2010/01/12(火) - 18:55
昔からのサイクリストには「モトベカン」という呼び名の方がしっくりくるかもしれない。MBKが現在の社名に変わったのは1984年からで、モーターサイクルで培った技術力を生かし自転車業界に参入してきたのは1960年代のことだ。現在はフランス・サンカンタンに本拠地がある。
古くはスペインの名クライマー、ルイス・オカーニャが駆り、最近ではファン・ミゲル・メルカドがツール・ド・フランスでのステージ優勝を飾ったのを始め、あらゆるプロロードレースで実力を示してきた。その他トラック競技からBMXまで、あらゆるジャンルでMBKの名前は知られている。
そして、それらすべてのバイクには『ストレスフリー・コンセプト』という共通した思想がある。具体的には「真っ直ぐ走ること、自然な体重移動で曲がってくれること、安全に止まれること」。これらを前提として作られるバイクは、国内はもとより広く高評価を得ている。
そのコンセプトで作られるRD1200は、MBKのフラッグシップに位置する。
RD1200でまず目を引くのはチェーンステーのスネーク・アイデザインだろう。「スネークアイ=蛇の目」と名付けられ、二股に分かれた造形は、テニスラケットやヒトの腕、脚の骨格からヒントを得て作られた構造で、ねじれ剛性向上と応力の最適な分散を実現している。
トップチューブからシートステーまでが一連の曲線でつながるアーチシェイプデザインをいち早く採用したのもこのバイクの特徴だ。個性の強い設計を数多く盛り込みつつ、フォルムとして破綻をきたさないのは、MBKのデザイナーの優れた手腕と言えるだろう。
このバイクを筆頭にMBKのモデルは曲線を駆使したフォルムが多く見受けられる。その礎となっているのはコンピュータを用いた3Dデザインにより徹底した応力計算を行なっているためだ。さらに、LVS(リミテッド・バイブレーション・システム)という同社に独占供給されるシステムで、シートチューブに伝わる振動が40%カットされ、剛性と振動吸収性を高いレベルで両立しているのだ。
そしてフレーム製作には品質管理を細かくできる、チューブ同士を直接繋ぐチューブ・トゥ・チューブ工法を用い、フルモノコックでは難しい複雑な形状を実現している。
フレームセット重量は公称値1300g(フォーク単体380g)なので、メインフレームのみは900g強だ。「超」がつく軽量さはないが、各部の曲線デザインにはじまり、スネークアイデザインによるチェーンステー、シートステーからさらに「支え」を出したようなデザインのシートチューブトップ、そして実用性を重視したアルミ製のリアドロップエンド(※)といった工作を見れば納得もゆく。
(※フレンチカラーモデルおよび25周年記念限定モデルはフルカーボンエンド採用)
昨年はモトベカンからMBKの社名に変更されて25周年のアニバーサリーイヤーとなる。これを記念してRD1200をベースに、エンド部分をカーボン製にした記念モデルも登場した。今回テストした青、白、赤のトリコロールの塗り分けは、ディミトリ・シャンピオン(ブルターニュ・シュラー)がフランス選手権を制したことを記念したフランスチャンピオン限定モデルだ。
MBKにとって新たなスタートとなる2010年はどのような展開を見せてくれるのか興味深い。その一端を今回のテスト車両が見せてくれるだろう。早速、テストライダー達のインプレッションをお届けしよう。
― インプレッション
「素晴らしい安定感を持つフレンチレーサー」 鈴木祐一(Rise Ride)
バリバリのレーシングバイクだ。レースをする人や、プロレーサーと同じ物が欲しいという人に向いている。
すべてのフィーリングががっちりしている。たわみも少ないし、かなり硬いフレームと言える。力の方向が、前へ前へと進みたがるフレームだ。
硬いバイクの中には、力のベクトルがどこに行ってしまうかわからない製品もあるが、この進行方向にしっかり向かう性質はとても評価できる。
ペダリングがそんなに軽いワケではない。とはいえ、どんな状況でも安定している。振りが軽いバイクはダンシングに意識を取られるとハンドリングに危うさが出てしまう時もある。RD1200はものすごく落ち着きがあるので、ペダルを漕ぐ力に集中したり、路面状況に気を取られたりしても大丈夫だ。
