R8000系へとフルモデルチェンジを果たしたシマノのロードコンポーネント、ULTEGRAを実機にて国内最速インプレッション。R9100系DURA-ACE発表から1年を経て、そのテクノロジーを随所に投入し全面的に刷新された新型ULTEGRAに迫る。



シマノ R8000系ULTEGRAシマノ R8000系ULTEGRA (c)Makoto.AYANO/cyclowired.jp
ロングアームが廃されコンパクトになったFD-R8000ロングアームが廃されコンパクトになったFD-R8000 新たにシャドーデザインに変更されたRD-R8000新たにシャドーデザインに変更されたRD-R8000


1976年に登場したシマノ600というツーリング車向けコンポーネントを起源に持つULTEGRA。現在ではDURA-ACEに次ぐロードバイク用コンポーネントのセカンドグレードとしてラインアップされるモデルである。この度従来の6800系からモデルナンバーを一気に更新し、R8000系ULTEGRAとしてフルモデルチェンジを果たした。

約1年前に発表されたR9100系DURA-ACEのレーシングコンセプトを受け継ぎつつも、リア34Tギアへの対応など、より多くの人がロードサイクリングを楽しめるよう性能向上と改善を果たした新型ULTEGRA。ダイレクトマウントブレーキ、ディスクブレーキ、電動シフトを網羅するパーツラインアップを実現し、多様化するサイクリングの形式に全方向からアプローチしている。

その中でも今回は最も早くデリバリーが開始されるノーマルキャリパーブレーキ、機械式シフトというオーソドックスな組み合わせで、この新型ULTEGRAをテストした。まずは今回アッセンブルされたULTEGRAコンポーネントの詳細を見ていこう。

電動コンポーネントの内部構造に着想を得た複雑な造り電動コンポーネントの内部構造に着想を得た複雑な造り ワイヤーテンション調整ボルトが内蔵されたため、ケーブル途中のアジャスターは不要ワイヤーテンション調整ボルトが内蔵されたため、ケーブル途中のアジャスターは不要

ホイールの着脱が用意になるMTB譲りのダイレクトマウントタイプ方式ホイールの着脱が用意になるMTB譲りのダイレクトマウントタイプ方式 横幅がコンパクトになったシャドー構造を採用横幅がコンパクトになったシャドー構造を採用


大幅な構造の刷新が図られた箇所で言えばフロント/リアディレイラーだろう。より軽くスムーズな変速を追求するのはもちろん、耐久性能やメンテナンス性の向上などが図られている。

フロントディレイラーは従来のロングアームを廃し、電動コンポーネントの内部構造に着想を得たコンパクトな形状となり、従来モデルを上回るライトアクションを実現したという。またケーブルテンション調整機構をディレイラー本体に搭載し、ワイヤー途中にアジャスターを設ける必要が無くなった点もポイントだ。

MTB用コンポーネント譲りのシャドーデザインを採用したリアディレイラーは、ボディの張り出しを抑え外部からの衝撃トラブル等を防止しつつ、エアロダイナミクスにも優れた形状。シングルテンション構造、ダイレクトマウントなどR9100系DURA-ACEと同様の構造を持ちつつ、ショートケージで30T、ロングケージで34Tというビックギアへの対応力を持たせた。

R9100系を踏襲したデザインのFC-R8000R9100系を踏襲したデザインのFC-R8000
CS-R8000 30T、32T、34Tのビッグギアが用意されるCS-R8000 30T、32T、34Tのビッグギアが用意される より握りやすさを追求したST-R8000より握りやすさを追求したST-R8000

そしてそのリアディレイラーに合わせてカセットスプロケットもワイドレシオ化を果たした。ラインアップは11-25T、11-28T、11-30T、11-32T、12-25T、14-28T、11-34T(こちらのみ品番はCS-HG800-11)という7種になり、30T以上のローギアも用意されている。34Tはコンパクトクランクの34Tと使用すれば1対1のギア比も可能だ。

クランクセットは今や競合他社もこぞって採用する4アームデザインを継承。こちらもR9100系を踏襲し、クランク本体の剛性を高める幅広なデザインへと変更しているものの、チェーンリングサイズによっては若干の軽量化を実現している。

