アメリカンバイクブランド、キャノンデールよりフルモデルチェンジを果たしたエンデュランスロード「SYNAPSE HI-MOD DISC」をインプレッション。フレーム形状を見直すことで、より速くより快適な走りを獲得したバーサタイルレーサーに仕上がった1台だ。



キャノンデール SYNAPSE HI-MOD DISCキャノンデール SYNAPSE HI-MOD DISC (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
アメリカ3大ブランドの一角として日本でも高い人気を誇るキャノンデール。1996年からイタリアの名門チーム「サエコ」をサポートし、マリオ・チポッリーニを筆頭とするプロ選手らの活躍により一気にレーシングブランドの地位を築き上げる。その後2007年からはイヴァン・バッソ(イタリア)やペテル・サガン(スロバキア)も所属した「リクイガス」へのサポートを開始し、以降現在のEFエデュケーションファースト・ドラパックに至るまで継続してワールドチームをサポートし続けている。

キャノンデールのレーシングバイクといえば「SUPERSIX EVO」を思い浮かべるが、一方でパリ~ルーベ等のクラシックレースにおいて選手が使用するのはエンデュランスロードの「SYNAPSE(シナプス)」。その登場は2006年と古く、SUPERSIXシリーズが誕生する前から続く息の長いモデルとなる。

SYNAPSEのアイコンとも言えるパワーピラミッドのデザインは健在SYNAPSEのアイコンとも言えるパワーピラミッドのデザインは健在 シートステーのブリッジは廃されるとともにフェンダー用のアイレットも裏側に設けられるシートステーのブリッジは廃されるとともにフェンダー用のアイレットも裏側に設けられる シンプルに横方向に扁平させたシートステーへアップデートし快適性を強化シンプルに横方向に扁平させたシートステーへアップデートし快適性を強化

長い距離をより快適に走るグランフォンドモデルとして誕生したSYNAPSEだが、2013年にはクラシックレースで勝つためのエンデュランスレーサーとしてHi-MODモデルをラインアップに加えフルモデルチェンジ。その翌年にはディスクブレーキモデルを追加し、さらに守備範囲を拡げたモデルとしてキャノンデールのエンデュランスカテゴリーを守ってきた。

そこから3年の開発期間を経て昨夏発表された新型SYNAPSEは、キャノンデールらしいスマートなルックスはそのままに、各所のチューブ形状やカーボン積層、ジオメトリーを煮詰めることで全方位にその性能を高めている。開発コンセプトは”TRUE ENDURANCE MACHINERY”。走る道を選ばない究極の快適性と走行性能を両立させた真のエンデュランスマシーンがここに誕生した。

同社オリジナルのカーボンホイールHollowGram Discをアセンブル同社オリジナルのカーボンホイールHollowGram Discをアセンブル ケーブル類はダウンチューブ上部からアクセス。Di2タイプはここにジャンクションを配置できるケーブル類はダウンチューブ上部からアクセス。Di2タイプはここにジャンクションを配置できる
チェーンステーは中央を薄く扁平させ縦方向にしならせるチェーンステーは中央を薄く扁平させ縦方向にしならせる 標準で28Cタイヤを装備。最大32mmまで許容するタイヤクリアランスを持つ標準で28Cタイヤを装備。最大32mmまで許容するタイヤクリアランスを持つ

まず見直しを図ったのは振動吸収性に寄与する同バイクのコアテクノロジーである「SAVEマイクロサスペンション」。フレームの各所にしなりを生み出すセクションを設けることで路面からの衝撃を打ち消しライダーの疲労を軽減するというものだが、今回フレックスゾーンとなるシートステーやチェーンステー、フロントフォークの造形をリファインさせ快適性をより強化している。

具体的には、縦扁平から横扁平へ捻れるようにデザインされていたシートステーは、縦方向の振動除去に最適化したシンプルな横扁平形状へ変更され、ブリッジも廃されることで積極的にしなりを生み出す設計となった。またチェーンステーは両端にややボリュームを持たせつつ中央を薄く絞った形状に、フォークは前作よりもさらに細身かつディスクブレーキに対応した左右非対称デザインが盛り込まれている。

BB規格はキャノンデールにお馴染みのBB30ABB規格はキャノンデールにお馴染みのBB30A ディスクブレーキは前後フラットマウントかつ12mmスルーアクスルという仕様ディスクブレーキは前後フラットマウントかつ12mmスルーアクスルという仕様

もちろん快適性だけではなく、よりパワー伝達に優れた剛性も担保されるよう、各チューブ形状の変更に伴いカーボンレイアップも再度設計し直しており、BB周りやヘッドチューブでは従来よりも約10%の強度向上が見られている。ワールドクラスのパワーを受け止める剛性を獲得しつつも、フレーム重量は前作から220g軽量な950g(56サイズ、ディスクブレーキ仕様)に仕上がり、フォークも100gほど軽量化を果たしている。

