようやく通れる幅、約2mほどでしょうか。とにかく狭い。石畳は、整然と敷かれているわけではなく、とってもとっても、ガチャガチャ(な感じ)。昔は平らだったのでしょうが、轍はへこみ、中央が盛り上がり、波打っています。
中央の石は幾度も車輪に踏みつけられたからか黒光りしています。「こんなところを自転車で走るなんて……しかも、転んだら痛そう……」はじめて目にした石畳に衝撃。こんなところをコースにするなんて……。選手はどんなスピードで走ってくるのだろう?と言うか自転車でここを走る?と思っていたら2歳位の男の子がバランスバイクに乗ってやってきました。こんな小さなころからこの石畳に慣れ親しんでいるのでしょうか?まさに英才教育です。
石畳を下見できたのでキャラバンを待つことにしました。キャラバン隊は石畳区間を通れませんから迂回路をまわりますが、そのせいか、予定時間よりも大幅に遅れての到着でした。キャラバン隊のスピードも速め。投げてくれるものも少なめ、あとから猛スピードで追いかけるキャラバンも。
選手が到着。選手の前にはオフィシャルカーやコミッセールカーが走るのですが、それはもう大変な砂ぼこり!あたり一面真っ白、と言うより砂色で、選手が走ってくる姿はわかるけど顔までは判別不可能、誰が誰だかわかりません。かろうじて黄色ジャージは発見しました。
そしてガタガタガタ……ドドドドドドという大きな振動。車の音、自転車の音、観客の歓声。時々ゴホゴホという咳払い。砂が舞いすぎてサングラスなしでは目は開けられないし、口も開けられない……。選手はマスクなんてしてないし、呼吸をするのにも口は開いてしまうだろうから、この砂ぼこりを15セクターに渡って、21.7kmも吸い込んでいるのかと思うと、どれだけの砂ぼこりを吸ってしまっているのだろうと、正直、心が痛くなりました。腕に包帯を巻いている選手が数名。この日は落車も多く、直前の村でも落車があったようで、傷跡をかばうように走る姿は痛々しい……ここは振動の大きなパヴェ区間です。
パヴェをツールのコースに入れるのは賛否両論があるようです。「パリールーベはワンデーレースだからいいけれど、ステージレースに入れるのはどうなのか。ツールはこれから山を何度も超え過酷なコースも含まれるステージレースの最高峰。パリールーヴェを走る選手のように、パヴェに向いている選手もいればそうでない選手もいるから、公平性、安全性としてどうなのか」、「選手には過酷過ぎる」などなど。
さて、現地で沿道の声はどうでしょうか?「石畳がツールのコースに含まれるなんてすごいわ。バラエティに富んでいていいんじゃない?でもやはり過酷よね。安全じゃないかも。ベルギーから来たから近くていいのだけど。」と言うのはキャンピングカーでブルージュから来た一行さま。タンプルーブの近くの町から見に来たというマダムは「こんな小さな町にたくさんの人が来てもらえるのだから、いいわ!」と喜ぶ。
地元の沿道は歓迎の声が多いようです。「ツール・ド・フランスを勝つためにはあらゆる障害を乗り越えなければならない」と語るのはツール・ド・フランス大会ディレクターのクリスチャン・プリュドム氏。「難度を上げるのではなく、多様化すること」と続けます。
さて、ボワチュールバレ(ほうき車)が通ったので今日のレースも終了。駅に向かい電車を待ちます。ふと足元を見ると真っ黒になった靴、腕、リュック。かけていたサングラスも砂ぼこりで真っ白。デゲンコルブがツール初勝利というニュースを見つつ、ツイッターで見たレース後のサガンは、顔はもちろん腕も真っ黒……その姿にまたもや衝撃を受けました。
砂ぼこりの洗礼をうけた「パリから日帰り観戦ツアー」。過酷なパヴェを走った選手には、ヨーロッパ一透明度の高いアヌシー湖畔でゆっくり休息をとって欲しいです。
筆者プロフィール:目黒 誠子(めぐろせいこ)
宮城県丸森町生まれ。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。2014年より3年間、ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当していた。ロードバイクでのサイクリングを楽しむ。航空会社の広報系の仕事にも携わり、折り紙飛行機の指導員という変わりダネ資格を持つ。現在は宮城県丸森町に拠点を置きつつ、海外の自転車事情やライフスタイルを取材しながら、ライター、プロデューサー、コーディネーターとして活動。自転車とまちづくり・クリーン工房アドバイザー、「自転車と旅の日~MARUVÉLO(マルベロ)」主宰(https://www.facebook.com/maruvelo/)
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