安定性はBB周りからも生まれている。ちょっとフォームを崩して走っても、バイクがしっかりと受け止めてくれるので、ペダルへの入力に乱れがない。かといってグチャグチャな踏み方をしていいワケではないが、ペダリングは安定している。
どんなライダーでもやはり人間なので、慌てて体が力んだり、余分な力が入ってしまったりしまうこともある。そんな時は力を抜いてリラックスしてすることで自分のフォームを確認するのはとても大事。こうした状況で真っ直ぐ走ってくれるようなバイクだと、冷静に自分を見つめ直せる機会が生まれる。RD1200にはそういう広い許容量がある。
ハンドリングは常に一定のフィーリングだ。低速でコーナーに切り込んでいっても、高速のコーナーリングをしても、常に癖がなくバイクを操れる。これも安定に繋がっている一面だ。気を遣わなくていいので、最小限のエネルギーで済ませることができる。
ロードインフォメーション伝達能力は高い。試乗当日のように濡れた路面状況でも「滑りやすい、注意せよ」という情報を的確にライダーに伝えてくれる。そのため振動吸収性はけっして高くない。
衝撃の大きさに応じて角を丸めてくれるというか、少しマイルドにする感じだ。大きい衝撃のままなのだが角は丸めてくれる。これは先ほどのロードインフォメーションの的確さにもつながり、こういうアプローチのバイクもあることに感心した。
総括して言えば、土台がしっかりとしていると感じたバイクだった。ロードレーサーとしてとても良く完成している。
「全ての速度域で実感できるスピードの伸びが魅力」 浅見和洋(なるしまフレンド)
ハイエンドモデルの場合、高速性能だけを考えたバイクもが多いが、このRD1200は全ての速度域において好印象を得ることができた。もっともハイスピードの方がこのバイク本来のよりメリットをより実感できるとは思うが。
低速域においてもスピードの伸びの良さを体感できた。踏んだ力で前へ、前へと進む感じが、明らかに他のモデルとは一線を画すRD1200の美点だろう。
フレームの造形美も素晴らしく、ただスタイルだけを追い求めただけではなく、綿密な計算の上に成り立った造形美であることは、このバイクに跨ればすぐに理解できるだろう。
ある意味、性能を追い求めた結果がこれらの曲線を駆使した独創的フォルムに至ったと言えるであろう。
MBKの名前はメジャーブランドに比べると最近のサイクリストには認知度が低いのだろうが、その性能はそれらを補って余りあるものなのは間違いない。過去ヨーロッパのロードレースの歴史で活躍してきた実績は確かなものだ。
しかし逆に言えば知名度が高くない故、乗っている人が少ないので、他人と被る(同じバイクに乗る)のが嫌で、かつ高品質のフレームを求める本物のサイクリストには最適なモデルといえるだろう。
あらゆるシチュエーションにおいて性能の良さを実感できたので、どんな用途でもライダーを満足させる性能が発揮されると思う。予算があるなら初心者にもぜひ乗ってほしい1台だ。
MBK RD1200
フレームマテリアル:トレカ・カーボンモノコック/ゼロ・バイブレーション:ラウンドシェイプデザイン/スネークアイチェーンステー
フォーク:MBK・オリジナルカーボン/P3.0スネークアイデザイン
フレームサイズ:XXS、XS、S、M、L、XL
希望小売価格
ホワイト:47万5000円(フレームセット・税込み)
ブラック:48万5000円(フレームセット・税込み)
※写真のモデルはフランスナショナルチャンピオン記念モデル
カーボンリアエンド仕様 ¥505,000 (フレームセット・税込み)
鈴木祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
浅見 和洋(なるしまフレンド)|
プロショップ「なるしまフレンド原宿店」スタッフ。身長175cm、体重65kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質は厳しい上りがあるコースでの活躍が目立つクライマータイプだ。ダンシングでパワフルに走るのが得意。最近の嗜好は日帰りロングランにあり、例えば東京から伊豆といった、距離にして300kmオーバーをクラブ員らと楽しんでいる。
なるしまフレンド
ウェア協力:カステリ(インターマックス)
text:吉本 司
