2016/09/28(水) - 13:22
ブエルタ・ア・エスパーニャでの敢闘賞が記憶にも新しい別府史之(トレック・セガフレード)が帰国。各地のイベントに参加する多忙の合間を縫ってシクロワイアードのインタビューに応えてくれた。今シーズン、12年に及ぶプロキャリア、そして来年のことを語ってくれた。
1月のアジア選手権を皮切りに2016年シーズンをスタートさせた別府史之。ヘラルド・サンツアーやパリ~ニース、春のクラシック、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネなどのビッグレースに続けて出場し、少しのブレイクタイムを挟み、クラシカ・サンセバスチャンや初となるブエルタ・ア・エスパーニャを走ってきた。
現在「フミ」は33歳。12年という長いプロキャリアの中で、5大クラシックレース「モニュメント」の全てと、ジロ・ツール・ブエルタとグランツールの全てに出場、完走という足跡を残したことになる。ツール・ド・東北とツール・ド・三陸にゲストライダーとして参加するために帰国した彼に、これまでのシーズンと、キャリア全体のこと、そして直近のレースや、来年のことを語ってもらった。
ー2016年のここまではどのようなシーズンでしたか?
今シーズンはパーソナルトレーナーがかつてのマペイ出身の方に変わり、春先から良いコンディションでシーズンに入ることができました。ヨーロッパのレースシーンでは、春のクラシックとジロ、ツール、ブエルタと主要レースがありますが、今年の後半はブエルタにコンディションを合わせてきたんです。
ブエルタは総合を狙う絶対的なエースがチーム内にいなかったので、自分の役割をこなしつつ、比較的自由に動けたレースでした。割と羽根を伸ばして楽しく走ることができたので、自分らしさを取り戻せたかな、と感じましたね。その中で敢闘賞を取って、自分の走りが評価してもらえたり、多くの人に祝っていただいたことは素直に嬉しいです。ただ、自分が目標としていたものは違うことだったので悔しさも感じています。やはり欲しいのはステージ優勝です。
ブエルタはどのグランツールよりも走りやすかったですよ。みんな揃ってコースがキツいといいますが、総合を狙っているわけではないので、そこまでハードと感じませんでしたね。ジロのほうがよっぽどタフなレースです。12年間、プロ選手として走ってきてブエルタだけ出場していなかったから、実は去年から走りたいと思っていたんですよ。
今回、ブエルタに出場したことで、クラシックのモニュメントとグランツールの全てを走ったことになります。今のプロトンには、モニュメントとグランツール全てに出場した選手はほぼいません。僕は、ただ完走を目的として走るのではなく、プロとして仕事をこなしながら走り続けているので、今回の結果は1つの証となるのかなと思います。
ーキャリアを重ねてきて感じることはありますか?
チーム監督のルカ(グエルチレーナ氏)が「プロ選手の平均寿命は6年だ」と言っていました。じつは選手生命はそれぐらい短いんです。大物若手選手がチームに加入しても、契約が大きすぎて、すぐにクビになってしまうこともあります。10年走っている選手はプロトンでも稀で、僕は12年も続けてこれているし、それだけの経験を積んでいると感じています。今回のブエルタもタフなレースでしたが、経験を活かして戦えているのかなと、走り終えて思いましたね。
経験もない若い頃は、怖いもの知らずと言うか、ガツガツしていた部分があったかもしれもせん。例えば、アタックして攻めることはリスクが大きいけど、でも勝つチャンスでもあります。若い選手なら後先考えず攻めてしまうかもしれません。でも、経験を積むと自分の力をセーブしながら、どうやったら上手くチャンスに繋げられるのか、自分が勝てるのかを考えるようになる。そういう若手との違いがあるのかなと思います。
生活面でも長年ヨーロッパに住み続け、飛行機のトラブルとかに巻き込まれても全然問題だと思わなくなりました。プロ選手は自転車に乗るだけではなく、身の回りのことも自分でやらなければなりません。自転車を通して人間的に、プロ選手として大きくなれたのかなと。
そういうことを踏まえていくと、徐々に不安要素が少なくなります。1つ怖いのは、慣れたがゆえに一歩引いてしまうこと。プロ根性の攻める姿勢と言うか、そこは大切にしていかないといけないと感じています。
ーキャリア通して大きな怪我が少ない気がしますが
いろいろな国に落車で剥がれた皮膚は置いてきています(笑)。それでも落車も少ない方ですが、こういうことを言うと転んでしまうから余り口にしたくないですね...(笑)。でも確かに大きな怪我はありません。だからこうして長い間プロ選手を続けられているし、幸せなことと感じています。