完全に新構造となったフロント/リアディレイラーを操るのが、より手にフィットするよう細部の形状を煮詰めたデュアルコントロールレバーだ。全体的に細身の形状となり、ブラケットカバーには6800系になかった溝が掘られ、よりグリップしやすく改善されている。シフトボタンが大きくなったこともポイントだろう。

BR-R8000 ワイヤーのリリース機構が内側にたたまれるエアロデザインとなったBR-R8000 ワイヤーのリリース機構が内側にたたまれるエアロデザインとなった
左右のピボットを繋ぐようにブースターを入れキャリパーのたわみを防ぐ左右のピボットを繋ぐようにブースターを入れキャリパーのたわみを防ぐ 従来モデルよりアームの幅が太くなりよりかっちりとしたブレーキフィーリングを実現従来モデルよりアームの幅が太くなりよりかっちりとしたブレーキフィーリングを実現

キャリパーブレーキもR9100系のデザインを受け継いだ形状と変更。構造的には6800系で採用された左右対称デュアルピボット式を継続しているが、より優れた制動性能を追求するために左右のピボットをブースターで連結し剛性を向上。もちろん昨今のトレンドに合わせ28cまで対応したタイヤクリアランスも与えられた。

今回は7月上旬より販売が開始されるR8000系ULTEGRA搭載のフォーカス「IZALCO MAX」完成車を使用し、この新型コンポーネントをテストした。



ー インプレッション

鈴木:まず感じたのがシフトフィーリングの軽さ。頻繁にギアを上げたり下げたり操作してみたのですが、その度に変速機の動きが軽快だと感じました。もちろんトップグレードのDURA-ACEと比べれば変速操作の剛性感など、劣る部分はありますが、倍近い価格差がある中で、性能に関しては限りなくDURA-ACEに近づいていると感じました。

「より一層DURA-ACEと遜色ない仕上がり」三宅尚徳(カミハギサイクル 緑店)「より一層DURA-ACEと遜色ない仕上がり」三宅尚徳(カミハギサイクル 緑店)
三宅:そうですね。私のショップでも3人のスタッフ全員が旧モデルの6800系ULTEGRAを使用していますが、旧型でもDURA-ACEとの性能差はそこまで感じませんでした。それが今回、R8000系の新型ULTEGRAとなり、より一層DURA-ACEと遜色ない仕上がりを見せているように感じます。

鈴木:6800系からの変化と考えると、コンパクトになったフロントディレイラーが目に付きます。旧モデルではロングアームゆえにフレームによっては取りつけの角度など相性があり、変速性能にばらつきがあったのですが、この新しいタイプのフロントディレイラーではそういったことがありません。どんなフレームでも同じ変速性能を保つことが出来ますし、ワイヤー途中のアジャスターが要らないというのもメカニック視点では有難いですね。

「新構造のディレイラーにより変速性能が向上している」「新構造のディレイラーにより変速性能が向上している」
三宅:従来のロングアームだと変速する際に最初の引っ張りが重く、そこを過ぎると一気に変速するような感触がありましたが、それが軽く滑らかになった。指一本でも軽々変速してくれるので、これまで億劫だったフロント変速操作を積極的に行おうと思うことができます。また、旧モデルは取り回しによってはワイヤーが張り出してしまい、タイヤに擦れるといったトラブルがありましたが、新型ではその部分も解消されています。アジャスター要らずでハンドル周りがスッキリする点もいいですね。

鈴木:リアディレイラーの挙動に関しても新たにシングルテンション構造となりましたが、動作は非常に軽いですね。6800系と比較してもワイヤーの引きは確実に軽くなっていると思いますし、ダイレクトマウントタイプの取り付け方法を採用したことにより、ホイールの交換が行いやすくなりましたね。

三宅:変速時のストロークは短くなっていますね。レバーを押し込んだ時の変速音が旧モデルに比べ早い段階で聞こえます。奥まで押し込む必要がないので、これなら手の小さい人でも変速が辛くない。またリアディレイラーはシャドーデザインとなったことにより、落車でぶつけてエンドを曲げてしまうといったリスクも低減することが出来ていると思います。

