2009/02/26(木) - 23:33
最終回はフロントチェーンホイール FC-7900とフロントディレイラー FD-7900を取り上げる。コンポのなかでも心臓部と言える駆動系周り。「79デュラの中で最も素晴らしいパーツ」と西谷さんは高く評価する。
FC-7900で最も注目すべき点は、世界で初めて「中空チェーンリング」を採用したことだ。「中空クランク」というのは今や珍しくなくなったが、中空チェーンリングである!
もちろんこの中空チェーンリングは、カタログを飾るための見かけ倒しの技術ではない。より軽く・より強くという理想を追求した結果だ。そして、その製法も実にオリジナリティに溢れている。何と2枚のアルミ部材を接着により貼り合わせて、中空構造を形成しているのである。
接着というと「剥がれたりしないの?」と思われるかもしれないが、心配ご無用。今や接着技術は航空機や人工衛星などにも広く使われており、場合によっては溶接をもしのぐ強さを持っているのである。そんな最先端技術を自転車パーツに取り入れたシマノは、やはりスゴイと言わざるを得ない。STIレバーやデュアルピボットブレーキ、SGXチェーンリング、HGギヤなどの例を挙げるまでもなく、今や自転車パーツの技術革新はシマノが完全に世界をリードしているのだ。
この中空構造によって、チェーンリングの剛性は20%もアップしているという。これまでのFC-7800のチェーンリングも高い剛性を誇る製品として知られていたが、さらに20%の剛性アップであるから、その踏んだときのカッチリ感がアップしたことは想像に難くない。
さらに、クランクも素材を極限までそぎ落として軽量化を追求。また、BBシャフトもスチールながら超肉薄となっており、こちらもさらなる軽量化を実現している。重量は725g(170mm、53×39T)で、FC-7800の740gよりも15gもの軽量化を実現している。
この725gというのは、カンパニョーロ・レコードの692g(ウルトラトルクカーボンクランク643g+BBカップ49g)に迫る軽さであり、スラム・レッドの760gを凌駕している。アルミでそれを実現してしまうのがシマノの技術力だ。もちろん、剛性感の高さは他の追随を許さない。世界最高のアルミ冷間鍛造技術を持つシマノの面目躍如といったところだろう。
歯数構成も極めて豊富。53-42T、52-39T、53-39T、54-42T、55-42T、56-44Tの6種類が用意されるのだ。さらに、デュラエースではこれまでラインナップされていなかったコンパクトドライブクランクもラインナップされるようになった。ヒルクライム派や大きなギヤのいらないアンチレース派には朗報だ。型番はFC-7950で、歯数は50×34Tのみ。
フロントディレイラーも大幅な改良が行われている。何と「トリム操作」が不要になったのだ。
「トリム操作」とは、フロントがアウターギヤでリアがローギヤ近くにかかっている時、チェーンがフロントディレイラーに当たるようになってしまうため、ガイドプレートを少しだけインナー側に寄せる操作のこと。これまでは、デュアルコントロールレバーの内側のレバーを軽く押すことによってそれが行われていたが、初心者の中にはこれを苦手としている人も多かった。「レバーを強く押してしまい、チェーンをインナーに落としやすい」という意見があったのだ。
トリム操作を不要にするために、フロントのギヤ間隔とフロントディレイラーのガイドプレート幅がほんの少しだけ広げられた。そのため、FC-7900にはFD-7900を組み合わせなければならず、7800系との混用は基本的に不可能だ。これまで互換性にこだわってきたシマノとしては大変な決断だったと思うが、そこまでやった価値は多いにある。トリム操作を不要にしたということは、初心者はもちろんのこと、ベテランライダーにとっても、よりライディングに集中できるということを意味しているからだ。
もちろん、この変更はプロ選手にも大好評で、昨年のツールでインタビューしたファンアントニオ・フレチャ(スペイン、ラボバンク)などは、「とにかく素晴らしいコンポーネントだ。何も気にせずにライディングに集中できるんだから最高さ。もう前のモデルには戻れないね」と絶賛していた。
FD-7900はこの他にも、バネ力を最適化してシフトダウン操作が軽くなっており、よりスムースな変速を可能にしている。キャパシティは16T、重量は67g(直付タイプ)と超軽量だ。
さて、パーツの関する解説はこれくらいにして、さっそく「日本最速の店長」西谷雅史さんのインプレッションをご紹介しよう!
