2017/07/24(月) - 19:38
ドイツのデュッセルドルフで開幕したツールがフランスのパリで閉幕した。3週間を戦い抜いた者にとってシャンゼリゼはやはり特別な存在。フランスを駆け抜けたお祭りのフィナーレは幸い雨に降られなかった。ツール最終ステージの現地レポート。
警備時間を短くするためなのか理由は定かではないが、ツール最終ステージは例年よりも短かった。シャンゼリゼの周回自体に変更はないものの、周回の入り口をルーヴル美術館からグランパレに移したことでコンパクトに。その周回を取り囲む大人数のジャンダルマリー(憲兵)や警察、私服警察、そして威圧感のあるマシンガンを携えた軍の方々。見渡すと、ここまで3週間フェンスを運んできた大型トレーラーが通りを封鎖して車両の突入を防いでいた。もちろんコース沿道に入るためには手荷物検査が必須。この日はプレスセンターでさえも車輪のついたトローリー式のカバンが持ち込み禁止だった。
パリ市は2024年の夏季オリンピックの開催地に立候補しており、2017年9月の開催地決定に向けて招致アピールを加速させている。候補地に残っているのはパリとロサンゼルスの二都市。パリは1924年の前回大会以来100年ぶりのオリンピック開催を目指しており、グランパレを通過する選手たちの横を陸上選手と水泳選手が並んで走るor泳ぐ光景がCGで映し出された。
雨雲の接近によって常に暗く、いつ雨が降り出してもおかしくない状態のシャンゼリゼ通り。選手たちがシャンゼリゼ周回コースを数周したところで雨粒が落ち始めたが、本降りになることはなく、表彰式の最後まで天気は持ちこたえた。大会スタッフによると、大雨になっても予定通り屋根のないオープンステージで表彰式を行う予定だった。危うくフルームが濡れたマイヨジョーヌに袖を通すところだった。
シャンゼリゼは3週間を戦い抜いたスプリンターにだけ挑戦が許される夢の舞台。ステージ優勝したディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)のトップスピードは59.9km/h。スムーズとは言えない石畳と僅かな登り基調のため通常のスプリントよりも伸びなかった。フィニッシュ後、勝利した喜びをチームスタッフと分かち合いながらも、ことの大きさをいまいち飲み込めていないフルーネウェーヘンは、チームメイトと抱き合って祝福の言葉をかけられると、何かの線が切れたのか涙が溢れてきた。
トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)は短い逃げを含めると今大会11回、合計1,047kmにわたって逃げ、2012年にミカエル・モルコフ(デンマーク)が記録した841kmを大きく塗り替えた。デヘントはツアー・ダウンアンダーで3回、パリ〜ニースで1回、ボルタ・ア・カタルーニャで1回、ツール・ド・ロマンディで2回、クリテリウム・デュ・ドーフィネで1回逃げており、今シーズンの逃げ距離は合計2,210kmに。
デヘントはTwitterの投票によって総合敢闘賞(スーパーコンバティビティ賞)の候補にノミネートされたが、UCIコミッセールを含む委員会による多数決によって同賞はステージ2勝&山岳賞獲得のワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)の手に渡った。これに対してデヘントは「コミッセールパネルの中に5人のフランス人がいることが総合敢闘賞の選定につながったことは間違いない。国籍に偏りがあるのは確実で、コミッセールは今よりもっと多国籍な構成であるべきだ。もう残念でやってられない。考えれば考えるほど残念だ。いますぐ家に帰りたい気分だが、シャンゼリゼでの(グライペルの)スプリントが残っているので最後まで走りぬく」と不快感をあらわにしている。
全長3,540kmコースを最速で走ったフルームの平均スピードは41.0km/h。リタイア者は2016年より6名も多い31名。
ツール期間中にレースの外で繰り広げられてきた移籍交渉は多くの関係者が駆けつけるパリで大詰め。エースとアシストの関係も含めてざわざわしている。一番大きな関心を集めていたのはミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)のチーム離脱で、モビスターへの移籍が最も有力視されている。他にもマイヨジョーヌを狙える逸材だと示したワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)はツール・ド・フランスでのエースの座を確約するためにチームを離れるとの憶測も。これらの移籍情報はUCIが定めた解禁日である8月1日の正式発表まで待ちたい。
