2015/11/22(日) - 12:08
トレックの旗艦モデルとして輝かしい戦歴を残してきた「Madone」がフルモデルチェンジ。各部のインテグレーテッド設計や、ワイヤーのフル内蔵化などによりエアロを追求した一方で、IsoSpeedテクノロジーにより優れた快適性までをも手に入れた2016年最注目の1台をテストした。
フランス南部のニース郊外に位置し、ツール・ド・フランスの勝負所の1つである全長12kmの1級山岳が「コル・デ・ラ・マドン=マドン峠」。その名を冠したのが、トレック不動のレーシングバイクであり、フルモデルチェンジによって同社初の本格的なエアロロードとなった「Madone」だ。
軽量クライミングバイクとして2004年デビューしてから数えて6代目。元々の位置づけを「Emonda」に明け渡した「Madone」が次に目指したのが「ただエアロのみを追求しただけではなく、最高の快適性を備えたエアロロード」である。日本人エンジニアの鈴木未央氏をはじめとした150人もの技術者が携わった大規模な研究開発では、100台ものプロトタイプを用いて細部に渡って性能を追求。その結果生み出されたのは、実用性を確保しつつもワイヤーの完全内装を実現した、クリーンで近未来的なフォルムであった。
まずは空力面から解説していこう。翼断面の後端を切り落としたかのようなフォルムの「KVF(Kammtail Vartual Foil)」チューブは、先代から引き継がれており、フォーク、ダウンチューブ、シートチューブ、シートステーに採用。ただ、新型Madoneにおいては、より翼断面に近い形状になった。
加えて、専用パーツを多く用いたインテグレーテッド設計により徹底的に空気抵抗を排除。その筆頭がセンタープル方式のアルミ製オリジナルブレーキだ。フロントはフォークとの、リアはシートステーとの一体設計とし、空気抵抗の低減に貢献する一方で、プロユースにも対応する確実な制動力を確保している。
ブレーキケーブルは、カーボン製の専用エアロハンドルからフォークコラム外側に設けられたガイドを伝わり、フレームの外部にほぼ露出することなくキャリパー本体へと接続。また、ヘッドチューブには大きくハンドルを切った際に前ブレーキと干渉を起こさない様に「Vector Wings」という開閉機構が設けられた。
ブレーキ同様に、シフトケーブルも専用ハンドルからフォークコラムのガイドを伝わり、フレームの内部を経て前後の変速機に接続されており、ケーブルの外部への露出はディレーラー付近のみと最小限に留められている。この他、ボトルケージの位置を最も空気抵抗が少なくなるように最適化。結果、ベロドローム内でのテストにおいて一般的なロードバイクに比較して40km/hで単独走行時には19W、集団走行時には14Wもの出力軽減を実現。加えて横風に対する抵抗も減少しているという。
そして、一般的なエアロロードでは犠牲にされがちな快適性をも高めた。エンデュランスモデルのDomaneで用いられていたIsoSpeedテクノロジーを採用したのだ。シートチューブの中にもう一本チューブを備え付け、これをしならせることで、競合エアロバイクよりも57%高い振動吸収性を実現した。
同時にトレックファクトリーレーシングの選手たちからのフィードバックに基づき、カーボンのレイアップを最適化することで、Emondaと同等の柔軟性を実現。シェル幅を目一杯拡幅した独自のBB規格「BB90」や、同社のアイコンともいうべきOCLVカーボンとあわせて、剛性バランスや、振動吸収性、トラクション性能にも優れたエアロロードらしからぬオールラウンドな1台を完成させたのである。
振動吸収性と同様に、エアロロードバイクでないがしろにされがちなメンテナンス性だが、新型Madoneでは見た目とは裏腹に整備しやすいように配慮されている。ブレーキにはホイールを外す際にパッドの間隔を広げるためのクイックリリース機構やセンター出し用のボルトを装備。ダウンチューブには「Control Center」と呼ばれる小窓を設けており、そこから、機械式コンポならばフロントディレイラーのワイヤーテンション調整が、電動式ならばバッテリーの充電が可能だ。
エアロ形状としたシートポストは無段階で微調整が可能なローターリーヘッドをヤグラに採用しており、細やかなポジション調整にも対応。シートポストはリアリフレクターやライト用のブラケットも組み込まれており、ANT+及びBluetooth対応するチェーンステー内蔵型スピード/ケイデンスセンサー「DuoTrap S」にも対応。BB付近には一体型のチェーンキャッチャーを装備している。
