2017/07/17(月) - 16:37
バカンス客で賑わう中央山塊をツールは通過する。ライバルチームの攻撃と同時に発生したメカトラでフルームは危機を迎えたが、カワサキさんのファインプレーで難局を乗り切った。最後の休息日を前にしたツール第15ステージを振り返ります。
レザック・セベラック・レグーズの空にかかる4賞ジャージ photo:Kei Tsuji / TDWsport
牛の売買が行われる施設の横がチームバス駐車場 photo:Kei Tsuji / TDWsport
出走サイン台を駆け上がるワレン・バルギル(フランス、サンウェブ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
日本の取材陣にコーヒーを持ってきてくれる新城幸也(バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
マイヨヴェールのマルセル・キッテル(ドイツ、クイックステップフロアーズ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
ピレネーを離れたこの数日間はギラギラとした太陽がフランスを照らしている。気温自体はそれほど高くなく、乾燥しているためさっぱり。日陰に入って風を受けるとむしろ涼しさを感じるほどの空気だが、太陽の光がとにかく強いので日向に立っていると汗が吹き出る。
フランスはバカンスシーズンの盛りを迎えている。フランスを南北に走る高速道路は荷物を満載したファミリーカーやトレーラーを頑張って引っ張っている乗用車、キャンピングカーで溢れている。まだシーズン前半なので混雑しているのは決まって南行き。地中海の太陽を求めてヨーロッパ中の人が南に民族大移動している感じ。中央山塊を抜けるこのエリアは高速道路も起伏に富んでいて、6%ほどの登りを1kmこなしては1km下るを延々と繰り返す絶好の渋滞スポット。
下手をすると壮絶な南行きの渋滞にはまるが、バカンス客の動きと被らないように、ツールがこの時期にこの地域を南下することは少ない。フランスの地図を広げて適当にコースを引いていると見せかけて、すごくうまく考えられている。もちろんコースの設定に際してスタートとフィニッシュを誘致したい街の意見も踏まえる。それだけでなく、最後まで展開が分からないような刺激的なレースを演出するものでなければならない。
2017年のツールは例年と比べるとタイム差がつきにくいコース設定だと言われている。定番のチームタイムトライアルは鼻からなくて、2つの個人タイムトライアルは短めで、山頂フィニッシュの数は少ない。逆に第9ステージのモン・デュ・シャのように危険な下りや、短くて急勾配の登りフィニッシュ、そして風が鍵を握るようなレイアウトが多く取り入れられている。パワーで押し切れないような小細工が随所に施されている。
元アメリカ合衆国国務長官のジョン・ケリー氏が登場 photo:Kei Tsuji / TDWsport
大会スタッフとして働くレオナルド・ドゥケがカルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、モビスター)の頬をつねる photo:Kei Tsuji / TDWsport
アレルギーを抱えたまま第15ステージをスタートするティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル) photo:Kei Tsuji / TDWsport
トニー・マルティン(ドイツ、カチューシャ・アルペシン)を含む逃げグループが形成される photo:Kei Tsuji / TDWsport
逃げグループに食らいつくワレン・バルギル(フランス、サンウェブ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
数日前からアレルギーの症状に苦しみ、一人大きく遅れて第14ステージをフィニッシュしたティム・ウェレンス(ベルギー、ロット・ソウダル)は第15ステージの序盤20km地点でリタイアを決めた。アレルギーの治療としてWADA(世界アンチドーピング機構)にTUE(治療使用特例)を申請して禁止薬物コルチゾンを使用する選択肢もあったが、ウェレンス本人がこれを拒否した。
ロット・ソウダルのチームドクターを務めるセルファス・ビンジェ氏は「(TUEを申請しないことは)彼の選択だった。彼はフェアな(公平な)立場を維持したかったのだと思う。彼はフェアなアスリートであり、彼の選択は若い選手に大きな影響を与えると思う」とコメントしている。
