2015/04/15(水) - 09:05
イタリアの名門ブランド、カレラ・ポディウム社の2015年ロードラインアップの頂点に君臨するのが、「SL730」だ。そのモデル名のとおり、フレーム重量730gという超軽量バイクであるこのフラッグシップマシンの実力を紐解いていこう。
イタリア・ロンバルディア州に本拠を構えるカレラ・ポディウム社。エディ・メルクスやフェリーチェ・ジモンディといった伝説的な選手たちと共にヨーロッパのロードレース黄金期を支え、引退後もカレラやLPRブレーキといったチームのマネージャーを務めてきた往年の名選手、ダヴィデ・ボイファーヴァ氏が中心となり興したブランドだ。
創業は1989年と、名だたるヨーロッパメーカーの中では若いブランドで、長い伝統を誇ることを謳い文句にしているわけではない。しかし、イタリアレース界との関わりも非常に深いボイファーヴァ氏が代表を務めるだけあり、その歴史の中でカレラは数々のレースを制し、実績を積み重ねてきた。
ステファノ・ガルゼッリ、クラウディオ・キャプッチ、ミケーレ・バルトリといった、今なお語り継がれる選手たちと共に数え切れないほどの勝利を上げてきたカレラだが、その中でも最も有名な勝利といえば1995年、ツール・ド・フランス第10ステージ、ラルプ・デュエズの頂上ゴールをマルコ・パンターニにより制したシーンだろう。
レーシングブランドとは、確実な結果を残すために保守的になりがちな側面もあるが、カレラは違う。カーボン素材が登場し始めた1997年にはカーボンバックのアルミフレームを世界に先駆けて開発したり、近年では見る者に鮮烈な印象を与える有機的なデザインの「フィブラ」を発表するなど、カレラは革新的なシステムやデザインを積極的に取り入れてきた。
そんなカレラ・ポディウム社の2015年モデルフラッグシップとなるのが、今回のテスト車両である「SL 730」だ。 Super Leggera(超軽量)の頭文字とフレーム重量からなる、簡潔極まりないモデル名だが、虚飾を排して軽量性を追求したこのバイクを表現するのにもっともふさわしいネーミングでもある。
そして、ロードフレームの中でも屈指の軽量性を誇りつつも、剛性と強度が確保されているのもこのフレームの特長だ。この相反する要素を実現するために、SL730は微妙に丸みを帯びたスクエア断面をメインとし、部分的に丸断面形状を用いる「ラウンドtoスクエア」というデザインによって設計されている。
SL730は全体としては非常に直線的なデザインで、同社の「フィブラ」や「エラクル」に比べると、かなりオーソドックスなデザインとなっている。ダウンチューブからチェーンステーにかけてはボリュームを持たせつつ、シートステーを細身にすることで意図的にしならせ、衝撃吸収性を向上させるという昨今の軽量クライミングバイクの基本に忠実な設計だ。
このバイクに使用されるカーボンマテリアルは、T-800HM-HS 60とSHM XN60の2種類。これらの素材を適材適所に配置することで、フレーム単体重量730gという超軽量バイクが出来上がる。各チューブは非常に肉薄に成形されており、トップチューブやダウンチューブの中央部分などは手で握っただけで凹むほどに減量されている。それほどまで攻めたフレームだが、「ソリッドカーボン」製法により、耐久性にも優れるという。
踏力を受け止めるボトムブラケットは、幅広のプレスフィットBBを採用。左右非対称のチェーンステーもBB幅いっぱいに広げられ、ペダリングパワーをしっかりと受け止め、後輪へと伝える剛性を備えている。このフレームに組み合わせられるフロントフォークも330gと軽量ながらも、60Tカーボンとテーパーコラムによって、必要な剛性と強度を確保している。
今回のインプレッションバイクは、コンポーネントにシマノ デュラエース、ホイールにはカンパニョーロ シャマルミレを組み合わせたもの。タイヤはハッチンソン アトムをアッセンブルしている。イタリアの誇るレーシングブランド、カレラのフラッグシップを二人のインプレライダーはどう評価するのか。早速インプレッションに移ろう。
― インプレッション
「まるで一枚板の様な剛性感のピュアレースマシン」小畑郁(なるしまフレンド)
走り始めてまず感じるのは何と言っても軽さですね。しかし、想像していたよりも剛性が高く速く走らせるためには相応のパワーが求められます。やはり、重量があるほど剛性も上がるというのが普通なので、軽量バイクになればなるほど穏やかな剛性になるものなのですが、このバイクはその法則を覆すような剛性感にあふれる乗り味です。
特にダウンチューブやBB周りが非常に硬く、ダンシングなどでバイクを振った時にもバイクがほとんどしならないため、ハンドルが切れてしまうような感覚があります。ですので、真っ直ぐに走らせることを意識して踏んでいく必要があります。といっても、身体が慣れれば問題なく進ませられるでしょう。
