2017/08/22(火) - 09:10
遂にデリバリーが開始された、シマノDURA-ACE史上初となるディスクブレーキモデルR9170シリーズ。ディスクロード用コンポーネントの最上位グレードとなるこの製品のインプレッションをお届けしよう。
1973年の登場以来、シマノの最上級ロードコンポーネントとして、40年以上に渡って世界トップのロードレースシーンを支えてきたDURA-ACE。当初7000番台のモデル名が冠された同コンポーネントは、8度のフルモデルチェンジを経てその数字を9100まで増やしてきた。前後ディレーラーの形状刷新、クランク式パワーメーターの登場など大きなアップデートが話題となったR9100系DURA-ACEにおいて、最も時代のトレンドに即した進化とも言えるのがディスクブレーキモデルの追加と言えよう。
2015年よりUCIワールドツアーレースにて試用が開始されたことで、各バイクブランドがここ数年で一気にラインアップを拡充してきたディスクロードのカテゴリー。一般公式レースでの使用はまだ認められていないものの、今年1月のトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)によるUCIロードレース初優勝を皮切りに、ドバイツアーでのマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)の3勝、先日行われたツール・ド・フランスにおいても複数チームが投入し、またもキッテルがステージ5勝を上げるなど、リムブレーキモデルに対し引けを取らない性能は既に証明済みだ。
シンクロシフトやリアディレーラーのシャドーデザイン等、シマノは近年MTBコンポーネントの技術をロードにも応用することでその性能を進化させてきた。今回のR9170系ディスクブレーキ開発にあたっても、XTRを始めとした同社MTBコンポーネントで培われた技術やノウハウを投入しつつロード向けに最適化されている。その上で従来モデルと比べ大幅にアップデートを果たした今作は、ロード用ディスクコンポーネントとして性能、ルックスともにDURA-ACEの名に恥じない完成度をついに獲得するに至った訳だ。
今回インプレッションを行ったDi2対応モデルでは、大きく分けてSTIレバーの「ST-R9170」、ディスクキャリパーの「BR-R9170」、ディスクローターの「SM-RT900」の3つで構成されるディスクブレーキのシステム。その他変速部やドライブトレイン部はリムブレーキモデルと同じくR9150系パーツが合わせられる。
油圧式のDi2変速レバーといえば今までシリーズ外製品のST-R785がその役割を担ってきたが、今回のST-R9170ではそのブラケット形状が大幅にコンパクト化された。油圧のマスターシリンダーを内蔵するためにブラケットヘッド部分が大きく突き出した形状にならざるを得なかったわけだが、今回その機構の小型化に成功。STIレバー全体で見比べても、リムブレーキモデルと変わらないほどの大きさにシェイプアップしている。
その上でレバー形状はST-R9150を踏襲したエルゴノミックなデザインで操作性を追求しつつ、シフト用スイッチも従来より大きく取られた設計に。ブラケットカバーも手に馴染むよう溝が切られたデザインで、グリップ感を高めている。
2015年よりフラットマウント規格が導入されて以降、同規格に対応したディスクキャリパーは今までULTEGRAグレードのBR-RS805がトップモデルであった。ポストマウントタイプのキャリパーからケーブル位置やボルト位置を最適化。ロードバイクにマッチしたコンパクトな形状は今作BR-R9170でも引き継がれ、さらにブレーキング性能向上と軽量化を果たしている。グループセットに合わせたグロス仕上げのブラックに、DURA-ACEの文字が浮かぶ高級感あるデザインも心憎い。
これら2つのパーツとともに刷新されたディスクローターSM-RT900は、従来品よりもさらに冷却性能を高めたものに。内周部に向かって最大限広げられた放熱フィンは表面積を拡げることで効率的に熱を発散させ、かつ回転によって通る風によっても冷却するよう形状を工夫している。ローター径は140と160mmの2種類が揃い、センターロック式となる。
シマノでは現在このR9170系DURA-ACEを搭載した試乗車を全国70以上のショップに設置している(設置店舗一覧はこちら)。今回はその設置店舗より、滋賀県に2店舗を展開するストラーダバイシクルズ代表の井上寿さんにインプレッションをしていただいた。
― インプレッション
「ディスクロードコンポーネントの完成形と言える仕上がり」井上寿(ストラーダバイシクルズ)
ロード用のディスクブレーキコンポーネントは機械式から油圧式までどのグレードも使ってきたのですが、従来製品はどれも発展途上感が否めなかった。そうした中で流石はDURA-ACEの名を冠した製品、現在考えられるディスクロードコンポーネントにおいて完成形と言える仕上がりですね。デザインといい性能といい使い勝手といい、どれをとっても最上級グレードに相応しい出来栄えではないでしょうか。