「軽いシフトフィーリングが印象的」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)「軽いシフトフィーリングが印象的」鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)
三宅:私はR9100系を普段使っているのですが、この新型ULTEGRAは目をつぶって操作すればDURA-ACEとほぼ変わらないフィーリングだと思いました。ブラケットの細さは、ほんの少しだけDURA-ACEの方が細いように感じましたが、これは好みの問題でしょう。細い方が良ければDURA-ACEで、旧型の太めの握りが好みであればULTEGRAで、と選ぶのも良いでしょう。

鈴木:STIレバーは手が触れる感覚を重視した上で開発されている印象を受けます。特にブラケットカバーにさりげなく溝が入っているのが良いですね。手で握った時の感触が良くなっているように感じます。握りやすく力を込めやすい点も優秀です。

「目をつぶって操作すればDURA-ACEとほぼ変わらないフィーリング」「目をつぶって操作すればDURA-ACEとほぼ変わらないフィーリング」 「DURA-ACEと比べると多少太めのブラケットだが、握り比べないと分からない程度」「DURA-ACEと比べると多少太めのブラケットだが、握り比べないと分からない程度」
「ブラケットカバーにさりげなく溝が入り、手で握った時のグリップ感が良くなっている」「ブラケットカバーにさりげなく溝が入り、手で握った時のグリップ感が良くなっている」 「ダイレクトマウントタイプになりホイールの着脱が容易になったがコツも必要だ」「ダイレクトマウントタイプになりホイールの着脱が容易になったがコツも必要だ」

三宅:また6800世代から比べるとシフトボタンが大きくなったのが良いですね。ブラケットポジションではもちろん、下ハンドルを持った時でも押しやすくなったので、スプリントのようなシーンでも変速し易いです。細かな点ではありますが、ブレーキレバーのリーチ調整ボルトが樹脂から金属に変わったため、ボルト穴を潰すことが無くなったのもポイントだと思います。

鈴木:スプロケットに34Tが搭載されたというのも非常に大きい変化だと思いますね。最近では年配の人や女性の方でもヒルクライムを楽しむ人が増えてきたので、そういった人にとっては軽いギアがあるに越したことは無いですし、そのために新型ULTEGRAを購入するというのはアリだと思います。

「R8000系へ進化してより幅広い人に使いやすく改善されている」「R8000系へ進化してより幅広い人に使いやすく改善されている」
三宅:最近ではツール・ド・フランスを走るトッププロですら30Tぐらいのビッグギアを使用する時代ですからね。一昔前は小さいスプロケットをつけることが美徳とされてきましたが、最近では自分の走り方のスタイルを良く知った上で、大きいスプロケットを買うことはなんら恥ずかしい事ではありません。ショートケージ仕様でも30Tに対応しているので、大いに活用していきたいですね。

三宅:価格を考えても一番実用的で一番需要があるグレードがこのULTEGRAだと思いますし、それを踏まえより幅広い人が使いやすいよう各所が改善されています。今年最も注目されるサイクルパーツはおそらくこのシマノR8000系ULTEGRAではないでしょうか。ぜひ多くの人に手に取ってもらいたいですね。



インプレッションライダーのプロフィール

鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ) 鈴木卓史(スポーツバイクファクトリー北浦和スズキ)

スポーツバイクファクトリー北浦和スズキの店長兼代表取締役を務める。大手自転車ショップで修行を積んだ後、独立し現在の店舗を構える。週末はショップのお客さんとのライドやトライアスロンに力を入れている。「買ってもらった方に自転車を長く続けてもらう」ことをモットーに、ポジションやフィッティングを追求すると同時に、ツーリングなどのイベントを開催することで走る場を提供し、ユーザーに満足してもらうことを第一に考える。

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三宅尚徳(カミハギサイクル 緑店)三宅尚徳(カミハギサイクル 緑店) 三宅尚徳(カミハギサイクル 緑店)

名古屋市緑区にあるカミハギサイクル 緑店店長。お店はロードバイク始め、クロスバイクやトライアスロンバイクとオンロードに重きを置いて展開。ショップスタッフとして10年以上の経歴になり、長年フィッティングを担当していた経験を元に、お客さんにマッチしたバイク選びやセッティングのアドバイスを提供している。ポタリングやツーリングを好み、よりエントリー層に近い目線での接客を心がける。

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text:Kosuke.Kamata
photo:Makoto.AYANO
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