この硬さ、重量剛性比の高さは各部の設計もありますが、なにより素材の質の良さに起因するものではないでしょうか。700g台のフレームとしては異次元の硬さで、肉厚なフレームの様な芯のある踏み心地に仕上がっています。他の軽量バイクの様に軽快なウィップ感で進むという性格ではないので、発進加速よりも中速域からの加速のほうが得意なバイクです。
トップチューブも横にしならないので、まるで一枚板の様な剛性感です。その分振動を伝えてくるという面もあります。その分はリアセクションが少し逃がすような造作になっているので、レースユースレベルでは問題ないのではないでしょうか。カタログを見ても、快適性という単語は一度も出てきていませんしそういった類のバイクではないということなのでしょう。
登りでは、軽くて硬いというバイクの特性を活かして回転を上げていくとスイスイと登っていきます。あまりパワーをかけて踏みすぎると反作用も大きいので、出来るだけきれいに回していった方が良いでしょう。パワーをかけては進まないということではなく、むしろ進むのですがその分脚にダメージがくるということです。なので、勝負所を決めて加速するような局面や短い登り返しといったところではガシガシ踏んでいったほうが良いかもしれません。
下りでは、すこしピーキーな印象がありますね。基本的にはハンドリングはニュートラルなのですが、じわっと粘るようなコーナーリングではなく、スパッと地面を切るようなフィーリングでコーナーを抜けていきます。やはり軽く硬いという特徴に起因するものなのですが、路面の変化を伝えやすいため、荒れたコーナーでは余裕を持った速度で進入したほうが安全ではないでしょうか。
ピュアレースマシンとして、どんなレースでも対応できるだけの性能を持っている非常に完成度の高いバイクです。価格もこの性能からすると非常に低く抑えられていると感じました。パーツアッセンブル次第で、好みの乗り味や走るコースに合わせたチューニングが施しやすい、ニュートラルな特性のフレームでもあります。
ホイールであれば、しなやかなカーボンディープリム系の製品がマッチするのではないでしょうか。少しタメをつくることで、より踏みやすく、長く乗れるようなフィーリングへと変えてくれると思います。また、同じ理由でカーボンクランクを組み込んでも良いでしょう。
ヒルクライムに特化したバイクを求めている人にももちろんピッタリですし、高い重量剛性比を活かして、体重がある人にも踏み負けない軽量バイクとしてもオススメできるバイクです。総じてシリアスレーサーには非常に受けが良いと思います。レースで一つでも順位を上げたい人にはぜひ選択肢に入れてみてほしいですね。
「イタリアンスーパーカーという表現がしっくりくるバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
硬い!というのが第一印象です。ヘッドチューブ周辺の剛性が尋常じゃなく高いです。全身の筋力がしっかりしている、シリアスレーサーにとっては非常に乗りこなしがいのあるフレームですが、ホビーレベルの人にとってはびっくりするくらいの剛性の塊のように感じられるでしょう。
路面からの突き上げが激しく伝わってくるというわけではなく、あくまで捻じれ方向に対する剛性の高さなのですが、それでもダンシングでは上半身の筋力がかなり必要になってくるのではないかと感じます。昨年モデルがもう少し乗りやすい印象だったので、この乗り味の変化にはかなり驚きました。
一方でボトムブラケットやリアバックはそこまでの硬さは与えられていないので、一旦こぎ出してしまえばかなり普通に進みます。ただ、勾配変化があって、ダンシングでぐいぐいと進んでいかざるを得ないような局面では、ハンドルを振る腕が疲れるかもしれないですね。
軽量バイクですが、登り性能は標準的です。剛性が高いため軽いギアをクルクルと回すより、カーボン繊維の積層方向を活かすように重いギアを踏み込んでいくペダリングのほうが進みやすいでしょう。勾配がきつめで一息で登りきれるような登りのほうが得意でしょう。
一方で、だらだらと4~5%の登りが続くようなシチュエーションは脚がかなり削られていくので苦手ですね。レース全体の距離としても、1時間以内で終わるような短めのレースが良いでしょう。
下りは、意外と跳ねないので好印象でした。硬めのヘッド周りがしっかりとストッピングパワーを受け止めてくれ、ハードブレーキング時でもフレームのどこかが破綻するような感覚は皆無でした。振動をやたらと拾うような嫌な硬さもないので、安心して下れます。
かなり高剛性なバイクですが、すこししなやかなパーツアッセンブルで逃がすところを作ってあげた方がより乗りやすくなるでしょう。コンポ―ネントであれば、イタリアンブランドというのもありますしカンパニョーロで組みたいですね。最近の4アームのカーボンクランクのデザインなどはかなりしっくりくるでしょう。