イギリスチームのイギリス人がマイヨジョーヌ、ドイツチームのオーストラリア人がマイヨヴェール、ドイツチームのフランス人がマイヨアポワ、そしてオーストラリアチームのイギリス人がマイヨブラン獲得。ステージ優勝者を国別に見ると、フランス人とドイツ人が5勝、オーストラリア人が2勝、イタリア人とイギリス人、スロバキア人、コロンビア人、オランダ人、スロベニア人、ノルウェー人、ポーランド人が1勝ずつ飾っている。
総合優勝者フルームに与えられる賞金は500,000ユーロ(約6,450万円)。どのチームにも選手やスタッフへの分配システムがあるため、その全てがフルームのポケットに入るわけではない。3週間を通した獲得賞金が最も多いのはもちろんチームスカイで、その総額は716,590ユーロ(約9,250万円)にのぼる。賞金総額が2,280,950ユーロ(約2億9,444万円)なので、その31%をチームスカイが手にしていることになる。キャノンデール・ドラパックが243,250ユーロ(約3,140万円)で続き、サンウェブが177,790ユーロ(約2,295万円)、アージェードゥーゼールが173,040ユーロ(約2,234万円)。逆に最も少ないのは19,230ユーロ(約248万円)のコフィディスで、19,960ユーロ(約258万円)のバーレーン・メリダは僅差で最下位を逃れている。
フルームはこのツール総合優勝が今シーズン初勝利。最後の勝利は2016年ブエルタ・ア・エスパーニャ第17ステージまで遡る。ステージ優勝を飾らずに総合優勝に輝いているのは過去に6人だけいる。
ブエルタ・ア・エスパーニャへの出場を予定しているフルームは、2018年のツールで偉大なチャンピオンたちの記録に挑む。フルームはここまで7回出場して4回総合優勝を飾っており、2018年に勝つことができれば歴代最多タイとなる。ちなみにジャック・アンクティルは8回出場して5回総合優勝、エディ・メルクスは7回出場して5回総合優勝、ベルナール・イノーは8回出場して5回総合優勝、ミゲール・インデュラインは12回出場して5回総合優勝。参考までにランス・アームストロングは13回出場して7回総合優勝している(ドーピング告白によりタイトルは剥奪)。
なお、フルームは2014年にリタイアしているため、完走回数では新城幸也(バーレーン・メリダ)の方が多い。
最後に、表彰台に先立って会場の大型スクリーンで流された公式ハイライト映像を貼り付けておきます。
text&photo:Kei Tsuji in Paris, France
警備時間を短くするためなのか理由は定かではないが、ツール最終ステージは例年よりも短かった。シャンゼリゼの周回自体に変更はないものの、周回の入り口をルーヴル美術館からグランパレに移したことでコンパクトに。その周回を取り囲む大人数のジャンダルマリー(憲兵)や警察、私服警察、そして威圧感のあるマシンガンを携えた軍の方々。見渡すと、ここまで3週間フェンスを運んできた大型トレーラーが通りを封鎖して車両の突入を防いでいた。もちろんコース沿道に入るためには手荷物検査が必須。この日はプレスセンターでさえも車輪のついたトローリー式のカバンが持ち込み禁止だった。
パリ市は2024年の夏季オリンピックの開催地に立候補しており、2017年9月の開催地決定に向けて招致アピールを加速させている。候補地に残っているのはパリとロサンゼルスの二都市。パリは1924年の前回大会以来100年ぶりのオリンピック開催を目指しており、グランパレを通過する選手たちの横を陸上選手と水泳選手が並んで走るor泳ぐ光景がCGで映し出された。
雨雲の接近によって常に暗く、いつ雨が降り出してもおかしくない状態のシャンゼリゼ通り。選手たちがシャンゼリゼ周回コースを数周したところで雨粒が落ち始めたが、本降りになることはなく、表彰式の最後まで天気は持ちこたえた。大会スタッフによると、大雨になっても予定通り屋根のないオープンステージで表彰式を行う予定だった。危うくフルームが濡れたマイヨジョーヌに袖を通すところだった。
シャンゼリゼは3週間を戦い抜いたスプリンターにだけ挑戦が許される夢の舞台。ステージ優勝したディラン・フルーネウェーヘン(オランダ、ロットNLユンボ)のトップスピードは59.9km/h。スムーズとは言えない石畳と僅かな登り基調のため通常のスプリントよりも伸びなかった。フィニッシュ後、勝利した喜びをチームスタッフと分かち合いながらも、ことの大きさをいまいち飲み込めていないフルーネウェーヘンは、チームメイトと抱き合って祝福の言葉をかけられると、何かの線が切れたのか涙が溢れてきた。