プロ選手としては落車しない才能も持っていないといけないんですよ。僕は昔からマウンテンバイクやBMX、一輪車まで車輪がつくものを乗りこなしてきたのですが、その好影響があると思います。転ぶことも考えて柔道の受け身を練習したこともあるんですが、落車の時は助けになっていると思いますよ。
昔話つながりですが、ヨーロッパに渡る前には栄養のことを独学で勉強し、食事に取り入れていました。世界史や日本史とかもよく勉強して、世界で何が起こったのかを頭にいれたし、日本で起こったことを尋ねられた時に答えられるようにしましたね。もちろん英語の勉強は小さい頃から行っていましたよ。
ーありがとうございます。今シーズンの残りの予定を教えてください。
まずこの後は世界選手権に参戦します。今年はカタールのドーハで行われる平坦基調のレースなので、脚質的に僕の得意分野です。モチベーションは高く、ブエルタで走り込んでいるのでコンディションも良好だと感じています。今はブエルタでの疲れを抜くためにブレイクタイム中ですが、この後トレーニングを集中して行えばバッチリ体調をあわせられるはずです。
世界選手権の後はジャパンカップです。今年もトレック・セガフレードのワールドツアーチームとしての力を見せつけられたら良いなと思います。
ー最後に来年のことを教えていただけますか。
まず、トレック・セガフレードと再来年までの2年契約を結びました。今33歳なので、35歳までトレック・セガフレードの選手ということですね。そして、来年からアルベルト・コンタドールがチームに加入します。アルベルトは2007年のディスカバリーチャンネルでチームメイトだったし、レース中も話す選手です。彼はスペインのヒーローですし、全世界的にもアルベルト・コンタドールのネームバリューは高く、数少ないスター選手の1人ですよ。そんな大型選手がチームに加入すると、イメージは大きく変わるでしょう。
アルベルトは性格上、出るレースはどれでも負けられないんです。そのためにアシストを使うので、レースの展開が難しくなると感じています。でも、それは割り切るので、アルベルトが結果を出してくれればチームとしては良い状態になると思います。
interview&photo:Makoto.AYANO
1月のアジア選手権を皮切りに2016年シーズンをスタートさせた別府史之。ヘラルド・サンツアーやパリ~ニース、春のクラシック、クリテリウム・ドゥ・ドーフィネなどのビッグレースに続けて出場し、少しのブレイクタイムを挟み、クラシカ・サンセバスチャンや初となるブエルタ・ア・エスパーニャを走ってきた。
現在「フミ」は33歳。12年という長いプロキャリアの中で、5大クラシックレース「モニュメント」の全てと、ジロ・ツール・ブエルタとグランツールの全てに出場、完走という足跡を残したことになる。ツール・ド・東北とツール・ド・三陸にゲストライダーとして参加するために帰国した彼に、これまでのシーズンと、キャリア全体のこと、そして直近のレースや、来年のことを語ってもらった。
ー2016年のここまではどのようなシーズンでしたか?
今シーズンはパーソナルトレーナーがかつてのマペイ出身の方に変わり、春先から良いコンディションでシーズンに入ることができました。ヨーロッパのレースシーンでは、春のクラシックとジロ、ツール、ブエルタと主要レースがありますが、今年の後半はブエルタにコンディションを合わせてきたんです。
ブエルタは総合を狙う絶対的なエースがチーム内にいなかったので、自分の役割をこなしつつ、比較的自由に動けたレースでした。割と羽根を伸ばして楽しく走ることができたので、自分らしさを取り戻せたかな、と感じましたね。その中で敢闘賞を取って、自分の走りが評価してもらえたり、多くの人に祝っていただいたことは素直に嬉しいです。ただ、自分が目標としていたものは違うことだったので悔しさも感じています。やはり欲しいのはステージ優勝です。
ブエルタはどのグランツールよりも走りやすかったですよ。みんな揃ってコースがキツいといいますが、総合を狙っているわけではないので、そこまでハードと感じませんでしたね。ジロのほうがよっぽどタフなレースです。12年間、プロ選手として走ってきてブエルタだけ出場していなかったから、実は去年から走りたいと思っていたんですよ。
今回、ブエルタに出場したことで、クラシックのモニュメントとグランツールの全てを走ったことになります。今のプロトンには、モニュメントとグランツール全てに出場した選手はほぼいません。僕は、ただ完走を目的として走るのではなく、プロとして仕事をこなしながら走り続けているので、今回の結果は1つの証となるのかなと思います。
ーキャリアを重ねてきて感じることはありますか?
