全てはグラベルやパリ〜ルーベに代表される石畳を高速で走破するために。エンヴィから登場した革新的かつ意欲的なカーボンエアロホイール「SES4.5AR DISC」をテストした。リム幅30mmという、ワイドタイヤに最適化したエポックメイキングなホイールの真価とは。



エンヴィ SES4.5AR DISCエンヴィ SES4.5AR DISC photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
アメリカはユタ州に拠を構え、MADE IN USAを貫くカーボン専業ブランドがENVE(エンヴィ)だ。創立2007年とまだ歴史は浅いものの、非常に高精度なカーボン加工技術を駆使して生み出される製品は優れた強度と信頼性が特徴。性能はもとより、洗練されたデザイン、そしてブランドポリシーなどから世界中のコアなサイクリストに支持されるカリスマパーツブランドだ。

特に強度の求められるMTBダウンヒル競技ではシンジケートチームが、軽さも共に求められるクロスカントリーではキャノンデールファクトリーレーシングが長年エンヴィ製品を愛用しており、ロードレースにおいてはディメンションデータをサポート。エアロダイナミクスにも心血を注いでおり、前後でハイトの異なるSES(スマート・エンヴィ・システム)"の採用やワイドリムをいち早く取り入れるなど、大規模ブランドでこそないが、常にホイール界のリーディングブランドとして君臨してきた。

そんなエンヴィにおける最もホットな新製品が、今回インプレッションを行う「SES4.5AR DISC」だ。昨今北米で流行しているグラベルライドなどのクロスオーバーな走りに対応し、かつワイドタイヤを装着した際のエアロ性能に着目したことが特徴で、パリ〜ルーベを想定してディメンションデータと共に開発された意欲作だ。

SES(スマート・エンヴィ・システム)を採用したリム。前後異形フォルムを有するSES(スマート・エンヴィ・システム)を採用したリム。前後異形フォルムを有する スポークホールやバルブホールをリムと同時に成形するため、強度が落ちず高剛性なホイールを組み上げることが可能スポークホールやバルブホールをリムと同時に成形するため、強度が落ちず高剛性なホイールを組み上げることが可能

クリンチャー/チューブレスモデルはフックレス構造が特徴。エンヴィのカーボンテクノロジーが成せる技と言えるだろうクリンチャー/チューブレスモデルはフックレス構造が特徴。エンヴィのカーボンテクノロジーが成せる技と言えるだろう
クリンチャー/チューブレス用、そしてチューブラー用の2タイプが用意されるSES4.5AR DISCだが、なんといっても話題はクリンチャー/チューブレス用モデルが、タイヤのビードを引っかけるビードフックを廃したフックレス構造であることだ。フックを省くことによる軽量化はもちろん、タイヤとリムの密着度を上げることでチューブレス運用時の空気漏れを軽減することなど、様々なメリットがあるがこれらは全て高い成形技術があってこそ成し得ること。

リムはエンヴィの誇る独自のモールド成型技術により製造されている。スポークやバルブホールはドリルによる後加工ではなく最初から成形されておりカーボン繊維が切断されることがないため、スポークホールの周辺強度を増すことができる。これにより、スポークテンションを高く設定することができ、優れた反応性を実現しているのだ。これはエンヴィがパテントを取得している独自技術である。さらに、内圧をかけるためのバルーン(ブラダー)には除去が容易な素材を採用。内面を美しく成形することで不均衡な重量バランスの乱れを抑え、軽量化にも貢献している。

ハブはDTスイスとクリスキングの2種類が選択できる。インプレッションホイールはDTスイス仕様ハブはDTスイスとクリスキングの2種類が選択できる。インプレッションホイールはDTスイス仕様 テストホイールは前後12mmスルーアクスル仕様テストホイールは前後12mmスルーアクスル仕様


名称からも分かる通り、前後で異なるハイト/断面形状を持つSESを導入しており、フロントは49mm、リアは55mmというリムハイト。50mm前後のディープリムだが、横風の影響が最小限となるようそれぞれの形状も最適化されている。リム外幅がフロント31mm、リア30.5mmという超ワイドリムであり、使用推奨タイヤ幅はクリンチャー/チューブレスモデルでは28mm、チューブラーモデルであれば30mmだ。

荒地での走行を前提としたディスクブレーキ対応ホイールでありながら、スポーク本数が24本に抑えられていることもSES4.5AR DISCの特徴。非常に軽量に仕上がり、空気抵抗の削減にも繋がるため、ライバル製品よりも様々な面でメリットが生まれるだろう。