トーマス・デヘント(ベルギー、ロット・ソウダル)は短い逃げを含めると今大会11回、合計1,047kmにわたって逃げ、2012年にミカエル・モルコフ(デンマーク)が記録した841kmを大きく塗り替えた。デヘントはツアー・ダウンアンダーで3回、パリ〜ニースで1回、ボルタ・ア・カタルーニャで1回、ツール・ド・ロマンディで2回、クリテリウム・デュ・ドーフィネで1回逃げており、今シーズンの逃げ距離は合計2,210kmに。
デヘントはTwitterの投票によって総合敢闘賞(スーパーコンバティビティ賞)の候補にノミネートされたが、UCIコミッセールを含む委員会による多数決によって同賞はステージ2勝&山岳賞獲得のワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)の手に渡った。これに対してデヘントは「コミッセールパネルの中に5人のフランス人がいることが総合敢闘賞の選定につながったことは間違いない。国籍に偏りがあるのは確実で、コミッセールは今よりもっと多国籍な構成であるべきだ。もう残念でやってられない。考えれば考えるほど残念だ。いますぐ家に帰りたい気分だが、シャンゼリゼでの(グライペルの)スプリントが残っているので最後まで走りぬく」と不快感をあらわにしている。
全長3,540kmコースを最速で走ったフルームの平均スピードは41.0km/h。リタイア者は2016年より6名も多い31名。
ツール期間中にレースの外で繰り広げられてきた移籍交渉は多くの関係者が駆けつけるパリで大詰め。エースとアシストの関係も含めてざわざわしている。一番大きな関心を集めていたのはミケル・ランダ(スペイン、チームスカイ)のチーム離脱で、モビスターへの移籍が最も有力視されている。他にもマイヨジョーヌを狙える逸材だと示したワレン・バルギル(フランス、サンウェブ)はツール・ド・フランスでのエースの座を確約するためにチームを離れるとの憶測も。これらの移籍情報はUCIが定めた解禁日である8月1日の正式発表まで待ちたい。
イギリスチームのイギリス人がマイヨジョーヌ、ドイツチームのオーストラリア人がマイヨヴェール、ドイツチームのフランス人がマイヨアポワ、そしてオーストラリアチームのイギリス人がマイヨブラン獲得。ステージ優勝者を国別に見ると、フランス人とドイツ人が5勝、オーストラリア人が2勝、イタリア人とイギリス人、スロバキア人、コロンビア人、オランダ人、スロベニア人、ノルウェー人、ポーランド人が1勝ずつ飾っている。
総合優勝者フルームに与えられる賞金は500,000ユーロ(約6,450万円)。どのチームにも選手やスタッフへの分配システムがあるため、その全てがフルームのポケットに入るわけではない。3週間を通した獲得賞金が最も多いのはもちろんチームスカイで、その総額は716,590ユーロ(約9,250万円)にのぼる。賞金総額が2,280,950ユーロ(約2億9,444万円)なので、その31%をチームスカイが手にしていることになる。キャノンデール・ドラパックが243,250ユーロ(約3,140万円)で続き、サンウェブが177,790ユーロ(約2,295万円)、アージェードゥーゼールが173,040ユーロ(約2,234万円)。逆に最も少ないのは19,230ユーロ(約248万円)のコフィディスで、19,960ユーロ(約258万円)のバーレーン・メリダは僅差で最下位を逃れている。
フルームはこのツール総合優勝が今シーズン初勝利。最後の勝利は2016年ブエルタ・ア・エスパーニャ第17ステージまで遡る。ステージ優勝を飾らずに総合優勝に輝いているのは過去に6人だけいる。
ブエルタ・ア・エスパーニャへの出場を予定しているフルームは、2018年のツールで偉大なチャンピオンたちの記録に挑む。フルームはここまで7回出場して4回総合優勝を飾っており、2018年に勝つことができれば歴代最多タイとなる。ちなみにジャック・アンクティルは8回出場して5回総合優勝、エディ・メルクスは7回出場して5回総合優勝、ベルナール・イノーは8回出場して5回総合優勝、ミゲール・インデュラインは12回出場して5回総合優勝。参考までにランス・アームストロングは13回出場して7回総合優勝している(ドーピング告白によりタイトルは剥奪)。
なお、フルームは2014年にリタイアしているため、完走回数では新城幸也(バーレーン・メリダ)の方が多い。
最後に、表彰台に先立って会場の大型スクリーンで流された公式ハイライト映像を貼り付けておきます。
text&photo:Kei Tsuji in Paris, France
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