ウェレンスは今大会23人目のリタイア者に。プロトンは175名にまで人数を減らしている。第9ステージのタイムオーバーで一気に4名を失ったエフデジに至っては、第13ステージでのアルテュール・ヴィショ(フランス)のリタイアによってレースに残っているのは4名だけだ。9名のフルメンバーを残しているのはアージェードゥーゼール、カチューシャ・アルペシン、サンウェブ、コフィディス、ディレクトエネルジー、キャノンデール・ドラパック、ワンティ・グループゴベール、フォルトゥネオ・オスカロの8チーム。まだステージ優勝を掴んでいないチームは11チームある。
集落を駆け抜けるメイン集団 photo:Kei Tsuji / TDWsport
中央山塊のダイナミックな丘を越えていく photo:Tim de Waele / TDWsport
ロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)の応援が目立つ photo:Tim de Waele / TDWsport
山岳ポイントを量産したワレン・バルギル(フランス、サンウェブ) photo:Tim de Waele / TDWsport
身長の低いリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)のためにサドル高の調整が可能なチームメイトのバイクを以前紹介したが、クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)は身長が高いのでチームメイトのバイクを借りてもサドルの高さに関しては比較的問題にならない。しかしフルームは非円形のオーシンメトリックチェーンリングを使っているので、仮にサドル高がバッチリでもチェーンリングの形状の違いからペダリングがぎこちなくなる。
アージェードゥーゼールの集団ペースアップ中にホイールトラブルに見舞われたフルームは、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)からリアホイールを受け取って再スタートして事なきを得た。身長176cmのクウィアトコウスキーのサドル高は724mmで、身長186cmのフルームは799mm。そもそもフレームサイズが大きく異なるため、バイクを差し出すのではなくホイールを交換したのだと思われる。そしてチームカーが上がれない状態だったので、ホイール交換が最善の解決策だった。
フルームの山岳アシスト4名(クウィアトコウスキー、ニエベ、ランダ、エナオ)はいずれも身長が低め。エースがメカトラで脱落するのを防ぐ究極の形は、ペダルやチェーンリングなどのパーツの統一はもちろんのこと、エースと同じぐらいの身長のアシストを集めること。「マージナルゲイン(小さい改善を積み重ねること)」を謳うチームスカイであっても実現できていないので、それが相当難しいことはよく分かる。
KWIATKOWSKIという名前の長さと、KAWASAKIと綴りが似ていることからチーム内で「カワサキ」と呼ばれることもあるクウィアトコウスキーは3日連続重要な局面でフルームをアシストしている。カワサキさんがフルームのマイヨジョーヌの立役者であることは間違いない。関係ないが、カワサキはツール・ド・フランスの公式モトサプライヤーだ。
アージェードゥーゼールを先頭に1級山岳ペイラタイヤード峠を登るメイン集団 photo:Tim de Waele / TDWsport
ステージ初優勝を飾ったバウケ・モレマ(オランダ、トレック・セガフレード) photo:Kei Tsuji / TDWsport
18分遅れの集団でフィニッシュする新城幸也(バーレーン・メリダ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
マイヨアポワのリードをさらに広げたワレン・バルギル(フランス、サンウェブ) photo:Kei Tsuji / TDWsport
会場ではとにかくロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)の応援が目立ち、同時に、フルームへのブーイングが耳につく。フランス人選手の活躍によって3日連続でツールがレキップ紙の表紙を飾った。第15ステージの朝に販売された7月16日版は、前日にフランス人選手がとくに活躍していないにもかかわらず表紙はバルデ。国内サッカーのリーグアンがオフシーズンで、移籍情報しかないことも影響して、レキップ紙は巻頭から11ページぶち抜きでツール特集を組んでいる。
