2018/01/06(土) - 09:07
元プロ選手にして、現自転車遊びのプロで、スーパーナイスガイ。そんな呼び方が彼には一番しっくりくる。SLATEの育て親でもあるティム・ジョンソンがRaphaスーパークロス野辺山に併せて来日。彼をゲストに迎えたライドイベントにて、SLATEについて、グラベルロードについて、そしてキャノンデールの今について深く掘り下げて聞いた。
「一言で言えば、幅広く遊べる究極の一台が欲しかったんだ」。アメリカのシクロクロス界におけるレジェンドであり、現役を退いた今もキャノンデールに深く関わるティム・ジョンソンは、SLATEを生み出したきっかけについてそう答えた。
「それまでの一般的なスポーツサイクルは、ロードバイクか、シクロクロスか、MTBしかなかった。ロードバイクじゃオフロードで楽しめないし、シクロクロスバイクはシクロクロスレースを走るために特化しているから、機動力はあってもタフなシングルトレイルは走れない。そこにいつも不満を抱えていたんだ」。
彼が来日したのは、Raphaスーパークロス野辺山が開催された11月末。その前々日にキャノンデールとRapha主催によるライドイベント”SLATE EXPERIENCE”にゲスト参加し、参加者と共に走った。決してラインなんて無いはずの場所を走り、ウイリーやバニーホップを披露しつつ、難しいシングルトラックを流れるように下る。そして常に参加者を気遣いながら、走りのヒントを伝授しながら。自転車遊びの本質を表す彼と、カズことキャノンデール・ジャパンの山本和弘さんの走りに、参加者のため息が止まることはなかった。
ライド後、そんなティムに対してSLATEに関するインタビューを行った。登場からおよそ2年が経った今もなお色褪せることの無いSLATEの魅力、そして遊び方とは?そしてティムが考える自転車”遊び”の本質とは?開発に深く携わった彼が発する言葉に注目してほしい。
−開発に加わったのはいつから?
一番最初に聞かされたのは2013年の春。キャノンデールのプロダクトマネージャーで、SLATEの発案者であるデーヴィッド・デヴァインから形になる前のアイディアを聞かされたんだ。
それまでの一般的なスポーツサイクルは、ロードバイクか、シクロクロスか、MTBしかなかった。ロードバイクじゃオフロードで楽しめないし、シクロクロスバイクはシクロクロスレースを走るために特化しているから、機動力はあってもタフなシングルトレイルは走れない。そこにいつも不満を抱えていたから「まさにそんな自転車が欲しかったんだ!」と歓喜したね。
今でもよく覚えているけれど、一番最初のプロトタイプに乗って、すぐさま100kmのテストライドに出掛けたよ。ジャンプしたり、コーナーを思い切り攻めたり、普段の僕のスタイルで。全く新しい感覚で、とても新鮮だった。一発で気に入って、「完成版を世に送り出したい!」と思ったよ。SLATEに魅せられてしまったんだ。
−全く新しいジャンルのバイクだから、開発は難しかったのでは?
本当にそうだね。でも同時に、すごくエキサイティングで面白かった。例えば重心を低くして、かつ加速力に優れるようなジオメトリーを見つけること。そしてシングルトラックに転がっている石や岩、木の根を軽快に超えられるよう、ストローク量の少ないレフティを投入することにした。
一番苦労したのは、ベストなタイヤを探すことかな。ワイドボリュームのスリックタイヤはもちろん、SLATEと同じコンセプトのバイクなんて、当時は市場に存在すらしてなかったからね。最初は700cホイールに40mm幅タイヤをつけていたけれど、コントローラブルではなくなるし、ジオメトリー的にも厳しくなる。ロードバイクの乗り方に慣れている人でも自然に乗れるよう調整しているんだ。
それに加えて、全く新しいジャンルだから、どんなバイクなのかを説明することすら難しかったよ。乗ってみないとSLATEの面白さは決して理解できないから。今回のSLATEライドにもたくさんの参加者が来てくれたけれど、SLATEがどんなバイクなのか、ようやく一般ユーザーが分かって、試してみたいという意識を持ってくれるようになったんだ。開発に携わった者として本当に嬉しいよ。
面白いのが、SLATEをリリースしてから、たくさんのメーカーが同じコンセプトのバイクをリリースしてきたこと。僕も似たようなアドベンチャーバイクを見てきたけれど、未だにSLATEの独自性は究極だし、それはものすごく「キャノンデールらしい」ことだと思うね。
−マスプロメーカーであるキャノンデールがこんなにも前衛的なバイクを出すのかと、発表当時は驚きました。
そうだね。僕もデーヴィッドも、開発に携わった人間全員が情熱を持って取り組んだから、意欲的なものに仕上がった。けれど、キャノンデールにとっては何か特別なチャレンジだったわけじゃ無い。例えばレフティやBB30、軽く強いアルミフレームなど、今まであったものを組み合わせて、調整しただけ。そのオリジナリティがキャノンデールのDNAであって、僕がとても好きなところだよ。
−2018モデルからブロックタイヤを装備したモデルが登場しましたが、その理由は?