photo&edit:綾野 真
古くはスペインの名クライマー、ルイス・オカーニャが駆り、最近ではファン・ミゲル・メルカドがツール・ド・フランスでのステージ優勝を飾ったのを始め、あらゆるプロロードレースで実力を示してきた。その他トラック競技からBMXまで、あらゆるジャンルでMBKの名前は知られている。
そして、それらすべてのバイクには『ストレスフリー・コンセプト』という共通した思想がある。具体的には「真っ直ぐ走ること、自然な体重移動で曲がってくれること、安全に止まれること」。これらを前提として作られるバイクは、国内はもとより広く高評価を得ている。
そのコンセプトで作られるRD1200は、MBKのフラッグシップに位置する。
RD1200でまず目を引くのはチェーンステーのスネーク・アイデザインだろう。「スネークアイ=蛇の目」と名付けられ、二股に分かれた造形は、テニスラケットやヒトの腕、脚の骨格からヒントを得て作られた構造で、ねじれ剛性向上と応力の最適な分散を実現している。
トップチューブからシートステーまでが一連の曲線でつながるアーチシェイプデザインをいち早く採用したのもこのバイクの特徴だ。個性の強い設計を数多く盛り込みつつ、フォルムとして破綻をきたさないのは、MBKのデザイナーの優れた手腕と言えるだろう。
このバイクを筆頭にMBKのモデルは曲線を駆使したフォルムが多く見受けられる。その礎となっているのはコンピュータを用いた3Dデザインにより徹底した応力計算を行なっているためだ。さらに、LVS(リミテッド・バイブレーション・システム)という同社に独占供給されるシステムで、シートチューブに伝わる振動が40%カットされ、剛性と振動吸収性を高いレベルで両立しているのだ。
そしてフレーム製作には品質管理を細かくできる、チューブ同士を直接繋ぐチューブ・トゥ・チューブ工法を用い、フルモノコックでは難しい複雑な形状を実現している。
フレームセット重量は公称値1300g(フォーク単体380g)なので、メインフレームのみは900g強だ。「超」がつく軽量さはないが、各部の曲線デザインにはじまり、スネークアイデザインによるチェーンステー、シートステーからさらに「支え」を出したようなデザインのシートチューブトップ、そして実用性を重視したアルミ製のリアドロップエンド(※)といった工作を見れば納得もゆく。
(※フレンチカラーモデルおよび25周年記念限定モデルはフルカーボンエンド採用)
昨年はモトベカンからMBKの社名に変更されて25周年のアニバーサリーイヤーとなる。これを記念してRD1200をベースに、エンド部分をカーボン製にした記念モデルも登場した。今回テストした青、白、赤のトリコロールの塗り分けは、ディミトリ・シャンピオン(ブルターニュ・シュラー)がフランス選手権を制したことを記念したフランスチャンピオン限定モデルだ。
MBKにとって新たなスタートとなる2010年はどのような展開を見せてくれるのか興味深い。その一端を今回のテスト車両が見せてくれるだろう。早速、テストライダー達のインプレッションをお届けしよう。
― インプレッション
「素晴らしい安定感を持つフレンチレーサー」 鈴木祐一(Rise Ride)
バリバリのレーシングバイクだ。レースをする人や、プロレーサーと同じ物が欲しいという人に向いている。
すべてのフィーリングががっちりしている。たわみも少ないし、かなり硬いフレームと言える。力の方向が、前へ前へと進みたがるフレームだ。
硬いバイクの中には、力のベクトルがどこに行ってしまうかわからない製品もあるが、この進行方向にしっかり向かう性質はとても評価できる。
ペダリングがそんなに軽いワケではない。とはいえ、どんな状況でも安定している。振りが軽いバイクはダンシングに意識を取られるとハンドリングに危うさが出てしまう時もある。RD1200はものすごく落ち着きがあるので、ペダルを漕ぐ力に集中したり、路面状況に気を取られたりしても大丈夫だ。
安定性はBB周りからも生まれている。ちょっとフォームを崩して走っても、バイクがしっかりと受け止めてくれるので、ペダルへの入力に乱れがない。かといってグチャグチャな踏み方をしていいワケではないが、ペダリングは安定している。