まず注目は、見た目にも大きな進化を遂げたSTIレバーでしょう。今作ではリムブレーキモデルとほとんど変わらないほどのサイズになり、握り込むブラケットが小さくなったことでレバーも引きやすくなりましたね。それによってブレーキングのコントロール性もかなり向上したと感じます。手が大きな人であれば前の形でも良かったのかもしれませんが、手の小さな女性含め万人に扱いやすいサイズ感に改良されています。
ディスクキャリパーの性能も大幅にアップデートされました。ブレーキの当たりがすごくプログレッシブになり、従来よりもコントロールしやすく違和感のないフィーリングになりましたね。今まではレバーを握った時に何か引っかかるような、ピストンが暴れるような感覚が手に伝わっていたのですが、そういったこともなくリニアな制動が可能です。いきなりガツンと効くのではなく、ぐぐぐっと効いてくるスムーズな制動性も獲得しています。
急ブレーキをかけても変にホイールがロックせず、安全に急制動してくれる安心感も今回増していますね。絶対的な制動力はリムブレーキモデルと大差ないと感じるのですが、例えばフルブレーキをしたときのコントロール性や安定性においてはディスクブレーキの方が高いと言えるでしょう。もちろん雨の日の制動力やダウンヒルでのブレーキコントロール性、油圧式ならではの軽い引き等、一般的に言われるメリットは大きいと思います。
私自身もディスクロードに乗ってきた中で、残念ながら今ひとつしっくりこないというのが今までの感想でした。それが今回ブレーキをかけるのが楽しくなるほどに性能が良くなりましたね。ブレーキのコントロール性という点が最も進化した部分かと感じますが、これなら不安感なくリムブレーキバイクから移行できると思います。
時代の流れとしても、総合的に見てこのコンポーネントが自転車業界で今一番進化した最新の機材になるでしょう。ディスクブレーキに抵抗を持つサイクリストもぜひ一度体験して欲しいと思いますね。誰もが納得できる性能で以て応えてくれることでしょう。現状国内のレースでは使用できない機材ではありますが、ツーリングやロングライドメインという人には確実にオススメできる製品になりますね。
インプレッションライダーのプロフィール
井上寿(ストラーダバイシクルズ)
滋賀県草津市と彦根市に2店舗を展開するストラーダバイシクルズの代表。スポーツバイクの本質と価値を伝えられるようアミューズメント性の高い店舗づくりを行う。マウンテンバイク、トラック、ロードと多岐にわたってスポーツバイクを嗜みトライアスロンにもチャレンジ。自転車歴は30年以上にもなる。直近では自転車ガイドツアーやフォトライドといったイベントを運営する株式会社ライダスもサービスを開始。
CWレコメンドショップページ
ストラーダバイシクルズ ショップHP
text:Yuto.Murata
photo:Naoki.Yasuoka,So.Isobe
1973年の登場以来、シマノの最上級ロードコンポーネントとして、40年以上に渡って世界トップのロードレースシーンを支えてきたDURA-ACE。当初7000番台のモデル名が冠された同コンポーネントは、8度のフルモデルチェンジを経てその数字を9100まで増やしてきた。前後ディレーラーの形状刷新、クランク式パワーメーターの登場など大きなアップデートが話題となったR9100系DURA-ACEにおいて、最も時代のトレンドに即した進化とも言えるのがディスクブレーキモデルの追加と言えよう。
2015年よりUCIワールドツアーレースにて試用が開始されたことで、各バイクブランドがここ数年で一気にラインアップを拡充してきたディスクロードのカテゴリー。一般公式レースでの使用はまだ認められていないものの、今年1月のトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップフロアーズ)によるUCIロードレース初優勝を皮切りに、ドバイツアーでのマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ)の3勝、先日行われたツール・ド・フランスにおいても複数チームが投入し、またもキッテルがステージ5勝を上げるなど、リムブレーキモデルに対し引けを取らない性能は既に証明済みだ。
シンクロシフトやリアディレーラーのシャドーデザイン等、シマノは近年MTBコンポーネントの技術をロードにも応用することでその性能を進化させてきた。今回のR9170系ディスクブレーキ開発にあたっても、XTRを始めとした同社MTBコンポーネントで培われた技術やノウハウを投入しつつロード向けに最適化されている。その上で従来モデルと比べ大幅にアップデートを果たした今作は、ロード用ディスクコンポーネントとして性能、ルックスともにDURA-ACEの名に恥じない完成度をついに獲得するに至った訳だ。
今回インプレッションを行ったDi2対応モデルでは、大きく分けてSTIレバーの「ST-R9170」、ディスクキャリパーの「BR-R9170」、ディスクローターの「SM-RT900」の3つで構成されるディスクブレーキのシステム。その他変速部やドライブトレイン部はリムブレーキモデルと同じくR9150系パーツが合わせられる。
油圧式のDi2変速レバーといえば今までシリーズ外製品のST-R785がその役割を担ってきたが、今回のST-R9170ではそのブラケット形状が大幅にコンパクト化された。油圧のマスターシリンダーを内蔵するためにブラケットヘッド部分が大きく突き出した形状にならざるを得なかったわけだが、今回その機構の小型化に成功。STIレバー全体で見比べても、リムブレーキモデルと変わらないほどの大きさにシェイプアップしている。