西谷 雅史(サイクルポイント・オーベスト店長)
自信を持って断言しよう。フロントチェーンホイール FC-7900は79デュラ(7900系デュラエース)の中で最も素晴らしいパーツだ! とにかく踏んだ時のカッチリとした感覚が素晴らしく、まったくパワーロスなく踏力を推進力に変換してくれる。手間を掛けて中空チェーンリングを作った価値は十分にあると言えるだろう。
これまで使っていた78デュラのクランクFC-7800もカッチリとした踏み味ですばらしかったが、FC-7900を使うと「78デュラにもたわみによるパワーロスがあったんだなぁ」とわかる。個人的には他のクランクは今すぐすべて捨ててしまってもまったく惜しくない。それほどまでに、このクランクには惚れ込んでしまった。
FC-7900に比べたら、他社製カーボンクランクなんてまるでオモチャだ。やっぱりクランクはアルミに限る。おまけに重量的にも軽いのであるから、わざわざカーボンを使う理由はないと言えるだろう。「たわむクランクが好き」だとか、「カーボンの質感が好みだ」などという理由があるならともかく、レースで使うならこれ以上のクランクは現在ほかにない。
また、79デュラになってコンパクトクランクが追加されたのはポイントが高い。私はPCD130mmのノーマルサイズを使っているが、お客さんの中には「コンパクトが使いたい」という人も多いので、私としてもアドバイスしやすくなった。
最初、私はクランクのみFC-7800を残して、デュアルコントロールレバー、チェーン、フロントディレイラーだけを79デュラに交換して試してみた。シマノの説明書によると「本来の変速性能が得られないかもしれないが、とりあえずは使える組み合わせ」となっていたからだ。
しかし結論から言うと、この組み合わせはイマイチだった。インナーからアウターに変速する時、レバーを思いっきり引き上げないと、まれにアウターにかからないことがあったのだ。78デュラの時はかなりいい加減にレバーを引き上げてもちゃんと変速してくれたので、「これは変速性能が落ちたのでは?」と最初は思ってしまったほどだ。
しかし、クランクも79デュラに変えてみたら、この印象は一変した。まったくシフトミスすることなく、ちゃんとスピーディーにアウターへ上がってくれるのである。やはり79デュラは専用設計されているだけのことはある。トータルで使って100%の性能を発揮するのだ。
シフトダウンも素晴らしい。78デュラよりさらに軽く、そしてスピーディーにインナーへと落ちてくれる。急な上りに差しかかって、急いでシフトダウンしたい時など、79デュラは圧倒的なアドバンテージになるだろう。
いうまでもなく、トリム操作が必要なくなったのは、レース派にとってありがたいことだ。何といっても、ライディングに集中できるのが素晴らしい。これまでトリム操作が面倒だど感じたことはなかったが、いったん79デュラを使ってしまうともうダメだ。トリム操作が面倒に感じるようになってしまった。
繰り返すようだが、とにかくこのクランク、チェーンリングの剛性感、そしてフロントディレイラーの変速性能は素晴らしい! もう私は他の製品を使う気はない。レースで使うなら、絶対に79デュラだ。
もし予算が許すようなら、一刻も早くフルセットで79デュラを使うことをオススメしたい。予算的に厳しい場合は、まずクランクとフロントディレイラーとチェーンを79デュラにしよう。とにかく、この部分が一番進化しているので、誰が使ってもその素晴らしさを堪能できるハズだ。
インプレライダーのプロフィール
にしたに・まさふみ。東京・調布にあるロードバイク系プロショップ「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、各レースで活躍中。ツール・ド・おきなわ市民200km、ジャパンカップアマチュアレースなどで優勝経験を持つ。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに、「日本最速の店長」だ!
サイクルポイントオーベスト
photo&text: 仲沢 隆
photo:シマノ,綾野 真
中空チェーンリングを採用
FC-7900で最も注目すべき点は、世界で初めて「中空チェーンリング」を採用したことだ。「中空クランク」というのは今や珍しくなくなったが、中空チェーンリングである!