どんなライダーでもやはり人間なので、慌てて体が力んだり、余分な力が入ってしまったりしまうこともある。そんな時は力を抜いてリラックスしてすることで自分のフォームを確認するのはとても大事。こうした状況で真っ直ぐ走ってくれるようなバイクだと、冷静に自分を見つめ直せる機会が生まれる。RD1200にはそういう広い許容量がある。
ハンドリングは常に一定のフィーリングだ。低速でコーナーに切り込んでいっても、高速のコーナーリングをしても、常に癖がなくバイクを操れる。これも安定に繋がっている一面だ。気を遣わなくていいので、最小限のエネルギーで済ませることができる。
ロードインフォメーション伝達能力は高い。試乗当日のように濡れた路面状況でも「滑りやすい、注意せよ」という情報を的確にライダーに伝えてくれる。そのため振動吸収性はけっして高くない。
衝撃の大きさに応じて角を丸めてくれるというか、少しマイルドにする感じだ。大きい衝撃のままなのだが角は丸めてくれる。これは先ほどのロードインフォメーションの的確さにもつながり、こういうアプローチのバイクもあることに感心した。
総括して言えば、土台がしっかりとしていると感じたバイクだった。ロードレーサーとしてとても良く完成している。
「全ての速度域で実感できるスピードの伸びが魅力」 浅見和洋(なるしまフレンド)
ハイエンドモデルの場合、高速性能だけを考えたバイクもが多いが、このRD1200は全ての速度域において好印象を得ることができた。もっともハイスピードの方がこのバイク本来のよりメリットをより実感できるとは思うが。
低速域においてもスピードの伸びの良さを体感できた。踏んだ力で前へ、前へと進む感じが、明らかに他のモデルとは一線を画すRD1200の美点だろう。
フレームの造形美も素晴らしく、ただスタイルだけを追い求めただけではなく、綿密な計算の上に成り立った造形美であることは、このバイクに跨ればすぐに理解できるだろう。
ある意味、性能を追い求めた結果がこれらの曲線を駆使した独創的フォルムに至ったと言えるであろう。
MBKの名前はメジャーブランドに比べると最近のサイクリストには認知度が低いのだろうが、その性能はそれらを補って余りあるものなのは間違いない。過去ヨーロッパのロードレースの歴史で活躍してきた実績は確かなものだ。
しかし逆に言えば知名度が高くない故、乗っている人が少ないので、他人と被る(同じバイクに乗る)のが嫌で、かつ高品質のフレームを求める本物のサイクリストには最適なモデルといえるだろう。
あらゆるシチュエーションにおいて性能の良さを実感できたので、どんな用途でもライダーを満足させる性能が発揮されると思う。予算があるなら初心者にもぜひ乗ってほしい1台だ。
MBK RD1200
フレームマテリアル:トレカ・カーボンモノコック/ゼロ・バイブレーション:ラウンドシェイプデザイン/スネークアイチェーンステー
フォーク:MBK・オリジナルカーボン/P3.0スネークアイデザイン
フレームサイズ:XXS、XS、S、M、L、XL
希望小売価格
ホワイト:47万5000円(フレームセット・税込み)
ブラック:48万5000円(フレームセット・税込み)
※写真のモデルはフランスナショナルチャンピオン記念モデル
カーボンリアエンド仕様 ¥505,000 (フレームセット・税込み)
インプレライダーのプロフィール
鈴木祐一(Rise Ride)
サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストンMTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。
サイクルショップ・ライズライド
浅見 和洋(なるしまフレンド)|
プロショップ「なるしまフレンド原宿店」スタッフ。身長175cm、体重65kg。かつては実業団トップカテゴリーで走った経歴をもつ。脚質は厳しい上りがあるコースでの活躍が目立つクライマータイプだ。ダンシングでパワフルに走るのが得意。最近の嗜好は日帰りロングランにあり、例えば東京から伊豆といった、距離にして300kmオーバーをクラブ員らと楽しんでいる。
なるしまフレンド
ウェア協力:カステリ(インターマックス)
text:吉本 司
photo&edit:綾野 真
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