今回インプレッションする「Madone 9.2」はシリーズの末弟モデルであり、素材にはOCLV600カーボンを採用。ジオメトリーはややアップライトなH2フィットとしている。メインコンポーネントはシマノUltegra。ホイールは本来ボントレガーのアルミ製ローハイトモデル「Paradigm Elite Tubeless Ready」であるものの、インプレッション車両ではカーボン製の「Aeolus D5」とした。
スポーツバイク界のリーディングブランドが放つ新世代エアロロードの急先鋒とも言うべき新型Madoneを、小室雅成(ウォークライド)と二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)の両テストライダーはどう評価するのか。早速インプレッションに移ろう。
ーインプレッション
「一言で例えるならばシルキー 見た目とは裏腹にとても乗りやすい1台」
二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
うかつに試乗してしまうと、欲しくなってしまうこと間違い無し。それほどに優れたバイクですね。ボリュームある見た目とは裏腹に乗りやすく、硬いのかと思いきや絶妙なウィップがあるため、踏み込んだ際にもスムーズに加速してくれます。反発や引っ掛かりであったり、入力してから推進力に変わるまでのタイムラグはほとんどありません。
エアロロードといえば剛性バランスが取りづらく、踏み込んだ際の反発がキツイのが一般的で、この新型Madoneについても一般的なエアロロードの乗り味を予想していました。確かに絶対的な剛性は高いのですが、踏み味としては硬すぎず・柔らかすぎず、ウイップと相まって丁度良い塩梅に仕上がっています。一言で例えるならば「シルキー」で、これぞ高級車という乗り味ですね。
平坦では気持よくスーッと加速してくれて、下りでは空力性能の良さも相まって、更に伸びてくれます。登坂性能については、エアロロードとしてではなく、軽量モデルと比較しても高いレベルにあるという印象でした。そして、もがきが楽しく、スピードを上げるほどに、バイクが余すことなく入力を推進力へと変換してくれる感覚が楽しめます。乗り慣れたコースでも平均スピードが上がることでしょう。
快適性についてはシートチューブに設けられた振動吸収機構のIsoSpeedが効いていますね。大きなギャップは拾うものの、アスファルトの凹凸からくる微小な振動はつぶさに吸収してくれます。ハンドリングはニュートラルで、エアロロードにありがちな癖はありません。
エアロダイナミクスについては言わずもがなといったところです。メンテナンス性が多少犠牲になっていることもあり、正直なところ先入観から「インテグレーテッド設計が行き過ぎなのでは?」と感じていましたが、そのエアロ性能を実際に体感したら、納得出来ました。
ブレーキについては、現行のシマノと比較すると制動の立ち上がりが緩やかで、急制動時にはやや頼りない印象を受けましたが、絶対的な制動力は充分でした。ハンドルについては、もがいた時にフレームのほうが大きく変形してしまうほどに剛性が高く、一方では扱いやすさも兼ね備えています。特にエアロ形状のトップ部は手のひらが馴染んでくれるため、とてもリラックスして握ることができます。
フィッティング面では、このグレードは比較的アップライトなH2フィットのみの展開とのことですが、より空力的に優れるポジションを取ることのできるH1フィットもラインアップして欲しかったところです。エアロポジションを優先するならばH1の展開がある上位グレードを、予算を抑えたいのであればH2で小さめのフレームサイズを選ぶとよいでしょう。また、専用ハンドルが高価なため、購入時には各部のサイズを熟慮したいところです。
総じて、予算に自由が利き、兎にも角にも上質な乗り心地のバイクに乗りたいという方におすすめです。今回インプレしたMadone9.2完成車はロープロファイルのアルミホイールが標準仕様とのことですが、是非ともエアロホイールと組み合わせて乗りたいですね。
「見た目を裏切らない優れたエアロダイナミクス 登りでも空気抵抗の少なさが活きる」
小室雅成(ウォークライド)
