ヴィットリアからデビューした新作のマッドコンディション用チューブラーシクロクロスタイヤ、「CROSS XL」をテストした。従来モデルのオールラウンド用タイヤ「CROSS EVO XG」のインプレッションと合わせてレポートする。

ヴィットリア ヴィットリア CROSS XL (写真は33mm幅)ヴィットリア ヴィットリア CROSS XL (写真は33mm幅)
今回インプレッションを行ったCROSS XLは、ヴィットリアのチューブラーCXタイヤ唯一、ロード用レーシングタイヤに使用されるハイグリップなコンパウンド「ISOgrip Compound」採用し、泥はけ性能の良い高いノブを組み合わせたディープマッドコンディション用CXタイヤ(登場時の記事はこちら)だ。広く間隔を開けて配置されたノブは泥を効率的に取り除きながら、水分を多く含んだぬかるみでは転がり抵抗を低く保ち、コーナーで高いグリップを稼ぐことに焦点が当てられている。

また、他のチューブラーモデルと同じく、ヴィットリアの中で最も繊維密度が高いTPI値320のケーシングを使用し、ラテックスチューブと組み合わせによって乗り心地も追求されているという。31mm幅と33mm幅の2種類が用意されており、今回テストしたのは細身の31mmタイプ。オールラウンド用タイヤ「CROSS EVO XG」(こちらは33mmをテスト)のインプレッションと合わせてお伝えしよう。



ーインプレッション

■ヴィットリア CROSS XL
「ハンドメイドタイヤとは異なるアプローチで安心感を稼いでいる」鈴木祐一(RiseRide)

深いマッド用のタイヤというこのCROSS XLは、名称通り前後方向に大きく高いノブが特徴で、この部分がしっかりと泥の下の硬い部分まで到達してグリップを稼いでくれました。タイヤ全体に強いコシがあり、リム打ちの心配も少なく安心して使えることも特徴ですね。

「とてもグリップが高く、武器になるタイヤの一つ」鈴木祐一(RiseRide)「とてもグリップが高く、武器になるタイヤの一つ」鈴木祐一(RiseRide)
今回テストしたのは31mm幅タイプですが、比較的幅が細いことえで、ノブに加えてタイヤ全体もぬかるみに刺さるため、泥セクションでは一般的なオールラウンドタイヤと比較して圧倒的なアドバンテージがあります。

実際にレース使用してのインプレッション実際にレース使用してのインプレッション 高いノブが配置されており、路面に突き刺さることでグリップを稼ぐ高いノブが配置されており、路面に突き刺さることでグリップを稼ぐ また、ノブが縦方向に長いことでグリップ力が強く、シクロクロスレースで良くあるキャンバーや芝生のコーナー区間では横滑りを防いでくれる働きがありました。やはり横にスライドしてしまうとコントロールしづらいことはもちろん、恐怖心が生まれてしまいますから、そうした部分ではとても評価できますし、安心感が高いですね。

一般的なシクロクロスタイヤはトレッドパターンよりも、ケーシングのしなやかさでグリップを生み出すという認識があると思うのですが、CROSS XLに関してはゴム自体がかなりグリップを稼いでおり、ノブを路面に引っ掛けて走った場合に良さが際立ちました。この感覚はMTBライダーには馴染みやすいものですし、安心感と合わせてシクロクロス初心者にもオススメできると感じました。

デメリットとしてはオールラウンド用と比較してノブが高いことによる、舗装路での走行抵抗の高さや、舗装の高速コーナーで挙動の変化が少しシビアになることが挙げられるでしょう。ただしそれも問題になるほどではありませんし、そこまで意識せずに済む範囲内です。

例えばデュガスやFMBなどのハンドメイド系タイヤと比較すれば、どうしてもケーシングの硬さを感じてしまいます。これはノブが高いことも関係あるのかもしれませんが、後述する CROSS EVO XGよりも乗り心地は硬く感じました。

このため振動吸収性に関しては若干劣るのですが、逆に木の根を越える際にもリム打ちパンクをする不安感が少ないというメリットも生み出しています。根本的にオールラウンド用タイヤとはグリップを生み出すアプローチが異なる(マッド路面に突き刺してグリップさせる)ため、体重やスキルにもよりますが、空気圧は少し高めにしておくと、より良さを引き出すことができるでしょう。