もちろんこの中空チェーンリングは、カタログを飾るための見かけ倒しの技術ではない。より軽く・より強くという理想を追求した結果だ。そして、その製法も実にオリジナリティに溢れている。何と2枚のアルミ部材を接着により貼り合わせて、中空構造を形成しているのである。
接着というと「剥がれたりしないの?」と思われるかもしれないが、心配ご無用。今や接着技術は航空機や人工衛星などにも広く使われており、場合によっては溶接をもしのぐ強さを持っているのである。そんな最先端技術を自転車パーツに取り入れたシマノは、やはりスゴイと言わざるを得ない。STIレバーやデュアルピボットブレーキ、SGXチェーンリング、HGギヤなどの例を挙げるまでもなく、今や自転車パーツの技術革新はシマノが完全に世界をリードしているのだ。
この中空構造によって、チェーンリングの剛性は20%もアップしているという。これまでのFC-7800のチェーンリングも高い剛性を誇る製品として知られていたが、さらに20%の剛性アップであるから、その踏んだときのカッチリ感がアップしたことは想像に難くない。
カーボンクランクをも凌駕する軽さ!
さらに、クランクも素材を極限までそぎ落として軽量化を追求。また、BBシャフトもスチールながら超肉薄となっており、こちらもさらなる軽量化を実現している。重量は725g(170mm、53×39T)で、FC-7800の740gよりも15gもの軽量化を実現している。
この725gというのは、カンパニョーロ・レコードの692g(ウルトラトルクカーボンクランク643g+BBカップ49g)に迫る軽さであり、スラム・レッドの760gを凌駕している。アルミでそれを実現してしまうのがシマノの技術力だ。もちろん、剛性感の高さは他の追随を許さない。世界最高のアルミ冷間鍛造技術を持つシマノの面目躍如といったところだろう。
歯数構成も極めて豊富。53-42T、52-39T、53-39T、54-42T、55-42T、56-44Tの6種類が用意されるのだ。さらに、デュラエースではこれまでラインナップされていなかったコンパクトドライブクランクもラインナップされるようになった。ヒルクライム派や大きなギヤのいらないアンチレース派には朗報だ。型番はFC-7950で、歯数は50×34Tのみ。
トリム操作が不要になった
フロントディレイラーも大幅な改良が行われている。何と「トリム操作」が不要になったのだ。
「トリム操作」とは、フロントがアウターギヤでリアがローギヤ近くにかかっている時、チェーンがフロントディレイラーに当たるようになってしまうため、ガイドプレートを少しだけインナー側に寄せる操作のこと。これまでは、デュアルコントロールレバーの内側のレバーを軽く押すことによってそれが行われていたが、初心者の中にはこれを苦手としている人も多かった。「レバーを強く押してしまい、チェーンをインナーに落としやすい」という意見があったのだ。
トリム操作を不要にするために、フロントのギヤ間隔とフロントディレイラーのガイドプレート幅がほんの少しだけ広げられた。そのため、FC-7900にはFD-7900を組み合わせなければならず、7800系との混用は基本的に不可能だ。これまで互換性にこだわってきたシマノとしては大変な決断だったと思うが、そこまでやった価値は多いにある。トリム操作を不要にしたということは、初心者はもちろんのこと、ベテランライダーにとっても、よりライディングに集中できるということを意味しているからだ。
もちろん、この変更はプロ選手にも大好評で、昨年のツールでインタビューしたファンアントニオ・フレチャ(スペイン、ラボバンク)などは、「とにかく素晴らしいコンポーネントだ。何も気にせずにライディングに集中できるんだから最高さ。もう前のモデルには戻れないね」と絶賛していた。
FD-7900はこの他にも、バネ力を最適化してシフトダウン操作が軽くなっており、よりスムースな変速を可能にしている。キャパシティは16T、重量は67g(直付タイプ)と超軽量だ。
さて、パーツの関する解説はこれくらいにして、さっそく「日本最速の店長」西谷雅史さんのインプレッションをご紹介しよう!