ルックス通りにエアロダイナミクスに優れており、そして何より楽しい1台ですね。ロードレーサーの基本的な楽しさはスピード感にある思うのですが、新型Madoneはその基本に忠実で、分かりやすく速い。斜度2~3%の下り坂で脚を止めても、スピードが伸び続けてくれます。普段なら嫌な向かい風でも、あえて挑みたくなりますし、今後オプションでDHバーが用意されればTTバイクとしても使用してみたいですね。
そして、新型Madoneの優れた空力性能は平坦と下りだけでなく、登りでも活きてきます。レースであれば登りでもある程度スピードが出ていますから、決して空気抵抗は少なくありません。クライミングバイクと比較すれば重量的には劣りますが、その重量差を帳消しにできるほどのエアロ効果がありますから、オールラウンドモデルといっても差し支え無いでしょう。
国内であれば群馬CSCや広島中央公園のような登りを含むサーキットコースがぴったりという印象です。特に広島は平坦と下りが長く、空力的アドバンテージがより際立つことでしょう。レース中においては、逃げている時、そして登りで少し遅れた後の下りや平坦で差を詰めたい時に真価を発揮してくれるはずです。ただ、空気抵抗の多くはライダーによるものですから、空気抵抗の少ないフォームを追求できる様に、ハンドルやステムのサイズを気軽に変更できれば良かったですね。
絶対的な剛性は高いですが、踏み負ける印象はありません。快適性についても充分高いレベルにあり、エアロロードにありがちな突き上げ感がなく、どんどんと振動を吸収してくれます。振動吸収機構IsoSpeedとトップチューブの湾曲が効いているのではと感じました。
専用設計のブレーキについては、DURA-ACEと比較すればリアの制動がやや弱いかなと感じた程度で、意外と完成度は高い印象です。ただし、ブレーキを含め細かいところに入ったゴミを取り除くなど乗るたびにメンテしてあげる必要があるでしょう。フレームの各部はインテグレーテッド設計となっているために、ゴミが奥に入ってしまうと取り出せないどころか、異音や故障の原因にもなりかねませんから。
新型Madoneが最も適するのはレースユースですが、個人的にはツーリングなどのサイクリングにも良いのではと思います。自転車に乗っている以上は常に空気抵抗がつきまといますから、そこがラクになれば、もっと距離や時間が伸びるはず。そして、振動吸収性にも優れることから競技時間の長いエンデューロやブルベにも良いでしょう。ここまでエアロ性能を追求してきたメーカーの努力には感動すら覚えますし、予算さえ許せば是非とも多くのサイクリストに最新テクノロジー満載のこのバイクを楽しんでもらいたいですね。
トレック Madone 9.2
フレーム:600 Series OCLV Carbon
フォーク:Madone KVF full carbon
コンポーネント:シマノ Ultegra
ホイール:ボントレガー Paradigm Elite Tubeless Ready
フレームフィット:H2
サイズ:50、52、54、56、58、60、62cm
価 格:650,000円(税込み)
インプレライダーのプロフィール
二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
高校時代から自転車競技を始め、卒業後は日本鋪道レーシングチーム(現 TEAM NIPPO)に5年間所属しツール・ド・北海道などで活躍。引退後は13年間なるしまフレンドに勤務し、現在は東京都立川市を拠点とする地域密着型ロードレースチーム「東京ヴェントス」を監督として率いる。同時に立川市に「Punto Ventos」をオープンし、最新の解析機材や動画を用いて、初心者からシリアスレーサーまで幅広い層を対象としたスキルアップのためのカウンセリングを行っている。
東京ヴェントス
Punto Ventos
小室雅成(ウォークライド)
1971年埼玉生まれ。中学生の時にTVで見たツール・ド・フランスに憧れ、高校生から自転車競技を始める。卒業と同時に渡仏しジュニアクラスで5勝。帰国後は国内に戻りトップ選手の仲間入りを果たす。ハードトレーニングが原因で一時引退するも、12年の休養期間を経て32歳で復活。42歳の際にJプロツアーいわきクリテリウムで優勝を飾って以降も現役を貫いている。国内プロトンでは最も経験豊かな選手の一人。ウォークライド所属。
小室雅成公式サイト
ウォークライド
