2010/01/20(水) - 15:54
キャノンデールは2010年においてDHとフリーライドモデルをラインナップから外し、オールマウンテン、マラソン、XCというように上りを走るカテゴリーのラインナップに注力してきた。
この「RZ ONE20 1」は、マラソンライドのユーザーをねらったライズシリーズの最新モデルだ。ONE20とは、120mmトラベルのサスペンションを搭載することの意だ。兄弟モデルとしてトラベル量を140mmに延ばし、下り性能を高めたRZ ONE40シリーズもラインナップされている。
XCスタイルには「スカルペル」、オールマウンテンには「モト」といった車種が存在するので、RZ ONE20はマラソンやちょっと下りが多めのトレイルにフィットするよう開発されている。「XCほどレーシーではないが、使い勝手のいいフルサスバイク」と言えるだろう。
キャノンデールは一部の車種を除き、シングルピボット形式のリヤサスペンション構造にこだわってきた。このRZ ONE20 1もそうである。リヤサスユニットの近くにリンクを備えるが、これはユニットへのレバー比を変えるというよりも、シートステーがヨレてしまわないための補強と考えられる。
このサスペンション形式は癖のない動きが特徴であり、複雑部品が不要なため、軽量性に優れ、なおかつ整備性も高い。性能が著しく向上した最新のリヤサスユニットを生かすためにシンプルな構造にしているのだ。
シートステーは左右を繋げた一体式により、優れた横剛性を確保。さらにチェーンステーも軽量化のため左右が非対称でありつつも一体式だ。元々、部品点数を抑えた構造だが、一層のシンプル設計によりトラブルにも強い。
オリジナルのフロントフォーク「レフティ」は、2010年に10周年を迎え、モデルチェンジを果たした。さらに軽量化され、より一層の運動性能向上が見込まれる。このサスはダブルクラウンでコラムに固定する構造上、どうしてもハンドル位置が上がってしまうが、RZの場合はマラソンライドやトレイルといといったバイクの性格上、むしろ高めのハンドルポジションの方が都合はよさそうだ。リラックスした乗車姿勢で走ることができるメリットがある。
キャノンデールが提唱したオーバーサイズのBB規格『BB30』はこのバイクにも採用されている。RZシリーズではRZ ONE20 1とRZ ONE20 2、そしてRZ ONE40 1だけに装備される。システムインテグレーションにより、軽量化はもちろんハンガー部の剛性も向上するため、パワートランスファーの高効率化がいっそう促進される。
最新スペックで身を固められ、上りも下りも受け入れる万能マシン。フルサスラインナップで中核をなすRZシリーズの実力は、どれほどのものだろうか?MTB-XCで世界選手権日本代表として走った経歴を持つ鈴木祐一はこのマシンをどう評価するのだろうか?早速インプレッションをお届けしよう。
― インプレッション
「実は下りが面白い。上って下れる万能選手」 鈴木祐一(Rise Ride)
フルサスバイクで一番大切なのはフィーリングだと思う。このバイクは前後サスのバランスが整っていて、かなりソフトだ。そこが崩れているとサスが効力を発揮しないので、まずここは合格だ。前後共に120mmトラベルのバイクということで、懐の深さを感じることができる。
路面からの突き上げや、段差などの衝撃はかなり吸収してくれて、ライダーにストレスを与えないフィーリングになっている。その一方で良くできすぎたサスのため、路面の状況をつかみにくい面もある。
このRZ ONE20 1は数あるマラソンバイクの中でも特にサスの動きがスムーズで柔らかいので、路面状況をつかむのは逆に難しい。ロードインフォメーションの把握性だけ考えればリジッドが良いということになってしまうので、フルサスバイクならではの長所が短所になる部分ではある。
片持ち式のレフティは乗った経験がないと左右のバランスを心配してしまうが、高速でホイールが回転しているときに発生するジャイロ効果によって、速く走るほど安定する。
しかし路面が悪くなってサスが激しく動く場合にはジャイロ効果が薄れ、ブレが生じてしまう。左右バランスのズレもやや感じる。