レキップ紙が熱く語るのはバルデの総合優勝の可能性について。1985年のベルナール・イノーを最後に果たされていないフランス人選手による総合優勝を夢見て、今日もフランス国旗をもった観客が沿道に立つ。それに応えるようなアージェードゥーゼールの攻撃だったが、フルームは崩れなかった。
1級山岳ペイラタイヤード峠の麓でホイール交換して再スタートしたフルームは「パニックな状況だった。追いかけるしか選択肢がなかった。仮に頂上までに集団に復帰できなければかなりヤバイ状況になる。だから深く追い込んだ」という。全長8.3km/平均7.4%の登りを22分30秒で登頂したメイン集団にフルームが45秒差を詰めて復帰した。
平均スピードにするとメイン集団が22.1km/h、フルームは22.9km/hで1級山岳ペイラタイヤード峠を登りきっている。もちろんそんな単純な計算がまかり通るわけじゃないが、これは逆にフルームがライバルたちから45秒奪うことができたとも言える。
開幕前からフルームが「今年のツールはコース的にも最大のチャレンジになる」と予言していた通り、総合トップ4が29秒以内という僅差のままツールは2週目を終えた。選手たちはすでに2,800km近くを走り、合計32,000mを登っている。ネイサン・ブラウン(アメリカ、キャノンデール・ドラパック)によると、ここまでのレース中の消費カロリーは55,700kcal。新城幸也(バーレーン・メリダ)が「疲れている選手が多くなってきた」という集団がル・ピュイ・アン=ヴレでひと時の休息を取る。
text&photo:Kei Tsuji in Le Puy-en-Velay, France
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ピレネーを離れたこの数日間はギラギラとした太陽がフランスを照らしている。気温自体はそれほど高くなく、乾燥しているためさっぱり。日陰に入って風を受けるとむしろ涼しさを感じるほどの空気だが、太陽の光がとにかく強いので日向に立っていると汗が吹き出る。
フランスはバカンスシーズンの盛りを迎えている。フランスを南北に走る高速道路は荷物を満載したファミリーカーやトレーラーを頑張って引っ張っている乗用車、キャンピングカーで溢れている。まだシーズン前半なので混雑しているのは決まって南行き。地中海の太陽を求めてヨーロッパ中の人が南に民族大移動している感じ。中央山塊を抜けるこのエリアは高速道路も起伏に富んでいて、6%ほどの登りを1kmこなしては1km下るを延々と繰り返す絶好の渋滞スポット。
下手をすると壮絶な南行きの渋滞にはまるが、バカンス客の動きと被らないように、ツールがこの時期にこの地域を南下することは少ない。フランスの地図を広げて適当にコースを引いていると見せかけて、すごくうまく考えられている。もちろんコースの設定に際してスタートとフィニッシュを誘致したい街の意見も踏まえる。それだけでなく、最後まで展開が分からないような刺激的なレースを演出するものでなければならない。
2017年のツールは例年と比べるとタイム差がつきにくいコース設定だと言われている。定番のチームタイムトライアルは鼻からなくて、2つの個人タイムトライアルは短めで、山頂フィニッシュの数は少ない。逆に第9ステージのモン・デュ・シャのように危険な下りや、短くて急勾配の登りフィニッシュ、そして風が鍵を握るようなレイアウトが多く取り入れられている。パワーで押し切れないような小細工が随所に施されている。
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ロット・ソウダルのチームドクターを務めるセルファス・ビンジェ氏は「(TUEを申請しないことは)彼の選択だった。彼はフェアな(公平な)立場を維持したかったのだと思う。彼はフェアなアスリートであり、彼の選択は若い選手に大きな影響を与えると思う」とコメントしている。
ウェレンスは今大会23人目のリタイア者に。プロトンは175名にまで人数を減らしている。第9ステージのタイムオーバーで一気に4名を失ったエフデジに至っては、第13ステージでのアルテュール・ヴィショ(フランス)のリタイアによってレースに残っているのは4名だけだ。9名のフルメンバーを残しているのはアージェードゥーゼール、カチューシャ・アルペシン、サンウェブ、コフィディス、ディレクトエネルジー、キャノンデール・ドラパック、ワンティ・グループゴベール、フォルトゥネオ・オスカロの8チーム。まだステージ優勝を掴んでいないチームは11チームある。
