BMCレーシングチームは先週、RCSスポルトが主催する春の3レースへの出場を決めた。ツール・ド・フランスへの出場は未定だが、世界チャンピオンのカデル・エヴァンス(オーストラリア)はチームが招待されることに自信を持っている。何かと注目を集めるエヴァンスに、グレゴー・ブラウンがインタビュー。

格下チームに移籍し、ツール制覇を目論むオージー

ダウンアンダーでグレゴー・ブラウンのインタビューに応じるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)ダウンアンダーでグレゴー・ブラウンのインタビューに応じるカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsujiエヴァンスのインタビューを行なったのは、ツアー・ダウンアンダー期間中。アルカンシェルを着てオーストラリアに凱旋したエヴァンスに、今シーズンの抱負やグランツールへの想いを訊いた。

「BMCレーシングチームへの移籍を発表したとき、『どうしてそんな格下チームに移籍するんだ?』と何人にも言われた。でもチームのジョン・ルランゲ監督やBMCプロジェクト関係者とのミーティングで、彼らが真剣にロードレースに取り組んでいることを実感し、安心してチームへの移籍を決めたんだ」。

小声で話し込むカデル・エヴァンス(オーストラリア)とチームオーナーのアンディ・リース氏小声で話し込むカデル・エヴァンス(オーストラリア)とチームオーナーのアンディ・リース氏 photo:Kei Tsujiアメリカに拠点を置くBMCレーシングチームは、これまでグランツールはおろか、多くのワンディクラシックに出場したことが無い。プロコンチネンタル登録に属しているため、ビッグレースへの出場は、レース主催者の判断に委ねられている。

昨年スイス人とアメリカ人の混成チームとして活動したBMCレーシングチームは、ドーフィネ・リベレとパリ〜ルーベの出場。しかしそれ以外のビッグレースには招待されなかった。

BMCレーシングチーム注目のジョージ・ヒンカピー(アメリカ)とカデル・エヴァンス(オーストラリア)BMCレーシングチーム注目のジョージ・ヒンカピー(アメリカ)とカデル・エヴァンス(オーストラリア) photo:Kei Tsuji今シーズン、チームは大きな変貌を遂げた。昨年9月の時点で、BMCレーシングチームはジョージ・ヒンカピー(アメリカ)、カルステン・クローン(オランダ)、マークス・ブルグハート(ドイツ)、そして元世界チャンピオンのアレッサンドロ・バッラン(イタリア)の獲得を発表。そして、世界チャンピオンのエヴァンスの加入は、チームの戦力増強だけでなく、トップレース出場のチャンスをもたらした。

ヒンカピーとバッランは、ロンド・ファン・フラーンデレン(フランドル)とパリ〜ルーベの上位常連選手。2007年にはバッランがフランドルを制し、ブルグハートがヘント〜ウェベルヘムで優勝を飾っている。すでにワンディクラシックへの出場は確約されていると言っていいだろう。しかしツール・ド・フランスはまた別の問題だ。

集団内で周回をこなすカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)集団内で周回をこなすカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム) photo:Kei Tsuji「ツールの話題になると、いつも『チームがツールに出場できるかどうかさえ分からないのに』と言われる。確かにそうだ。7月に自宅にいたとすれば、それはツールに招待されなかったということ。招待されなければ、それはそれでOKだ」。エヴァンスはA.S.O.(アモリー・スポーツ・オルガニザシオン)に招待されなかった場合の事態を想定している。

「A.S.O.はチームの戦力を重視するだろう。もちろんそれは重要なことだ。でも同時に、チームの姿勢やオーガナイズも考慮に入れるはず。BMCレーシングチームは、プロチームとして全ての項目を満たしていると思うよ。とにかく全てはA.S.O.の決定に委ねられている。セラヴィ(それが人生)だ」。


イタリアレースに重点を置く2010年シーズン

スイス・メンドリシオで行なわれたロード世界選手権で優勝したカデル・エヴァンス(オーストラリア)スイス・メンドリシオで行なわれたロード世界選手権で優勝したカデル・エヴァンス(オーストラリア) photo:Cor Vosアルカンシェルを着るエヴァンスが山岳でバトルを繰り広げれば、ツールに大きな注目が集まることは間違いない。ツールの総合争いに加わった世界チャンピオンは、グレッグ・レモンやアブラハム・オラーノ以降出て来ていない。