SLATEの本質はスリックタイヤだけれど、正直に言えばスキルの無いライダーがダートを攻めるには難しすぎた。だからトラクションの良いブロックタイヤをラインアップに加えたけれど、ノブが低いものを選んだから舗装路でも必要以上に重たくない。ビギナーや、1回のライド中6〜7割が未舗装路を走るライダーならブロックタイヤが良いと思う。気に入らなかったらタイヤを交換すれば良いんだしね。
−どんな風にSLATEを楽しんでほしいと思っていますか?
いつも言うんだけど、「ジャスト・トライ」。舗装路のヒルクライム、ダウンヒル、フラットダート、そして険しいシングルトレイルまでがSLATEの守備範疇。日頃のライドスタイルにちょっとした冒険をプラスしてくれるバイクなんだ。知らないルートを探索してみたり、今まで走れなかった領域にチャレンジできるキャパシティがある。
何もSLATEに関してだけじゃなくて、常に新しいことにトライすることが、精神的にフレッシュでいることの秘訣だよ。ちょっとキツいこと、ちょっと怖いこと、そして何より楽しいこと。僕はもう25年も自転車に乗っているけど、いまだにライドに出掛ける時はウキウキするし、エキサイティングな気分になれる。遊びすぎて山中で真っ暗になることもあるけれど、そういうのも含めて、自転車で遊ぶあらゆることが好きなんだ。
例えば、キッチリ週3回、同じ周回コースでパワートレーニングを繰り返したり、帰宅後にローラーを回し続けたり。そんなのは僕にとって決して刺激的じゃない。
今回、参加者と話をしていて気づいたんだけれど、SLATEは家に自転車スペースの少ない日本のユーザーにもベストなバイクだと思った。普通はロードとMTBを用意しなくてはいけないところが、SLATEなら一台で済ますことができる。都市部を駆け抜けて、山に向かって、トレイルを楽しむ。こんなユーティリティに優れたバイクは未だかつて現れていないよ。もちろん舗装路での軽さはロードには敵わないし、ダートの走破性はMTBの方が上だけど、全て一台でこなせる。
それにSLATEだったら、何でもない場所が遊び場になる。縁石でジャンプしてみたり、路肩に溜まった土を走ってみたり。ロードだったらただ通過してしまう場所で遊べるから、一緒にライドする人たちの距離がずっと縮まりさえもするんだ。実際に今回のイベントでも、仲良くなった人も多かったと思うし、僕だって日本のファンと交流ができた。ロードのイベントでここまでじゃないとは思う。それがSLATEの、ひいては自転車遊びの本質だと思っている。
text:So.Isobe
photo:Toshiki.Sato
「一言で言えば、幅広く遊べる究極の一台が欲しかったんだ」。アメリカのシクロクロス界におけるレジェンドであり、現役を退いた今もキャノンデールに深く関わるティム・ジョンソンは、SLATEを生み出したきっかけについてそう答えた。
「それまでの一般的なスポーツサイクルは、ロードバイクか、シクロクロスか、MTBしかなかった。ロードバイクじゃオフロードで楽しめないし、シクロクロスバイクはシクロクロスレースを走るために特化しているから、機動力はあってもタフなシングルトレイルは走れない。そこにいつも不満を抱えていたんだ」。
彼が来日したのは、Raphaスーパークロス野辺山が開催された11月末。その前々日にキャノンデールとRapha主催によるライドイベント”SLATE EXPERIENCE”にゲスト参加し、参加者と共に走った。決してラインなんて無いはずの場所を走り、ウイリーやバニーホップを披露しつつ、難しいシングルトラックを流れるように下る。そして常に参加者を気遣いながら、走りのヒントを伝授しながら。自転車遊びの本質を表す彼と、カズことキャノンデール・ジャパンの山本和弘さんの走りに、参加者のため息が止まることはなかった。
ライド後、そんなティムに対してSLATEに関するインタビューを行った。登場からおよそ2年が経った今もなお色褪せることの無いSLATEの魅力、そして遊び方とは?そしてティムが考える自転車”遊び”の本質とは?開発に深く携わった彼が発する言葉に注目してほしい。
−開発に加わったのはいつから?
一番最初に聞かされたのは2013年の春。キャノンデールのプロダクトマネージャーで、SLATEの発案者であるデーヴィッド・デヴァインから形になる前のアイディアを聞かされたんだ。
それまでの一般的なスポーツサイクルは、ロードバイクか、シクロクロスか、MTBしかなかった。ロードバイクじゃオフロードで楽しめないし、シクロクロスバイクはシクロクロスレースを走るために特化しているから、機動力はあってもタフなシングルトレイルは走れない。そこにいつも不満を抱えていたから「まさにそんな自転車が欲しかったんだ!」と歓喜したね。
今でもよく覚えているけれど、一番最初のプロトタイプに乗って、すぐさま100kmのテストライドに出掛けたよ。ジャンプしたり、コーナーを思い切り攻めたり、普段の僕のスタイルで。全く新しい感覚で、とても新鮮だった。一発で気に入って、「完成版を世に送り出したい!」と思ったよ。SLATEに魅せられてしまったんだ。
−全く新しいジャンルのバイクだから、開発は難しかったのでは?