ウェア協力:アソス
text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO
フランス南部のニース郊外に位置し、ツール・ド・フランスの勝負所の1つである全長12kmの1級山岳が「コル・デ・ラ・マドン=マドン峠」。その名を冠したのが、トレック不動のレーシングバイクであり、フルモデルチェンジによって同社初の本格的なエアロロードとなった「Madone」だ。
軽量クライミングバイクとして2004年デビューしてから数えて6代目。元々の位置づけを「Emonda」に明け渡した「Madone」が次に目指したのが「ただエアロのみを追求しただけではなく、最高の快適性を備えたエアロロード」である。日本人エンジニアの鈴木未央氏をはじめとした150人もの技術者が携わった大規模な研究開発では、100台ものプロトタイプを用いて細部に渡って性能を追求。その結果生み出されたのは、実用性を確保しつつもワイヤーの完全内装を実現した、クリーンで近未来的なフォルムであった。
まずは空力面から解説していこう。翼断面の後端を切り落としたかのようなフォルムの「KVF(Kammtail Vartual Foil)」チューブは、先代から引き継がれており、フォーク、ダウンチューブ、シートチューブ、シートステーに採用。ただ、新型Madoneにおいては、より翼断面に近い形状になった。
加えて、専用パーツを多く用いたインテグレーテッド設計により徹底的に空気抵抗を排除。その筆頭がセンタープル方式のアルミ製オリジナルブレーキだ。フロントはフォークとの、リアはシートステーとの一体設計とし、空気抵抗の低減に貢献する一方で、プロユースにも対応する確実な制動力を確保している。
ブレーキケーブルは、カーボン製の専用エアロハンドルからフォークコラム外側に設けられたガイドを伝わり、フレームの外部にほぼ露出することなくキャリパー本体へと接続。また、ヘッドチューブには大きくハンドルを切った際に前ブレーキと干渉を起こさない様に「Vector Wings」という開閉機構が設けられた。
ブレーキ同様に、シフトケーブルも専用ハンドルからフォークコラムのガイドを伝わり、フレームの内部を経て前後の変速機に接続されており、ケーブルの外部への露出はディレーラー付近のみと最小限に留められている。この他、ボトルケージの位置を最も空気抵抗が少なくなるように最適化。結果、ベロドローム内でのテストにおいて一般的なロードバイクに比較して40km/hで単独走行時には19W、集団走行時には14Wもの出力軽減を実現。加えて横風に対する抵抗も減少しているという。
そして、一般的なエアロロードでは犠牲にされがちな快適性をも高めた。エンデュランスモデルのDomaneで用いられていたIsoSpeedテクノロジーを採用したのだ。シートチューブの中にもう一本チューブを備え付け、これをしならせることで、競合エアロバイクよりも57%高い振動吸収性を実現した。
同時にトレックファクトリーレーシングの選手たちからのフィードバックに基づき、カーボンのレイアップを最適化することで、Emondaと同等の柔軟性を実現。シェル幅を目一杯拡幅した独自のBB規格「BB90」や、同社のアイコンともいうべきOCLVカーボンとあわせて、剛性バランスや、振動吸収性、トラクション性能にも優れたエアロロードらしからぬオールラウンドな1台を完成させたのである。
振動吸収性と同様に、エアロロードバイクでないがしろにされがちなメンテナンス性だが、新型Madoneでは見た目とは裏腹に整備しやすいように配慮されている。ブレーキにはホイールを外す際にパッドの間隔を広げるためのクイックリリース機構やセンター出し用のボルトを装備。ダウンチューブには「Control Center」と呼ばれる小窓を設けており、そこから、機械式コンポならばフロントディレイラーのワイヤーテンション調整が、電動式ならばバッテリーの充電が可能だ。
エアロ形状としたシートポストは無段階で微調整が可能なローターリーヘッドをヤグラに採用しており、細やかなポジション調整にも対応。シートポストはリアリフレクターやライト用のブラケットも組み込まれており、ANT+及びBluetooth対応するチェーンステー内蔵型スピード/ケイデンスセンサー「DuoTrap S」にも対応。BB付近には一体型のチェーンキャッチャーを装備している。