ハンドルやステムもアルミ製ではなくカーボンのものであえて剛性を落としてあげるといいでしょうね。ホイールもしなやかなモデル、例えばカンパニョーロのニュートロンやマヴィックのR-sysなどは軽さと快適性が両立されていて非常にマッチングが良いでしょうね。
イタリアのレーシングブランドのトップモデルとして、ターゲットはやはりヨーロッパの大柄な体格の選手を想定しているのではないでしょうか。アマチュアでも一線を引退した元プロだとか、日本で言えばJプロツアー相当の非常にレベルの高いところを狙っていると感じます。プロ供給モデルとして開発したような、いかにもイタリアブランドらしいフレームです。それがこの価格で手に入るのであれば非常にリーズナブルと言えるでしょう。
ですので、走行性能からいえば真摯に勝利を求めるようなシリアスレーサー、それも体格が大きめで絶対的なパワーがあるライダーにはぴったりのバイクだと思います。しかし、そうでない人にとっても、自分の力で性能を限界まで引き出せないとしても、とんでもないモンスターマシンに乗っていると感じさせてくれるバイクです。いつか乗りこなしてやるぞと言う人、スーパーバイクのオーラを大切にしたい人、そういった方にはたまらない1台だと思います。
インプレライダーのプロフィール
小畑郁(なるしまフレンド)
その圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高いなるしまフレンド神宮店の技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。現在もなお、メカニックと競技者の双方の視点から自転車のディープで果てしない世界を探求中。
CWレコメンドショップページ
なるしまフレンド
山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
長野県飯田市にある「ブレアサイクリング」店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。
CWレコメンドショップページ
ブレアサイクリング
ウェア協力:GRIDE
text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANAO
イタリア・ロンバルディア州に本拠を構えるカレラ・ポディウム社。エディ・メルクスやフェリーチェ・ジモンディといった伝説的な選手たちと共にヨーロッパのロードレース黄金期を支え、引退後もカレラやLPRブレーキといったチームのマネージャーを務めてきた往年の名選手、ダヴィデ・ボイファーヴァ氏が中心となり興したブランドだ。
創業は1989年と、名だたるヨーロッパメーカーの中では若いブランドで、長い伝統を誇ることを謳い文句にしているわけではない。しかし、イタリアレース界との関わりも非常に深いボイファーヴァ氏が代表を務めるだけあり、その歴史の中でカレラは数々のレースを制し、実績を積み重ねてきた。
ステファノ・ガルゼッリ、クラウディオ・キャプッチ、ミケーレ・バルトリといった、今なお語り継がれる選手たちと共に数え切れないほどの勝利を上げてきたカレラだが、その中でも最も有名な勝利といえば1995年、ツール・ド・フランス第10ステージ、ラルプ・デュエズの頂上ゴールをマルコ・パンターニにより制したシーンだろう。
レーシングブランドとは、確実な結果を残すために保守的になりがちな側面もあるが、カレラは違う。カーボン素材が登場し始めた1997年にはカーボンバックのアルミフレームを世界に先駆けて開発したり、近年では見る者に鮮烈な印象を与える有機的なデザインの「フィブラ」を発表するなど、カレラは革新的なシステムやデザインを積極的に取り入れてきた。
そんなカレラ・ポディウム社の2015年モデルフラッグシップとなるのが、今回のテスト車両である「SL 730」だ。 Super Leggera(超軽量)の頭文字とフレーム重量からなる、簡潔極まりないモデル名だが、虚飾を排して軽量性を追求したこのバイクを表現するのにもっともふさわしいネーミングでもある。
そして、ロードフレームの中でも屈指の軽量性を誇りつつも、剛性と強度が確保されているのもこのフレームの特長だ。この相反する要素を実現するために、SL730は微妙に丸みを帯びたスクエア断面をメインとし、部分的に丸断面形状を用いる「ラウンドtoスクエア」というデザインによって設計されている。
SL730は全体としては非常に直線的なデザインで、同社の「フィブラ」や「エラクル」に比べると、かなりオーソドックスなデザインとなっている。ダウンチューブからチェーンステーにかけてはボリュームを持たせつつ、シートステーを細身にすることで意図的にしならせ、衝撃吸収性を向上させるという昨今の軽量クライミングバイクの基本に忠実な設計だ。