本当にそうだね。でも同時に、すごくエキサイティングで面白かった。例えば重心を低くして、かつ加速力に優れるようなジオメトリーを見つけること。そしてシングルトラックに転がっている石や岩、木の根を軽快に超えられるよう、ストローク量の少ないレフティを投入することにした。
一番苦労したのは、ベストなタイヤを探すことかな。ワイドボリュームのスリックタイヤはもちろん、SLATEと同じコンセプトのバイクなんて、当時は市場に存在すらしてなかったからね。最初は700cホイールに40mm幅タイヤをつけていたけれど、コントローラブルではなくなるし、ジオメトリー的にも厳しくなる。ロードバイクの乗り方に慣れている人でも自然に乗れるよう調整しているんだ。
それに加えて、全く新しいジャンルだから、どんなバイクなのかを説明することすら難しかったよ。乗ってみないとSLATEの面白さは決して理解できないから。今回のSLATEライドにもたくさんの参加者が来てくれたけれど、SLATEがどんなバイクなのか、ようやく一般ユーザーが分かって、試してみたいという意識を持ってくれるようになったんだ。開発に携わった者として本当に嬉しいよ。
面白いのが、SLATEをリリースしてから、たくさんのメーカーが同じコンセプトのバイクをリリースしてきたこと。僕も似たようなアドベンチャーバイクを見てきたけれど、未だにSLATEの独自性は究極だし、それはものすごく「キャノンデールらしい」ことだと思うね。
−マスプロメーカーであるキャノンデールがこんなにも前衛的なバイクを出すのかと、発表当時は驚きました。
そうだね。僕もデーヴィッドも、開発に携わった人間全員が情熱を持って取り組んだから、意欲的なものに仕上がった。けれど、キャノンデールにとっては何か特別なチャレンジだったわけじゃ無い。例えばレフティやBB30、軽く強いアルミフレームなど、今まであったものを組み合わせて、調整しただけ。そのオリジナリティがキャノンデールのDNAであって、僕がとても好きなところだよ。
−2018モデルからブロックタイヤを装備したモデルが登場しましたが、その理由は?
SLATEの本質はスリックタイヤだけれど、正直に言えばスキルの無いライダーがダートを攻めるには難しすぎた。だからトラクションの良いブロックタイヤをラインアップに加えたけれど、ノブが低いものを選んだから舗装路でも必要以上に重たくない。ビギナーや、1回のライド中6〜7割が未舗装路を走るライダーならブロックタイヤが良いと思う。気に入らなかったらタイヤを交換すれば良いんだしね。
−どんな風にSLATEを楽しんでほしいと思っていますか?
いつも言うんだけど、「ジャスト・トライ」。舗装路のヒルクライム、ダウンヒル、フラットダート、そして険しいシングルトレイルまでがSLATEの守備範疇。日頃のライドスタイルにちょっとした冒険をプラスしてくれるバイクなんだ。知らないルートを探索してみたり、今まで走れなかった領域にチャレンジできるキャパシティがある。
何もSLATEに関してだけじゃなくて、常に新しいことにトライすることが、精神的にフレッシュでいることの秘訣だよ。ちょっとキツいこと、ちょっと怖いこと、そして何より楽しいこと。僕はもう25年も自転車に乗っているけど、いまだにライドに出掛ける時はウキウキするし、エキサイティングな気分になれる。遊びすぎて山中で真っ暗になることもあるけれど、そういうのも含めて、自転車で遊ぶあらゆることが好きなんだ。
例えば、キッチリ週3回、同じ周回コースでパワートレーニングを繰り返したり、帰宅後にローラーを回し続けたり。そんなのは僕にとって決して刺激的じゃない。
今回、参加者と話をしていて気づいたんだけれど、SLATEは家に自転車スペースの少ない日本のユーザーにもベストなバイクだと思った。普通はロードとMTBを用意しなくてはいけないところが、SLATEなら一台で済ますことができる。都市部を駆け抜けて、山に向かって、トレイルを楽しむ。こんなユーティリティに優れたバイクは未だかつて現れていないよ。もちろん舗装路での軽さはロードには敵わないし、ダートの走破性はMTBの方が上だけど、全て一台でこなせる。
それにSLATEだったら、何でもない場所が遊び場になる。縁石でジャンプしてみたり、路肩に溜まった土を走ってみたり。ロードだったらただ通過してしまう場所で遊べるから、一緒にライドする人たちの距離がずっと縮まりさえもするんだ。実際に今回のイベントでも、仲良くなった人も多かったと思うし、僕だって日本のファンと交流ができた。ロードのイベントでここまでじゃないとは思う。それがSLATEの、ひいては自転車遊びの本質だと思っている。
text:So.Isobe
photo:Toshiki.Sato
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