2018/05/27(日) - 13:40
マッターホルンを眺めるジロ第20ステージのチェルヴィニアでマリアローザ争いが決着。すぐさまジロは終着地ローマまでの750km移動を開始した。移動の合間に、最終決戦の現地の様子をレポートします。
クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)が着るマリアローザをチェック photo:Kei Tsuji
パレスチナのデモにTAV(高速鉄道)建設反対のデモが混ざる photo:Kei Tsuji
151名の選手たちが第20ステージに挑む photo:Kei Tsuji
マリアローザのクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)とマリアチクラミーノのエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji
クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)を祝福するサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
第20ステージのスタート地点は、前日に決定的な動きが生まれたフィネストレ峠の登り口に位置するスーザの町。フランスと北イタリアを結ぶ交通の要所であるスーザで、関係者の間で話されていた話題は主に2つ。
まず1つ目は、もちろん、誰もが驚いた前日のクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)の80km独走勝利について。チームの垣根を越えて全員が「本当に信じられない走りだった」と口を揃えた。そしてもちろんチームバスの駐車場ではチームスカイが何重にもなった観客に囲まれることになる。その横で、フルームが着用するカステリ製のマリアローザをチームスタッフが入念にチェックしていた。
もう1つの話題は、第20ステージが終わってから750km離れた終着地ローマまでどうやって移動するかについて。選手たちはフィニッシュ後すぐに主催者が用意したバスに乗って近郊のトリノ空港に向かい、チャーター機に乗ってローマを目指す。一方、スタート地点で選手たちを見送ったチームバスはフィニッシュ地点に向かわずにそのままローマに直行。夜までにローマ入りしたチームバスが、ローマ空港に降り立つ選手たちを迎えてホテルに送る段取りだ。チャーター機の遅延を避けるため、この日は予定よりも30分早くスタートが切られた。
選手以外の全員、つまりチームカーや大会関係車両は、レース後にローマまで陸路で移動することになる。チームカーはその日のうちに400kmほどを移動して宿泊し、翌朝に残りの350kmを走ってローマ入りするパターン。大会関係車両の中には、フィニッシュ地点で少し仮眠を取ってから夜中に出発し、何名かで運転を交代しながらノンストップでローマを目指すグループも。
レンタカーで移動している取材陣はというと、チームカーと同様にその日のうちに半分運転して翌日半分運転する肉体派グループや、ミラノでレンタカーを返却して電車で移動する知的なグループや、ミラノでレンタカーを返却して乗り合いで運転を交代しながらローマを目指す賢明なグループ、遠すぎるからローマには行かないというがっかりグループに分かれる。自分は半分ずつ運転する派で、ちょうど行程の中間にあるボローニャ近郊に宿泊して今このレポートを書いている。
750kmという距離を日本に当てはめるならば、鳥取の大山で第20ステージが終わって翌日東京の皇居前を第21ステージがスタートする感じ。もしくは山形の蔵王山で第20ステージが終わって翌日大阪の御堂筋を第21ステージがスタートする感じ。とは言ってもイタリアの高速道路はスピード制限が大抵130km/hなので、日本よりも移動時間は短い。
アスタナを先頭に1級山岳ツェコレ峠を登る photo:Kei Tsuji
1級山岳ツェコレ峠でメイン集団から脱落したサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
1級山岳ツェコレ峠の下りで逃げグループから飛び出したマテイ・モホリッチ(スロベニア、バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji
1級山岳サンパンタレオン峠に向かうメイン集団 photo:Kei Tsuji
標高2,001mの1級山岳チェルヴィニアの町からは、スイス国境に佇むマッターホルン(イタリア語でチェルヴィーノ)の雄大な景色を眺めることができる。冬場はスキーヤー、夏場はハイカーを集める観光地で、ジロに登場するのはこれが5回目。マッターホルンといえばスイス側のツェルマットから眺めた時のピラミッド型の姿が有名だが、イタリア側から見たチェルヴィーノは特にそこまで尖っていない。ちなみにチェルヴィーノは鹿の角を意味する。その麓にあるからチェルヴィニア。