インプレッション
西谷 雅史(サイクルポイント・オーベスト店長)
79デュラの中で最も素晴らしいパーツ
自信を持って断言しよう。フロントチェーンホイール FC-7900は79デュラ(7900系デュラエース)の中で最も素晴らしいパーツだ! とにかく踏んだ時のカッチリとした感覚が素晴らしく、まったくパワーロスなく踏力を推進力に変換してくれる。手間を掛けて中空チェーンリングを作った価値は十分にあると言えるだろう。
これまで使っていた78デュラのクランクFC-7800もカッチリとした踏み味ですばらしかったが、FC-7900を使うと「78デュラにもたわみによるパワーロスがあったんだなぁ」とわかる。個人的には他のクランクは今すぐすべて捨ててしまってもまったく惜しくない。それほどまでに、このクランクには惚れ込んでしまった。
FC-7900に比べたら、他社製カーボンクランクなんてまるでオモチャだ。やっぱりクランクはアルミに限る。おまけに重量的にも軽いのであるから、わざわざカーボンを使う理由はないと言えるだろう。「たわむクランクが好き」だとか、「カーボンの質感が好みだ」などという理由があるならともかく、レースで使うならこれ以上のクランクは現在ほかにない。
また、79デュラになってコンパクトクランクが追加されたのはポイントが高い。私はPCD130mmのノーマルサイズを使っているが、お客さんの中には「コンパクトが使いたい」という人も多いので、私としてもアドバイスしやすくなった。
変速性能も素晴らしい
最初、私はクランクのみFC-7800を残して、デュアルコントロールレバー、チェーン、フロントディレイラーだけを79デュラに交換して試してみた。シマノの説明書によると「本来の変速性能が得られないかもしれないが、とりあえずは使える組み合わせ」となっていたからだ。
しかし結論から言うと、この組み合わせはイマイチだった。インナーからアウターに変速する時、レバーを思いっきり引き上げないと、まれにアウターにかからないことがあったのだ。78デュラの時はかなりいい加減にレバーを引き上げてもちゃんと変速してくれたので、「これは変速性能が落ちたのでは?」と最初は思ってしまったほどだ。
しかし、クランクも79デュラに変えてみたら、この印象は一変した。まったくシフトミスすることなく、ちゃんとスピーディーにアウターへ上がってくれるのである。やはり79デュラは専用設計されているだけのことはある。トータルで使って100%の性能を発揮するのだ。
シフトダウンも素晴らしい。78デュラよりさらに軽く、そしてスピーディーにインナーへと落ちてくれる。急な上りに差しかかって、急いでシフトダウンしたい時など、79デュラは圧倒的なアドバンテージになるだろう。
いうまでもなく、トリム操作が必要なくなったのは、レース派にとってありがたいことだ。何といっても、ライディングに集中できるのが素晴らしい。これまでトリム操作が面倒だど感じたことはなかったが、いったん79デュラを使ってしまうともうダメだ。トリム操作が面倒に感じるようになってしまった。
まずはフロント変速系を79デュラに!
繰り返すようだが、とにかくこのクランク、チェーンリングの剛性感、そしてフロントディレイラーの変速性能は素晴らしい! もう私は他の製品を使う気はない。レースで使うなら、絶対に79デュラだ。
もし予算が許すようなら、一刻も早くフルセットで79デュラを使うことをオススメしたい。予算的に厳しい場合は、まずクランクとフロントディレイラーとチェーンを79デュラにしよう。とにかく、この部分が一番進化しているので、誰が使ってもその素晴らしさを堪能できるハズだ。
インプレライダーのプロフィール
西谷雅史(サイクルポイントオーベスト)
にしたに・まさふみ。東京・調布にあるロードバイク系プロショップ「サイクルポイント オーベスト」店長。チームオーベストを率い、各レースで活躍中。ツール・ド・おきなわ市民200km、ジャパンカップアマチュアレースなどで優勝経験を持つ。2007年の実業団小川大会では、シマノの野寺秀徳、狩野智也を抑えて優勝している。まさに、「日本最速の店長」だ!
サイクルポイントオーベスト
photo&text: 仲沢 隆
photo:シマノ,綾野 真