再びロードバイク界にセンセーションを巻き起こしたキャノンデールのCAAD12をインプレッション。アルミロードの本家が最新技術をフル投入して作り上げた、注目必至の一台の魅力と性能に迫る。



キャノンデール CAAD12 105キャノンデール CAAD12 105 photo:Makoto.AYANO
カーボン全盛となって久しい昨今のロードバイク界において、キャノンデールほどアルミフレームに高い評価を得ているブランドは他に無いだろう。アルミバイク興盛時にはマリオ・チッポリーニやダミアーノ・クネゴ、ジルベルト・シモーニが所属したサエコチームをサポートし、ジロ・デ・イタリアや世界選手権を始め、数々のタイトル獲得を支えてきた。

そこからカーボンが主流となり、各ブランドがアルミを安価な入門用バイクの素材としか捉えなくなっても、アルミフレームのオーソリティたるキャノンデールの熱は一切衰えることを知らなかった。誰もがアルミフレームの時代は終わったと思ったであろう頃、新技術をフル導入したCAAD9をデビューさせ、昨今のアルミバイク本家としての地位を確立。更に2010年に投入したCAAD10で追従するライバルブランドを一気に引き離したことは記憶にも新しい。アルミをホビーレーサーの選択肢に再び返り咲かせたのはキャノンデールの大きな功績だろう。

SUPERSIX EVO HI-MOD同様のエアロ形状ダウンチューブSUPERSIX EVO HI-MOD同様のエアロ形状ダウンチューブ トップチューブの最薄部分は0.4mm。卓越した技術があってこそ可能となるトップチューブの最薄部分は0.4mm。卓越した技術があってこそ可能となる 細身のSAVEフロントフォーク。形状を一新し、大きな軽量化を果たした細身のSAVEフロントフォーク。形状を一新し、大きな軽量化を果たした


そんなキャノンデールが2015年の夏、CAAD10の後継であるCAAD12を発表。再びセンセーションを巻き起こした。圧倒的に軽く、高剛性で、そしてスムーズな走りを。キャノンデールが据えた3つの開発目標を、最大公約数で併せ持ったニューモデルとしてCAAD12は世に送り出された。

一見したフォルムはCAAD10と大きく変わらないが、数字を一つ飛ばした(CAAD10→12)だけの理由が裏側にはしっかりと存在する。各チューブの役割を洗い直し、ベストな形状を導く解析を通した設計(チューブフローモデリングと言う)を導入したことがその白眉だ。

ワイヤー、ケーブル類はフル内装され、クリーンなルックスにワイヤー、ケーブル類はフル内装され、クリーンなルックスに ヘッドチューブは特徴的なアワーグラス形状で、剛性を10%強化したヘッドチューブは特徴的なアワーグラス形状で、剛性を10%強化した

シートクランプ周辺はCAAD10よりもシャープなフォルムとなり、無駄を削ぎ落としているシートクランプ周辺はCAAD10よりもシャープなフォルムとなり、無駄を削ぎ落としている 複雑な形状を描くチェーンステー。リアバックは50%もの柔軟性アップを見た複雑な形状を描くチェーンステー。リアバックは50%もの柔軟性アップを見た


CAAD10で定評のある6069番アルミニウムを使うフレームはより進化したスマートフォーム構造によって形作られており、チューブフローモデリングとの合わせ技によって、形状はもちろん、薄さや溶接部分の設計が飛躍的に緻密さを増している。軽さと強度を両立するためのバテッド加工も、不必要な応力集中をさけるためにスムーズな形状となり、最薄部の厚みは0.4mmにもなる。

そう聞くと不安を覚えてしまうが、安全性や不意の衝撃にもほころばない耐久性を確保することは当たり前のこと。それをクリアした上でのフレーム重量は1098g。CAAD10と比べて52g軽く、キャノンデールの提唱するシステムウェイト(フレーム、フォーク、ヘッドセット、シートポストの合計)では200g以上という数値を削減。下手なカーボンフレームを一発KOしてしまうほどの身軽さを手に入れている。

リアエンド付近の構造も非常にスマートになった。細かい部分まで妥協が一切無いリアエンド付近の構造も非常にスマートになった。細かい部分まで妥協が一切無い キャノンデールオリジナルのSiクランク。コストパフォーマンス向上に貢献しているキャノンデールオリジナルのSiクランク。コストパフォーマンス向上に貢献している