突然総合上位の選手を襲う大ブレーキ。前日のサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)に続いて、前哨戦ツアー・オブ・アルプス総合優勝者のティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)が完全に失速して総合争いから脱落した。仮にピノが総合3位を守っていれば、1990年に総合2位に入ったシャルリー・モテ以来28年ぶりとなるフランス人選手の総合表彰台だったが、その野望は最終日まで1日を残して潰えた。グルパマFDJの監督によると、ピノは第20ステージをもってジロを去る。つまり最終日にローマを走ることはない。
フルームが「今年のジロはとにかく厳しい。バッドデーを迎えた選手は、30秒を失うのではなく、10分や15分も失ってしまう。それは厳しいレースが展開されたことを表している」と語るように、第101回ジロは例年よりも高速&高強度の戦いとなった。例年よりも厳しいコースが設定されたわけではなく、TTを得意とするフルームとデュムランの存在がレースの強度を上げた要因だと考えられる。個人TTでリードするTTスペシャリストを引き離すためにクライマーたちが毎日山岳でアタックしたため、厳しい山岳ステージで主催者の想定を上回る平均スピードを刻むことが多かった。
1級山岳サンパンタレオン峠に向かうメイン集団 photo:Kei Tsuji
チェルヴィーノ(マッターホルン)と大型スクリーンを眺める photo:Kei Tsuji
姿を現したチェルヴィーノ(マッターホルン) photo:Kei Tsuji
1級山岳チェルヴィニアを制したミケル・ニエベ(スペイン、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
この日、5時間49分51秒にわたってフルームは平均280W(NP325W)を出力している。アタックが繰り返されたチェルヴィニアの終盤は9分08秒にわたって平均420Wを出力。前日の独走の疲れが影響することなく、トム・デュムラン(オランダ、サンウェブ)のアタック全てに反応した。レース中の消費カロリーは6,200kcal。
これらはVelonが公開しているデータだが、第19ステージのフルーム独走のデータは公開されていなかった。そのことについてフルームは「もしかしたらVelonはデータ取りに失敗したのかもしれない。3週間にわたって180g(デバイスの重さ)も余計にバイクにつけて走ったのに」と不満を漏らしている。
ちなみに第19ステージ終了後にフルームのものを含めて8台のバイクが今年UCIが導入した移動X線検査装置による検査を受けている。これで数年後に「フルームはあの時モーター付きバイクに乗っていたんじゃないか」というような懐疑の目を向けられることもない。
とにもかくにもジロはローマを目指す。すべての道はローマに通じているとかなんとか(移動が半分残っているのでこのあたりで切りたいだけです)。「なんでわざわざ最終日がローマなんだ」と不満を漏らす人も多いが、カラカラ浴場で出走サインが行われ、コロッセオをバックにフィニッシュする市街地周回コースはきっとスペクタクルなものになる。
チームスタッフに迎え入れられるミケル・ニエベ(スペイン、ミッチェルトン・スコット) photo:Kei Tsuji
握手するクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)とワウト・プールス(オランダ、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
フィニッシュ後すぐに記者に囲まれるトム・デュムラン(オランダ、サンウェブ) photo:Kei Tsuji
マリアローザを着てスプマンテを開けるクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji
text&photo:Kei Tsuji in Bologna, Italy
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まず1つ目は、もちろん、誰もが驚いた前日のクリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)の80km独走勝利について。チームの垣根を越えて全員が「本当に信じられない走りだった」と口を揃えた。そしてもちろんチームバスの駐車場ではチームスカイが何重にもなった観客に囲まれることになる。その横で、フルームが着用するカステリ製のマリアローザをチームスタッフが入念にチェックしていた。