そのことを踏まえ、RCSスポルトは昨年12月、他のどのチームより先に、BMCレーシングチームをジロ・デ・イタリアに招待することを決めた。

表彰台で妻キアーラさんとキスするカデル・エヴァンス(オーストラリア)表彰台で妻キアーラさんとキスするカデル・エヴァンス(オーストラリア) photo:Cor Vosエヴァンスとジロの間には特別な繋がりがある。2002年にエヴァンスはジロでグランツールデビュー。同年エヴァンスはオーストラリア人初のマリアローザ着用者となり、最後まで総合戦線に絡んだ。ツール・ド・フランスで総合争いに加わる5年前の話だ。

エヴァンスは現在イタリア国境にほど近いスイスに住んでおり、1995年にジュニア選手としてキャリアをスタートさせたのもイタリアチーム。プロデビューもサエコとマペイというイタリアチーム。

サエコでのデビュー後、2002年にマペイに加入したカデル・エヴァンス(オーストラリア)サエコでのデビュー後、2002年にマペイに加入したカデル・エヴァンス(オーストラリア) photo:Cor Vos「コーチもイタリア人で、妻と義理の両親もイタリア人。犬もイタリアの犬種なんだ」。とにかくイタリアと密接に関わっている。ジロ・デ・イタリア前のトレーニング期間中、エヴァンスは妻キアラと犬のモリーと一緒に自宅で過ごす予定だ。

今年エヴァンスは、春のティレーノ〜アドリアティコに初出場する。世界王者エヴァンスの出場は、ジロに出場するためにBMCレーシングチームがRCSスポルトと結んだ協定によるもの。

5月8日から30日まで3週間に渡って開催されるジロ・デ・イタリアで、エヴァンスはグランツール初総合優勝を目指す。もちろんジロで良い走りを見せることが出来れば、ツール出場に繋がる可能性もある。

2007年エヴァンスはツールで総合2位に入り、ブエルタ・ア・エスパーニャで総合4位。昨年はブエルタで表彰台に上った。ジロとツールの出場は決して無茶なアイデアではない。

「トレーナーとそのこと(ジロとツール同年出場)について何度も話し合った。最近のメインストリームからは逸脱するけど、ジロを効果的に使って調子を上げ、ツールに挑むという考えだ。昨年の成績を見る限り、2つのグランツールを走ることは難しいことじゃない。その方がいい成績を生むことだってある。だからジロ出場は大歓迎なんだ」。心機一転チームを移籍したエヴァンスの新たな挑戦だ。

2002年のジロ・デ・イタリアでマリアローザを着たカデル・エヴァンス(オーストラリア)2002年のジロ・デ・イタリアでマリアローザを着たカデル・エヴァンス(オーストラリア) photo:Cor Vos「ジロへの出場を楽しみにしている。ずっとジロに戻りたいと考えていたんだ(エヴァンスは2002年以降ジロに出場していない)。ジロではまだやり残したことがある。他のグランツールのことも考えながらジロで良い走りを見せたい」。

元MTBクロスカントリー選手のエヴァンスが注目しているのは、トスカーナ・シエナ近郊の未舗装路を走る第7ステージと、第16ステージのプラン・デ・コロネスの山岳タイムトライアル。

プラン・デ・コロネスは急勾配で一部未舗装の12.8km。2008年、アルベルト・コンタドール(スペイン)はプラン・デ・コロネスの山岳タイムトライアルで22秒遅れのステージ4位に入り、総合優勝をほぼ確定させた。

エヴァンスはジロの総合優勝を真剣に狙っている。しかし決してツール出場を諦めたわけではない。「ツール出場は未定。だけど出場の可能性は残されている」。

ジロ・デ・イタリアで総合優勝し、ツール・ド・フランスに出場。それを否定する理由はどこにも無い。

text:Gregor Brown
photo:Cor Vos, Kei Tsuji
translation:Kei Tsuji



Gregor.Brown (グレゴー・ブラウン)

イタリア・レッコ在住のアメリカ人プロサイクリング・ジャーナリスト。2005、2006年ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランス、春のクラシック等で綾野 真(シクロワイアード編集長/フォトジャーナリスト)に帯同し、取材活動を行う。2007年よりサイクリングニュース(イギリス)の主筆ジャーナリストとして活躍後、フリーランスに。2009年12月よりシクロワイアード契約ジャーナリストとなる。今後、主にイタリア・英語圏プロサイクリングメディアに活動の舞台を移す。





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