ジャイロ効果が働かないもう1つの状況、超低速走行の場合でもバランスの崩れを感じることがあった。キャノンデールはレフティの基本思想を「右側にドライブトレインがあって左側にサスペンションがあれば、バイク全体として重量バランスが釣り合う」と説明するが、今回は重量部分が前後に分散されたことによる斜め方向の重さの違いを感じた。激しいギャップで左斜め前が引っ張られるシチュエーションの時、前後の重量配分がやや気になった。
それ以外の評価は総じて高い。全体の剛性は他社製フルサスバイクと比べても高いし、高速で走っているときの安定感、あるいはフロントブレーキをかけたときの安心感は確かなものだ。レフティはちょっと違和感はあるものの、慣れてしまえば問題ない範疇である。
リヤサスペンションは、ユニットにフォックス・RP23という、ここ数年トップに君臨している定番製品が付くので、そこから分析してみよう。
非常に熟成されたユニットを使っているので路面追従性は高い。RP23のプロペダル(下からの突き上げには反応するが、ペダリングでは動きにくくなる機能)というダンパーは良くできている機能だ。このユニットを生かせるリンクの構造やフレームの設計は、逆説的だがデキがいい。
サスペンションのソフト感からくる快適な乗り心地はいいが、加速感においてはちょっとつらい面もある。ダッシュはやはりある程度サスが固まっている方が走りやすく、俊敏性面では少しダルさがある。
バイクの前後重量バランスは、レフティフォークがかなり軽く、実際に乗ってみるとリヤがなんとなく重く、後ろを引きずるような感じがする。それはRP23のプロペダルをオンにしてもあまり変わらなかった。このバイクはやや後ろ寄りの重量バランスになっているようだ。
トータルで考えると、「セルフディスカバリー王滝」のようなマラソンライドに向くというイメージより、やや下り寄りのバイクだと思う。上りアプローチはスローなペースでこなし、下りをアクティブに攻めてみようという使い方をすると楽しいとはずだ。
タイヤはXC系のレーシングタイプが装備されていたが、サスペンションのフィーリングで考えると、大きな衝撃を吸収するタイヤの方が相性は良さそうなので、もう少しハイグリップなタイヤを選び、バイクの下り性能をより生かした乗り方に使いたいところだ。フレームもフォークも剛性が高く、安心して走ることができる。
ちょっと納得いかないのが、ホイールが前後共に24Hであること。手組のホイールはバイクとのバランスがよくない。スポークテンションは高いのだが、フレームとのマッチングという面ではホイールがやや弱く感じる。また24Hのリムやハブは日本では流通が少ないので、衝撃でリムを曲げることが多いことを考えると、リペアパーツの入手が気になるところだ。
前後サスの軽さとトラベル量は非常に高次元でバランスが取られている。ストロークがありつつもこの重量で収まっていることがキャノンデールの特徴とも言える。
RZ ONE20 1は、どこでも走破できる能力がある。ストロークが大きい割には軽く、ライダーのストレスになる要素が少ないので、かなりおすすめの1台と言える。特に下りは本当に楽しい。
おおらかな走りが伝わってきて、アメリカ製のMTBだとしみじみ感じる。「マラソン用」とメーカーは定義付けているが、日本のフィールドに照らし合わせると「里山ダウンヒル」に使いたいバイクだ。
キャノンデール・RZ ONE20 1
フレームマテリアル:RZ ONE20 Si BB30 アルミ(120mmトラベル)
フォーク:レフティウルトラカーボンW/PBR(120mmトラベル)
リヤショック:フォックス・フロートRP23
メインコンポ:スラム・X9
クランク:FSA・アフターバーナーBB30
リム:DTスイス・XCR1.5カスタム
タイヤ:シュワルベ・レーシングラルフEVO
フレームサイズ:S(432)、M(457)、L(483)、XL(509)
カラー:マグネシウムホワイト
希望小売価格:49万9000円(完成車)
鈴木祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