もう1つの話題は、第20ステージが終わってから750km離れた終着地ローマまでどうやって移動するかについて。選手たちはフィニッシュ後すぐに主催者が用意したバスに乗って近郊のトリノ空港に向かい、チャーター機に乗ってローマを目指す。一方、スタート地点で選手たちを見送ったチームバスはフィニッシュ地点に向かわずにそのままローマに直行。夜までにローマ入りしたチームバスが、ローマ空港に降り立つ選手たちを迎えてホテルに送る段取りだ。チャーター機の遅延を避けるため、この日は予定よりも30分早くスタートが切られた。
選手以外の全員、つまりチームカーや大会関係車両は、レース後にローマまで陸路で移動することになる。チームカーはその日のうちに400kmほどを移動して宿泊し、翌朝に残りの350kmを走ってローマ入りするパターン。大会関係車両の中には、フィニッシュ地点で少し仮眠を取ってから夜中に出発し、何名かで運転を交代しながらノンストップでローマを目指すグループも。
レンタカーで移動している取材陣はというと、チームカーと同様にその日のうちに半分運転して翌日半分運転する肉体派グループや、ミラノでレンタカーを返却して電車で移動する知的なグループや、ミラノでレンタカーを返却して乗り合いで運転を交代しながらローマを目指す賢明なグループ、遠すぎるからローマには行かないというがっかりグループに分かれる。自分は半分ずつ運転する派で、ちょうど行程の中間にあるボローニャ近郊に宿泊して今このレポートを書いている。
750kmという距離を日本に当てはめるならば、鳥取の大山で第20ステージが終わって翌日東京の皇居前を第21ステージがスタートする感じ。もしくは山形の蔵王山で第20ステージが終わって翌日大阪の御堂筋を第21ステージがスタートする感じ。とは言ってもイタリアの高速道路はスピード制限が大抵130km/hなので、日本よりも移動時間は短い。
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突然総合上位の選手を襲う大ブレーキ。前日のサイモン・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)に続いて、前哨戦ツアー・オブ・アルプス総合優勝者のティボー・ピノ(フランス、グルパマFDJ)が完全に失速して総合争いから脱落した。仮にピノが総合3位を守っていれば、1990年に総合2位に入ったシャルリー・モテ以来28年ぶりとなるフランス人選手の総合表彰台だったが、その野望は最終日まで1日を残して潰えた。グルパマFDJの監督によると、ピノは第20ステージをもってジロを去る。つまり最終日にローマを走ることはない。
フルームが「今年のジロはとにかく厳しい。バッドデーを迎えた選手は、30秒を失うのではなく、10分や15分も失ってしまう。それは厳しいレースが展開されたことを表している」と語るように、第101回ジロは例年よりも高速&高強度の戦いとなった。例年よりも厳しいコースが設定されたわけではなく、TTを得意とするフルームとデュムランの存在がレースの強度を上げた要因だと考えられる。個人TTでリードするTTスペシャリストを引き離すためにクライマーたちが毎日山岳でアタックしたため、厳しい山岳ステージで主催者の想定を上回る平均スピードを刻むことが多かった。
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これらはVelonが公開しているデータだが、第19ステージのフルーム独走のデータは公開されていなかった。そのことについてフルームは「もしかしたらVelonはデータ取りに失敗したのかもしれない。3週間にわたって180g(デバイスの重さ)も余計にバイクにつけて走ったのに」と不満を漏らしている。
ちなみに第19ステージ終了後にフルームのものを含めて8台のバイクが今年UCIが導入した移動X線検査装置による検査を受けている。これで数年後に「フルームはあの時モーター付きバイクに乗っていたんじゃないか」というような懐疑の目を向けられることもない。
とにもかくにもジロはローマを目指す。すべての道はローマに通じているとかなんとか(移動が半分残っているのでこのあたりで切りたいだけです)。「なんでわざわざ最終日がローマなんだ」と不満を漏らす人も多いが、カラカラ浴場で出走サインが行われ、コロッセオをバックにフィニッシュする市街地周回コースはきっとスペクタクルなものになる。
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text&photo:Kei Tsuji in Bologna, Italy
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