このバイクに使用されるカーボンマテリアルは、T-800HM-HS 60とSHM XN60の2種類。これらの素材を適材適所に配置することで、フレーム単体重量730gという超軽量バイクが出来上がる。各チューブは非常に肉薄に成形されており、トップチューブやダウンチューブの中央部分などは手で握っただけで凹むほどに減量されている。それほどまで攻めたフレームだが、「ソリッドカーボン」製法により、耐久性にも優れるという。
踏力を受け止めるボトムブラケットは、幅広のプレスフィットBBを採用。左右非対称のチェーンステーもBB幅いっぱいに広げられ、ペダリングパワーをしっかりと受け止め、後輪へと伝える剛性を備えている。このフレームに組み合わせられるフロントフォークも330gと軽量ながらも、60Tカーボンとテーパーコラムによって、必要な剛性と強度を確保している。
今回のインプレッションバイクは、コンポーネントにシマノ デュラエース、ホイールにはカンパニョーロ シャマルミレを組み合わせたもの。タイヤはハッチンソン アトムをアッセンブルしている。イタリアの誇るレーシングブランド、カレラのフラッグシップを二人のインプレライダーはどう評価するのか。早速インプレッションに移ろう。
― インプレッション
「まるで一枚板の様な剛性感のピュアレースマシン」小畑郁(なるしまフレンド)
走り始めてまず感じるのは何と言っても軽さですね。しかし、想像していたよりも剛性が高く速く走らせるためには相応のパワーが求められます。やはり、重量があるほど剛性も上がるというのが普通なので、軽量バイクになればなるほど穏やかな剛性になるものなのですが、このバイクはその法則を覆すような剛性感にあふれる乗り味です。
特にダウンチューブやBB周りが非常に硬く、ダンシングなどでバイクを振った時にもバイクがほとんどしならないため、ハンドルが切れてしまうような感覚があります。ですので、真っ直ぐに走らせることを意識して踏んでいく必要があります。といっても、身体が慣れれば問題なく進ませられるでしょう。
この硬さ、重量剛性比の高さは各部の設計もありますが、なにより素材の質の良さに起因するものではないでしょうか。700g台のフレームとしては異次元の硬さで、肉厚なフレームの様な芯のある踏み心地に仕上がっています。他の軽量バイクの様に軽快なウィップ感で進むという性格ではないので、発進加速よりも中速域からの加速のほうが得意なバイクです。
トップチューブも横にしならないので、まるで一枚板の様な剛性感です。その分振動を伝えてくるという面もあります。その分はリアセクションが少し逃がすような造作になっているので、レースユースレベルでは問題ないのではないでしょうか。カタログを見ても、快適性という単語は一度も出てきていませんしそういった類のバイクではないということなのでしょう。
登りでは、軽くて硬いというバイクの特性を活かして回転を上げていくとスイスイと登っていきます。あまりパワーをかけて踏みすぎると反作用も大きいので、出来るだけきれいに回していった方が良いでしょう。パワーをかけては進まないということではなく、むしろ進むのですがその分脚にダメージがくるということです。なので、勝負所を決めて加速するような局面や短い登り返しといったところではガシガシ踏んでいったほうが良いかもしれません。
下りでは、すこしピーキーな印象がありますね。基本的にはハンドリングはニュートラルなのですが、じわっと粘るようなコーナーリングではなく、スパッと地面を切るようなフィーリングでコーナーを抜けていきます。やはり軽く硬いという特徴に起因するものなのですが、路面の変化を伝えやすいため、荒れたコーナーでは余裕を持った速度で進入したほうが安全ではないでしょうか。
ピュアレースマシンとして、どんなレースでも対応できるだけの性能を持っている非常に完成度の高いバイクです。価格もこの性能からすると非常に低く抑えられていると感じました。パーツアッセンブル次第で、好みの乗り味や走るコースに合わせたチューニングが施しやすい、ニュートラルな特性のフレームでもあります。
ホイールであれば、しなやかなカーボンディープリム系の製品がマッチするのではないでしょうか。少しタメをつくることで、より踏みやすく、長く乗れるようなフィーリングへと変えてくれると思います。また、同じ理由でカーボンクランクを組み込んでも良いでしょう。
ヒルクライムに特化したバイクを求めている人にももちろんピッタリですし、高い重量剛性比を活かして、体重がある人にも踏み負けない軽量バイクとしてもオススメできるバイクです。総じてシリアスレーサーには非常に受けが良いと思います。レースで一つでも順位を上げたい人にはぜひ選択肢に入れてみてほしいですね。