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身長の低いリッチー・ポート(オーストラリア、BMCレーシング)のためにサドル高の調整が可能なチームメイトのバイクを以前紹介したが、クリストファー・フルーム(イギリス、チームスカイ)は身長が高いのでチームメイトのバイクを借りてもサドルの高さに関しては比較的問題にならない。しかしフルームは非円形のオーシンメトリックチェーンリングを使っているので、仮にサドル高がバッチリでもチェーンリングの形状の違いからペダリングがぎこちなくなる。
アージェードゥーゼールの集団ペースアップ中にホイールトラブルに見舞われたフルームは、ミカル・クウィアトコウスキー(ポーランド、チームスカイ)からリアホイールを受け取って再スタートして事なきを得た。身長176cmのクウィアトコウスキーのサドル高は724mmで、身長186cmのフルームは799mm。そもそもフレームサイズが大きく異なるため、バイクを差し出すのではなくホイールを交換したのだと思われる。そしてチームカーが上がれない状態だったので、ホイール交換が最善の解決策だった。
フルームの山岳アシスト4名(クウィアトコウスキー、ニエベ、ランダ、エナオ)はいずれも身長が低め。エースがメカトラで脱落するのを防ぐ究極の形は、ペダルやチェーンリングなどのパーツの統一はもちろんのこと、エースと同じぐらいの身長のアシストを集めること。「マージナルゲイン(小さい改善を積み重ねること)」を謳うチームスカイであっても実現できていないので、それが相当難しいことはよく分かる。
KWIATKOWSKIという名前の長さと、KAWASAKIと綴りが似ていることからチーム内で「カワサキ」と呼ばれることもあるクウィアトコウスキーは3日連続重要な局面でフルームをアシストしている。カワサキさんがフルームのマイヨジョーヌの立役者であることは間違いない。関係ないが、カワサキはツール・ド・フランスの公式モトサプライヤーだ。
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会場ではとにかくロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール)の応援が目立ち、同時に、フルームへのブーイングが耳につく。フランス人選手の活躍によって3日連続でツールがレキップ紙の表紙を飾った。第15ステージの朝に販売された7月16日版は、前日にフランス人選手がとくに活躍していないにもかかわらず表紙はバルデ。国内サッカーのリーグアンがオフシーズンで、移籍情報しかないことも影響して、レキップ紙は巻頭から11ページぶち抜きでツール特集を組んでいる。
レキップ紙が熱く語るのはバルデの総合優勝の可能性について。1985年のベルナール・イノーを最後に果たされていないフランス人選手による総合優勝を夢見て、今日もフランス国旗をもった観客が沿道に立つ。それに応えるようなアージェードゥーゼールの攻撃だったが、フルームは崩れなかった。
1級山岳ペイラタイヤード峠の麓でホイール交換して再スタートしたフルームは「パニックな状況だった。追いかけるしか選択肢がなかった。仮に頂上までに集団に復帰できなければかなりヤバイ状況になる。だから深く追い込んだ」という。全長8.3km/平均7.4%の登りを22分30秒で登頂したメイン集団にフルームが45秒差を詰めて復帰した。
平均スピードにするとメイン集団が22.1km/h、フルームは22.9km/hで1級山岳ペイラタイヤード峠を登りきっている。もちろんそんな単純な計算がまかり通るわけじゃないが、これは逆にフルームがライバルたちから45秒奪うことができたとも言える。
開幕前からフルームが「今年のツールはコース的にも最大のチャレンジになる」と予言していた通り、総合トップ4が29秒以内という僅差のままツールは2週目を終えた。選手たちはすでに2,800km近くを走り、合計32,000mを登っている。ネイサン・ブラウン(アメリカ、キャノンデール・ドラパック)によると、ここまでのレース中の消費カロリーは55,700kcal。新城幸也(バーレーン・メリダ)が「疲れている選手が多くなってきた」という集団がル・ピュイ・アン=ヴレでひと時の休息を取る。
text&photo:Kei Tsuji in Le Puy-en-Velay, France
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