2009/12/07(月) - 16:56
「プロが自費で購入してまで使うホイール」 としてあまりにも有名なライトウェイト。いったいその魅力はどこにあるのだろうか? かつて自身もライトウェイトユーザーだった自転車ジャーナリスト・仲沢隆が徹底的に検証する。
“ライトウェイト”はツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリア、クラシックレースや世界選手権ロードを戦う超一流選手が自費で購入してまで使用するほどの高性能を誇るホイールだ。
かつてランス・アームストロングが山岳ステージでライトウェイトを使っていたことはあまりにも有名であるし、ヨハン・ムセーウが1996年の世界選を制した時も、マリオ・チポッリーニが2002年の世界選を制した時も、彼らがチョイスしたホイールはライトウェイトだった。
その高性能の秘密は数多くある。まずはその軽さだ。その名前が示すように、前後ペアで985g(OBERMAYER、フロント16本、リヤ20本)という軽さは、並み居るライバルメーカーのカーボンホイールより数100gというレベルで軽い。当然、慣性モーメントも小さく、ゼロ発進やヒルクライムで圧倒的なアドバンテージを発揮するのだ。
次にその剛性感の高さだ。リム・ハブ・スポークを一体化することにより、その超軽量からは考えられないような剛性感の高さを生みだしているのだ。もちろん、UCI(国際自転車競技連合)の厳しい強度テストをクリアしており、すべてのUCI公認レースで使用することが可能だ。
STANDARD GIIIも圧倒的な高性能を誇るが、さらにOBERMAYERではリムの最外層カーボンを軽量化し、さらにセラミックベアリングのハブを奢ることによって、究極の高性能を実現している。
まさに世界最高の性能を誇る“究極の回転体”ライトウェイト。さっそくインプレッションをお届けしよう!
― インプレッション
「あらゆるホイールの頂点に立つ」 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
*以下、STANDARD GIIIを中心に話を進め、必要に応じてOBERMAYER GIIIに言及する
乗る前から結論はわかっていた。すでに初代ライトウェイトの登場から10数年が経過しているとはいえ、いまだにこのホイールの高性能を超える製品は生まれていない。ライトウェイトの前では、ライバルメーカーの最高級カーボンホイールでさえ「練習用ホイール」に感じられてしまうほどだ。とにかく、ライトウェイトはあらゆるホイールの頂点に立つ。
まずは踏み出しの軽さであるが、もうこれは圧倒的だ。ペダルに軽くパワーをかけた瞬間からグワッっと加速を始めるのだ。これだけ踏み出しが軽いホイールを、私は他に知らない。これを楽しむだけでも、十分に買う価値があると言えるだろう。低速から高速への伸びも素晴らしい。踏めば踏んだ分だけグングン加速していく。
上りでは楽しくなってしまうほどの軽快さを見せる。特に良いのが20%くらいの激坂を上っている時だ。普段、やっとのことで上れるような激坂も、ライトウェイトならば難なく越えられるのである。他のホイールとの性能の違いが一番感じられるシチュエーションだ。
下りのフルブレーキングでもスーッと止まってくれる。ホイールの慣性モーメントが小さいので、同じストッピングパワーなら、他のホイールよりも明らかにキビキビとコントロールできるのだ。本当にレーシングホイールらしいホイールである。
乗っていて本当に凄いなと思うのは、剛性感の高さだ。リム・スポーク・ハブを接着して一体化することにより、その軽さからは想像できない剛性感の高さを実現しているのだ。まるで、高剛性なディスクホイールに乗っているかのような雰囲気である。もちろん、その構造ゆえパワー伝達効率も極めて高い。
振動減衰特性の高さも素晴らしい。スポークまでカーボンでできているため、路面からの不快な振動が見事に吸収され、路面の追随性が極めて良くなっているのだ。
荒れた路面などでも、実に良く走る。さらに、ライダーの負担を低減してくれるので、長距離を走っても疲れないというオマケまでついてくるのだ。本当に凄いホイールである。
強いて欠点を挙げるとすれば、「フレ取り」ができない点だろうか? しかし、リム・スポーク・ハブを接着で一体化することにより超軽量かつ高剛性という夢のようなホイールを実現しているのであるから、これは文句を言う部分ではない。
構造体というものは、ジョイントが少なければ少ないほど剛性が増すのだ。とにかくこの高性能の前では、その潔い作りも十分に納得できる。