「イタリアンスーパーカーという表現がしっくりくるバイク」山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
硬い!というのが第一印象です。ヘッドチューブ周辺の剛性が尋常じゃなく高いです。全身の筋力がしっかりしている、シリアスレーサーにとっては非常に乗りこなしがいのあるフレームですが、ホビーレベルの人にとってはびっくりするくらいの剛性の塊のように感じられるでしょう。
路面からの突き上げが激しく伝わってくるというわけではなく、あくまで捻じれ方向に対する剛性の高さなのですが、それでもダンシングでは上半身の筋力がかなり必要になってくるのではないかと感じます。昨年モデルがもう少し乗りやすい印象だったので、この乗り味の変化にはかなり驚きました。
一方でボトムブラケットやリアバックはそこまでの硬さは与えられていないので、一旦こぎ出してしまえばかなり普通に進みます。ただ、勾配変化があって、ダンシングでぐいぐいと進んでいかざるを得ないような局面では、ハンドルを振る腕が疲れるかもしれないですね。
軽量バイクですが、登り性能は標準的です。剛性が高いため軽いギアをクルクルと回すより、カーボン繊維の積層方向を活かすように重いギアを踏み込んでいくペダリングのほうが進みやすいでしょう。勾配がきつめで一息で登りきれるような登りのほうが得意でしょう。
一方で、だらだらと4~5%の登りが続くようなシチュエーションは脚がかなり削られていくので苦手ですね。レース全体の距離としても、1時間以内で終わるような短めのレースが良いでしょう。
下りは、意外と跳ねないので好印象でした。硬めのヘッド周りがしっかりとストッピングパワーを受け止めてくれ、ハードブレーキング時でもフレームのどこかが破綻するような感覚は皆無でした。振動をやたらと拾うような嫌な硬さもないので、安心して下れます。
かなり高剛性なバイクですが、すこししなやかなパーツアッセンブルで逃がすところを作ってあげた方がより乗りやすくなるでしょう。コンポ―ネントであれば、イタリアンブランドというのもありますしカンパニョーロで組みたいですね。最近の4アームのカーボンクランクのデザインなどはかなりしっくりくるでしょう。
ハンドルやステムもアルミ製ではなくカーボンのものであえて剛性を落としてあげるといいでしょうね。ホイールもしなやかなモデル、例えばカンパニョーロのニュートロンやマヴィックのR-sysなどは軽さと快適性が両立されていて非常にマッチングが良いでしょうね。
イタリアのレーシングブランドのトップモデルとして、ターゲットはやはりヨーロッパの大柄な体格の選手を想定しているのではないでしょうか。アマチュアでも一線を引退した元プロだとか、日本で言えばJプロツアー相当の非常にレベルの高いところを狙っていると感じます。プロ供給モデルとして開発したような、いかにもイタリアブランドらしいフレームです。それがこの価格で手に入るのであれば非常にリーズナブルと言えるでしょう。
ですので、走行性能からいえば真摯に勝利を求めるようなシリアスレーサー、それも体格が大きめで絶対的なパワーがあるライダーにはぴったりのバイクだと思います。しかし、そうでない人にとっても、自分の力で性能を限界まで引き出せないとしても、とんでもないモンスターマシンに乗っていると感じさせてくれるバイクです。いつか乗りこなしてやるぞと言う人、スーパーバイクのオーラを大切にしたい人、そういった方にはたまらない1台だと思います。
インプレライダーのプロフィール
小畑郁(なるしまフレンド)
その圧倒的な知識量と優れた技術力から国内No.1メカニックとの呼び声高いなるしまフレンド神宮店の技術チーフ。勤務の傍ら精力的に競技活動を行っており、ツール・ド・おきなわ市民210kmでは2010年に2位、2013年と2014年に8位に入った他、国内最高峰のJプロツアーではプロを相手に多数の入賞経験を持つ。現在もなお、メカニックと競技者の双方の視点から自転車のディープで果てしない世界を探求中。
CWレコメンドショップページ
なるしまフレンド
山崎嘉貴(ブレアサイクリング)
長野県飯田市にある「ブレアサイクリング」店主。ブリヂストンアンカーのサテライトチームに所属したのち、渡仏。自転車競技の本場であるフランスでのレース活動経験を生かして、南信州の地で自転車の楽しさを伝えている。サイクルスポーツ誌主催の最速店長選手権の初代優勝者でもあり、走れる店長として高い認知度を誇っている。オリジナルサイクルジャージ”GRIDE”の企画販売も手掛けており、オンラインストアで全国から注文が可能だ。
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text:Naoki.YASUOKA
photo:Makoto.AYANAO
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