CAAD12は同時に発表されたSUPERSIX EVO HI-MODから多くを受け継いでおり、特徴的なアワーグラス型ヘッドチューブは+10%、シェル幅を5mm広げたBB30A規格のボトムブラケットは+13%の剛性強化に貢献。シートステー下部は末広がりの形状をもってBBと接続しており、駆動系のバランスを是正するためにBBシェル、チェーンステーは共に左右非対称設計となっている。

ぐっとスマートになったSPEED SAVEフロントフォークはSUPERSIX EVO HI-MODと同様だ。最上級モデル以外はカーボン素材を変更し、コストパフォーマンスを向上。さらには25.4mm径のSAVEシートポストまでを含めたトータルパッケージとして開発されていることも特筆されるだろう。これらに加え、アルミフレームとしては史上最も薄いレベルで仕上げられたシートステーも快適性を大きくサポート。リアバックの柔軟性アップは50%であり、まさに飛躍的と言う言葉が当てはまるだろう。

可能な限り薄く作られたシートステーは、突き上げカットの役割も果たす可能な限り薄く作られたシートステーは、突き上げカットの役割も果たす 滑らかなチューブ集合部。より進化したスマートフォーム構造が用いられている滑らかなチューブ集合部。より進化したスマートフォーム構造が用いられている BBに向かうにつれてワイドになるシートチューブ。剛性と振動吸収性を狙った作りだBBに向かうにつれてワイドになるシートチューブ。剛性と振動吸収性を狙った作りだ


今回インプレッションに使用したモデルは、キャノンデールがバリューモデルとして力を入れる「CAAD12 105」。その名の通りコンポーネントはシマノの5800系105を組み合わせ、クランクは2016年モデルから新たに投入されたSiクランク。こちらはアルテグラよりも軽量に作られており、キャノンデールのシステムインテグレーションをより一層押し進めるアイテムである。ホイールはキャノンデールと関係深いマヴィックのアクシウムで、価格は210,000円。それでは早速インプレッションをお届けしよう。



―― インプレッション

「アルミらしい軽快感 パワーのある方なら魅力を最大現に引き出せる」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)

まず乗って気付くのは軽さです。ケイデンスが高い状態で走らせた際にはアルミフレーム特有の軽快感、バネ感を強く感じますね。そうした際にはレスポンスも際立ちますし、ケイデンスをキープしやすい。一方で剛性が高いためトルクを掛けて踏み込んだ際には、私の脚力では踏み負けてしまうほど。体重やパワーのある方であれば、スプリント的な走りをした場合にも本来の魅力を引き出せるのだと思います。

「アルミらしい軽快感 パワーのある方なら魅力を最大現に引き出せる」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)「アルミらしい軽快感 パワーのある方なら魅力を最大現に引き出せる」二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos) photo:Makoto.AYANOCAAD10と比較して乗り味はがらっと変わりました。各所にチューブの薄さを伝えるしなやかさがありながら、走りの要であるBB付近は非常に硬い。そういった雰囲気をCAAD12には強く感じます。ですから前述したようなファーストインプレッションになったのでしょう。

登りや平坦でもその特徴が活きるため、体重の軽い方であればハイケイデンスで、高出力を出せる方であれば重たいギアを掛ければスパッと速度が乗っていく印象でした。ホリゾンタルに近いトップチューブデザインも、この乗り味に活きているのでしょう。フレームの三角を小さくすると剛性が上がるため、これは快適性を出そうという意匠なのかもしれないですね。

挙動にクセは見当たりませんが、レーシングバイクであるため、ハンドリングはクイック寄りの味付け。慣れない方だと最初は落ち着かないな、と思うかもしれませんが、レース派の私にとっては下りで狙ったラインに乗せやすく、かつ微妙な操作も行いやすいので扱いやすかったですね。一見華奢なフロントフォークですが、乗ってみて不安感は一切ありません。

CAADは高性能ゆえにカーボンバイクが比較対象ですから、振動吸収で比べてしまうとさすがに悪い。アルミらしいゴツゴツとした乗り味がありますが、アルミフレームとしてはかなり抑えられているのではないでしょうか。

この仕様で210,000円ですから、コストパフォーマンスは決して悪くありません。カーボンにはカーボンの、アルミにはアルミの良さがあります。その中でCAAD12の特徴は踏み出しの軽さ、シャープさ。CAAD10がかなり好評でしたし、アルミを考えている方にとっては間違いない選択でしょう。コンポーネントも105でまとめられていて、キャノンデールオリジナルのクランクは剛性もありますし、コストパフォーマンスを下げただけではないこだわりを感じました。カラーが3色選べる点も好印象ですね。