今回インプレッションする「Madone 9.2」はシリーズの末弟モデルであり、素材にはOCLV600カーボンを採用。ジオメトリーはややアップライトなH2フィットとしている。メインコンポーネントはシマノUltegra。ホイールは本来ボントレガーのアルミ製ローハイトモデル「Paradigm Elite Tubeless Ready」であるものの、インプレッション車両ではカーボン製の「Aeolus D5」とした。
スポーツバイク界のリーディングブランドが放つ新世代エアロロードの急先鋒とも言うべき新型Madoneを、小室雅成(ウォークライド)と二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)の両テストライダーはどう評価するのか。早速インプレッションに移ろう。
ーインプレッション
「一言で例えるならばシルキー 見た目とは裏腹にとても乗りやすい1台」
二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
うかつに試乗してしまうと、欲しくなってしまうこと間違い無し。それほどに優れたバイクですね。ボリュームある見た目とは裏腹に乗りやすく、硬いのかと思いきや絶妙なウィップがあるため、踏み込んだ際にもスムーズに加速してくれます。反発や引っ掛かりであったり、入力してから推進力に変わるまでのタイムラグはほとんどありません。
エアロロードといえば剛性バランスが取りづらく、踏み込んだ際の反発がキツイのが一般的で、この新型Madoneについても一般的なエアロロードの乗り味を予想していました。確かに絶対的な剛性は高いのですが、踏み味としては硬すぎず・柔らかすぎず、ウイップと相まって丁度良い塩梅に仕上がっています。一言で例えるならば「シルキー」で、これぞ高級車という乗り味ですね。
平坦では気持よくスーッと加速してくれて、下りでは空力性能の良さも相まって、更に伸びてくれます。登坂性能については、エアロロードとしてではなく、軽量モデルと比較しても高いレベルにあるという印象でした。そして、もがきが楽しく、スピードを上げるほどに、バイクが余すことなく入力を推進力へと変換してくれる感覚が楽しめます。乗り慣れたコースでも平均スピードが上がることでしょう。
快適性についてはシートチューブに設けられた振動吸収機構のIsoSpeedが効いていますね。大きなギャップは拾うものの、アスファルトの凹凸からくる微小な振動はつぶさに吸収してくれます。ハンドリングはニュートラルで、エアロロードにありがちな癖はありません。
エアロダイナミクスについては言わずもがなといったところです。メンテナンス性が多少犠牲になっていることもあり、正直なところ先入観から「インテグレーテッド設計が行き過ぎなのでは?」と感じていましたが、そのエアロ性能を実際に体感したら、納得出来ました。
ブレーキについては、現行のシマノと比較すると制動の立ち上がりが緩やかで、急制動時にはやや頼りない印象を受けましたが、絶対的な制動力は充分でした。ハンドルについては、もがいた時にフレームのほうが大きく変形してしまうほどに剛性が高く、一方では扱いやすさも兼ね備えています。特にエアロ形状のトップ部は手のひらが馴染んでくれるため、とてもリラックスして握ることができます。
フィッティング面では、このグレードは比較的アップライトなH2フィットのみの展開とのことですが、より空力的に優れるポジションを取ることのできるH1フィットもラインアップして欲しかったところです。エアロポジションを優先するならばH1の展開がある上位グレードを、予算を抑えたいのであればH2で小さめのフレームサイズを選ぶとよいでしょう。また、専用ハンドルが高価なため、購入時には各部のサイズを熟慮したいところです。
総じて、予算に自由が利き、兎にも角にも上質な乗り心地のバイクに乗りたいという方におすすめです。今回インプレしたMadone9.2完成車はロープロファイルのアルミホイールが標準仕様とのことですが、是非ともエアロホイールと組み合わせて乗りたいですね。
「見た目を裏切らない優れたエアロダイナミクス 登りでも空気抵抗の少なさが活きる」
小室雅成(ウォークライド)
ルックス通りにエアロダイナミクスに優れており、そして何より楽しい1台ですね。ロードレーサーの基本的な楽しさはスピード感にある思うのですが、新型Madoneはその基本に忠実で、分かりやすく速い。斜度2~3%の下り坂で脚を止めても、スピードが伸び続けてくれます。普段なら嫌な向かい風でも、あえて挑みたくなりますし、今後オプションでDHバーが用意されればTTバイクとしても使用してみたいですね。