バイクはサーヴェロC5。ディメンションデータの選手たちによる開発と同じ組み合わせだバイクはサーヴェロC5。ディメンションデータの選手たちによる開発と同じ組み合わせだ
圧倒的な存在感を放つ超ワイドリム圧倒的な存在感を放つ超ワイドリム タイヤはマヴィックのYKSION ELITE ALL ROAD(30c)をセットタイヤはマヴィックのYKSION ELITE ALL ROAD(30c)をセット


販売は完組ホイールのみ。DTスイスハブ(セット価格370,000円)もしくはクリスキングハブ(セット価格430,000円)の2種類から選択可能だ。いずれもスルーアクスルに対応しており、今回のインプレッションでははDTスイスハブ組みのクリンチャー/チューブレスモデルを使用した。タイヤはマヴィックのYKSION ELITE ALL ROAD(30c)だ。

荒れ狂う石畳の衝撃に耐え、平坦の舗装路区間を飛ばしに飛ばすパリ〜ルーベで選手を支えるため、そして路面を問わない自由なライドスタイルを求めるホビーユーザーのために生まれたホイールがSES4.5AR DISC。開発段階でディメンションデータの選手が駆ったサーヴェロのエンデュランスバイク、C5に組み合わせてテストを行った。



ー インプレッション

「安心して未舗装路に突っ込めるカーボンホイール」渡辺勇大(GROVE港北)

サーヴェロC5完成車にセットされたホイールから履き替えてのインプレッションになりましたが、明らかに走りのレベルが上ったと体感できるホイールです。ディープリムらしい推進力の高さを持ちつつも、グラベルの走破性も良く、メーカーの意図するところの性能の高さを感じることができました。

「舗装路のペダリングも軽く、登坂時にも重さは感じない」渡辺勇大(GROVE港北)「舗装路のペダリングも軽く、登坂時にも重さは感じない」渡辺勇大(GROVE港北)
ダートを走るために30Cのタイヤの空気圧を3.5気圧くらいまで落として走りましたが、それだけの低気圧でもなお、前に前に進む推進力を持ち合わせています。リムが軽量でディープなためにそういった感触が得られるのでしょう。超ワイドリムでボリューム満点の見た目に反して走りは軽く、登坂も重さは感じませんし、ペダリングがもたつくと言ったマイナス要素を感じる部分はありませんでした。よりレーシーなルックスも獲得できますが、かといって乗り味はレーシングになりすぎない扱いやすさがありますね。

タイヤが太くなったおかげなのか、ハンドルの切れ角が変わり、ダート走行時のハンドリングが良くなったと感じました。MTB用ホイールのリムも作っているエンヴィですから、カーボンリムでもダートの走行に不安感は全くありませんでしたね。グラベルロードでもよりMTBに近い感覚でアクティブな走りができるようになると思います。

「カーボンリムでもダートの走行に不安感は全くありません」渡辺勇大(GROVE港北)「カーボンリムでもダートの走行に不安感は全くありません」渡辺勇大(GROVE港北)
MTBホイールだとカーボンリムは路面からの突き上げがマイルドになり、より攻めた走りができるようになるのですが、それに似た感覚は持っていると感じました。カーボン=弱いというイメージを払拭してくれる製品ですし、気持ちよく進むロードホイールとしての楽しさはもちろん、コーナーを曲がる楽しみも味わわせてくれる、そんなホイールではないでしょうか。

エンヴィ SES4.5AR DISCエンヴィ SES4.5AR DISC photo:MakotoAYANO/cyclowired.jp
エンヴィ SES4.5AR DISC
リム素材:カーボン
リムハイト:フロント49mm、リア55mm
リム外幅:フロント31mm、リア30.5mm
リム重量(クリンチャー):フロント440g、リア450g
ホール数:24
価格:370,000円(DTスイスハブ前後セット)
   430,000円(クリスキングハブ前後セット)



インプレッションライダーのプロフィール

渡辺勇大(GROVE港北)渡辺勇大(GROVE港北) 渡辺勇大(GROVE港北)

横浜市港北区に店舗を構えるGROVE港北の店長。元MTBのダウンヒルプロライダーであり、20年以上に渡ってレース活動を行ってきたベテラン。その経験を活かしトータルとしての乗りやすさを求めるフィッティングやバイクセッティングに定評がある。ロードやMTBなど幅広くスポーツバイクをお客さんと一緒に遊びその楽しさを伝えていくことを大切にしている。愛車はスペシャライズドTarmac S-Works。

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text:So.Isobe
photo:Makoto.Ayano

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