OBERMAYER GIIIはSTANDARD GIIIと比べて、リムの最外層カーボンを軽量化している分だけ軽い。リム表面に光沢があるのは、保護のためのクリアコーティング処理だ。さらにOBERMAYER GIIIではセラミックベアリングのハブを前後に奢っているので、回転性能が圧倒的だ。もし予算が許すなら、ヒルクライムに使うのであればOBERMAYER GIIIの方だろう。
乗ったときの剛性感はSTANDARD GIIIの方がほんの少しだけ高い。ヒルクライムだけでなくオールマイティに使うなら、私はSTANDARD GIIIの方を推したい。私が買うとしたら、STANDARD GIIIを選ぶと思う。
実は7~8年ほど前、私はキネティックブランドで入ってきた「日本入荷第1号」のライトウェイト(GI)を使っていたことがある。それはもう本当に素晴らしいホイールであったが、レースでは「落車に巻き込まれて壊したらどうしよう」という気持ちが先立ってしまい、ほとんど使うことができなかった。もちろん、普段のトレーニングで使うのももったいない。そんな訳で私はライトウェイトを手放してしまったのだが、今でもそれは「人生最大の失敗」であったと後悔している。
このホイールを購入できるだけの財力がある人ならば、絶対に一生に一度はライトウェイトに乗るべきである。このホイールに乗らずして、自転車人生を終えるのは本当に不幸なことだ。間違いなく、そこまで断言できる素晴らしいホイールである。
― スペック
■ライトウェイト OBERMAYER GIII
カーボンスポーク(フロント16本、リヤ20本)
積層サマリウム・コバルトマグネット(サイクルコンピュータ用)
マイクロデータチップ
セラミックベアリング採用フロントハブ(カーボンハブボディ)
Tune社製MAG160RWリヤハブ(カーボンハブボディ、カーボンシャフト、セラミックベアリング)
体重制限90kg
シマノフリーボディ・カンパフリーボディ2タイプ
希望小売価格(税込み) 780,000円(FRペア、専用ブレーキシュー付き)
■ライトウェイト STANDARD GIII
カーボンスポーク(フロント16本、リヤ20本)
積層サマリウム・コバルトマグネット(サイクルコンピュータ用)
マイクロデータチップ
DT Swiss社製240Sリヤハブ(カーボンハブボディ)
体重制限90kg
シマノフリーボディ・カンパフリーボディ2タイプ
希望小売価格(税込み) 560,000円(FRペア、専用ブレーキシュー付き)
(クリンチャータイプの”ライトウェイトC クリンチャー”は 698,000円)
インプレライダーのプロフィール
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
ツール・ド・フランスやクラシックレースなどの取材、バイク工房の取材、バイクショーの取材などを通じて、国内外のロードバイク事情に精通する自転車ジャーナリスト。2007年からは大学院にも籍を置き、自転車競技や自転車産業を文化人類学の観点から研究中。
text:仲沢 隆
photo:綾野 真
“ライトウェイト”はツール・ド・フランスやジロ・デ・イタリア、クラシックレースや世界選手権ロードを戦う超一流選手が自費で購入してまで使用するほどの高性能を誇るホイールだ。
かつてランス・アームストロングが山岳ステージでライトウェイトを使っていたことはあまりにも有名であるし、ヨハン・ムセーウが1996年の世界選を制した時も、マリオ・チポッリーニが2002年の世界選を制した時も、彼らがチョイスしたホイールはライトウェイトだった。
その高性能の秘密は数多くある。まずはその軽さだ。その名前が示すように、前後ペアで985g(OBERMAYER、フロント16本、リヤ20本)という軽さは、並み居るライバルメーカーのカーボンホイールより数100gというレベルで軽い。当然、慣性モーメントも小さく、ゼロ発進やヒルクライムで圧倒的なアドバンテージを発揮するのだ。
次にその剛性感の高さだ。リム・ハブ・スポークを一体化することにより、その超軽量からは考えられないような剛性感の高さを生みだしているのだ。もちろん、UCI(国際自転車競技連合)の厳しい強度テストをクリアしており、すべてのUCI公認レースで使用することが可能だ。
STANDARD GIIIも圧倒的な高性能を誇るが、さらにOBERMAYERではリムの最外層カーボンを軽量化し、さらにセラミックベアリングのハブを奢ることによって、究極の高性能を実現している。
まさに世界最高の性能を誇る“究極の回転体”ライトウェイト。さっそくインプレッションをお届けしよう!