そして、新型Madoneの優れた空力性能は平坦と下りだけでなく、登りでも活きてきます。レースであれば登りでもある程度スピードが出ていますから、決して空気抵抗は少なくありません。クライミングバイクと比較すれば重量的には劣りますが、その重量差を帳消しにできるほどのエアロ効果がありますから、オールラウンドモデルといっても差し支え無いでしょう。
国内であれば群馬CSCや広島中央公園のような登りを含むサーキットコースがぴったりという印象です。特に広島は平坦と下りが長く、空力的アドバンテージがより際立つことでしょう。レース中においては、逃げている時、そして登りで少し遅れた後の下りや平坦で差を詰めたい時に真価を発揮してくれるはずです。ただ、空気抵抗の多くはライダーによるものですから、空気抵抗の少ないフォームを追求できる様に、ハンドルやステムのサイズを気軽に変更できれば良かったですね。
絶対的な剛性は高いですが、踏み負ける印象はありません。快適性についても充分高いレベルにあり、エアロロードにありがちな突き上げ感がなく、どんどんと振動を吸収してくれます。振動吸収機構IsoSpeedとトップチューブの湾曲が効いているのではと感じました。
専用設計のブレーキについては、DURA-ACEと比較すればリアの制動がやや弱いかなと感じた程度で、意外と完成度は高い印象です。ただし、ブレーキを含め細かいところに入ったゴミを取り除くなど乗るたびにメンテしてあげる必要があるでしょう。フレームの各部はインテグレーテッド設計となっているために、ゴミが奥に入ってしまうと取り出せないどころか、異音や故障の原因にもなりかねませんから。
新型Madoneが最も適するのはレースユースですが、個人的にはツーリングなどのサイクリングにも良いのではと思います。自転車に乗っている以上は常に空気抵抗がつきまといますから、そこがラクになれば、もっと距離や時間が伸びるはず。そして、振動吸収性にも優れることから競技時間の長いエンデューロやブルベにも良いでしょう。ここまでエアロ性能を追求してきたメーカーの努力には感動すら覚えますし、予算さえ許せば是非とも多くのサイクリストに最新テクノロジー満載のこのバイクを楽しんでもらいたいですね。
トレック Madone 9.2
フレーム:600 Series OCLV Carbon
フォーク:Madone KVF full carbon
コンポーネント:シマノ Ultegra
ホイール:ボントレガー Paradigm Elite Tubeless Ready
フレームフィット:H2
サイズ:50、52、54、56、58、60、62cm
価 格:650,000円(税込み)
インプレライダーのプロフィール
二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
高校時代から自転車競技を始め、卒業後は日本鋪道レーシングチーム(現 TEAM NIPPO)に5年間所属しツール・ド・北海道などで活躍。引退後は13年間なるしまフレンドに勤務し、現在は東京都立川市を拠点とする地域密着型ロードレースチーム「東京ヴェントス」を監督として率いる。同時に立川市に「Punto Ventos」をオープンし、最新の解析機材や動画を用いて、初心者からシリアスレーサーまで幅広い層を対象としたスキルアップのためのカウンセリングを行っている。
東京ヴェントス
Punto Ventos
小室雅成(ウォークライド)
1971年埼玉生まれ。中学生の時にTVで見たツール・ド・フランスに憧れ、高校生から自転車競技を始める。卒業と同時に渡仏しジュニアクラスで5勝。帰国後は国内に戻りトップ選手の仲間入りを果たす。ハードトレーニングが原因で一時引退するも、12年の休養期間を経て32歳で復活。42歳の際にJプロツアーいわきクリテリウムで優勝を飾って以降も現役を貫いている。国内プロトンでは最も経験豊かな選手の一人。ウォークライド所属。
小室雅成公式サイト
ウォークライド
ウェア協力:アソス
text:Yuya.Yamamoto
photo:Makoto.AYANO
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