2016/10/13(木) - 01:39
「自分のために作られたようなコース」でトニ・マルティン(ドイツ)が他を圧倒。40kmコースを平均スピード53.671km/hで駆け抜けたジャーマンクロノマンが自身4度目の世界チャンピオンに輝いた。
「世界最速」を決めるエリート男子個人タイムトライアルのスタート地点は、ドーハから20kmほど北上した砂漠の真ん中にあるルサイルのスポーツ複合施設。一帯にはモトGPカタールグランプリの開催地インターナショナルサーキットやスタジアム、射撃場が点在している。
また、2022年に開催されるFIFAワールドカップに向けて収容人数9万人の巨大なスタジアムが近くに建設される予定。現在ドーハとルサイルを結ぶドーハメトロが2019年の開業に向けて建設中だ。
ルサイルから高速道路を南下して人工島「ザ・パール」にフィニッシュするレイアウトは日曜日のチームタイムトライアルと全く同じ。ペルシア湾で水分を吸い込んだ北風が吹いたため、コースの大半は追い風基調というコンディション。気温はこの日も37度まで上昇し、湿度の高さも手伝って茹だるような暑さに包まれた。
レース前半に後続の指標となる暫定トップタイムをマークしたのはライアン・ミューレン(アイルランド)。トラック競技出身で、2015年トラック世界選手権個人追い抜き7位の成績をもつキャノンデール・ドラパック所属の22歳がホットシートに座る。
2014年ロード世界選手権U23タイムトライアルで、わずか0.48秒差でアルカンシェル獲得を逃したミューレン。テイラー・フィニー(アメリカ)やアレックス・ダウセット(イギリス)らを寄せ付けずにトップを維持したが、最終5〜6名の走りが始まるとホットシートでテレビを眺めるその表情は曇った。
ペーター・サガン(スロバキア)とともにティンコフからボーラ・ハンスグローエに移籍するマチェイ・ボドナール(ポーランド)がミューレンのタイムを5秒更新すると、すぐさまヨーロッパTTチャンピオンのヨナタン・カストロビエホ(スペイン)がさらに6秒更新する。優勝候補に挙げられたローハン・デニス(オーストラリア)とトム・ドゥムラン(オランダ)がタイムを伸ばせず苦しむ中、マルティンが快走した。
「絶対的な優勝候補ではなかったし、プレッシャーも少なく、ただレースを楽しんだ」というマルティンは2つの中間計測ポイントでトップタイムを連発。大会連覇を狙う最終走者ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)がマルティンに肉薄するペースを刻んだものの、後半にかけて両者のタイム差は広がっていく。
最終的にマルティンは1分30秒先にスタートしたカストロビエホのすぐ後ろまで迫る走りを見せ、44分42秒の圧倒的なトップタイムを叩き出す。キリエンカが45秒届かずにフィニッシュラインを切ったところでマルティンの優勝が決定。エティックス・クイックステップのスタッフで構成されたドイツ陣営が歓声に包まれた。
「自分のために作られたような平坦コースで、唯一の懸念は暑さだった。でもストーブを焚いた部屋でトレーニングを行い、チームで早めに現地入りして入念に暑さ対策を施したんだ」。3年ぶりにアルカンシェルに袖を通した2011年、2012年、2013年の世界チャンピオンは勝利の秘訣をそう語る。
数年前に取り入れた空力重視のポジションから全盛期の出力重視のポジションに戻したことで、見事復活を遂げたマルティンがチームタイムトライアルに続く金メダル獲得。「まだ信じられない。今シーズンはツキに見放されていたけど、日曜日のチームタイムトライアルで流れが変わった。再び世界タイトルを獲得するなんて驚くべきことだし、これまでの悪い成績を吹き飛ばしてくれる。これが4勝目だけど、勝利数についてこだわりはなくて、来年も再来年も世界タイトルを狙いたい。2年間手元を離れていたアルカンシェルを着て来シーズンを走るのが今から楽しみだ」と、来季カチューシャ・アルペシンで走るTTスペシャリストはコメントしている。ドイツはU23の個人タイムトライアルに続く金メダル獲得を果たし、ロードレースに向けて弾みをつけた。
ロード世界選手権2016エリート男子個人タイムトライアル結果
1位 トニ・マルティン(ドイツ) 44’42”(Ave 53.671km/h)
2位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ) +45”
3位 ヨナタン・カストロビエホ(スペイン) +1’10”
4位 マチェイ・ボドナール(ポーランド) +1’16”
5位 ライアン・ミューレン(アイルランド) +1’21”