加えて独自のエンデュランスレースジオメトリーもアップデート。快適な中にもよりアグレッシブな走りができるよう、従来よりもヘッドチューブを短くかつ立てたアングルへ、加えてホイールベースを詰めるなど反応性を高める変更が加わっている。開発陣曰く”レースバイクとエンデュランスバイクの中間”というバランスを突き詰めたのだとか。

後輪に沿ったシートチューブの造形は突き上げを緩和し乗り心地を高める後輪に沿ったシートチューブの造形は突き上げを緩和し乗り心地を高める ピラー上部に潰しを入れ振動吸収性を高めるSAVEシートポストピラー上部に潰しを入れ振動吸収性を高めるSAVEシートポスト より細身となったストレート形状のフロントフォークより細身となったストレート形状のフロントフォーク

さらにサイズごとの乗り味の違いを埋めるべく3種類のステアリング径、3種類のフォークオフセットを用意し、全てのフレームサイズで同じ剛性感とハンドリングを実現するよう設計されている。ディスクブレーキはもちろん前後フラットマウント、クイック式であったエンド部分は前後12mmスルーアクスルに、そしてDi2タイプではジャンクションをダウンチューブに埋め込むなど、いずれも最新の規格が奢られている。

またプロレースでも使用される機材ながら、最大32mmまで許容する広いタイヤクリアランスと、フェンダー装備用のアイレットが設けられており、レースからグラベルライドまで幅広い使い方が可能な1台に仕上げられている。今回はシマノの機械式デュラエース組み完成車にて、オフロードも交えてその性能をテスト。早速インプレッションに移ろう。



― インプレッション

「乗り手の感性にフィットする極上のロングツアラー」錦織大祐(フォーチュンバイク)


踏んだ時のバイクの加速が伸びやかで、ペダリングを止めた時の失速感も少なく、気持ちよく走り続けられるバイクですね。その乗り心地は何時間でも漕いでいられる上質なロングツアラーといった印象で、サドルの上の居住性が非常に高く、長時間のライドでも疲れ知らずで走り切れる、そんな性能を感じます。

「乗り手の感性にフィットする極上のロングツアラー」錦織大祐(フォーチュンバイク)「乗り手の感性にフィットする極上のロングツアラー」錦織大祐(フォーチュンバイク)
その上質な乗り心地の要因はもちろん振動吸収性の高さにあるでしょう。芝や砂利といった荒れ道でも視点が暴れず、大きな衝撃もフレームが確実にいなしてくれています。リア三角から入ってくる振動を細身のシートステーとシートチューブ、シートピラーで消化するようなイメージですね。優れた振動吸収性によってロングライドでも脚残りが良いでしょうし、1日中走り回ったとしても疲労困憊でライドを終えること無く、気持ちよく家に帰ってこれるポテンシャル持っていると思います。

また一踏みでスーッと伸びていくような加速感もこのバイクの特徴の一つ。レーシングバイクのように鋭い加速感やメリハリ感のある挙動ではなく、気持ちよく進み続ける走りを見せてくれるので、フレーム全体の快適性と相まって真のエンデュランスバイクと言うに相応しい性格に仕上がっています。バイク全体の剛性はしっかり確保されており、パワーがスポイルされる印象もないため、プロ選手がレースで使用する性能も十分に感じられました。

またディスクブレーキに最適化されたおかげで、ジャンルを問わないオールマイティーフレームに進化していると感じます。雨天でグラベルを攻めてみても、バイクパッキングで車重が重くなったとしても、ディスクブレーキならいつでも安全に止まれます。エンデュランスの枠を越えてアドベンチャーバイクとしても活用できる、適応範囲が広い万能バイクと言うこともできますね。

お勧めの使い方は快適性と伸びやかな進み具合を活かしたロングライドですね。仲間とゆったり走ってもいいですし、ペースもコースも全て自分で決めて1日淡々と走るシーンでも非常に気持ち良いことでしょう。今日は脚の調子が良かったなと思わせてくれるほどの走り心地で、性能云々よりも気持ちよさ、スペックよりも感覚に訴えてくる乗り味ですね。それこそ”シナプス”というモデル名は言い得て妙だと感じました。

もしこのバイクでレースを走るのであれば、ホイールをもう少し硬めのものに変えると良いでしょう。それだけでよりレーシーなキャラクターに変わってくれそうです。私としては最高のロングライドがしたい、出発してから日が暮れるまで走りたい、と言うときにこそこのSYNAPSEを選びたいと思います。乗り手の感性にフィットするロングツアラーとして、外に出掛けるのが楽しくなること間違いなしでしょう。

「エンデュランスモデルとして剛性と振動吸収性の両立は最高レベル」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)