まず最初の一台としてアルミロードを考えている方にとっては、最有力候補として考えて間違いないでしょう。そして特有の乗り心地や軽快感を愛するアルミフリークは少なからず存在しますから、そういった方は別にラインナップされるアルテグラや、デュラエース完成車をオススメしたいですね。アルミでも手を抜かない、キャノンデールの姿勢を強く感じた一台でした。

「ハイエンドパーツを装着してもう一度テストしたくなるほどの完成度」小室雅成(ウォークライド)

CAAD10は過去に乗った経験があるのですが、それに比較してBB周辺の剛性向上はとても目立つ部分でした。全体的にもバランスが取れていますし、スプリントを掛けた際のスピードの乗りも素晴しい。剛性が増した分フロントの突き上げは比較的強めに感じたのですが、リアの快適性は素晴しいですね。CAAD10の優れた部分をより引き出していると感じます。

「ハイエンドパーツを装着してもう一度テストしたくなるほどの完成度」小室雅成(ウォークライド)「ハイエンドパーツを装着してもう一度テストしたくなるほどの完成度」小室雅成(ウォークライド) photo:Makoto.AYANO
一昔のアルミと言えばとにかく硬かったものですが、CAAD12はカーボンと遜色無いレベルで乗りやすい。キャノンデールは従来アルミには定評のあったブランドですが、そこに満足せず、これだけの性能を持ち合わせたバイクを出してきた事は、我々ユーザーにとっては喜ぶべきことですね。完成車で21万円と値段もこなれていますし、エントリーモデルとしては素晴しい選択でしょう。

前述した通り快適性が高いですから、長距離のレースでも活躍してくれそう。今回はエントリーモデルらしいパーツアッセンブルですが、例えばデュラエースや高級カーボンホイールをセットしても全く引けを取りません。上級カーボンと比較すれば分が悪いものの、絶対的な性能は決して低くありません。ここまでの性能をアルミで出してきた事実は、他のライバルメーカーにも影響を及ぼすのでは?と思いますね。

剛性感が強く踏んだ力を逃がさないため、レース機材として見るとパンチャー向き。アップダウンの連続するようなコースを得意にしそうですね。ハンドリングも安定していますし、快適性も悪くない。だから長距離レースでも無駄に疲れてしまうことは無いでしょう。剛性感も強すぎることはありません。フレームの性能が高いので、パーツを上級モデルに組み替えて、もう一度インプレッションをしたくなるほどでした。ですから上級のデュラエースモデルもアルミ派にとって「買い」と言えるはずです。

キャノンデール CAAD12 105キャノンデール CAAD12 105 photo:Makoto.AYANO
キャノンデール CAAD12 105
フレーム:SMARTFORMED 6069 ALLOY, SPEED SAVE, BB30A, DI2 READY
フォーク:SPEED SAVE, BALLISTEC FULL CARBON, 1-1/8" TO 1-1/4" STEERER, INTEGRATED CROWN RACE.
クランク:SI, BB30A, FSA RINGS, 52/36
コンポーネント:シマノ 105
ホイール:マヴィック AKSIUM
価格:210,000円(税別)



インプレライダーのプロフィール

二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos) 二戸康寛(東京ヴェントス監督/Punto Ventos)
高校時代から自転車競技を始め、卒業後は日本鋪道レーシングチーム(現 TEAM NIPPO)に5年間所属しツール・ド・北海道などで活躍。引退後は13年間なるしまフレンドに勤務し、現在は東京都立川市を拠点とする地域密着型ロードレースチーム「東京ヴェントス」を監督として率いる。同時に立川市に「Punto Ventos」をオープンし、最新の解析機材や動画を用いて、初心者からシリアスレーサーまで幅広い層を対象としたスキルアップのためのカウンセリングを行っている。

東京ヴェントス
Punto Ventos


小室雅成(ウォークライド)小室雅成(ウォークライド) 小室雅成(ウォークライド)

1971年埼玉生まれ。中学生の時にTVで見たツール・ド・フランスに憧れ、高校生から自転車競技を始める。卒業と同時に渡仏しジュニアクラスで5勝。帰国後は国内に戻りトップ選手の仲間入りを果たす。ハードトレーニングが原因で一時引退するも、12年の休養期間を経て32歳で復活。42歳の際にJプロツアーいわきクリテリウムで優勝を飾って以降も現役を貫いている。国内プロトンでは最も経験豊かな選手の一人。ウォークライド所属。

小室雅成公式サイト
ウォークライド


ウェア協力:アソス

text:So.Isobe
photo:Makoto.AYANO


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