6位 ローハン・デニス(オーストラリア) +1’27”
7位 イヴ・ランパート(ベルギー) +1’45”
8位 ヨス・ファンエムデン(オランダ) +1’45”
9位 レト・ホレンシュタイン(スイス) +1’51”
10位 ボブ・ユンヘルス(ルクセンブルク) +1’56”
11位 トム・ドゥムラン(オランダ) +2’01”
12位 アレックス・ダウセット(イギリス) +2’11”
13位 マルティン・マドセン(デンマーク) +2’11”
14位 マルチン・ビアロブロスキ(ポーランド) +2’15”
15位 テイラー・フィニー(アメリカ) +2’21”
中間計測タイム
第1計測(13.6km)
1位 マルティン 16’05”
2位 キリエンカ +03”
3位 ミューレン +08”
4位 ファンエムデン +09”
5位 デニス +11”
6位 カストロビエホ +16”
7位 ランパート +17”
8位 フィニー +18”
9位 ドゥムラン +22”
15位 ビアロブロスキ +38”
17位 ダウセット +38”
23位 ホレンシュタイン +43”
24位 マドセン +44”
未計測 ボドナール
未計測 ユンヘルス
第2計測(26.4km)
1位 マルティン 29’27”
2位 キリエンカ +22”
3位 ファンエムデン +34”
4位 デニス +35”
5位 ミューレン +36”
6位 カストロビエホ +38”
7位 ボドナール +47”
8位 フィニー +48”
9位 ランパート +49”
10位 ドゥムラン +56”
11位 ホレンシュタイン+1’00”
12位 ビアロブロスキ +1’07”
14位 ユンヘルス +1’10”
15位 ダウセット +1’12”
20位 マドセン +1’25”
フィニッシュ(40km)
1位 マルティン 44’42”
2位 キリエンカ +45”
3位 カストロビエホ +1’10”
4位 ボドナール +1’16”
5位 ミューレン +1’21”
6位 デニス +1’27”
7位 ランパート +1’45”
8位 ファンエムデン +1’45”
9位 ホレンシュタイン +1’51”
10位 ユンヘルス +1’56”
11位 ドゥムラン +2’01”
12位 ダウセット +2’11”
13位 マドセン +2’11”
14位 ビアロブロスキ +2’15”
15位 フィニー +2’21”
text&photo:Kei Tsuji in Doha, Qatar
「世界最速」を決めるエリート男子個人タイムトライアルのスタート地点は、ドーハから20kmほど北上した砂漠の真ん中にあるルサイルのスポーツ複合施設。一帯にはモトGPカタールグランプリの開催地インターナショナルサーキットやスタジアム、射撃場が点在している。
また、2022年に開催されるFIFAワールドカップに向けて収容人数9万人の巨大なスタジアムが近くに建設される予定。現在ドーハとルサイルを結ぶドーハメトロが2019年の開業に向けて建設中だ。
ルサイルから高速道路を南下して人工島「ザ・パール」にフィニッシュするレイアウトは日曜日のチームタイムトライアルと全く同じ。ペルシア湾で水分を吸い込んだ北風が吹いたため、コースの大半は追い風基調というコンディション。気温はこの日も37度まで上昇し、湿度の高さも手伝って茹だるような暑さに包まれた。
レース前半に後続の指標となる暫定トップタイムをマークしたのはライアン・ミューレン(アイルランド)。トラック競技出身で、2015年トラック世界選手権個人追い抜き7位の成績をもつキャノンデール・ドラパック所属の22歳がホットシートに座る。
2014年ロード世界選手権U23タイムトライアルで、わずか0.48秒差でアルカンシェル獲得を逃したミューレン。テイラー・フィニー(アメリカ)やアレックス・ダウセット(イギリス)らを寄せ付けずにトップを維持したが、最終5〜6名の走りが始まるとホットシートでテレビを眺めるその表情は曇った。
ペーター・サガン(スロバキア)とともにティンコフからボーラ・ハンスグローエに移籍するマチェイ・ボドナール(ポーランド)がミューレンのタイムを5秒更新すると、すぐさまヨーロッパTTチャンピオンのヨナタン・カストロビエホ(スペイン)がさらに6秒更新する。優勝候補に挙げられたローハン・デニス(オーストラリア)とトム・ドゥムラン(オランダ)がタイムを伸ばせず苦しむ中、マルティンが快走した。
「絶対的な優勝候補ではなかったし、プレッシャーも少なく、ただレースを楽しんだ」というマルティンは2つの中間計測ポイントでトップタイムを連発。大会連覇を狙う最終走者ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ)がマルティンに肉薄するペースを刻んだものの、後半にかけて両者のタイム差は広がっていく。