― インプレッション
「あらゆるホイールの頂点に立つ」 仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
*以下、STANDARD GIIIを中心に話を進め、必要に応じてOBERMAYER GIIIに言及する
乗る前から結論はわかっていた。すでに初代ライトウェイトの登場から10数年が経過しているとはいえ、いまだにこのホイールの高性能を超える製品は生まれていない。ライトウェイトの前では、ライバルメーカーの最高級カーボンホイールでさえ「練習用ホイール」に感じられてしまうほどだ。とにかく、ライトウェイトはあらゆるホイールの頂点に立つ。
まずは踏み出しの軽さであるが、もうこれは圧倒的だ。ペダルに軽くパワーをかけた瞬間からグワッっと加速を始めるのだ。これだけ踏み出しが軽いホイールを、私は他に知らない。これを楽しむだけでも、十分に買う価値があると言えるだろう。低速から高速への伸びも素晴らしい。踏めば踏んだ分だけグングン加速していく。
上りでは楽しくなってしまうほどの軽快さを見せる。特に良いのが20%くらいの激坂を上っている時だ。普段、やっとのことで上れるような激坂も、ライトウェイトならば難なく越えられるのである。他のホイールとの性能の違いが一番感じられるシチュエーションだ。
下りのフルブレーキングでもスーッと止まってくれる。ホイールの慣性モーメントが小さいので、同じストッピングパワーなら、他のホイールよりも明らかにキビキビとコントロールできるのだ。本当にレーシングホイールらしいホイールである。
乗っていて本当に凄いなと思うのは、剛性感の高さだ。リム・スポーク・ハブを接着して一体化することにより、その軽さからは想像できない剛性感の高さを実現しているのだ。まるで、高剛性なディスクホイールに乗っているかのような雰囲気である。もちろん、その構造ゆえパワー伝達効率も極めて高い。
振動減衰特性の高さも素晴らしい。スポークまでカーボンでできているため、路面からの不快な振動が見事に吸収され、路面の追随性が極めて良くなっているのだ。
荒れた路面などでも、実に良く走る。さらに、ライダーの負担を低減してくれるので、長距離を走っても疲れないというオマケまでついてくるのだ。本当に凄いホイールである。
強いて欠点を挙げるとすれば、「フレ取り」ができない点だろうか? しかし、リム・スポーク・ハブを接着で一体化することにより超軽量かつ高剛性という夢のようなホイールを実現しているのであるから、これは文句を言う部分ではない。
構造体というものは、ジョイントが少なければ少ないほど剛性が増すのだ。とにかくこの高性能の前では、その潔い作りも十分に納得できる。
OBERMAYER GIIIはSTANDARD GIIIと比べて、リムの最外層カーボンを軽量化している分だけ軽い。リム表面に光沢があるのは、保護のためのクリアコーティング処理だ。さらにOBERMAYER GIIIではセラミックベアリングのハブを前後に奢っているので、回転性能が圧倒的だ。もし予算が許すなら、ヒルクライムに使うのであればOBERMAYER GIIIの方だろう。
乗ったときの剛性感はSTANDARD GIIIの方がほんの少しだけ高い。ヒルクライムだけでなくオールマイティに使うなら、私はSTANDARD GIIIの方を推したい。私が買うとしたら、STANDARD GIIIを選ぶと思う。
実は7~8年ほど前、私はキネティックブランドで入ってきた「日本入荷第1号」のライトウェイト(GI)を使っていたことがある。それはもう本当に素晴らしいホイールであったが、レースでは「落車に巻き込まれて壊したらどうしよう」という気持ちが先立ってしまい、ほとんど使うことができなかった。もちろん、普段のトレーニングで使うのももったいない。そんな訳で私はライトウェイトを手放してしまったのだが、今でもそれは「人生最大の失敗」であったと後悔している。
このホイールを購入できるだけの財力がある人ならば、絶対に一生に一度はライトウェイトに乗るべきである。このホイールに乗らずして、自転車人生を終えるのは本当に不幸なことだ。間違いなく、そこまで断言できる素晴らしいホイールである。
― スペック
■ライトウェイト OBERMAYER GIII
カーボンスポーク(フロント16本、リヤ20本)
積層サマリウム・コバルトマグネット(サイクルコンピュータ用)
マイクロデータチップ
セラミックベアリング採用フロントハブ(カーボンハブボディ)
Tune社製MAG160RWリヤハブ(カーボンハブボディ、カーボンシャフト、セラミックベアリング)
体重制限90kg
シマノフリーボディ・カンパフリーボディ2タイプ
希望小売価格(税込み) 780,000円(FRペア、専用ブレーキシュー付き)
■ライトウェイト STANDARD GIII
カーボンスポーク(フロント16本、リヤ20本)
積層サマリウム・コバルトマグネット(サイクルコンピュータ用)
マイクロデータチップ
DT Swiss社製240Sリヤハブ(カーボンハブボディ)
体重制限90kg
シマノフリーボディ・カンパフリーボディ2タイプ
希望小売価格(税込み) 560,000円(FRペア、専用ブレーキシュー付き)
(クリンチャータイプの”ライトウェイトC クリンチャー”は 698,000円)
インプレライダーのプロフィール
仲沢 隆(自転車ジャーナリスト)
ツール・ド・フランスやクラシックレースなどの取材、バイク工房の取材、バイクショーの取材などを通じて、国内外のロードバイク事情に精通する自転車ジャーナリスト。2007年からは大学院にも籍を置き、自転車競技や自転車産業を文化人類学の観点から研究中。
text:仲沢 隆
photo:綾野 真
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