ウェア協力:カステリ(インターマックス)
text:吉本 司
photo&edit:綾野 真
この「RZ ONE20 1」は、マラソンライドのユーザーをねらったライズシリーズの最新モデルだ。ONE20とは、120mmトラベルのサスペンションを搭載することの意だ。兄弟モデルとしてトラベル量を140mmに延ばし、下り性能を高めたRZ ONE40シリーズもラインナップされている。
XCスタイルには「スカルペル」、オールマウンテンには「モト」といった車種が存在するので、RZ ONE20はマラソンやちょっと下りが多めのトレイルにフィットするよう開発されている。「XCほどレーシーではないが、使い勝手のいいフルサスバイク」と言えるだろう。
キャノンデールは一部の車種を除き、シングルピボット形式のリヤサスペンション構造にこだわってきた。このRZ ONE20 1もそうである。リヤサスユニットの近くにリンクを備えるが、これはユニットへのレバー比を変えるというよりも、シートステーがヨレてしまわないための補強と考えられる。
このサスペンション形式は癖のない動きが特徴であり、複雑部品が不要なため、軽量性に優れ、なおかつ整備性も高い。性能が著しく向上した最新のリヤサスユニットを生かすためにシンプルな構造にしているのだ。
シートステーは左右を繋げた一体式により、優れた横剛性を確保。さらにチェーンステーも軽量化のため左右が非対称でありつつも一体式だ。元々、部品点数を抑えた構造だが、一層のシンプル設計によりトラブルにも強い。
オリジナルのフロントフォーク「レフティ」は、2010年に10周年を迎え、モデルチェンジを果たした。さらに軽量化され、より一層の運動性能向上が見込まれる。このサスはダブルクラウンでコラムに固定する構造上、どうしてもハンドル位置が上がってしまうが、RZの場合はマラソンライドやトレイルといといったバイクの性格上、むしろ高めのハンドルポジションの方が都合はよさそうだ。リラックスした乗車姿勢で走ることができるメリットがある。
キャノンデールが提唱したオーバーサイズのBB規格『BB30』はこのバイクにも採用されている。RZシリーズではRZ ONE20 1とRZ ONE20 2、そしてRZ ONE40 1だけに装備される。システムインテグレーションにより、軽量化はもちろんハンガー部の剛性も向上するため、パワートランスファーの高効率化がいっそう促進される。
最新スペックで身を固められ、上りも下りも受け入れる万能マシン。フルサスラインナップで中核をなすRZシリーズの実力は、どれほどのものだろうか?MTB-XCで世界選手権日本代表として走った経歴を持つ鈴木祐一はこのマシンをどう評価するのだろうか?早速インプレッションをお届けしよう。
― インプレッション
「実は下りが面白い。上って下れる万能選手」 鈴木祐一(Rise Ride)
フルサスバイクで一番大切なのはフィーリングだと思う。このバイクは前後サスのバランスが整っていて、かなりソフトだ。そこが崩れているとサスが効力を発揮しないので、まずここは合格だ。前後共に120mmトラベルのバイクということで、懐の深さを感じることができる。
路面からの突き上げや、段差などの衝撃はかなり吸収してくれて、ライダーにストレスを与えないフィーリングになっている。その一方で良くできすぎたサスのため、路面の状況をつかみにくい面もある。
このRZ ONE20 1は数あるマラソンバイクの中でも特にサスの動きがスムーズで柔らかいので、路面状況をつかむのは逆に難しい。ロードインフォメーションの把握性だけ考えればリジッドが良いということになってしまうので、フルサスバイクならではの長所が短所になる部分ではある。
片持ち式のレフティは乗った経験がないと左右のバランスを心配してしまうが、高速でホイールが回転しているときに発生するジャイロ効果によって、速く走るほど安定する。
しかし路面が悪くなってサスが激しく動く場合にはジャイロ効果が薄れ、ブレが生じてしまう。左右バランスのズレもやや感じる。