「エンデュランスモデルとして剛性と振動吸収性の両立は最高レベル」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)「エンデュランスモデルとして剛性と振動吸収性の両立は最高レベル」飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店) エンデュランスモデルとして剛性と振動吸収性の両立は最高レベルにバランスが取れていると思います。硬すぎず柔らかすぎず踏めばしっかり進んでくれますし、その上振動吸収性も高い。エンデュランスロードとして高い完成度に仕上がっており、長時間のエンデューロレースから軽いオフロードライドまで、普段のロードバイクではストレスになるようなところでも楽しめるバイクになっています。

振動吸収性に関しては荒れた道を走るとよく分かるのですが、フレーム全体がバネのようにしなる動きをしてくれて嫌な振動をカットしてくれます。特にリア三角の柔軟性は顕著ですね。腰を上げて踏み込んでいくよりは、シッティングで回していくとスルスルと気持ちよく進んでくれるバイクになっています。サスペンションのように振動を吸収してくれるおかげもあり、むしろ多少の荒れ道を積極的に走りたくなってしまうほどで、自転車の新たな楽しみ方を気づかせてくれることでしょう。

リアセクションがしなる分、ハイパワーで踏んだ時に微妙にロスがあるように感じます。登りで踏み込んだり、平地でスプリントをしたりするとわずかに横に力が逃げていく感覚でしょうか。ですがトップモデルとしてプロ選手も使用しているモデルになりますので、一般のライダーなら剛性不足と感じることはないでしょう。

また完成車の仕様で高性能なヴィットリアのCORSAタイヤがアセンブルされる点はポイント高いですね。グリップ力が高いので、スピードが出ている状態でも安心してコーナリングすることができます。バイク自体の高いトラクションと相まって、車体を倒した状態でも路面との接地感は薄れません。標準で太めの28Cがセットされており、そのままの仕様で悪路もガシガシ走れる性能となっているため、このバイクにはベストマッチと言えるでしょう。

漕ぎ方はシッティングで腰をサドルに据えて、ペダルを軽快に回していくのが良いと感じました。それこそ自動で進んでいるような、背中を押されているようなスムーズな進み方をします。そこはエンデュランスロードとして軽く進むという乗り味を際立たせた開発の結果なのでしょう。レーシーな加速を求めるのであればタイヤを細くしたり、硬めのホイールを合わせたりすると良さそうです。

現在市場には剛性高めなレーシング性能に特化させたバイク、乗り心地を深く追求したバイクなど、それぞれに特化させたものが多くありますが、このSYNAPSEはそのどちらをも丁度良くバランスさせた中間的な味付けに仕上がっていますね。こういったバイクは長年連れ添い慣れることで、本当の良さを体感していけるものです。ロングライドからエンデューロまで、かつフィールドを選ばず幅広いシーンでとことん乗り込む良い相棒となってくれるでしょう。

キャノンデール SYNAPSE HI-MOD DISCキャノンデール SYNAPSE HI-MOD DISC (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
キャノンデール SYNAPSE HI-MOD DISC
フレーム:BallisTec Hi-MOD Carbon, Di2 ready, SAVE PLUS, BB30a, flat mount, 12mm thru axle
フォーク:BallisTec Hi-MOD Carbon, integrated crown race, size-specific design
ホイール:Cannondale HollowGram Disc
タイヤ:Vittoria Corsa 700x28c
サイズ:48、51、54、56
価 格:
シマノ機械式デュラエース完成車 650,000円(税抜)
シマノデュラエースDi2完成車 1,050,000円(税抜)



インプレッションライダーのプロフィール

錦織大祐(フォーチュンバイク)錦織大祐(フォーチュンバイク) 錦織大祐(フォーチュンバイク)

幼少のころより自転車屋を志し、都内の大型プロショップで店長として経験を積んだ後、2010年に東京錦糸町にフォーチュンバイクをオープンさせた新進気鋭の若手店主。世界各国の自転車メーカーと繋がりを持ち、実際に海外の製造現場で得た見聞をユーザーに伝えることを信条としている。シマノ鈴鹿ロードへ20年以上に渡り連続出場する一方、普段はロングライドやスローペースでのサイクリングを楽しむ。

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フォーチュンバイク HP

飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店) 飯島悠(バイシクルセオ 新松戸店)

高校大学と自転車競技部に所属し、国体に通算4回出場した経歴を持つ競技派。国体ではロードと短距離トラック種目に出場しており、豊かな体格を活かしたスプリントを得意とする。過去にはメッセンジャーやスポーツジムでのパーソナルトレーナーなどの経験も持ち、自転車に対する多方面からの知見をユーザーに還元している。現在はメカニックや接客の他に、クラブチームでの走り方やトレーニング指導も行う。

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バイシクルセオ 新松戸店 HP

ウェア協力:マヴィック(今回着用モデルはこちら

text:Yuto.Murata
photo:Makoto.AYANO

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