最終的にマルティンは1分30秒先にスタートしたカストロビエホのすぐ後ろまで迫る走りを見せ、44分42秒の圧倒的なトップタイムを叩き出す。キリエンカが45秒届かずにフィニッシュラインを切ったところでマルティンの優勝が決定。エティックス・クイックステップのスタッフで構成されたドイツ陣営が歓声に包まれた。
「自分のために作られたような平坦コースで、唯一の懸念は暑さだった。でもストーブを焚いた部屋でトレーニングを行い、チームで早めに現地入りして入念に暑さ対策を施したんだ」。3年ぶりにアルカンシェルに袖を通した2011年、2012年、2013年の世界チャンピオンは勝利の秘訣をそう語る。
数年前に取り入れた空力重視のポジションから全盛期の出力重視のポジションに戻したことで、見事復活を遂げたマルティンがチームタイムトライアルに続く金メダル獲得。「まだ信じられない。今シーズンはツキに見放されていたけど、日曜日のチームタイムトライアルで流れが変わった。再び世界タイトルを獲得するなんて驚くべきことだし、これまでの悪い成績を吹き飛ばしてくれる。これが4勝目だけど、勝利数についてこだわりはなくて、来年も再来年も世界タイトルを狙いたい。2年間手元を離れていたアルカンシェルを着て来シーズンを走るのが今から楽しみだ」と、来季カチューシャ・アルペシンで走るTTスペシャリストはコメントしている。ドイツはU23の個人タイムトライアルに続く金メダル獲得を果たし、ロードレースに向けて弾みをつけた。
ロード世界選手権2016エリート男子個人タイムトライアル結果
1位 トニ・マルティン(ドイツ) 44’42”(Ave 53.671km/h)
2位 ヴァシル・キリエンカ(ベラルーシ) +45”
3位 ヨナタン・カストロビエホ(スペイン) +1’10”
4位 マチェイ・ボドナール(ポーランド) +1’16”
5位 ライアン・ミューレン(アイルランド) +1’21”
6位 ローハン・デニス(オーストラリア) +1’27”
7位 イヴ・ランパート(ベルギー) +1’45”
8位 ヨス・ファンエムデン(オランダ) +1’45”
9位 レト・ホレンシュタイン(スイス) +1’51”
10位 ボブ・ユンヘルス(ルクセンブルク) +1’56”
11位 トム・ドゥムラン(オランダ) +2’01”
12位 アレックス・ダウセット(イギリス) +2’11”
13位 マルティン・マドセン(デンマーク) +2’11”
14位 マルチン・ビアロブロスキ(ポーランド) +2’15”
15位 テイラー・フィニー(アメリカ) +2’21”
中間計測タイム
第1計測(13.6km)
1位 マルティン 16’05”
2位 キリエンカ +03”
3位 ミューレン +08”
4位 ファンエムデン +09”
5位 デニス +11”
6位 カストロビエホ +16”
7位 ランパート +17”
8位 フィニー +18”
9位 ドゥムラン +22”
15位 ビアロブロスキ +38”
17位 ダウセット +38”
23位 ホレンシュタイン +43”
24位 マドセン +44”
未計測 ボドナール
未計測 ユンヘルス
第2計測(26.4km)
1位 マルティン 29’27”
2位 キリエンカ +22”
3位 ファンエムデン +34”
4位 デニス +35”
5位 ミューレン +36”
6位 カストロビエホ +38”
7位 ボドナール +47”
8位 フィニー +48”
9位 ランパート +49”
10位 ドゥムラン +56”
11位 ホレンシュタイン+1’00”
12位 ビアロブロスキ +1’07”
14位 ユンヘルス +1’10”
15位 ダウセット +1’12”
20位 マドセン +1’25”
フィニッシュ(40km)
1位 マルティン 44’42”
2位 キリエンカ +45”
3位 カストロビエホ +1’10”
4位 ボドナール +1’16”
5位 ミューレン +1’21”
6位 デニス +1’27”
7位 ランパート +1’45”
8位 ファンエムデン +1’45”
9位 ホレンシュタイン +1’51”
10位 ユンヘルス +1’56”
11位 ドゥムラン +2’01”
12位 ダウセット +2’11”
13位 マドセン +2’11”
14位 ビアロブロスキ +2’15”
15位 フィニー +2’21”
text&photo:Kei Tsuji in Doha, Qatar
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