ジャイロ効果が働かないもう1つの状況、超低速走行の場合でもバランスの崩れを感じることがあった。キャノンデールはレフティの基本思想を「右側にドライブトレインがあって左側にサスペンションがあれば、バイク全体として重量バランスが釣り合う」と説明するが、今回は重量部分が前後に分散されたことによる斜め方向の重さの違いを感じた。激しいギャップで左斜め前が引っ張られるシチュエーションの時、前後の重量配分がやや気になった。
それ以外の評価は総じて高い。全体の剛性は他社製フルサスバイクと比べても高いし、高速で走っているときの安定感、あるいはフロントブレーキをかけたときの安心感は確かなものだ。レフティはちょっと違和感はあるものの、慣れてしまえば問題ない範疇である。
リヤサスペンションは、ユニットにフォックス・RP23という、ここ数年トップに君臨している定番製品が付くので、そこから分析してみよう。
非常に熟成されたユニットを使っているので路面追従性は高い。RP23のプロペダル(下からの突き上げには反応するが、ペダリングでは動きにくくなる機能)というダンパーは良くできている機能だ。このユニットを生かせるリンクの構造やフレームの設計は、逆説的だがデキがいい。
サスペンションのソフト感からくる快適な乗り心地はいいが、加速感においてはちょっとつらい面もある。ダッシュはやはりある程度サスが固まっている方が走りやすく、俊敏性面では少しダルさがある。
バイクの前後重量バランスは、レフティフォークがかなり軽く、実際に乗ってみるとリヤがなんとなく重く、後ろを引きずるような感じがする。それはRP23のプロペダルをオンにしてもあまり変わらなかった。このバイクはやや後ろ寄りの重量バランスになっているようだ。
トータルで考えると、「セルフディスカバリー王滝」のようなマラソンライドに向くというイメージより、やや下り寄りのバイクだと思う。上りアプローチはスローなペースでこなし、下りをアクティブに攻めてみようという使い方をすると楽しいとはずだ。
タイヤはXC系のレーシングタイプが装備されていたが、サスペンションのフィーリングで考えると、大きな衝撃を吸収するタイヤの方が相性は良さそうなので、もう少しハイグリップなタイヤを選び、バイクの下り性能をより生かした乗り方に使いたいところだ。フレームもフォークも剛性が高く、安心して走ることができる。
ちょっと納得いかないのが、ホイールが前後共に24Hであること。手組のホイールはバイクとのバランスがよくない。スポークテンションは高いのだが、フレームとのマッチングという面ではホイールがやや弱く感じる。また24Hのリムやハブは日本では流通が少ないので、衝撃でリムを曲げることが多いことを考えると、リペアパーツの入手が気になるところだ。
前後サスの軽さとトラベル量は非常に高次元でバランスが取られている。ストロークがありつつもこの重量で収まっていることがキャノンデールの特徴とも言える。
RZ ONE20 1は、どこでも走破できる能力がある。ストロークが大きい割には軽く、ライダーのストレスになる要素が少ないので、かなりおすすめの1台と言える。特に下りは本当に楽しい。
おおらかな走りが伝わってきて、アメリカ製のMTBだとしみじみ感じる。「マラソン用」とメーカーは定義付けているが、日本のフィールドに照らし合わせると「里山ダウンヒル」に使いたいバイクだ。
キャノンデール・RZ ONE20 1
フレームマテリアル:RZ ONE20 Si BB30 アルミ(120mmトラベル)
フォーク:レフティウルトラカーボンW/PBR(120mmトラベル)
リヤショック:フォックス・フロートRP23
メインコンポ:スラム・X9
クランク:FSA・アフターバーナーBB30
リム:DTスイス・XCR1.5カスタム
タイヤ:シュワルベ・レーシングラルフEVO
フレームサイズ:S(432)、M(457)、L(483)、XL(509)
カラー:マグネシウムホワイト
希望小売価格:49万9000円(完成車)
インプレライダーのプロフィール
鈴木祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
ウェア協力:カステリ(インターマックス)
text:吉本 司
photo&edit:綾野 真