その上でレバー形状はST-R9150を踏襲したエルゴノミックなデザインで操作性を追求しつつ、シフト用スイッチも従来より大きく取られた設計に。ブラケットカバーも手に馴染むよう溝が切られたデザインで、グリップ感を高めている。
2015年よりフラットマウント規格が導入されて以降、同規格に対応したディスクキャリパーは今までULTEGRAグレードのBR-RS805がトップモデルであった。ポストマウントタイプのキャリパーからケーブル位置やボルト位置を最適化。ロードバイクにマッチしたコンパクトな形状は今作BR-R9170でも引き継がれ、さらにブレーキング性能向上と軽量化を果たしている。グループセットに合わせたグロス仕上げのブラックに、DURA-ACEの文字が浮かぶ高級感あるデザインも心憎い。
これら2つのパーツとともに刷新されたディスクローターSM-RT900は、従来品よりもさらに冷却性能を高めたものに。内周部に向かって最大限広げられた放熱フィンは表面積を拡げることで効率的に熱を発散させ、かつ回転によって通る風によっても冷却するよう形状を工夫している。ローター径は140と160mmの2種類が揃い、センターロック式となる。
シマノでは現在このR9170系DURA-ACEを搭載した試乗車を全国70以上のショップに設置している(設置店舗一覧はこちら)。今回はその設置店舗より、滋賀県に2店舗を展開するストラーダバイシクルズ代表の井上寿さんにインプレッションをしていただいた。
― インプレッション
「ディスクロードコンポーネントの完成形と言える仕上がり」井上寿(ストラーダバイシクルズ)
ロード用のディスクブレーキコンポーネントは機械式から油圧式までどのグレードも使ってきたのですが、従来製品はどれも発展途上感が否めなかった。そうした中で流石はDURA-ACEの名を冠した製品、現在考えられるディスクロードコンポーネントにおいて完成形と言える仕上がりですね。デザインといい性能といい使い勝手といい、どれをとっても最上級グレードに相応しい出来栄えではないでしょうか。
まず注目は、見た目にも大きな進化を遂げたSTIレバーでしょう。今作ではリムブレーキモデルとほとんど変わらないほどのサイズになり、握り込むブラケットが小さくなったことでレバーも引きやすくなりましたね。それによってブレーキングのコントロール性もかなり向上したと感じます。手が大きな人であれば前の形でも良かったのかもしれませんが、手の小さな女性含め万人に扱いやすいサイズ感に改良されています。
ディスクキャリパーの性能も大幅にアップデートされました。ブレーキの当たりがすごくプログレッシブになり、従来よりもコントロールしやすく違和感のないフィーリングになりましたね。今まではレバーを握った時に何か引っかかるような、ピストンが暴れるような感覚が手に伝わっていたのですが、そういったこともなくリニアな制動が可能です。いきなりガツンと効くのではなく、ぐぐぐっと効いてくるスムーズな制動性も獲得しています。
急ブレーキをかけても変にホイールがロックせず、安全に急制動してくれる安心感も今回増していますね。絶対的な制動力はリムブレーキモデルと大差ないと感じるのですが、例えばフルブレーキをしたときのコントロール性や安定性においてはディスクブレーキの方が高いと言えるでしょう。もちろん雨の日の制動力やダウンヒルでのブレーキコントロール性、油圧式ならではの軽い引き等、一般的に言われるメリットは大きいと思います。
私自身もディスクロードに乗ってきた中で、残念ながら今ひとつしっくりこないというのが今までの感想でした。それが今回ブレーキをかけるのが楽しくなるほどに性能が良くなりましたね。ブレーキのコントロール性という点が最も進化した部分かと感じますが、これなら不安感なくリムブレーキバイクから移行できると思います。
時代の流れとしても、総合的に見てこのコンポーネントが自転車業界で今一番進化した最新の機材になるでしょう。ディスクブレーキに抵抗を持つサイクリストもぜひ一度体験して欲しいと思いますね。誰もが納得できる性能で以て応えてくれることでしょう。現状国内のレースでは使用できない機材ではありますが、ツーリングやロングライドメインという人には確実にオススメできる製品になりますね。
インプレッションライダーのプロフィール
井上寿(ストラーダバイシクルズ)
滋賀県草津市と彦根市に2店舗を展開するストラーダバイシクルズの代表。スポーツバイクの本質と価値を伝えられるようアミューズメント性の高い店舗づくりを行う。マウンテンバイク、トラック、ロードと多岐にわたってスポーツバイクを嗜みトライアスロンにもチャレンジ。自転車歴は30年以上にもなる。直近では自転車ガイドツアーやフォトライドといったイベントを運営する株式会社ライダスもサービスを開始。
CWレコメンドショップページ
ストラーダバイシクルズ ショップHP
text:Yuto.Murata
photo:Naoki.Yasuoka,So.Isobe
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