「深いマッド用タイヤなんて、そう使う場面は多くないのでは?」という意見も出そうですが、そもそもシクロクロスは冬の競技ですから、霜が解けて周回を重ねるうちに泥に変わる場合も少なくありませんし、ハイグリップが生む安心感は、様々な場面で活きるはずです。

私は従来ハンドメイドタイヤを使っていたため当初はその性能に懐疑的でしたが、シチュエーションがはまればとても武器になるタイヤの一つであると実感しています。CROSS XLは高いグリップ性能とコシがあり、安心感が高いタイヤ。そう評価することができるでしょう。


■ヴィットリア CROSS EVO XG
「CROSS XLと共通するコシの強さがあり、安心感が高く扱いやすい」

ヴィットリア CROSS EVO XGヴィットリア CROSS EVO XG (c)Makoto.AYANO

オールラウンドなコンディションに対応できるノブパターンを採用オールラウンドなコンディションに対応できるノブパターンを採用 CROSS EVO XGは、いわゆる「グリフォパターン」と呼ばれるノブパターンを持ったオールラウンド用タイヤ。前述したCROSS XLとは違い、しなやかさによるショック吸収性能やコーナリング中の自然なフィーリングが求められるジャンルだと思います。

そうした意味ではFMBやデュガスなどの後塵を拝してしまうのですが、逆にCROSS XLにも感じたコシの強さによる「安心感」がとても高いことが特徴として挙げることができますね。

ヴィットリア CROSS EVO XGヴィットリア CROSS EVO XG コンパウンドのグリップはCROSS XLと比べてやや低く、自然なフィーリングがあります。あまりグリップが高いと路面に食いつきすぎてしまって困る場面もあるのですが、そういう意味では使いやすいと思いました。

空気圧を段階的に落としていっても、ある一定のところで性格が急激な変化をすることもありませんでしたが、例えば砂浜を走るような極低圧にすると、コシの強さが少し挙動を邪魔してしまいました。あくまでメーカーの推奨空気圧範囲外の話なのですが、1.6気圧くらいがミニマムです。

ただしハンドメイドのチューブラータイヤはそのしなやかな性格上、使える人には大きな武器である一方、腰砕け感を感じる方もいます。

コシの強いCROSS EVO XGを良くないと捉える方もいるでしょうが、特徴的な「しっかり感」は、かなり評価できる部分だと思うんです。ロードからシクロクロスを始めた人、MTBからシクロクロスを始めた人、その人のスキルや走りによってタイヤの正解もそれぞれですから、こういうタイヤがヒットする方も少なくないはずですね。


ヴィットリア CROSS XL
サイズ:28”-31mm 、28”-33mm
ケーシング:コアスパン320TPI
コンパウンド:ISOgrip Compound
インナーチューブ:ラテックス
推奨空気圧:35-90PSI
重 量:440g(28”-33mm)
価 格:12,994円(税込)

ヴィットリア CROSS EVO XG
サイズ:28”-31mm 、28”-33mm
ケーシング:コアスパン320TPI
コンパウンド:ARAMID Racing 3D Compound
インナーチューブ:ラテックス
推奨空気圧:35-90PSI
重 量:410g(28”-33mm)
価 格:12,994円(税込)





インプレライダーのプロフィール

鈴木祐一(Rise Ride)鈴木祐一(Rise Ride) 鈴木 祐一(Rise Ride)

サイクルショップ・ライズライド代表。バイシクルトライアル、シクロクロス、MTB-XCの3つで世界選手権日本代表となった経歴を持つ。元ブリヂストン MTBクロスカントリーチーム選手としても活躍した。2007年春、神奈川県橋本市にショップをオープン。クラブ員ともにバイクライドを楽しみながらショップを経営中。各種レースにも参戦中。セルフディスカバリー王滝100Km覇者。

サイクルショップ・ライズライド



text:So.Isobe
photo:Makoto.Ayano,So.Isobe