チーム監督のルカ(グエルチレーナ氏)が「プロ選手の平均寿命は6年だ」と言っていました。じつは選手生命はそれぐらい短いんです。大物若手選手がチームに加入しても、契約が大きすぎて、すぐにクビになってしまうこともあります。10年走っている選手はプロトンでも稀で、僕は12年も続けてこれているし、それだけの経験を積んでいると感じています。今回のブエルタもタフなレースでしたが、経験を活かして戦えているのかなと、走り終えて思いましたね。
経験もない若い頃は、怖いもの知らずと言うか、ガツガツしていた部分があったかもしれもせん。例えば、アタックして攻めることはリスクが大きいけど、でも勝つチャンスでもあります。若い選手なら後先考えず攻めてしまうかもしれません。でも、経験を積むと自分の力をセーブしながら、どうやったら上手くチャンスに繋げられるのか、自分が勝てるのかを考えるようになる。そういう若手との違いがあるのかなと思います。
生活面でも長年ヨーロッパに住み続け、飛行機のトラブルとかに巻き込まれても全然問題だと思わなくなりました。プロ選手は自転車に乗るだけではなく、身の回りのことも自分でやらなければなりません。自転車を通して人間的に、プロ選手として大きくなれたのかなと。
そういうことを踏まえていくと、徐々に不安要素が少なくなります。1つ怖いのは、慣れたがゆえに一歩引いてしまうこと。プロ根性の攻める姿勢と言うか、そこは大切にしていかないといけないと感じています。
ーキャリア通して大きな怪我が少ない気がしますが
いろいろな国に落車で剥がれた皮膚は置いてきています(笑)。それでも落車も少ない方ですが、こういうことを言うと転んでしまうから余り口にしたくないですね...(笑)。でも確かに大きな怪我はありません。だからこうして長い間プロ選手を続けられているし、幸せなことと感じています。
プロ選手としては落車しない才能も持っていないといけないんですよ。僕は昔からマウンテンバイクやBMX、一輪車まで車輪がつくものを乗りこなしてきたのですが、その好影響があると思います。転ぶことも考えて柔道の受け身を練習したこともあるんですが、落車の時は助けになっていると思いますよ。
昔話つながりですが、ヨーロッパに渡る前には栄養のことを独学で勉強し、食事に取り入れていました。世界史や日本史とかもよく勉強して、世界で何が起こったのかを頭にいれたし、日本で起こったことを尋ねられた時に答えられるようにしましたね。もちろん英語の勉強は小さい頃から行っていましたよ。
ーありがとうございます。今シーズンの残りの予定を教えてください。
まずこの後は世界選手権に参戦します。今年はカタールのドーハで行われる平坦基調のレースなので、脚質的に僕の得意分野です。モチベーションは高く、ブエルタで走り込んでいるのでコンディションも良好だと感じています。今はブエルタでの疲れを抜くためにブレイクタイム中ですが、この後トレーニングを集中して行えばバッチリ体調をあわせられるはずです。
世界選手権の後はジャパンカップです。今年もトレック・セガフレードのワールドツアーチームとしての力を見せつけられたら良いなと思います。
ー最後に来年のことを教えていただけますか。
まず、トレック・セガフレードと再来年までの2年契約を結びました。今33歳なので、35歳までトレック・セガフレードの選手ということですね。そして、来年からアルベルト・コンタドールがチームに加入します。アルベルトは2007年のディスカバリーチャンネルでチームメイトだったし、レース中も話す選手です。彼はスペインのヒーローですし、全世界的にもアルベルト・コンタドールのネームバリューは高く、数少ないスター選手の1人ですよ。そんな大型選手がチームに加入すると、イメージは大きく変わるでしょう。
アルベルトは性格上、出るレースはどれでも負けられないんです。そのためにアシストを使うので、レースの展開が難しくなると感じています。でも、それは割り切るので、アルベルトが結果を出してくれればチームとしては良い状態になると思います。
interview&photo:Makoto.AYANO
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